Rauta 作:Ubiquintetous / 五劫偏在
プレイヤーIDの確認方法。それは、「普段の冒険クエスト時に貸与される
伴って、同じように制服・定められた道具のあるクエストなどからそれらしき文様が全て数字として読み取れるようにマイナーチェンジされている。プレイヤーがどこを注視しているか、とかもこっちにはわかるからね、できるだけ見られていないところを選んだ。
これによって変質プレイヤーによる成り済ましは成立しなくなった。また、「事件の調査を行った個体からの音信が途絶えた」ということは『Vesi』側にも伝わってしまったのか、あの事件以来マッチポンプ中のケッセウスや運営に凸ってくる存在もいなくなった。
というより、そろそろ残弾切れなんだと思う。『Vesi』はあくまであの時点で
無論警戒を怠ることはないけれど、成り済ましや変質プレイヤーとして何か騒ぎを起こす、ということは早々起こらないものと思われる。
「融合のやり方もわかったしねー」
「……っ! ……!!」
懐かしのミズダニ君と半融合している
システム面からではなく、生物である、ということを理由に融合を行っているのだろう、とは前々から推測していた。
だからお誂え向きの環境……アカシックレコードも守護精霊もいない開発環境を作ってやって、チュウチュウファミリーのやり方……クリーチャーの中に拘束する、で時間加速して放置すればこの通り。
このミズダニは特別製だからね。下半身だけを巨大ミズダニと融合させ、未だ拘束されている上半身をその透明な体内に出して……。見る人が見れば癖に刺さりそうな恰好をした猫耳女性の一丁上がり、と。
融合のやり方はばっちり記録させてもらった。シェフルがかつてやっていた「不可視の触手」のようなものを対象に突き刺し、対象の自我を封印して感情などの部分を削除、そこに自身を注入する。さながらバクテリオファージだ。
守護精霊の存在によってプレイヤーがそれをされることはもう封じているし、アカシックレコードの存在によってオブジェクトなんかがその対象になることも封じている。
けどまぁここは世界だから、棺桶外のことまでは操作できない。あの手この手が封じられた『Vesi』がクリーチャーに目を付けるのは当然の流れだったのだろう。
また、騙されたことに気付いて分離する様も記録してある。できなかっただろうけどね。そのミズダニ、時間凍結をしてあるから。
こっちも生物的優先システム追従の分離だった。システム側から剥離を真似しようと思ってもできないね、諦めーって感じだ。
「あー……一ついいか。頓珍漢なことだと思ったら聞き流してくれていいんだがよ」
「いいよ、何かなsinohumi」
「『Vesi』を構成してんのは、あの都市伝説女を抜きにしたら、ほとんど元人間、なんだろ? 俺が得ていた情報はそうだったけど、あんたが把握している情報もそうで間違いないか?」
「そうだね。thouの話じゃもう一人か二人くらい他の『万物の悲鳴』がいるらしいけど、全体で見ればプレイヤーで構成されている」
「人間、ってやつは……抑圧されりゃされるほど、タガの外れた時に何をしでかすかわからねえもんだ。アカシックレコードで対策をしたとは言っていたが、PVP禁止エリアの解除の件については……生物的な融合と違ってどうやったのかわかっていない。この認識もまた、間違いないんじゃねえのか、って思ってよ」
鋭い。その通りだ。
融合と分離は生物が先んじてシステムが追従した、という「ゲームが世界となったから」な理由があったけど、PVP禁止エリアの解除は純粋なクラッキング。いや、設定改変と言ってもいい。
それはむしろゲーム時代であればできたかもしれないことだけど、世界となっている今でそれをやるのは……。
「また同じことが……アカシックレコードをすり抜けた、もっと大変なことが起きる、と?」
「かもしれないって話だ。棺桶外壁の居住区? とかいうのも主はまだ見つかってないんだろう。……前回の外の調査の時、棺桶の外壁をじっくり見させてもらったから……あれの強度は俺もわかってる。だが、加工ができた以上は破壊もできると考えるべきだ」
「棺桶が壊される、ね。それは……確かに最悪の事態かもしれない」
ただ。
「もしそこまで踏み切ってくれたのならやりようがある。この棺桶は一から鋼鉄を積み上げて作ったわけじゃないからね」
「……ま、なんか用意してんならいいさ。俺はあくまであんたらのやり方を眺めるだけ。何の力も持ってねえしな」
何かが起こる。何かが起こされる。
解決していない問題は幾つもある。吸血鬼や公爵一派だって「問題ない場所へ消えた」だけで解決したとは言えないし、死体を遺して死にたいという願いも半ば放置気味。
そしてなにより拒絶反応をどうにかするための「世界の精神」を見つけるという作業は……。
「そうだ、話は変わるけど、自白催眠のサブリミナル画像、ちゃんと効果あったよ」
「そうかいそりゃよかった。すげぇのは
この造形師の腕は本物だ。既にキャラクターデザイン一門やマップデザイン一門が彼の腕を認めている。
だから……やっぱり後は、我々の問題。如何にして「世界の精神」なるものを見つけるか、というところ。
荒療治が必要、か?
「ああ、そうだ、聞きたかったことがあんだがよ」
「ん、なに?」
「あんたってどこまでできるんだ? 雪の女神……と、初めの頃は呼んじゃいたが、龍門のおっさんに色々諭されてな。神とは呼んでほしくないんだろ? その辺り、すまなかった」
「いいよ別に。人間からしたらあんまり違いとかわからないだろうし」
「だから気になったんだ。神の如き力を持っちゃいるが、神じゃねえ。こうして今困り果てているくらいにはなんでもできるってわけじゃないんだろう?」
我々がどこまでできるか。どんなことならできるのか。
「我々……運営と呼ばれる存在は、聖霊と聖典で構成されている。聖霊というのは概念……"存続"とか"未遂"とか、運命に纏わる概念をそいつの采配でどうにかできるモノ、を指す」
「それだけ聞くとまさにカミサマって感じだが」
「そうだね。実際地球のある世界へ行って運営と化したのは、非常に強い力を持つ十二の聖霊だった。"選択"、"存続"、"未遂"、"構築"、"除去"、"崩壊"、"保存"、"所有"、"簒奪"、"変換"、"融解"、"呼応"の十二。うち"簒奪"と"変換"と"呼応"は君達を移住させることに力を使い果たし、休眠状態へ移行した。とはいえ人格は元気だからね、今は裏方として動いていることが多いかな」
「……存在としての力や権能が細分化されているから……全員で一つになりゃそれこそ"なんでもできる"のかもしれねえが、それぞれにはできることに限りがある、って感じか?」
「良い理解だよ。ただ、力というのはそこまで一つの場所に執着しないというか、固着しないからね。"なんでもできる一つ"より"できることとできないことのある複数"の方が生まれやすくて、結果としてもそうなったって感じ」
権能も概念も本来流動しているものだ。それが渦を作ってしまうことの方が異例。
運命に纏ろわない概念は人格なんて持たないで漂っているのだし。
「我々はむしろ、神という者が現れなかったが故に生まれた存在なんだよ」
「仕方なく立ち上がらざるを得なかった、的な話か」
「そう。いつまでたっても進歩しないこの世界の人々と、いつまでたっても現れない神。それに嫌気が差して、我々は立ち上がった」
「……これは答えたくなかったら答えなくていいんだがよ。……アンタだけは、扱いが違うよな。他の……聖霊? と比べてよ」
ほう。やっぱりわかるのか。それとも私が横柄にし過ぎか?
「私と"未遂"は他の聖霊と成り立ちが違うんだよ。私は……まぁ、神ではないにせよ、ほとんど初めからいた超常存在。"未遂"は……他の聖霊が凝縮から生まれるのに対し、散逸から生まれた概念」
「当ててやる。選択だろ」
「正解だけど、なんでわかったの?」
「選択、未遂、融解は概念としてのレイヤーが違うからな。んで未遂でもないとしたら選択と融解だが、あとはフィーリングだ。あんたは融解っぽくない」
「サバサバしてるから、って? 別に融解を司る聖霊もネトネトしてたりはしないけどね」
しかし本当に鋭いな。そうだ、"融解"もまた"未遂"……チュノスケの後に出てきた"未遂"と同系の聖霊。
概念の階層とは成程、当事者である私達ではわからない概念かもしれない。
「龍門のおっさんとかも聖霊だったりするのか?」
「彼は"所有"を司る聖霊だよ。君が日常的に会っているだろうユドゥミラが"簒奪"だね。休眠中の子」
「ああ、殞力回収委員会がどうの、とか言ってるやつか。俺はんなもん持ってねえってのに毎度毎度聞きに来るから困ってたんだ」
「本体が休眠状態にあるからね、相手が聖霊かどうかわからないんだよ。で、顔と名前を覚えるのが致命的に下手だから」
「そんなやつに回収委員会やらせんなよ」
ごもっともだけども。空いていた役割がそれしかなかったんだから仕方ないじゃん。
「……もしかしておっさん呼びは失礼か?」
「まぁ失礼なのはそうだろうけど、気にしないよ。我々に年齢って概念はあってないようなもんだし。ああだから、言うなれば龍門お爺ちゃんになるんじゃないかな、正しくするんなら」
「余計不和を生みそうだ」
それだと私もお婆ちゃんだしねー。
ちなみに同じ聖霊からしても私はお婆ちゃんだと思う。年齢でタメを張れるのは呼応の聖霊くらいか。
「っと……ちょっと呼ばれちゃったみたい。続き聞きたかったら龍門に聞きなよ。私がこの辺まで話したって言えば大体喋ってくれるだろうからさ」
「ああ、わかった。世界の精神とやらが見つかったらすぐに連絡をくれ。超特急で催眠を仕上げてやるからよ」
「うん、頼りにしてるよ」
実験室を抜ける。
意識を取り戻すはプレイヤーアバター。ベルを鳴らすは。
「チェスカとポロロイド……。最近仲良いねここ二人。あとアポイントメントほしいんだけどな」
まぁフレンドにそれを求めるのはおかしな話か。
一応スキャンだけして開ける。シェフルがこちら側であるとわかった以上、もう必要ないとは思うんだけどね。
「HI、スノウプリンセス。あなたの喜びそうなネタを持ってきマシタ」
「へいへい姫~。上層でちょっとした騒ぎがあったから共有しにきてやったゼイ」
「メールじゃダメなの?」
「ダメじゃないけど……なぁによ~、姫はあたしたちと会いたくなかったってわけ~?
「NON、スノウプリンセスは効率重視なだけデスヨ」
街で聞いた噂話を、フレンドが喜びそうな話だと思って、それを教えにわざわざ赴いてくれる。
……成程。間違っているのは私の方だな、コレ。
「冗談だって。こたつとミカン出すから、上がって上がって」
「空腹値の恢復しないミカン、デスネ」
「味だけミカンだけど正直これありがたいよね」
満腹感だけが食事の幸せじゃあない。多種多様な味覚をお腹いっぱいにならずに楽しめる、というだけでVR味覚は素晴らしいのである。
マルチモーダルVR装置からこのレベルまで合わせるに苦労したものだ。世界化してしまえばその辺はしっかりがっちゃんこするのだけど、ゲーム時代とあまり差があるといけないからネー。
さて。
じゃあ、まあ、聞こうじゃないか。私の喜びそうな話とやらを。
「デハ、僭越ながラ」
ピンと指を立てるはポロロイド。彼女は野暮ったい滑り出しと共に、その話を始めた。
ここ数日。正確には棺桶が再び走り始めてからの数週間で起きていることだ。
それが起きる時は決まって現地民がいつもより多く、そして気のせいでなければ何かを話し合っているように見える。
どこか嫌な気配を感じながら家路に就けば、家の中からも話し声がする。ただし、意を決してマイハウスに入っても誰もいないし、誰かに来てもらってもそもそも話し声が聞こえない。
不安が見せる幻聴、幻覚か。しかしそれにしては多くの者が遭遇し過ぎている。
これはあるいは、密やかなる現地民の反抗か──。
うん、普通に現地民が喋っているだけだね。
とは言えないからなぁ。どうしよう。
……ケッセウスの働きかけが、多分、ストレートな方向へ作用したんだろうな。即ち彼ら側からもコンタクトを取ろうとする……そんな運動が起きているのかもしれない。
ケッセウス。彼がやった「現地民と意思疎通を図る方法」は酷く単純なものだった。
何も隠さず、何も企まず。「こちらの話にYESであればこの定型文を、NOであればこちらの定型文を答えてください」とか、「定型文を連続させてください」「閉口することで対応してください」という「お願い」を、ただただ懇切丁寧に懇願し続けるだけ。
棺桶に乗っている現地民が移住者と会話をしない理由はとても単純で、我々が「なにもできないのなら何もするな(要約)」ということを彼らに言い含めてあるから、でしかない。
であれば自分たちがまだ死んでいないと……もう二度と諦めないと奮起できる者がいるのならば、こうしてあちら側からコンタクトを取ろうとして来てもおかしくないのだ。
が、同時に。
「嫌な気配を感じた、ってところが気になるよね」
「お姉さんたちも我が身で体験した、ってわけじゃないからどんなものかはよくわからないんだけど、背筋の凍る感じだったらしいよ? ひゅうコワーイ」
「圧迫感のようだった、というプレイヤーもいまシタネ。疎外感、出ていけと言われている感じだった、トモ」
それ……まさに拒絶反応じゃない?
現地民がどうこうしているっていうより、既に拒絶反応が如実な体感として出てきているって考えた方がしっくりくる。
そして……だとしたらマズい。まだ「世界の精神」を見つけられていないのに、誰か弾かれでもしたらコトだ。
「情報が少なすぎて流石に推理とか無理かも」
「まぁそっかぁ。実際に体験できてたらなんか違ったのかもだけどねー」
「HINT、一応一団クランも情報を集めていたラシク、シハネがこんなMAPを共有してくれマシタ」
シハネ。……恋人を喪ってからめっきり顔を見なくなったけど、大丈夫になったのかな。
ポロロイドが地図の画像を共有してくる。
「VIEW、赤点が嫌な気配を感じたと言っていたプレイヤー、緑点が疎外感、圧迫感のプレイヤーデス」
「青点は?」
「現地民の噂話らしき声が聞こえた地点デスネ」
見事にバラバラ……のように見えて、すべて現地民専用の居住区へ繋がる入り口のある場所だな。
やっぱり大きく移動するという概念が無いんだよなこの世界の人間は。
「法則性あるようにも見えないねー」
「デスネ。まぁ、これからサンプルが増えれば法則性も見えてくるかもしれまセンガ」
「じゃあこの話は終わりでいーい?」
「ん、そうやって畳むってことは、まだあるの?」
「姫の喜びそうな話じゃないけどね。──ハイ! じゃじゃーん!」
いきなり開いたトレ窓。そこに放り込まれるは……春を思わせる色合いのふわもこ服。
「え、なにこれかわいい」
「でしょ? ハナミにオーダーしてさ、作ってもらったの。姫もそろそろ衣替えシーズンかなって!」
「……完全新作?」
「そそ! オーダーメイド!」
え、嬉しい。普通に嬉しいけど。
でも。
「なして? 誕生日でもなんでもなくない?」
「いや~、日ごろの感謝を込めて的な」
「うーん、チェスカならワンチャンあるけど、どーも薄いかな」
「いやぁ~っはっはっはっは」
「誤魔化すの下手か。……おっと失礼しマシタ」
ああ、そのカタコト外人口調やっぱキャラだったんだね。
「ということは、ポロロイドは本当の理由知ってるんだ」
「ハイ。言ってしまってもよろしいデスカ?」
「んー、あたしから言う~」
「デスネ。それが一番筋が通りマス」
なんだなんだ。わざわざこういうことするってことは、何かしてほしい系だと思うけど。
チェスカは……「ん゛っ」と一度咳払いをして。
「えーと。……えー、その。……あー」
「なに、結婚?」
「……」
「……oh」
え。え?
今のは「なワケないじゃ~ん」のアレじゃないの?
「……えーと。はい。その……このたびチェスカ・グラッセオ……婚約、しまして」
「マジ!? おめでとう……っていうかいつから付き合って、えぇ~っ……え、相手は誰?」
「一般男性……」
「芸能人か。……おっと失礼しマシタ」
「……姫も知ってる人だよ」
「えー。……チェスカと良い空気になってた男性っていうと……もしかしてマルハノ刃?」
「あうっ、も、もう少し悩むとか」
「うわ正解なんだ」
アシャドマンの事件から……そっからずっと仲良くなり続けてたってこと? へー。へー!
いいじゃん。いいじゃーん。
「で、なによ。私に頼みたいことって」
「ああ、だから、その……式をね、挙げようと思ってて」
「え……教会とかあるっけ?」
「モスコミュールも好こ見ゆる、というハイ
「で……それの……友人代表を……そのぉ、スピーチをぉ」
「あー、嫌かも」
どがしゃぁっ! と崩れ落ちるチェスカ。肩を竦めるポロロイド。
えー。
「ドレスは嬉しいけどそれは嫌かもデース」
「できるだけ知り合いだけにするから! 姫のこと知らない人いないようにするから!!」
「全然、何にも抵抗感薄れないかも。あれ、友人からの祝電みたいなのは送ってあげるからそれでいいにしない?」
「お願い姫ぇぇ~……お姉さんの夢なの結婚式ぃぃぃ~っ」
「えー……」
夢……夢かぁ。
多分に漏れずチェスカだって「他者との縁がなく、希死念慮に近しいものを抱いていたプレイヤー」の一人だ。
それがそういう夢を持っていた、というのは感傷的な事実だけど……えぇ、私ィ?
あーうー。いやそもそも私仕事が。
──瞬間、「世界の精神探索は俺がやっておくぜミ☆」とか「吸血鬼一派のあれこれは元々オレの案件ですしね」とか「普段裏方やってないのも集めて裏方ーズ再編して全問題に対応すんぜYEAH!」とかってポップアップが乱立する。
クソ、こいつら……!
「姫……お願い……!」
「あーもー、わかったわかった。やってあげるよ。その代わり……もう一着、秋服コーデも作って。それを条件にする」
「はーい了解! 姫好きー!」
「一件落着デスネ」
「……贈り物をしてまずは下手に出まショウ、とかって入れ知恵してたりしない?」
「サテ、ナンノコトヤラ」
だから一緒に来たのか。チェスカにしては準備が良すぎると思った……。
……友人代表スピーチ、か。
うへぇ、何言おうかなぁ……。