Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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目覚ましいばくばくの11251日目

 マッチポンプとして用意された第一の事件。

 殺されたのはナガツムラという男性プレイヤー。彼は死ぬ数分前に所属グループへメールを送っていて、だから殺されたことがわかった、という段取り。

 関係者として用意されたのは、カルアルン扮する、耕作春菊。キャラデザ一門所属、学問のアヘッド。街デザ一門所属、からかさおばけちゃん。

 勿論ナガツムラも運営で用意したプレイヤー……というか空IDだ。少し前にプレイヤーIDの参照の仕方を流してしまったので作らざるを得なくなったアバターと名前を有しているだけの、存在していなかった人間。

 彼が死ぬ前に送ったメールは二通。からかさおばけちゃんには「CUL8R」、学問のアヘッドには「CULT48KC」。耕作春菊にはなにも送られておらず、そこで怪しさポイントを溜めて、さらにダイイングメッセージでもあるメールで確信を得てほしい、という導線だった……のだが。

 

「cult……カルト、でしょうか? ハッ、まさかカルト宗教が関わって……!?」

「どうでしょうね。関係者一同にそれらしい方々はいませんが」

「いえわからないでしょう。ここのところそういう……彼の組織が息を潜めているようですし!」

 

 マッチポンプの犯人を聞くつもりはないと、ケッセウスが……いわゆる「やり方はこちらに任せてもらおうか」の形で連れてきたプレイヤー。

 それは朱雀玄武青龍びやっこというプレイヤーだった。変質プレイヤーの一人であり、スノプリとも多少縁を持つ女性……アバターの、恐らく男性。

 なんでも先日の泣くエムブレム事件? で味を占めたらしく、探偵役に抜擢したと。

 ……『Vesi』を呼び寄せるための模倣犯として振る舞うことをカルアルンが一生懸命にやっているというのに、探偵役がへっぽこ過ぎませんか、なんて……大した労力でもないのでいいけどな、と悪態を吐かずに飲み込むカルアルン。

 まぁ……ルアーくらいにはなるのかもしれない。今まさにそっち方面へ推理を進めているし。

 

 カルアルンは考える。どれほど人間を愚かに見るべきかを。

 無論、引率のケッセウスはすべてをわかった上で泳がせているようにも見えるが。

 

「おい……ガキの遊びに付き合ってる暇なんざ無いんだが」

「そうですか? このあと、何かご予定が?」

「予定なんかねェよ。だろ、春菊。なんせオレたちゃ暇人組。ゲーム時代に稼いだ金で、ろくすっぽ仕事もせずに生きてる自堕落組なんだからヨ」

 

 余計な設定生やすんじゃねえよ、とはカルアルン……もとい耕作春菊の胸中。

 ナガツムラを含めた四人グループは急造品であり、設定はアドリブで詰めていくしかない現状。エチュードが得意な運営二人が来てはいるものの、噛み合わない裏事情があれば探偵役をミスリードしてしまいかねない。だから自分たちの発言はすべて共有ログにアーカイブされることになっている。

 

「メールの送られた順番は、『CUL8R』が先で、その後に『CULT48KC』。そのすぐあと、耕作春菊さんがナガツムラさんの家を訪ねたところ、彼がどこにもおらず……そしてフレンドリストがオフラインになっていることに気付いた、と」

「ナガツムラ殿の家は平時より開け放されているのですかな?」

「……そうだよ。自宅をいつでも集まれる場所にしようって……ナガツムラのやつが言ったんだ。それで、こうなってる」

「ふむぅ。順当に怪しむなら耕作春菊殿ですが、怪しいというだけですからなぁ。やはりダイイングメッセージ……この暗号を解かないことには」

 

 顎に手を当てて考えるびやっこ。その様子を父母のような目で見守るケッセウス。

 カルアルンは内心で溜息を吐いた。長くなるやつだ、これ、と。

 

「『CULT』……『CUL』……うーん。かる……かるかるかる……」

「カタカナではなくアルファベットにしたことには何か意味がありそうですよね。その中に数字を入れ込む理由。一度分解してみる、というのも手やもしれません」

「おい……アンタ。クランから派遣されてきたっつーから大目に見てたが、ナガツムラが……人が死んでんだぞ。そんな悠長な、っつーか自分はわかってるみたいな空気出しやがって」

「いえいえなにも分かっていませんよ。だからこうして私の知り合いで随一の頭脳を持つ方に来ていただいたのですし」

 

 チッと舌を打つ春菊。中のカルアルンはそこまで短気ではないが、このプレイヤーはそういう設定である。

 そして。

 

「おいどうしたよ春菊。お前そんなカリカリしてるやつだったか?」

「そうよ。ナガツが死んだからほっといてほしいって気持ちは勿論私にだってあるけれど、犯人と同じグループに居続けるとかまっぴらごめんだもの」

「……そこもちゃんとした話を聞いてねえな。なんで俺達の中に犯人がいるって? んで、なんで殺人なんだって? 殺人であることはそっちのヒョロい兄ちゃんが断定したみたいだが、理由は?」

「もし自殺なら死ぬ数分前にメールなんて送りませんよ。まぁ遺書の可能性もありますが、だとしたら暗号にする意味がない。この形式を取ってやり取りをしようとしたのは、そうせざるを得ない理由があったから。……尤も、からかさおばけさんへのメールはただの挨拶にも見えますが」

 

 じゃあわかってんじゃん、とはツッコミにいけないカルアルン。

 しばらく……びやっこが思いつくまで事態が動きそうにないので、インターフェースをオートにして物思いに耽ることにするカルアルン。

 

 考えるべきことがあった。

 身の振り方……というとまるでカルアルンが悪いことをしたかのように聞こえるかもしれないが、つまり。

 これから流れゆくときの中で、自分がどの立ち位置を目指すか、という話だ。

 

 当初スノプリから話を……未来が閉じたことや、世界がアレルギー反応を示すことなどを聞いた時、彼の胸中にあったのは「やっぱりか」という諦観だった。

 世界はそう上手くはいかない。元々人類を見限っていた我々が重い腰を上げて人類についた、などと言えば多少は聞こえも良くなるが、その実「淘汰される側にならぬよう鞍替えした」という表現が最も合っているとカルアルンは考えている。

 聖霊。聖典。源力というエネルギーの源。世界の法則という概念集合体。

 人間がいなくとも存在はできようが、世界が続かなければ我々も消える。そして世界とは、「その星で最初に燃焼プロセスを道具化した知的生命体」を人間に選び、代表者に決めてしまう。

 カルアルンたちがどれほど気に入らないと喚こうが、愚かだと見限ろうが……関係なく、世界の代表者は人間なのだ。

 

 星の終わりは世界の終わりではない。それくらいわかっている。たとえこの星から生命がいなくなろうと、新たにどこかで知的生命体が生まれるやもしれない。それくらいわかっている。

 けれどそれらは人間ではないし、世界は代表者がいなくなったと判断し──死んだ世界になる。

 

 "存続"を司る聖霊として、それを受け入れることはできなかった。

 

「『C』、『U』、シィ、ユゥ……シーユー? じゃ、じゃあ『L』、『8』、『R』は……エルハチアール……?」

 

 だからこんな回り道をして「人類を返り咲かそうと」している。

 この世界の人間がダメなら、精神だけを他の世界から引っ張ってきて、新たな頭に、と。

 愚かで、愚かで愚かで愚かで、どこまでいっても愚かしさの集合体であるかのような彼らは、しかし危機や災難を前にした時だけ異様な作業効率と進化過程を手にする。

 成功した人類。世界と星の代表者を名乗るに相応しい人類。

 

 だから……そんな彼らが拒絶反応を出され、放逐されようとしているのなら。

 やはり存続の聖霊が動く理由にはなるのだろう。

 

「エル、エイト、アール、ですね」

「うーん、それがなに? って感じですけど……あ、ですぞなもし~」

 

 考えるべきはもう一つ。

 スノプリ……スタラランナ=ナグティリスについて。

 

 あの聖霊は、聖霊面をしているだけで、厳密には全く違うところから発生し、全く違うところに帰結する存在だ。

 ただできることが我々に似ているだけ。それを言ったらチュノスケもそうなのだが。

 とかく、選択を司るあの聖霊については、考えておかなければならない。

 

 即ち、アレが独断と偏見で未来を閉じてしまいかねないことについて、だ。

 

 未来を閉じてシェフルを過去へ送りつけた、閉じた未来の彼女の行動を聞いて、カルアルンは「やりそ~」だと思ったし、「閉じることについて相談とかしてなそ~」とも思った。

 世界を閉じる。世界を害する。それら発想はカルアルンたちからは出てこない。できない、というのは大きいけれど、まず発想に無い。

 けれど彼女はやる。なんなら恐らく、常にその可能性を考えている。

 どうしようもなくなったら。

 如何ともし難くなったら。

 彼女なら、内密に聖霊を作り上げ、それを過去へと送り、今の世界を閉じてしまうくらいは……普通にやる。

 周囲に相談しないこともそうだけど、許可も取らないし、多数決もしない。

 彼女には聖霊としての仲間意識なんて無いからだ。

 

 もし。可能性として。

 この世界の彼女が未来の彼女と同じ結末に甘んじた場合……その行動を止められるやつが我々にいるのか。

 いない。選択を司るあの聖霊の力は強大だ。聖霊としての力は確かに彼女の言う通り、カルアルンと対等なのだろう。けれどそれ以外が大きすぎる。脅威すぎる。

 

 死力を尽くし、その身が砕ける覚悟で当たったとしても……恐らく傷一つくらいしか与えられない。

 

「シィユゥエルエイトァール。……See you later、ではないですか?」

「えっと……そ、それどういう意味……ですか」

「おや、英語は不得意でしたか」

「その……いつも翻訳任せで」

「See you later。またね、また会いましょう、という意味ですね。つまり、からかさおばけさんには『またね』と送っていたと。……自殺の場合はそんなこと送らないでしょうし、他殺……からかさおばけさんが犯人の場合でもあまり送らなそうですよね。勿論絶対ではないのですが」

 

 結局助け舟出すんかい、と思考中にツッコんでしまいそうになるカルアルン。

 まぁ、一個話が進んだ。

 もう一つの方を解けば一瞬で八川春菊に辿り着くため、しばし静観……及び思考をする。

 

 スタラランナ=ナグティリス。

 聖霊としての名前。意味は「行方知らずの終着点」といったところか。

 発生は誰よりも早く、寿命が存在せず、存在強度の点においても恐らく最も長く生きる者。

 世界が世界として現れるか否か、という分岐に立ち会い、そして世界が亡び消えるか否か、という分岐に立ち会うことが定められている者。

 

 彼の存在の、味方でいるべきか、敵でいるべきか。

 趨勢を……力の差だけで考えるなら当然前者だ。あれと事を構えたところで意味はない。彼我の差のわからぬ愚かなカルアルンじゃない。

 だが、同時に。

 彼女の熱量は、然程高くない。

 

 今は責任あるポジションにいる。だから責任感を以て様々なことに取り組み、精力的に動いている……けれど。 

 本来の彼女は、ただただひたすらに世界を眺めているような存在だ。

 こちらに……彼女の敵側に高い熱量があれば、諦めるやもしれない。

 そこまで決意が固いのなら、君達に任せるよ、なんて言って。

 

 結局彼女は「誰もやらなかったからやっている」だけ。自身がやらなくては、という強い意志は無い。

 

 敵でいるか味方でいるか、というのはこれの話だ。

 味方でいれば安全なのだろう。責任も然程覚えることなく、苦労もせず──その決定を受け入れるしかなくなるのだろう。

 敵になれば、すべてが圧し掛かるが……少なくとも彼女の一意で世界が終わる、なんてことはなくなる。

 

 存続の聖霊を謳うのならば、やはり。

 取るべきスタンスは。

 

「だああわっかんない! というか! そっちの人も言ってましたけど、ケス兄さん答えわかってんでしょ!? もう教えてください~!」

「投了ですか? 人が一人亡くなっているというのに」

「いやだから……投了とか、ゲームみたいにすることの方が不謹慎で……」

「そうですか。……ま、初回はこれくらいでいいでしょう。『CULT48KC』。普段からこういう暗号めいたスラングが好きだったのかもしれませんね。つまり『cult』と『IV』と『ate』なんですよ。『KC』は前の『8』の余韻のoをつけて、『OKC』。意味不明ですが、普通にこれ『おかしい』でしょうね」

「……はぁ? そこ……えぇ……」

「スラングなんてそんなものです。全体をくっつけると、cultivateおかしい。cultivateは栽培するとか耕すとかって意味です。耕すがおかしいと」

 

 ようやく話が進んだので、オート返答を切って現実へ浮上する。

 この暗号……というかスラングのダイイングメッセージはカルアルンが二秒で考えたものである。一瞬でクリアしてくれないと困るのだ。

 

「耕す……耕作さんが、おかしい? ……そういえば、学問のアヘッドさん、耕作さんはこんなにも短期じゃなかったって言ってました……な?」

「ああ、春菊は口は悪いけどここまで短気じゃなかった。ナガツムラのマイペースに付き合ってられるやつだったし」

「この現場に来てからよね。まるで人が変わったみたいに……」

 

 ここは台本通りである。

 まるで別人になったかのような、ということにしたいのだ、つまり。

 

「突然別人になって……殺人を、って。……ケス兄さん、これ」

「どうでしょうね。少なくとも私の目には……そしてあなたの目にも、彼らと同じである、というようには映っていないのでは?」

「……なんの話か知らねえがな、おい探偵気取り。その文字列が俺の話だって証拠はあんのかよ」

「ありませんよ? ついでにいうとあなたが殺したという証拠もありません。最近になってこの棺桶では殺人事件が頻発するようになりましたが、どの事件においても証拠というのは出しようがありませんでした。半分ゲーム、半分現実みたいな世界ですからね、凶器もインベントリにしまってしまえば外から見ることはできなくなります」

「じゃあ……なんで俺達を集め、引き留め、くだらねえ憶測を聞かせたんだ」

「他の二方にわかってもらうためですよ。この方には殺人の疑いがある、とね。ちなみに下層にはプレイヤーを完全拘束する手段を有しているマフィアがいますので、そこへお世話になるのも手でしょう」

 

 ケッセウスが犯人を知らなかろうと、マッチポンプであることに変わりはない。

 だからこの辺のいわゆる「事後処理」がどうとでもなるとわかっているのだろう。矢継ぎ早に話しを進めていくケッセウス。

 

「……んだよテメェら。俺を……暇人組の俺を疑うっていうのかよ」

「あー……んー」

「そう、ねぇ。とりあえず動機を知りたいところだけど……」

「からかさ、そりゃ俺が犯人だって断じてるってことだよな」

 

 何かあることはないとわかっていても、不穏になり始めた空気を前にびやっこの前へと出るケッセウス。

 そしてパクパクと口を動かす。個別通話(ウィスパー)だ。

 

「チッ……面倒くせぇ、だってんなら──」

「──取り押さえろ!」

 

 一気になだれ込んでくるは、中層自警団の恰好をしたプレイヤーたち。

 ケッセウスが呼んでいたのだろう。一瞬のうちに八川春菊……inカルアルンは取り押さえられる。

 勝手に装備類を「呪いの装備」に変更され、数人がかりで持ち上げられた。

 

「万が一を考えて私が呼んでいた中層自警団の皆さんです。からかさおばけさん、学問のアヘッドさん。彼を連れていっても?」

「……ああ、頼むよ」

「動機を吐いたら教えてね。気になるから」

「くそ、離しやがれ! この薄情者どもが! 共に過ごした四年間を忘れたか!」

「先に忘れたのそっちじゃない? じゃあね、春菊」

 

 連行される。だからカルアルンはまた受け答えをオートにして、肉体の無い状態で現場にとどまることにした。

 だらんと項垂れて連れていかれる八川春菊のアバターを見送って。

 

「私達も行きましょう、びやっこ」

「……ス」

 

 何か気落ちしているびやっこを連れて、ケッセウスらも上層へ戻っていく。

 

 全員が完全にいなくなってから。

 

「お前ら、『Vesi』が現れるかもしれないから、しばらくここに常駐しろ。理由は適当につけとけ。故人を偲ぶとか」

「あいよ。つかあの子、びやっこ? すげーな、オレらが裏でやってた遊びに気付いたっぽかった」

「遊び?」

「裏設定であたしたち付き合ってることにしてたのよ。だからナガツムラにも春菊にも塩対応、っていう裏設定。終ぞその辺の人間関係の深掘りはされなかったけど、びやっこちゃんは敏感にその辺感じ取ったみたいね」

「……あんまし事件が複雑化するような設定はやめてくれ。探偵役がケッセウスで決まっている以上、あいつが推薦する探偵役を俺達は断れないんだ。『Vesi』釣り上げのための小芝居が長期化するのはお前らにとっても嬉しかねーだろ」

「オレは別に? エチュード好きだし。探られて痛い腹がないからたのしーし」

「あたしもー。流石に次も同じ中の人だったら怪しまれるだろうから、次の次か、その次か。また呼んでね、カルーアちゃん」

 

 頭を抱えるカルアルン。どうしてこう矢面に立たない聖霊・聖典は頭お花畑ばかりなのか。

 色々なことに悩んでいるカルアルンやチュノスケが馬鹿みたいだ。

 

「アフケアも兼ねて俺はケッセウスたちを見てくる。『Vesi』が現れたらスノプリ謹製の檻で捕まえる。いいな?」

「あいよー」

「がんばってー」

「頑張んのはお前ら。……はぁ、ったく」

 

 カルアルンとして活動している時は割とちゃらんぽらんな言動だけど、一応移住計画のリーダーでもある彼。

 この辺はしっかりとするのである。

 

 

 して、色々言われていたびやっこ。

 

「謎が解けなかったことはそこまで落ち込むことではないですよ」

「あ……いや、違うんです。……口調面倒臭いんで素でいきますけど……。……あの女の人、たぶん犯人じゃなかった方の人と付き合ってます、よね。アレ」

「ほう?」

「しかも……ともすれば、さっさと死んでほしいとか……思ってたんじゃないかなって。だから……そもそも事件に対して必死じゃなかったし、被害者の人からのメールにも無関心だった。男の人の方は多少気にかけていたくらいで、多分女の人と同じ感じ。……最後、怒りっぽい人が連行されていくとき、気になるから、なんて理由で動機なんて……踏み込んだことを聞いたのは、関心があったからじゃなくて、無関心だったから、だと思います……」

 

 成程、探偵には向いているのかもしれない、とカルアルンは思った。

 あの二人はそれくらいの裏設定は埋め込むだろう。事件の推理をするには知識不足が否めないけれど、人間の感情の機微には聡いタイプ。

 

「かもしれませんし、そうじゃないかもしれません。考えてもわからないことですから、あまり受け止め過ぎないように」

「ッス。……けど、ケス兄さんはやっぱりすごい。暗号も……見た瞬間に、わかってたんで……すよね?」

「暗号というほどのものでもありませんでしたからね。……私達、これからコンビとして上手くやっていけそうですね」

「へ? あ、いや、だから、知識とか無くて……」

「私が冷たい知識面。あなたが感情の機微。それぞれを担当しましょう。なんせ私はあの三人からそういう裏事情の一切を感じ取れませんでしたから。少し前に知り合った女性にも、感情が見えなくて怖いを通り越して気持ちが悪いとまで言われたくらいですから」

「いや、ケス兄さんは感情が見えないっていうか、見せる相手の範囲が狭いだけっていうか……」

「ほう。……金言として受け取っておきましょう。さて、頭を使って疲れたでしょう。どこかで甘い物でも食べて帰りましょうか」

「あ、じゃあクレープで!」

「……バリバリ元気ですね。安心しましたよ」

 

 というやり取りの背中を見送って。

 カルアルンは……考える。

 そして誰に聞かせるでもなく、呟いた。

 

「あんまりグロい系の事件はやめたほうがいい、か? あの子の精神保たねえだろ、キツい系」

 

 人間には厳しいはずなのに、変なところで優しいカルアルンだった。

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