Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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嘲笑うぷるぷるの1234日目

 現地民は決められたことしか行わないし、喋らない。

 けれどそれは、それらを行うことができないわけでもないし、喋ることができないわけでもない。

 ただただ彼らがそれをしないだけだ。不文律の鉄則(コンスウィチュード)。理由があって、移住者とは定型文以外では口を利かないことにしているだけ。

 逆に言えば。

 

「やぁ、工場長。久しぶりだね」

「若者言葉は……なんだ、ペイットか。何の用だ。定められた職務は果たしているぞ」

 

 移住者が相手じゃなければ、こうして普通に話してくれる。

 ペイット。雪こもり姫やそれに類する呼び名は全てあだ名だ。ペイットが……まぁ、私の本質を表すには最も近しい言葉かもしれない。

 

「移住者がさ、ようやくここに辿り着いたらしいじゃない」

「……ああ。お前達が奴らを棺桶まで連れてきてから、約五年といったところか。……間に合うのか?」

「私達は君達を救うつもりはないよ。ただチャンスを与えただけ」

「それは……わかっている。だが……あまりにも遅い。それとも移住者とはそうも爆発的に成長を遂げるものなのか?」

「んー。個体差アリ。それくらいしか言えない」

 

 工場長。彼は今工場長なんて役割に収まっているけれど、実際の役職はシャーマンというべきソレだ。

 我々の力を正しく読み取り、使う者。彼が我々の声を聞くに至ったのは一度目の終末のほぼ直前だけど、それでも我々の存在を「力の源泉」としか認知できていない数多よりも、遥かに高い感受性を有していると言えるだろう。

 

 この世界は明確に終末へと向かっている。果たして我々の「引っ越し手伝い」は、この世界を救うための英雄的行動にでも映ったか。

 

「世界は……終わってしまうのか」

「そうなってほしくないという感情があるの?」

「無論だ。だが、それと同じくらい……そうなってほしいという感情も同居している。皆と話していても、そうである者が多い印象を受ける。世界が終わって嬉しいことなどないはずなのに、心のどこかでこんな世界は一度きれいに終わった方が良いとも考えているんだ」

 

 世界の終わり。

 それは種の終わりを指し示す言葉か、それとも世界という空間の終点を指し示す言葉か。

 我々の一滴を飲み干した彼の目には、世界がどう映っているのか。

 

「……それで、何を言いに来た、ペイット」

「これ、渡しておこうと思ってさ」

 

 言いながら彼のインベントリに強制的に詰め込むは瓦礫の数々。

 もちろんただの瓦礫ではない。

 

「これは……まさか、後方に流れていった……すべての」

「そう。移住者が目を向けなかった、あるいは探していたけれど見つけることのできなかった、君達がこの世にいたという痕跡。そのすべて。読解スキルを渡したんでしょ? もう一個派生で解読スキルっていうのを渡しておくから、読解スキルがコンプリートされたら渡してあげて」

「遅延させる……のか? どうして?」

「読解スキルはあくまで"何が書かれているのか"を知るスキルだからねー。解読スキルになって初めて古い詞が読めるって方がそれっぽいじゃん」

「どうして、に答える気はない、と。……移住者の愚痴、あれは……あいつらは聞こえていないと思っているのだろうが……はぁ、まぁ、いい」

 

 スキルコンプが面倒臭い、とか。お使いクエストばっかかよ、とか。

 そういう愚痴は全部魂があって感情のある現地民たちが聞き届けている。【稼がれない互助会】であった「現地民が物を売ってくれなくなる」が発生するのも当然の話だ。

 

 ……渡された瓦礫……文字の破片たちを一つ一つ手元に取り出し、愛おしそうに眺める工場長。

 

「正直な話をすれば……移住者には渡したくない。ここに塗り重ねられた歴史を、あいつらは知らない。ここには……数多の無念が詰まっている」

「勿論そこは君に任せるよ。私は渡しておこうと思っただけ。解読スキルへのバージョンアップはそれはそれとしてやればいい。何の脈絡も文脈もなく、もう一度、をね」

「これで……すべてなのか? 人々が残すことができた歴史は、たったこれだけなのか?」

「あとは君達の記憶のある限り、だ。役割に固定された君達では書くことも削ることもできないだろうけれど、君達は生きている。生きているからには覚えている。そうだろ」

「そう……か。これ以上は求めすぎか。……ああ。……ああ、そうだ。その通りだな」

 

 額に手をやって天を仰ぐ彼。

 

「別にいいんだよ? 不文律(コンスウィチュード)を破って移住者に協力を仰いだって。我々はそれを止めていないのだから」

「……もう少しくらい、待つさ。手遅れになる寸前まで、なんとか」

 

 ほうら、彼らの意志だ。プレイヤーと口を利かないのは我々の強制ではない。

 

 じゃ。

 

「ごきげんよう、工場長。いずれ辿るこの世界との行く末に、少しでも幸のあらんことを」

 

 その信仰の底が、抜けることのないように。

 

 

 プレイヤーの死体を遺すアップデート。

 要望……になるのか。直接交渉の形で上がってきた──まだ直接交渉はしていないけれど──これに、前のめりになれない自分がいる。

 まず、単純な問題から。プレイヤー……今回に限っては移住者と表記するけれど、移住者の肉体に対する分解者(微生物)がまだ形になっていない、というのが一点。我々が外から人間を連れてきたことからわかる通り、我々は生命をゼロから創造することにあまり長けない。

 できなくはない。けど、やってもあまり良い結果が得られない。それこそsinohumiのような特殊性癖持ちじゃなければその良さを実感できない……というようなものしか作り得ない。

 人の住み得る土地は棺桶内しかないから、そこへ墓地を増やして、しかも死体がなかなか分解されない、なんて……正直邪魔だ。光の粒になって消えてくれることのなんとありがたいことか。

 そして単純ではない問題は……精神と魂の関係がなー。ちょっとなー。

 

 単純に死にたがってくれた方が楽だったなー。まぁ死に違ったからこうなったのかもしれなけれど。

 ……一応セッティングはしてあるし、詳細は交渉されてから決めるか。

 

 ちょっと気分転換しよーっと。

 

 

 それで。

 

「Hi、先日ぶりデスネ。スノウプリンセス」

「や、ポロロイド。今日も武器の受け取り?」

「今日は装飾デスヨ。とはいえ先程お願いしてきたばかりでスノデ、受け取りは後日ですカネ」

 

 またチェスカの店で暇つぶしをしていたら、同じようなシチュエーションに巡り合った。

 

「Maybe、また刺激を探しておられるのデスカ?」

「まーね。この前のはただのバグだったし」

「それでもあの二人は大層感謝をしていたようデスガ。スノウプリンセスには退屈な事件でしたか」

「まーねー」

 

 ふむ、と顎を擦るポロロイド。なお彼女の顎はスカーフで隠れているので顎を擦っているかどうかはシュレーディンガー。

 

「中層は内部路面列車(キャピラリー)の列車倉庫ニ、とある扉がありマス。その扉は運営が置きミスをしたノカ、どこにも繋がっていない……扉を開いテモ、煉瓦の壁が広がるバカリ。But、人は言うのデス。毎夜毎夜、決まった時間に、その扉へ入っていく青白い人影がアルト──」

「現地民でしょ。扉は実は置きミスじゃなくて、そこに壁がある方が置きミス。現地民の整備工か乗務員かなんかが決まった時間に入っていくのを見ただけ」

「YES、ロマンがありませんネ、スノウプリンセス」

 

 中層の街のモデリング班にバグ報告しておくよ。直すかどうかはわかんないけど。

 

「それデハ、こういうのはどうデショウ。上層は二車両目の住宅地で、空中浮遊をするプレイヤーがよく目撃されてイマス。そのプレイヤーは二階はあろう高さの虚空に手を掛ケ、そこに足場があるかのように上り下りを行っているそうデス」

「そのプレイヤーのマイハウス、二階に半分くらいのルーフバルコニーがあるやつでしょ」

「Oh、よくわかりまシタネ」

「昔からあるバグっていうかグリッヂだねー。そのタイプの家で、マイハウスの敷地を飛び出るような家具を設置すると、それに乗ることができてさ。そのまま歩いて敷地外までいくと、マイハウス所有者にはその家具が見えているんだけど、外からは空中を歩いたり上り下りしたりしているように見える、ってヤツ」

 

 直すのが面倒だし特に害がないから直さなかった、って報告上がってたやつね。

 ……よく考えたらこれ直さなかったからトンデモ座標とかいう悪用が生まれたのでは? ギルティ?

 

「お手上げデス、スノウプリンセス。ワタシの持ちネタは尽きてしまいまシタ」

「ありがとうね、こんな話に付き合ってくれてさ」

「では最後ニ、とある話を……まだ解決していない話デスノデ話すのは少し躊躇われまシタガ、解決できるのなら彼らも本望でしょうカラ」

 

 指と指を合わせ、少し押し合うポロロイド。

 彼女の帽子とスカーフの奥の顔……見えない二つの目が、ニンマリと歪んだような気がした。

 

 

 ポロロイドの声が踊る。

 

「その家では週一で『品評会』というものが開かれていマシタ。参加者が思い思いに作り上げた品々を紹介し合い、評価し合うその『品評会』ハ、"摘発"や"不正"のないよう、誰かのマイハウスを使わずに、そのままある建物を使っていたソウデス」

「"摘発"?」

「なんデモゲーム時代から続いている会合のようデシテネ。少々過激であるタメ、運営判断で消されかねないものだったヨウデ」

 

 余程じゃないと摘発なんてしないけど……。

 

「ある日、とある参加者が、普段から『品評会』に参加しているすべての者達が絶句するホドニ"完璧"と言わざるを得ない作品を持ってキマス。その出来栄えの前には皆が己の作品を恥じ入り、初の殿堂入りという座を作ってしまうほどのものデシタ。これの登場を受けテ、その日の『品評会』は終了。そのまま宴会にシフトしマス」

「興奮冷めやらぬところにお酒を入れるのは……なんかやばそう」

「That's Right、作品を囲むようにして円形になっての宴会でシタ。誰もが口々にその作品を褒め、言い足りぬ言い足りぬとばかりに語って酒を入れて語ってを繰り返しましたガ……恐らくどこかのタイミングで全員が眠ってしまったのデショウ。気付けば朝デシタ」

 

 そこでピンと指を立てるポロロイド。

 

「Sure Enough、いつの間にかその作品は消えうせていまシタ。蒼褪め、そして怒る作者。彼が自身のインベントリにその作品をしまった、というわけではないと言うのデス。つまり、その中に犯人がいる、ト」

「ふぅん。……その宴会の片づけは誰がやったの? みんなで?」

「片付け……デスカ?」

「そう。気付けば寝ていたっていうくらいだから、参加者たちが起きた時には部屋はぐちゃぐちゃだったはずだよね。そこまで酔ったやつらが丁寧に食器類をインベにしまうとも思えないし」

「フム。……少々お待ちヲ」

 

 言いながら……恐らくメールをし始めるポロロイド。

 実話だからだろう、当事者に確認を取っているものと見た。

 

「YES、参加者の中では最年少だったプレイヤーが、片付けはしておきましたよ、と発言しているそうデス」

「じゃあ次。作品がなくなったことを受けて、その『品評会』はその場で解散したのかな。くまなく探すために一日以上そこで探し物をしたやつはいる?」

「いないはずデスネ。むしろ作者の方がこれ以上現場を荒らして事件をうやむやにされたくナイト、誰にも近付かないよう命令したはずデス」

「その『品評会』で、作品の売買は行われている? それともそういうことは禁止されている?」

「YES、後者デスネ。評価に不純な動機が入らないヨウ、『品評会』では売買が禁止になってイマス」

「その作品……君が頑なに話そうとしないその作品というのは、作るのに時間やお金がかかるもの?」

「YES、時間もお金も素材もかかりマスネ」

「出来栄えはリソースに比例する?」

「必ずしもそうとは限りませんが、此度の作品は莫大なリソースを投じたそうデスヨ」

 

 成程。これで動機もわかった。

 トリックは子供騙しだし動機もしょぼい……が、問題はどうやって成立させたか、だな。

 

「その最年少君、宴会の途中で買い出しとか行かなかった?」

「YES、行ったそうデスヨ。一度ダケ」

「だけど、マイハウスじゃないんだったね。だからみんなが寝静まった後に出ていても誰も気付けない」

「……彼が犯人である、ト?」

「共犯だけどね。犯人はその最年少のプレイヤーと、作品の作者だよ」

 

 問いを投げかけてきてはいるけれど……驚いた様子がない。

 もしやこの子、わかってて話しているのか?

 

「In Short、作品制作費によって資金難に陥った作者と、至高の出来栄えの作品が欲しくてたまらなかった最年少プレイヤー、という内訳でよろしいデスカ?」

「その通り。作品を盗むトリックは簡単さ。物件のマイハウス化だよ。元々マイハウスではない建物をマイハウスにすると、中にあったオブジェクトはすべて家具として収納される。プレイヤーはそのままだけどね。だから作品以外にも宴会の残骸……飲み食いした食器類が消えていた」

「シカシ、マイハウスになったとなれば、出る時に気付くのデハ?」

「だからマイハウス化を解除したんだよ、すぐに。全員が眠ったあとに不動産NPCのもとにいってね。彼らが欲したのは"触れることなく作品をそのプレイヤーのインベントリにしまう"という結果だけ。それさえできれば後はどーだっていいんだ。その後最年少プレイヤーが作者にセリンを払ったんじゃないかな、どっかで」

 

 蒼褪めたのも怒り狂ったのもポーズでしかない。その可能性に辿り着かれないための攪乱だ。

 

「デスガ、証拠はどうなるのでショウ」

「不動産NPCにその物件の購入履歴が残ってるだろうから、それで。あとは事件当時の日付のシステムログを漁れば、自分たちが眠っているはずの時間に妙なインスタンスに出入りしていることがわかるんじゃないかな。流石に名前はわかりづらくしてるだろうけど、それが一瞬マイハウスになった証拠だよ」

「Amazing、今のスノウプリンセスの推理をそのまま伝えマシタ。結果がどうなるかは後日のお楽しみデスネ」

「思ったより良い性格してるね、君」

「お褒めに与り恐悦至極デス」

 

 ……しかし。

 

「それで、結局、運営の摘発を恐れるような作品ってなんなの?」

「……フム。スノウプリンセス、アナタの中の人……プレイヤーの性別は男女どちらデスカ?」

「女だけど」

「Oh……。ワタシも女デスガ、これを知った時は少なくない嫌悪感を覚えマシタ。それでもよろしければお教えしまショウ」

「インタネット慣れしてるから大抵は平気だよ」

 

 と、メールが送られてくる。添付画像あり。

 無題・無内容のメールに貼り付けられていたその画像に映っていたのは──裸であったり、あられもない恰好をしている女児……の、絵や造形物。

 

 あー。

 

「これは……エグいね」

「これらは全て作り物デ、実在のものを参考にしているわけではないそうなのデスガ、普通に引きますヨネ」

「まー……多かったっちゃ多かったからなぁ、そういうコンテンツ」

 

 VR全盛とまで言われていた地球。そこには当然アングラ趣味のワールドやゲーム、そしてまさに『品評会』のような作品を羅列するだけの空間などがあった。

 アダルトコンテンツとされるものも……まぁ、結構あったし、違法・合法問わず溢れかえっていた印象がある。その中でも極めつけって感じがするけど。

 

「長らく、この世界には運営がいないト……監視の目がないトされてきたがユエニ、大手を振ってやってきたらしいのデスガ、どうにも"実は運営がプレイヤーの中に紛れているのではないか"と噂されるようになってカラハ、またこそこそし出したようデシテ」

「こっちに移住することになった元凶で、のべ一万人の殺戮者とさえ謳われる運営に対して後ろめたい集団がいたとは。プレイヤーなら基本一方的に殴れるはずなのに」

「いけないことだとわかっていながらもやめられナイ。ちなみにこの集団こそロリコン変態野郎どもデスガ、他にも女性の裸体を愛でるような会合はたくさんあるみたいデスヨ」

「ヒェ」

「とまァ男性の株ばかり下げるのはよろしくないデスネ。そう……たとえば下層ニハ、イケメンベッド、というサービスを提供する店がアリマス。キャラメイクの特に優れた男性プレイヤーが裸の状態で敷き詰められている部屋に、女性が一人で入る、というサービスを提供する場所デ」

「ヤバすぎる。っていうか詳しくない? 好きなの、そういうの」

 

 問われ、こてんと首をかしげるポロロイド。

 

「棺桶にアル店という店を巡るのが趣味デシテ。上層は面白商品や実用性の高い商品、この方向性は考えたことがなかッタ、という商品を売る店が多いデス。中層はこれが何の役に立つのかはわからないけどすごい、トカ、実用性度外視の見た目だけ商品、みたいなものが多いデスネ。そして下層はカオスです。超、楽しいデスヨ」

 

 ……まぁ『Rauta』の世界を存分に楽しんでくれているようでなによりだけどさ。

 

「ドウデス、スノウプリンセス。今度ワタシの下層アングラお店廻りとかしまセンカ。刺激的デスヨ」

「そういう刺激は要らないから」

「Oh、フラれてしまいマシタ。残念」

 

 摘発……は、まぁしないけどさ。

 普通に引くわ……となった暇つぶしの日であった。

 

 ……恒例、だけど。

 まさかこの話が、後日あんなことになるとは。

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