Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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邁進する入り乱れた1129日目

 プレイヤー個々人に蓄積される行動・会話ログ。その他、NPC一人一人、クリーチャー一体一体、オブジェクト一つ一つにもそれぞれのログが蓄積されていて、さらには一定面積を持つエリアごとにもエリアログというものが溜まる仕組みになっている。

 それらを閲覧できる私達に対し、ミステリーを仕掛ける、なんてのは無謀な行為だ。犯人が埋めて隠したトリックも証拠も全て暴力的に暴いてしまえるのだから。

 

「窃盗、ねぇ」

「そんなもの自分たちで解決しろ、というのは尤もだ。面目ない」

「うん、まぁ、一言一句そうだけど」

 

 中層での事件。それは窃盗関連の話らしい。

 基本他人のインベントリや倉庫にアクセスすることのできないゲームシステムであるけれど、外に出ているものは誰でもが触れられるオブジェクトになる。アイテムや武器をインベントリから出して、どこかに立てかけておく、なんてことをしたのなら、それが勝手に使われている、ということがあり得るシステムなのだ。

 それができないと現地民の物々交換にまで制限をかけなければいけなくなるから、という理由で採択されたこのシステムは、「基本協力ゲーなのに疑心暗鬼を生ず」みたいな叩かれ方をしたこともあったけれど、そもそも誰も悪いことをしなければ問題のない話──もっと言うとバレなければ──なので、次第に喧騒の海へと消えていった。

 デスゲーム化してからも「いやインベントリから出しておく方が悪くね?」で終わりだったから、このあたりのシステムに関してはノータッチで今までやってきたのだけど……。

 

 内部路面列車(キャピラリー)がごとんと揺れて、扉が開く。降りる駅らしい。ブラックダリアについて降りてみれば……薄らぼんやりとした大気とそれをまぁるく照らすガス灯の揺れる、上層より一層スチームパンク感の増した景色がそこにはあった。雪が降らないからね、スチームパンクスチームパンクできてる。

 中層。陽の光の届かぬ場所。棺桶中腹。上層にはいられなくなった人間や血の気の多い人間、あるいはヒト種以外がやいのやいのやっている街。あと単純に寒いのが苦手な人も中層にいたり。

 

「現場はJOY福というプレイヤーのマイハウス。彼はマイハウスの設定をPVPオンにしていて、その上で攻撃力を九十パーセントに設定している」

「ああ、殺さないために?」

「そうだ。あくまで闘技場として機能させるためにそうしている。彼の家は選手A、Bの控室と大部屋道場の三部屋だけになっていて、当然マイハウスだから入出の管理も彼自身がやっている。犯行当時、家の中には彼、選手の梨口、言ってねぇど、の三人しかいなかった。観客を入れる時もたまにはあるが、その時は行っていなかった」

 

 雪の降らない空と普通に暑いなと感じる己の恰好に気を散らせながら歩くこと十分ほど。

 そこ──『JOY福のエクストリーム☆DO JO』という看板の掲げられたそこへと辿り着く。見た目は一軒家Lだから恰好つかないね。

 家の前にはそれはもう恰幅の良い男性が。彼の方が商人っぽいよケッセウス。

 

「おお……ブラックダリアさん。よくぞ来てくれました。そして……こちらが?」

「ああ、上層で俺の尻拭いをしてくれただけでなく、卓越した推理力によって起きていた事件を収束させてくれた、雪こもり姫だ」

「ええ、ええ、お噂はかねがね。あ、アタクシ、この道場を営んでおりますJOY福という者です。此度はよろしくお願いします!」

「言っておくけど一個解決しただけだからね。難事件をポンポン解決している名探偵とかじゃないからね」

 

 チェスカがどれほど喧伝したのか定かではないけれど、普段私に絡んでこない裏方ーズまで私を名探偵呼びしてからかうのだから堪ったものじゃなかった。推理の裏付けをほとんどログに頼ったヤツが手放しの賞賛なんか受けられるかよ、という話。

 

「それで、マイハウスに残る入退室ログは当然確認したんだよね」

「勿論にございます。すでに画像スクショ……を、はい、こちらで」

 

 画像表示のエモートに映し出されるは数行のログ。

 

[08:03:46] あなたがマイハウス設定をプリセットBに変更しました。

[08:04:02] プレイヤー梨口が入室しました。

[08:04:02] プレイヤー言ってねぇどが入室しました。

[08:04:02] プレイヤーJOY福が入室しました。

[08:44:45] プレイヤー言ってねぇどが退室しました。

[08:44:45] プレイヤーJOY福が退室しました。

[08:44:45] プレイヤー梨口が退室しました。

 

「三十分間の試合、その後窃盗が起きたとの話で言い合いになって十分そこら、一度クールダウンしましょうとアタクシが言って二人を家から出した、という記録にございます」

「プリセットBというのは?」

「ああ、PVP設定にするにあたっての諸々の設定です。日常生活してる時までPVPがオンになってちゃあ気が休まらないですからね」

 

 まぁ……プレイヤーに開示されるログなんてこんなものか。

 さて、じゃあ関係者の三人とこの家のログを辿ろう。推理はまぁ適当でいいでしょ。

 

 

 犯人はまぁわかった。コイツ……素知らぬ顔して手を揉んでいるJOY福だ。

 彼の行動ログにアイテムの取得があったから、簡単だった。……が、どうも妙なんだよな。

 

[08:03:46] [HouseThread] char_id=4839201 apply_preset preset=B

[08:03:46] [FurnitureThread] char_id=4839201 move_object obj_id=F2e_233 pos=(14,4,3)

[08:03:46] [InventoryThread] item_get src_char_id=9921002 item_id=R_901 reason=preset_sync

------------------------------------------------------------

 

[08:04:02] [InstanceThread] char_id=9901032 enter house_id=H_3001

[08:04:02] [InstanceThread] char_id=9921003 enter house_id=H_3001

[08:04:02] [InstanceThread] char_id=4839201 enter house_id=H_3001

------------------------------------------------------------

 

[08:04:12] [FurnitureThread] char_id=4839201 move_object obj_id=F2e_233 pos=(14,4,0)

[08:04:12] [FurnitureThread] char_id=4839201 move_object obj_id=F2e_233 pos=(14,8,0)

[08:04:12] [FurnitureThread] char_id=4839201 move_object obj_id=F2e_233 pos=(14,8,0)

[08:04:12] [InventoryThread] item_state_update item_id=I_552 owner=9921002 status=clipped

------------------------------------------------------------

 

[08:04:03] [MonitorThread] room_scan house_id=H_3001 players=[9921002,9921003,4839201]

[08:04:03] [AIScanThread] ai_scan house_id=H_3001 intruders=none

------------------------------------------------------------

 

[08:04:12] [FurnitureThread] finalize_move obj_id=F2e_233 state=embedded

[08:04:12] [InventoryThread] item_state_update item_id=Ile_552 owner=9921002 status=lost

------------------------------------------------------------

 

[08:44:45] [InstanceThread] char_id=901032 leave house_id=H_3001

[08:44:45] [InstanceThread] char_id=4839201 leave house_id=H_3001

[08:44:45] [InstanceThread] char_id=9921003 leave house_id=H_3001

------------------------------------------------------------

 

[08:45:12] [DebugThread] furniture_op char_id=4839201 last_op_time=08:04:06

 

 ログを見るに、マイハウスに表示されたログとそう大差ないことが記録されているばかり。

 唯一違ったのがプリセットBへの変更。そのタイミングで言ってねぇどの武器がJOY福に取得されている。周辺にある若干の遅延はどれも目くじらを立てるほどのことじゃない。マイハウス内部の家具をプリセットで一斉に動かすんだ、これくらいの遅延は出る。

 しかしそうなると……選手二人が入室する前に選手の荷物を盗んだ、ということになる。初めから置いていってあったのでもない限り、そんなことはあり得ないだろう。

 勘違い……ということはあり得るのか? 実は元から渡していて、無くなったと言ってねぇどが勘違いした……。うーん。

 

「……丁度三人だし、事件当時の再現をしてほしいかな。この……プリセットBとやらに変更するところ含めて」

「お安い御用で。じゃ、まずアタクシがマイハウスに入りまして」

 

 ドアを開け、家に入るJOY福。

 数秒としない内に出てきた彼がドアを開ける。家主が招待を許可していれば他者のマイハウスに入ることができる。逆に言えば、それ以外の手段では出入りできない。……緊急脱出だけは別だけど、あんなの使ってログを残さないのは無理なので除外。

 さらに言うとプレイヤーのインベントリ内部を調べるすべがプレイヤーには無いため、「お前が持っているだろう!」は使えない。使ったら運営バレする。

 

「細かいけど、入った順番から鑑みて、私が被害者の言ってねぇど役、ブラックダリアが容疑者の梨口役ね。JOY福はそのまま」

「ああ」

「へい」

 

 中に入る。事前に説明された通り、かなりシンプルな作りのマイハウスだ。中心にある道場の大部屋と、それに繋がる二つの控室。

 隠し部屋もなし、プリセットで作る「通常時はアクセス不可な部屋」も無し。

 事件の再現とは言ったけど、三十分間この道場でぽけーっとしているわけにもいかないので、各選手の部屋を行ったり来たりする。

 

 犯人はJOY福で間違いない。が、手段がわからない。

 二人の選手の入室後、JOY福はマイハウスの操作を一切行っていない。つまり選手たちとほぼ同条件だった。

 アイテム取得は確かにされているけれど、それは二人の入室前。

 

 だから──。

 

「あうっ? っとと」

「大丈夫ですかい?」

「ん、ああ、躓いただけ。何も無い所で」

 

 別になくなって困るものじゃないけど、これじゃあ信用失墜もいいところだ。こんなドジ……。

 

 ……。

 はっはーん?

 

「成程ね」

「……何かわかったのか?」

「トリックはわかった。けど、証拠がない」

「そりゃあわかったって言えないんじゃあ……」

「そうかもしれない。だから、この話はここで終わり。私はあとでブラックダリアに推理を伝えるけれど、それを聞いた彼が犯人をどうするかは彼次第だ。荒唐無稽な推理だと切って捨てるも良いし、私の推理だけをソースに犯人を捕まえてもいい。そこは任せるよ」

「ふむ。妥当な判断だ。俺は今色んな思いを募らせているが、敢えて双方にこう言わせてもらう──かたじけない、と」

 

 それ言いたいだけじゃん。

 

 ということで、プチ中層出張終わり~。

 

 

 上層への帰り道。というか内部路面列車(キャピラリー)の中で、ブラックダリアに個別通話(ウィスパー)を開く。

 

「あの場で言わなかった時点でわかってると思うけど、犯人はJOY福だよ」

「ああ、そのような予感がしていた。して、トリックの方は?」

「プリセットだよ。家具配置。多分事件当時、言ってねぇどの武器は床起きか壁に立てかけてあったか、とにかく何かにべったり接触している状態にあったんだと思う。それをプリセットの家具配置で床の中とか壁の中に押し込んで盗んだわけだ」

「……だが、JOY福がプリセットを変えたのは選手たちの入場前だろう」

「まー多分頻繁に模様替えとかプリセット変更とかやってるプレイヤーだったんだろうね、元から。だから、"プリセット変更による家具の再配置"には決められた順番があることに気付いたんだ。具体的な順番は知らないけど、処理の緩いもの、構造が複雑でないものから先に配置される、というのは直感的に想像つくでしょ?」

 

 だからJOY福は計算した。床か壁か……仮定床を重ねるなりなんなりで「情報として読み込みの遅いオブジェクト」にしておいて、プリセットを変更。ほとんどはJOY福の出入りの時間で配置されきったけれど、仮定床は選手二人が入場して尚配置されなかった。

 そうして、多分普段から自慢とかしてたんじゃないかな。言ってねぇどの武器が思った通りの場所に置かれて、二人が道場へ入ると同時くらいに仮定床が武器を飲み込む。

 配置完了後、家具の中で「プレビューで配置はできたけど実際はなんかが重なっていたり埋め込まれたりしていて配置できなかったもの」はクリアされてプレイヤーのインベントリに入る。その時点での武器の所有権は誰でもなかっただろうけど、「置けなかった家具」扱いになった武器の所有権が誰か、なんて誰にでもわかるだろう。

 

「……しかし、こちらも成程だが……証拠がないな」

「そう。私が気付いたのはあの時躓いたから。道場と控室A、Bとで少しだけ高さが違うんじゃないかな、って考えたのさ。けど、それだってJOY福が今にもプリセットの設定を変えてしまったら立証できないし、インベントリの中にあるだろう武器を指摘することもできない。だからお手上げ」

 

 ログ側も見事に騙していた。そのつもりがあったのかそうでなかったのかは定かじゃないけど、こっちのログじゃ武器の取得時間がプリセット変更時と同じになっていたんだ。あれをただただ眺めるだけの……内部の仕組みを知らんやつが見たら、バグの一言で終わらせそうなものだ。それくらい「おかしな事態」だったし、上手くログを利用していた。

 が、内部ログのスレッドには処理優先度というものがあり、さらに発生は記録しても完了は記録しない、なんてキューも存在する。

 結局こいつらは機械なので、時系列順にログを生成しているように見えて、その実あとになってから「これこれこういう時間にこういうことがありましたよ」を返してきているに過ぎない。

 家具操作によるアイテムの入手記録なんてそんなに優先度の高い処理じゃないんだ、監視ログの限界というやつだな。

 良い教訓になったかもしれない。やっぱり各地に運営を配置しておくのは正解であった、と。

 

「協力、感謝する。やはり雪殿に頼んで正解だった」

「証拠もないんじゃ解決したとは言えないけどね。ただまぁ、窃盗を防ぐのなら、アイテムはしっかりインベントリに入れておこう、なんて子供染みた注意喚起を出すのが一番効果的だとは思うよ」

「何から何までかたじけない。……JOY福の沙汰に関しては、雪殿の言う通り、俺が決める。もし何か……JOY福が犯人であることを決定づけられるような事柄を思いついたらまた知らせてほしい。勿論そんなもの思いつかずとも、忘れてくれても構わない」

「……ふむ。まぁ、考えてみるよ」

 

 そんな感じで内部路面列車(キャピラリー)を降りて、上層へ繋がる連絡路を通って、帰還。

 一気に低くなった気温にぶるりと震えてみたりして──帰路についた。

 

 

 メール。

 

「拝啓、悪の枢軸くんへ。

 とあるプレイヤーが所持しているだろうアイテムを指摘したいんだけど、あくまでプレイヤーが持ち得る情報だけでこれを可能にするにはどうしたらいいだろうか。敬具」

 

 ホットココアを淹れて、コクコクと飲む。

 はふ……。

 

 お、返信が。素晴らしい早さだ。

 

「拝啓、横島中身へ。

 横島中身と打つとエラーが出てメールが消去されるのですね。先に言っておいてほしかったです。

 さて、別に私は悪の枢軸ではないですし、行ってきた悪事のあらゆるものは私の発想ではないので誠に恐縮なのですが、非常に簡潔で効果の高い方法が一つあります。ただし、効果があるのは恐らく一回切りです。どのタイミングで打つかはあなたに任せます。手法は念のため画像ファイルで添付しておきました。善に寄り添う枢軸より愛を込めて、敬具」

 

 ……ははぁ、なるほどー。

 

 

 後日。

 ブラックダリアと……そしてプレイヤー言ってねぇど、梨口から感謝のメールが届いた。どうやら事件は解決したらしい。

 ケッセウスが提示した方法は極めて簡単。

 

「盗まれた武器と全く同じ武器を言ってねぇどが持っているところを見せつける。なんならJOY福を呼び出し、"実はブラックダリアがあの時JOY福の家から見つけていた"と問い詰めるでもいい、ね」

 

 本当に持っていなかった場合のみ半ば魔女裁判になるが、持っていると確信があるのならこれでいい。その場であるにせよないにせよ「そんなはずがない」と確認をするだろうし、状況を鮮明に語ってやれば勝手にボロを出す、と。

 全く同じ武器はチェスカに作ってもらった。見た目やオプション、さらには──私にはまったくわからなかったけど──使用感まで同じだと言ってねぇどが驚いていたとかなんとか。

 悪の枢軸ならば悪の心理がわかるんじゃないかな、と思っての依頼だったけど、よくやってくれたようだ。

 

 そんな感じでこれにて一件落着……と、そうなるかに思われた事件は。

 

 JOY福の脱獄──否、()()()()という形で新たな幕を開けることになるのである。

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