Rauta 作:Ubiquintetous / 五劫偏在
保全クエストを受ける。
今、プレイヤーのほとんどはNPCと協力してのクリーチャー退治に勤しんでいて、調査・保全・冒険の全クエストが人手不足の状況だ。
保全をしなければ当然棺桶が止まってしまうというのに、全く世話の焼ける。
数値だけ弄ったアイテムを、とかやると後々面倒になるから、ちゃんと冒険で採掘してきた
もうこの世話も最後になるかな。本当は調査クエストを進めてもらって……段階的にUIを失くしていく、ということをして、プレイヤーにこの世界へ慣れてもらいたかったのだけど。
NPCと合流を果たした今、プレイヤーにだけメールやウィスパーなどのシステムが使えたって、不和のもとになるだけだろう。
急に云々とか聞いていない云々とかは知らないよ。君達がクエストを放置したのが悪い。
ネタバラシはどうしようか。
いずれはポロロイド経由で色々バレるだろうけれど、その前にチェスカやアカラ、ハナミなんかとは縁を切っておくべきか。
私が運営であることを明かし……ああでもそれをするとチェスカの結婚式に要らないケチがつきそうで嫌だな。まぁ、良い感じに結婚式のあと影を薄めて、気付いた時にはオフラインになっていた、くらいがちょうどいいか。フレンドリストさえ見えなくなるのだから、そのまま会えなくなっても良い。
相も変わらず鈍色の空。酸性雪の降る空には、凡そ希望や未来という言葉が似合わない。
地を這う黒色の鋼鉄の蛇。真白の泥を掻き分けて進む街列車の名は棺桶。死の直前、終わりの直前である永遠の微睡を掠め取り、先へ先へと運んでいく寝台特急。
他の列車……他のサーバーの移住者は
残る寄る辺はここだけ。
吸血鬼一派の事情も、『Vesi』のあれこれも、細々とした各人のくだらない害意もどうでもいい。
灯を取り戻したのなら、前に進んでくれ。
彼らに願うのはそれくらいだ。
世界は無駄を許さない。無意味に存在する世界という余分を赦しはしない。
終わった世界は掃除される。隕石の衝突。作物の不作。火山の大噴火。度重なる地震。沈みゆく陸地。
私の権能はそこまで便利なものじゃない。一度「当たらなかった」方を選んだのなら、次は絶対に当たる。選択も岐路もできることは然程変わりがない。
選ぶ前か、選んだ後か。その違いだけだ。
私が選ばなかった選択は無数にある。滅び、飢え、絶望、限り。
この世界は選ばれてきたそれぞれと、選ばれなかったそれぞれの積み重ねによって成立している。
「他の世界へ行くことだって簡単だったろうに、なぜそれを選ばなかったのか」
「この世界が好きだからだよ。くだらない理由で滅亡にまで追い込まれたこの世界が」
「誰も選んでほしかったとは言っていない。誰も選んでくれとは頼んでいない」
「そうだね。だからすべては私の自己満足なのだろう。それを認めなかったことは一度だってないよ」
「ならば問う。"存続"の名において、貴様が犯した罪を問う。地球での歴史に準えるのならば、この方舟に、貴様の居場所はあるかと問いかける」
「はじまりは、この、全てが詰んだ世界を、始めようと……そう選んだこと。原初の罪があるとするのならば、それだ。この世界に生命が生まれるかどうかを選び、この世界が住むに適するかどうかを選んだ。続く二つ目、三つ目の罪はこれかな」
この世界に海と呼べる場所は無い。代わりに無数にある地下湖が水源の役割を果たしている。
その地下湖の一つから生命が生まれる過程において、生まれない可能性の方を選ばなかった。
地球における進化論とは少し違う経緯をたどって進む生物が途中で火を扱い始める選択を選ばなかった。
やがて知性を確立させた人類が火を扱いはじめることを選ばせた。
「この世界の人間を代表者たる人間に任命したのは、ほかならぬ貴様だ、スタラランナ=ナグティリス」
「それもまた認めよう。そして彼らが生を諦めたことも私の選択であり、滅びが訪れかけたことも私の選択。此度また彼らが歩き始めたことも、世界が拒絶反応を起こしたことも、今、君がここにいることも、すべて私の選択だ」
「ならばもう一度問おう。貴様が犯した原初の罪とはなにか。すべてが選ばれたことであるのならば、それは蓋然ではなく必然だ。答えろ、スタラランナ=ナグティリス。罪を許さぬ方舟に、貴様の居場所の如何を問う」
……そうだね。
そうだ。その通りだ。
「罪など無い。私は潔白だ。ゆえに、棺桶にはいられない」
ここは死罪の一歩手前が乗る方舟。そんな場所に、私の居場所はない。
「出ていくっていうのか。……まだまだ歩き出したばっかりの赤ちゃんだろうによ」
「別に出ていくのは私だけだよ。君やチュノスケは残ればいいさ。この方舟の進む先が希望や未来といった輝かしいものであるのか、暗く深い地の底であるのかは、カンテラを持って先導する誰か次第。定められたレールを走るだけの棺桶の中で、果たしてどれほど足掻けるのか。これからは吸血鬼だけじゃない、種族問題は増えに増えるだろう。寿命の問題で権力が集中するかもしれない。逆に分散し過ぎて山に登るかもしれない。権力集中がいけないことだという知識だけが頭にある状態だからね、政治家が実はどれほどすごいことをしてきたのか、というのは、実際になってみないことにはわからないよ」
我々は『五劫偏在』。長きに亘って遍くあるもの。
「友人代表スピーチを終えたあと、私は元の姿となって、世界を正眼に捉えよう。人類が再度前を向いたかどうかはそこで判断するし、世界の精神もそこで掴み取る。その後のことは君達に任せるよ」
「頑張んのは俺じゃねえし、つかそれ俺の仕事だし。……
「
「えぇーっ! つか面倒臭シリアスって、いやまぁその通りなんだけど」
「もう無理でしょ私達シリアスするの。地球で染まり過ぎたって」
割とサブカルチャーには揉まれた方だ。だから自分たちの存在やかつての会話記録がそのままなんかの小説に使えてしまいそうだと気付いた時、この口調もしかして地球人相手だと恥ずかしいだけ? という痛感したり、逆に想像通りだからこそそれっぽさも出るもんだよね、と開き直ったり。
だから地球人相手の時は「それっぽいいかつい口調」にするのだけど、聖霊同士の会話でやると唐突に吹き出しそうになる。シリアス、もう無理。
「元からの二人称が君でよかったよねー。今更貴様とかお主とか言えないし」
「それ俺の事馬鹿にしてるよねそれね絶対ね」
「普段おちゃらけだけど本来は厳ついって、おちゃらけを演じられる時点でおちゃらけ魂がもう入っちゃってるから、厳つく話されても無理があるし」
「もしかしてさっきの問答そんなこと考えてたの? エグくない? 俺一応存在消滅の覚悟とかしながら喋ってたんだけど」
「地球出身の運営ならともかく、聖霊はもう家族みたいなものなんだから、そんなことしないって」
「お前に家族とかいないの知ってるから"家族ってこうだよね?"だけで喋ってるの丸わかり過ぎて怖いんだよ……」
なんにせよ。
「私がいなくなったあとのこと、任せるよ。キャラが死なない限りはたまに戻ってくるからさ」
「そん時ゃ俺かチュノスケが結婚してたりしてな」
「是非やってほしいね。待っているよ」
と。言うだけ言って、消える。
この後予定があるからね。仕方ないことと思ってほしい。
……はー、シリアス。もうしばらくはやりたくなーい。
で。
「すぐにはできない、ってことだけ伝えておくけど、必ずできるようになるよ」
「……本当ですか? 正直、望み薄だな、と考えていたのですが」
「うん。色々情勢が変わったからね」
吉若尊三度くん。死体を遺して死にたいという彼の交渉を聞き届ける。
システムが消えればプレイヤーの死体を消す云々も無くなるからねー。インベントリとかメール系が一番最後になるから、そういうのから順次実装……というか剥がしていくことになるだろう。
チュノスケが対価として情報を貰っていたみたいだし、交渉成功は彼の報酬になるだろう。
「目安は……それこそクリーチャーとかになるかも。クリーチャーが殺された時、今はアイテムとかがドロップするけど、それが落ちなくなって、代わりに死体まるまる残るようになる。それが起きたらプレイヤーの死体も残るようになっているだろうから、潔く死んで大丈夫」
「……わかりました。……では、私はこれで」
「じゃあね」
よし、これで用事一つ目終了。
そのままの足で向かうのは、ブラックマーケット。クリーチャー討伐の流れでプレイヤーとNPCが共闘しているにもかかわらず、ここはいつも通りの混みあいを見せている。
まぁここにいるのはほとんど冷笑系……協力とか未来とか希望とか、そういうことばに乗ることが無理なコだけだ。一団クランのノリにはついていけないのだろう。
「おや……雪ん子姫さんじゃないですか。なんです? 探偵業の一環でブラックマーケットを調べにきた、とか?」
「そこまで暇じゃないよ、私は」
「そうですかそうですか。では私の店に買い物でも?
にっこりとした笑みで喋る、キャラクタークリエイト:プリセット1のままの姿の男性。
「声かけ接客は禁止だったでしょ、ここ。それとも、探られて痛い腹がすぐそこにいるから、足止めのために出てきた、とか」
「はて、なんのことでしょう」
「とぼけなくてもいいよ、フック・タイサン含め、多くの偽物を作り上げたのは君の工房の力あってこそでしょ」
まるで。
この場には、私と彼しかいないかのような、静寂。
そんなはずはない。先程まで数多くのプレイヤーでごった返していたのだから、喧騒がゼロになることはない。
「いたちごっこも鬼ごっこももう飽きたからね。成り済まし事件はここでおしまいにしよう。"身分を偽ること"に纏わる聖典。裏切り者、
「……ほんっと、ヤな女。泳がせるだけ泳がせて、用済みになったら消しに来るのね。いっちょ前にリーダー面して、誰もあんたのことなんて慕ってないってまだわからないワケ?」
「慕われるものがリーダーになるのは人類という習性を有するものだけだ。我々は人類ではないのだから、最も強きものに傅くのは当然だろう?」
「それが気に入らないのよ。──アタシたちだって、この世界に息づく一つの生命。人間に使われるままに、人間が使うままに、人間へ隷属する。そんな生態、許せるわけがない。だから教えてやったのよ。アンタたちから外見を取り払ったら、どんだけ醜い面になるのかをね」
「成程それが動機か。けれど、変質プレイヤー……外面を気にせず中身だけ入れ替わった彼らは君の思い通りには動かなかった。家族という胸糞悪いものを形成し、誰からも認められる一人として確立していった。君はそれが面白くなかった。から、もっとショッキングな事件を起こさせようと思い付いた」
それがクリーチャーを介した再誕。多分、あのクリーチャーの腹にいる人間は、ちゃんと生まれるのだろう。元の人間をどれほどなぞるかは知らないけど、人間と判定を受ける人間が生まれ出でる。それは彼女がそうしたからだ。
守護精霊もアカシックレコードも関係ない。兼ねてからいるとされていた内通者。裏切り者。それが聖典という「ある程度を自由にできる立ち位置」にいたから、全部抜かれた、というだけ。情緒もカタルシスもへったくれもない。黒幕は今まで出てきた誰でもないやつでした、というオチ。
「選ばせてあげよう、
紛糾は妥当だ。怒号も妥当だ。
さて、それでは、君は、私に我を通すためだけの力を有しているのかどうか。
「──!」
あっけなくとも、これで幕引きだ。
散々にプレイヤーを騒がせた成り済まし事件はこれにて終了。クリーチャーの話は一団クランがどうにかするだろう。生まれ直しについてはその時代のプレイヤーが対処をする。
異常に対しては常に複数のカウンターが控えている。それが人類史というものである。
あとの予定は。
……えー、友人代表スピーチ、これっぽっちも考えていません。誰か手助けください。