Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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色褪せたおどろおどろしい1109日目

 第二の事件現場。

 上層は郊外、ガス灯のあかりも少なくなってきた頃合いの場所で、x99hrというプレイヤーが殺された。ここの現場にも争ったような痕跡があったけれど、このプレイヤーは蒸気技師(スチームテック)という……他のゲームで言う魔法使いみたいなジョブだったため、今度は逆に争いの痕跡が大きすぎると断定。これも別の場所で殺されていると判断。

 第二の事件現場からそう離れていないところで第三の事件。被害者はアリんちゅという女性プレイヤーで、ジョブはシーフ。第一第二と同じく後から付けたような争いの痕跡があり、アシャドマンたちはこの辺りから連続殺人であると断定したのだとか。

 そして第四の事件。その被害者が往年のさん。ケッセウスに連れていかれ、【稼がれない互助会】によって最低限の衣食住を得たはずの彼は、朝になれば結構な人通りになるというこの上層の街の往来で死していたという。

 

「……」

「姫、どう? なんかわかりそ?」

「あー、チェスカの姐さん、こういう時って声かけねえほうがいいじゃねえかな。考えてるだろうし」

「それは確かに……」

 

 犯人はわかった。普通にアシャドマン、及びそれの仲間だろう。

 だが、動機がわからない。なぜ調査に身を乗り出してきたのかもわからない。

 ……一応裏でログも見るか。「視認」が条件の可能性も考えて複数人体制を整え、地点ごとのログを裏方ーズに回す。

 ついでに被害者の行動ログから本当の殺害現場も割り出しておこう。

 

 ん……あれ、これって。

 

「とりあえず犯人はわかったよ。四つの事件全部の」

「嘘、ホントに? 姫凄すぎない?」

「これはどれだけゲーム脳か、というところがポイントかもね。『Rauta』のゲームシステム理解度チェックみたいなところある」

「それで……わかったというのなら、もったいぶらないでくださいよ。誰なんですか、犯人は」

 

 解析された辺り一帯のログを整理しながら会話もする。

 

「まず、おさらいなんだけどさ。街って当然PVP禁止エリアじゃん? というかPVP可能エリアの方が世界全体を見ても少ないじゃん?」

「まぁ『Rauta』は協力ゲームだしね」

「PVPやりたいやつは別ゲー行けってのが決まり文句だったしなぁ」

「そう。だから街中とか連絡路での殺人ってあり得ないわけよ。PVP禁止はNPC……現地民にも適用されたルールだから」

「え、そうなの?」

「ああ、要は街中でスキル使ってもプレイヤーにもNPCにもダメージ与えられないって話だよな?」

「そういうこと」

「それならお姉さんにも理解があるかも。というか当然すぎて忘れていたっていうか」

 

 よって、すべての現場において、「その場で殺された」ということは成立しない。

 必ず外で殺されている。冒険において行くような外だ。棺桶の外。街列車の外。

 

「つまり……犯人はわざわざ外で殺したプレイヤーを街中へ持ち帰った、ということですか? どうして?」

「疑いを向けたかったんじゃないの? プレイヤーに犯人がいる、NPCに犯人がいる。どっちでもいいけど、疑心暗鬼な状態を作りたかった。プレイヤーに不和を起こさせたかった」

「そのために……外へ連れていって、殺して、持って帰ってきて、争った痕跡とかを付けて……って。なんか……陰湿ゥ……」

「殺人やるやつなんか全員陰湿の極みでしょ。で、もう一個おさらい。私はデスゲーム化してからほとんど引きこもりで戦闘はほとんどしてこなかったんだけどさ、そっちの二人は結構バトってきたんだよね」

「ええ、まぁ」

「おう、結構な」

 

 じゃあさ、これ、と。

 手元に画像を浮かべる。吹き出しエモート:画像、というエモートスキルで、持っている画像や自分で描いた絵などを表示できるスキルだ。

 そこに浮かんでいるのは「絆創膏が十字になっている」みたいなマーク。

 

「これ、まだ覚えてるよね」

「ああ、瀕死者マークか。そっか、戦わねえやつらは大分見なくなってんのかこれ」

「あ、あー! そういえばゲーム時代はそれよく見てた! 復活系のスキルとかアイテム使ってあげれば復活するやつね。あ、でも、デスゲームになってから見なくなったってことは」

「そ、デスゲームになってからは復活ができなくなったから、このマークを見る機会も減った。でも、マルハノ刃。君は今戦わないやつらは大分見なくなった、と言ったよね」

「おうよ。復活は実際できなくなってんだろうけど、見えはするからな、そのマーク。どうしても……犠牲っつのは出ちまうもんでさ。そういうやつらの胸元にこのマークが見えて……でも何もしてやれなくて、死んじまう。それが現状ってヤツだ」

 

 そう。瀕死者マークはあくまで周囲のプレイヤーへの親切表示。対象プレイヤーが瀕死状態であることは、瀕死状態のプレイヤーには伝わらなくていいものだから。

 そしてマルハノ刃が胸元に見えると言ったように、出現する場所が固定されていると倒れ方によっては瀕死者マークが隠れてしまうということがあり得る。けど瀕死時の倒れ方なんて自分で操作できるやつばかりじゃない。なんたって瀕死──身体が動かせない状態なんだから。

 だから、プレイヤーが近付くと、瀕死者の身体に関する表示は「近付いたプレイヤーに胸元が見えるような恰好」になる。実際がどうであれ、見えている姿はそれになる。

 

「……」

「死んだら泡になって消える。ドロップアイテムは落とすけれど。それはその通りなんだけど、今のプレイヤーはそこまで長く瀕死体を保っていられないもののはずなんだよ。大体何秒くらい? 死んだプレイヤーが消えるの」

「あー……保って三十秒とかか? 別れの言葉も言えずに、ってパターンは……結構経験してきた。……って、あれ」

「ね。よく見つけられたよね、被害者。しかもPVP禁止エリアの外から運ばれてきているはずのプレイヤーの死体を、よく」

 

 一気に臨戦態勢になり、チェスカと私の前に出るマルハノ刃。おお、凄い。たった三年だけど、しっかり「戦闘者」になっている。

 

「君に背を向けるようにして倒れていたんだっけ? その辺頑張って頑張って考えたんだろうけど、結局杜撰というかなんというか。こうなると他の第一発見者も全員怪しくなるね」

「……」

「アシャ、てめェ……」

「まぁ待って、マルハノ刃。まだ抵抗はできるんだよね、実は」

「あ、え? マジレスプリンセス、なんであんたがそっちの肩を」

「いや、何か準備してるっぽかったからさ。先回りして潰しておこうと思って。……これもマルハノ刃なら知ってると思うんだけどさ、マイハウス内のPVP設定をオンにしてあれば、家の中に連れ込んで殺す、は可能なんだよね」

 

 マイハウスはその辺自由だ。家を道場みたいな形にしているプレイヤーもいないわけじゃない。スキルの行使についても可能不可能が家主の手によって設定できて、且つその設定は特にモーションなどなしに切り替えられる。

 

「だから、殺害現場付近に犯人のマイハウスがあって、そこで殺したのを放って出して、それを第一発見者たちが見つけた、という話にもできなくはない。偶然が重なり過ぎって意見は封殺するよ。誰を第一発見者にするかは自由に選べただろうしね」

「けど……それを姫の方から出すってことは」

「うん。この論で反論されていたら、先の瀕死者マークで攻めたし、現場近くの物件全部洗うで行けた。マイハウスは不動産NPCからしか買えないし、買われた日時と購入者名は全て記録されているから、それで一発だし」

「あー……水差すがよ。プレイヤーのマイハウスの中でNPCが殺した、って場合はどうなるんだ? 現地民を迎え入れることは、確かできたよな」

「つまり、プレイヤーは共犯かもしれないけれど真犯人ではないという場合、という話?」

「ああ、それだな」

「まぁそれは充分にあるんじゃない? でも共犯なだけで充分じゃない? その場合確かに真犯人は野放しになるけれど、他のプレイヤーの手を借りて密閉空間を作り上げなきゃプレイヤーを殺せないようなNPC、ってことになるから、大して脅威でもないし」

 

 さて、ここまではまぁ「いずれ誰かが辿り着いたこと」だと思う。

 だんまりで言い訳しないあたりが如何にもだ。護衛を名乗り出たことも、案内役になったことも、自らボロを出すような発言をしたことも。

 この事実に辿り着いてほしくてやっているようにしか見えない。

 だから、その真意がどこにあるのかを見極める必要がある。

 

「お見事です、雪こもり姫。僕が落とした餌の全てに食い付いてくれて助かりました」

「……アシャ、てめェ、いつからだ」

「さぁ、いつからでしょうね。初めからかもしれません。──けれど、あなたの推理には決定的に欠けているものがあります」

「動機でしょ。芝居がかかったですます調、あんまり似合ってないよ」

「……わかっているのでしたら、ええ、どうぞ、動機を言ってみてください。僕や他の第一発見者がどうして殺人事件などというものを犯したのか」

「最初に君が問いかけたことだよ。どうして犯人は外で殺した遺体を持ち帰ったのか。とっくのとうに消えている死体をあったことにして第一発見者になったのか。どうしてわざわざ露呈しにいったのか。そして答えも同じ。疑心暗鬼を起こさせたかったから。プレイヤー同士を疑うように仕向けたかったから。陰湿だったから」

「僕が聞いているのはなぜそれをしたかです。どうして疑心暗鬼を生じさせたかったのか、なぜ疑い合わせたかったのか」

「だから、仲違いを起こさせたかったからでしょ」

「……一瞬賢いと思った僕が馬鹿だったようですね。知能が低い……。場当たり的な推理はできても、その先は考えられないようですね。……はぁ、いいですか、仲違いを起こさせるのならいくらでも手段があるんです。物を盗んで誰かに擦り付けるでもいい、誰かが言ったこと言っていないことを誇張して喧伝するでもいい。どんなことだってできる。けれど僕らはそれをせずに殺人事件を選んだ。それが何故であるかを──」

 

 二の句が継げなくなったかのように、クンとつんのめるアシャドマン。

 そして、物凄い勢いで中空を……二の腕から少し離れたあたりを睨みつけ、そして目を瞠る。

 

「あ? なんだ、様子が変だが……」

「だったらさ、マルハノ、これ押し付けるってできる?」

「ん……っと、もしかして今の一瞬で作ったって?」

「ちょ、言わないでよっ!」

「ああすんませんすんません──とぅ!」

 

 混乱し、焦っている様子のアシャドマンに何かが押し付けられる。

 

 それは──片手剣:廃材の棒。

 

「割とまだ世には出してない『怪作:呪いの装備シリーズ』第一弾! 装備枠に勝手に入り込む上で攻撃力がマイナス二百五十六の剣!」

「……っ!」

「あ、待て! ……って、おお」

 

 私の推理だけじゃまだ何か秘策があったみたいだけど、チェスカの後押し装備によって無理を悟ったのか、アシャドマンが踵を返して走り去る──直前。

 先程私達の前を通りすがったNPC然とした動きの鼠族男性が彼に足を掛け、さらに周囲にいた数人で彼を抑え込んだ。ま、『拘束』みたいなスキルが無いからね。こうするしかなくって。

 

「──呼ばれて飛び出て。下層は二列目車輪のチュウチュウファミリーが頭取やらせてもろてます、井坂チュノスケというモンです」

 

 代表者、みたいな風体で前に出てきたのは、くたびれたコートを着た鼠耳の男性。声が渋い。

 

「お()さんのメール見て飛んで参りやした」

「チュウチュウファミリーって……あの、下層でヤのつくことやってるって噂の」

「噂じゃなく本当ですね、それは。阿漕な商売はしとらんですよ。あくまでファミリーですからね、ウチは」

「ひょえ……いやなんでそんな人と知り合いなんだよ雪こもり姫!」

「ゲーム時代にちょっとね」

「ええ、たった一度の恩でしたが、返しそびれてですげぇむ。ここで返せて良かったということで一つ」

 

 当然ながら、そんな深い繋がりのあるプレイヤーが私にいるわけがない。彼も運営の一人だ。

 吸血鬼や魔人など、人外種族の……それもヒト種に害のある人外種族のひしめく下層に配置された運営の一人。……まぁゲーム時代は頭取じゃなくて参謀とかそんなポジションだった気がするけれど、何かしらの変遷があったのだろう。

 

「あ……で、アシャはどうなるんだ、これ」

「どうするべきか迷い中。他の第一発見者も一刻も早く取り押さえたいところだけど……あ、チェスカ。その呪いの装備って一式作れたりする?」

「材料と時間さえあれば。すぐには厳しいかも」

「ちなみに解除方法はあるよね。あ、言わないで言わないで。私思い付いてるから後でメールする。合ってたらあとでなんかリアクション頂戴」

「おっけぃ。……それじゃ、一式呪いにして……攻撃力を失くす感じでとりあえず一旦?」

「拘束するとか牢屋に入れるとか無いからねー。運営に通報だけしてみる?」

「いや、それでBANされたら怖すぎるでしょ……。あれってbotなのかな」

「やめとこ。万一botだった場合、受理されたら通報した奴が殺したみたいになるじゃん。殺人の咎を負える奴ばっかじゃないでしょ」

 

 ちなみにbotではなく手動BANである。今BAN権限持ってる奴どこにもいないからどの道できないんだけど。

 

「あー、ちょいと良いですかい、お()さん」

「ん、なに」

「下層にゃ一応プレイヤーの拘束術ってモンがありましてね。任せていただけるなら、こっちでやっときやすよ」

「え……なにそれ、そんなのあるの?」

「オレも気になんなソレ。あ、第一発見者の件は大丈夫だぜ、今もう各所に連絡いれたからよ」

「すんませんが、どんなものかはお教えできやせんで。ファミリーの奴らにすら極一部のやつにしか明かしてねぇマル秘術だ。抜け方は勿論あるが、到底辿り着きやせんよ」

 

 個別通話が一瞬開いてノイズだけを流して閉じる。

 成程。

 

「ま、私達じゃどうしようもないし、任せちゃおっか」

「だねー。呪いの装備一式は、じゃあつくんなくていい?」

「いいや、いざという時のために装備はさせておいた方がええでしょう。そんで、どうです、【路地裏武器商】のチェスカ・グラッセオさん。ウチらと直々に取引しませんか。今回のことだけじゃなく、下層にゃ結構いんですよ、迷惑なプレイヤーってのはさ。ここまで度が過ぎてるのは稀だが、人間だ、ゼロじゃない。血生臭い話だが、今までは処刑してきた奴らも、そいつで無力化ってぇ道を選べるんならそれに越したことは無いって話でさ」

「一回やったやつは次もまたやるだろうからゼロ百で私はいいと思うけどね」

「……お()さんはちぃと過激だが、まぁ、同じ日本人の感覚じゃそうもいかんでしょう。……ま、話は後で詰めますかい。こいつの身柄は預かるんで、一団クランとその後色々はやる感じでいいですかね」

「おう、オレが皆に事情を説明するよ。本当に助かった」

 

 ま、このあと尋問なり解析なりがあるんだろうけど、ひとまず一件落着、ということでいいかな。

 あとは……あと片付けもしなきゃ、だけど。

 

 

 中層と上層を繋ぐ連絡路。第一の事件の殺害現場とされた場所。

 既にチョーク・アウトラインやKEEP OUTの画像表示も消えていて、そこで何かがあった、ということは多少残る「後から付けられた痕跡」からしか想像できないだろう。

 

 事件において、不可思議な点はいくつもあった。

 どうして外で殺して持ち帰ってきたのか。どうして自らボロを出したのか。どうして彼らはそれをプレイヤーに解かせたかったのか。

 私は全て「陰湿であるがため」で片付けたけれど、当然そんなことはない。ちゃんと意味があった。

 

「外で殺して持ち帰ってきた、というのがそもそも違う。外で殺したのは事実だけど、持ち帰ってきたわけじゃない。勝手についてきただけ」

「……ふむ」

「そも、殺害したこと自体偶然。四件も続いててそれはないだろって思いがちだけど、本当に殺す気は無かった。殺すんじゃなくてNPC化するのが目的だったんだから、最初に殺意はないよね」

 

 よって四件が四件とも「勢い余って殺してしまった」が正しいあらましになる。

 NPCは殺しても泡となって消えない。だからどれほど時間が経っていても死体の持ち運びは成立する。

 どのようにして殺したか、は、まぁ何らかの手段でHPを全損させて、としか。アイテム……アクセサリとして配ったに過ぎない免疫パッチ。それを外すタイミングのある人はいたのだろう。飲み屋で邪魔になってとか、シャワーを浴びようとしてとか、そもそも配られていない世捨て人とか。

 だから彼らはまた人格データの封印を試みて、しかしそれができないことを知る。既に手は打ってあったのだ。免疫パッチファイル以外の部分でそれが成し得ない……成立しないような防壁を組み立てておいた。それを、街にいるほとんどのプレイヤーに適用できるよう裏方ーズが動いていた。

 だからNPC化が中途半端だった。……防ぎきれなかったのは落ち度と言われたらその通りだけど、アクセサリ以外だとどうやったって甘くなるんだ。勘弁してほしい。

 

「NPCの初期AIは他NPCの追従に設定されている。棒立ちは棒立ちで別の独立AIなんだよね。だからすべてのNPCがついてきた。殺したままに。死体のままに。NPCの生死状態に一切関係なく追従設定は生きるから、古風なRPGよろしく棺桶を引き摺る形でついてきた。それが解除されるのはPVP禁止エリアに入った時」

「成程、勝手に外れる、と」

「第一から第四の事件で場所にバラつきがあったのは、君達も色々試したからだね。普通に引っ張ってきた第一、追従を振り切ろうとした第二、マイハウスに入った第三、緊急脱出を使った第四。これが"外で殺して持ち帰ってきた"の真相。陰湿だからではなく仕方がなかったからが正解」

 

 本来殺人事件を起こすつもりがなかった……NPC化で終わらせる予定だった彼らにとって、第一の事件はアドリブになる。飲み仲間が心配したとか安否確認したとかは本当のことなのだろう。そうなってしまったから、余計なことが露呈する前に、計画通りだったことにしなければならなくなった。

 まるで子供が悪戯の痕跡を偽装するかのように。NPC化についてバレてはいけないと考えた彼らはNPC化に必要なプロセスの悉くを隠蔽し始める。必要な条件、場所、時間帯、手法。

 そしてこれを、単なる殺人事件であると見せかけなければいけなくなる。わかりやすい餌を振りまいて、プレイヤーに食い付かせて、追い詰めさせて。その尻尾切り第一号がアシャドマンであり、他の第一発見者たちだ。連続殺人に見せかけたかったのではなく、殺人事件にさえ見せかけられたらそれでOK。だから所々杜撰だった。

 

「晴れてアシャドマンや他の第一発見者も拘束され、殺人事件は終止符を打った。これで一安心だ──って気が緩んだら、またNPC化実験の再開だ。なんたって四度目のプレイヤーは九割がた上手く行った。あと少しで失敗しなかった。ともすれば彼が死体になることはなかったのかもしれないほどに」

「……まるで、見てきたかのように言うんですね」

「見てきたよ。いや正直無謀だよね、私達にミステリーを仕掛けよう、なんてさ。私達はプレイヤーやNPCごとの行動ログやそのエリア自体のエリアログも辿れるっていうのに」

「無謀ではあったのでしょうが、分の良い賭けでもありましたよ。なにせ相手にしているのが本当に運営かどうかなんてわからない。私達と同じ経路で他者データのアクセス法に至っただけのプレイヤー、あるいはNPCかもしれない。けれど、ほら。少し趣向を凝らした殺人事件を起こしただけで、得意顔の運営が釣れました。使い古された手法でデスゲームなんてものを引き起こす存在はさぞかし陰湿でさぞかしマウント厨なのでしょうね、なんて考えていましたから、読み通りといいますか」

 

 第一の事件だけがアドリブで、第一の事件だけが追従とPVP禁止エリアの話に繋がらない。

 なぜか彼らはここにわざわざ死体を持ってきた。わざわざNPCの死体を引っ張ってきた。中層と上層の連絡路という、よくわからないこの場所に。

 

「買い戻しはできるけれど、NPCに売ったアイテムは消えてしまう。パーティの時、君はそう言っていたね」

「無視ですか。それとも都合の悪い話は聞こえないのでしょうか」

「実はそんなことなくってさ。どのアイテムが売られたか、どういうアイテムだったか。それらはすべてログに集積されている。そしてこのログはそこまで深くない場所に格納してある。人格データの封印なんてことができるのなら、簡単に見つかるレベルの浅さだ」

「もしかしてまだ私を馬鹿にしたいのですか? そんなものも見つけられなかった、と」

「つまりあの時点での君は単なるプレイヤーだったことがわかる。君がそうなったのは初めからではなく、明確に感染が起きたあと。免疫パッチファイルのアクセをつけていたのに感染した理由は、最初から感染していたから。あくまで免疫であって治療じゃないからね、アレは」

 

 ちょん、と。

 彼の人中に、人差し指を置く。

 

「っ!?」

「ケッセウス。残念ながら君はもう助からない。君への汚染は封印されている自我にまで及んでいる。君を助けることができないのは我々運営の落ち度だ。ここに謝罪を入れる」

「なにを──」

「移住は我々の悲願だ。これについてを謝るつもりはない。だが、君達の安全がゲームであったことを理由に脅かされるのは我々の落ち度。再発防止に努めるし、今後君のような被害者を出さないよう尽力する」

 

 その顔に。

 その鼻柱に。

 

 指を、潜り込ませる。

 

「──」

「なぜここに死体を持ってきたのか。簡単だ、ここが一番安全だったからだ。安全に思える場所だった。──ここで死したプレイヤーのゴースト。それが一連の事件の犯人。黒幕だ。──さて、久方振りに触れる生身の感触と、それに顔面を掴まれる気分はどうかな、なにもできない騒霊(ポルターガイスト)さん?」

 

 チェック。

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