Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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漠然としたさわやかな1130日目

 報せは受けたけど、今回は現地に赴いていない。

 ただ……自身のカマクラハウスでレポートに目を通している。

 

 JOY福の存在消滅。

 脱獄した、と……まぁプレイヤーには伝わっている。今回も前回と同様に井坂チュノスケ率いるチュウチュウファミリーによる『疑似牢獄』が使われ、アシャドマンらと同じくJOY福もそこに収監された。だというのに彼は消えた。だから脱獄したのだと。

 実際のところ、彼の動向を追うことのできる私達からすれば、脱獄したどころの話ではなかった。

 いない。『Rauta』の世界のどこにもJOY福というプレイヤーがいない。プレイヤーID4839201は消失した。

 エリアログから辿った最後の彼の言葉は「はい、よろこんで」。この言葉の直後、JOY福の姿も中身のデータも消失している。

 言葉からして誰かと会話していたように見えるけれど、当時の付近にはプレイヤーは疎かNPCさえもいなかった。いたのはクリーチャーだけ。

 そう、井坂チュノスケが開発した『疑似牢獄』とは、「中身が空洞なクリーチャーで作る肉の檻」。テイムしたクリーチャーにプレイヤーを飲ませ、且つ攻撃不可の命令を出すことで、プレイヤーを消化することなく閉じ込めておくことが可能になった牢獄。チェスカ作の呪いの装備をつけたプレイヤーならさらに。無論いつもお馴染み緊急脱出は使えてしまうけれど、緊急脱出先はどのプレイヤーも固定であるため、そこに現れていない、というのも確認できている。

 

 考えられる可能性はいくつかあるけれど、ありそうなのは三つ。

 一つ、またぞろNPC化ウイルスの実験失敗。こっちでログを辿れないのはおかしいと思うものの、窃盗犯ならいいでしょ、の精神で出てきた彼らの残党がJOY福をNPC化、なんらかの方法が勢い余ってプレイヤーデータごとデリート。そんな勢い余ってでデリートエリミネートされる作りにした覚えはないけど、『疑似牢獄』へは亡霊なら近づけるだろうしワンチャン。

 二つ、普通に緊急脱出をしたがなんらかの要因のために出てくることができなかった。緊急脱出は強制的に仮想のインスタンスを生成してそこに移動し、移動先のインスタンスに使用者を排出する、という仕組みを取っている。故、インスタンス切り替えの際に「未所属状態」というものが生まれるため、そこで留まってしまうと出てこられない上にどこにもいなくなる。

 三つ、実はまだ『疑似牢獄』の中にいるパターン。つまり彼は脱獄しておらず、ただすべての視認・監視・検出から逃れられる状態になっているだけ、という説。監獄からどうやって怪盗は抜け出したのか、実はまだいたんですよ、のヤツね。これも結構ありそう。

 

 ただし、毎回毎回私が行くのもなんだかなぁ、なので。

 

 

「私にお鉢が回ってきた、と。」

 

 紺色のテンガロンハットとスーツにも見えるコートを着たモノクル着用の男性──彼の名はケッセウス。正確にはケッセウスではないが、それを知る者はいないのでケッセウスで問題ない。

 

 彼の命、及び自由はあの「横島中身(よこしまなかみ)」に握られている。だから行けと言われたらはいよろこんでと向かうしかないのである。

 そして……こういう出自とこういう境遇になってから知ったことであるが、プレイヤーの中に紛れ込んだ運営の多い事多い事。予想ではいても三人から五人ほどだと思っていた彼らはその実なんと……なんて。

 あまり「過ぎたこと」を考えると強制的に思考が停止することを学習しているケッセウスは同じミスをしない。己が知ってさえいればいいのだから、と思考をやめる。

 

 同時に思考を……並列して走らせる思考で考えるのは、彼らが想像より善に寄り添っている、ということ。

 デスゲームの実行者。のべ一万人の殺害者。それが『Rauta』の運営である、というのはプレイヤー共通の見解だ。これは過去に死した「ケッセウスではなかった彼」も「塗り潰されたケッセウス」も同様の考えをしている。

 けれど、彼の仲間たちが起こした殺人事件や窃盗事件などの解消をする……免疫パッチファイルなんかも配っていたか。それくらいプレイヤーを保護する。かと思えば物乞いには冷たく反応したりと未だに基準が掴めない。

 以前「横島中身」に問うた「ヒトではないように聞こえる」は、やはり──。

 

「ケッセウスさん、お久しぶりです」

「と……ああ、お久しぶりです、吉若尊(よしわかそん)三度(みたび)さん。下層の案内役はあなたが?」

「ええ、下層は入り組んでいますので、迷ってしまわれないように、と」

 

 思考を切り替える。今ケッセウスが下層に来た理由、JOY福というプレイヤーの消失事件について考えるためだ。

 彼女から渡された「可能性」についても頭に入れているけれど、現場を見てみないことには始まらない。何より非常に遺憾ながら、今回も彼女を頼る流れになりかけたところをケッセウス自身が「何も考えずに彼女を頼り過ぎでは?」「まず私達で考えてみる、というフェーズを挟んでからの方が良いと思います」「彼女の腕を信じていないのではなく、ワンオペになるのは双方にとって良い結果を齎さない、という話ですよ」なんて言ったことで、ならば言いだしっぺの法則というか、まずはケッセウスが調査をしてみる、という形で話がまとまったのだとか。

 無論ケッセウスにそんなことを言うつもりはサラサラ無かったのだけど、「言え」と言われたら言うしかないのがパシリのつらい所である。

 

 中層から下層へは蒸気圧式昇降機というもので昇降する。スチームパンク要素なのだろうとゲーム時代は気にしていなかったこれも、真面目に考えるとそら恐ろしい非効率さだ。こういうのに詳しいプレイヤーが検証したところ、「蒸気機関による巻き上げ駆動」ではなく「エレベーターを単一のシリンダーと見立てての圧力調整式」だそうで、制御が外れたら真っ逆さまもあり得るのだとか。

 幸いにしてこの三年間そういった事故例は耳にしていないが、この世界に住むことになった以上、「スチームパンクにするために無理矢理成り立たせられている場所」は是非とも現代技術に置き換えてほしい、というのがケッセウス含む技師ではない一般人の切なる願いである。

 

 そんなタワテラも真っ青な降下で下層まで降りてきて、知り合いのプレイヤーに案内を受けて歩くこと三十分ほど。

 景色自体は中層に似ているけれど、かなりどんよりとしている他、うつむいたまま動かない、酒瓶と共に仰向けになっている、路地裏で身を寄せ合って塊みたいになっている……というような人影が多数散見される。死んではいないのだろうが動く気がない──NPCなのかプレイヤーなのかわからない存在。

 そして、それが道端にあろうと壁際にあろうと一切を気にしない他のプレイヤー、NPC達。声を掛ける者などいない。邪魔に思うことすらしない。馬車の通り道にあったら構わず踏んでいく……それくらい視界に入っていない。

 

「奇妙ですか」

「ああ……気を悪くしたのなら謝ります」

「いえ、気にしませんよ。……初めはロールプレイだった覚えがあるのですがね、下層で過ごしているうちにこれが当たり前になっていました。生きる気力を失った者はいないに同じ。NPCでもプレイヤーでもそれは変わらない。だからあれらは意図的に無視しているというより本当に視界に入っていないんです」

 

 壁の染みになる、なんて言葉があるけれど、あれはまさにそれだ。

 背景になる。登場人物から一転、舞台セットに入れ替わる。

 

「生きる気力を残す方にはあんな扱いはしませんよ。上層にある……確か【稼がれない互助会】でしたか? それに似たグループが下層にもあります。【見捨て物小屋】っていうんですけどね」

「名前で大体は理解できましたが、それで収入になるというのが驚きです」

「まぁ観客は異族のお金持ちや現地民ですからね。彼らにとっては究極なんだっていいのでしょう。暇潰し代、というやつです」

「……現地民がプレイヤーに金を払う、というのが……驚きですが」

「おや、差別主義者でしたか? なんて、冗談ですよ。まだ三年ですからね……しかも上層に住んでいると現地民と共に働く、という感覚が理解できないのもわかります。が、下層では当然のように現地民が働いているんですよ。現地民の監督する現場に現地民だけが働いていて、そこに賃金が発生している、ということがよくある。彼らは我々プレイヤーのためにいるシステム的な存在ではなく、彼らなりのルールのもとに動いている生命。だからそのルールの中でプレイヤーが動いてやれば、現地民も相応の反応をくれるんです」

「……いえ、これは私の失言でした。少し……考えを改めたいと思います」

「殊勝な心掛けですね」

 

 いつも同じところにいるNPC、いつも同じことを喋るNPC。

 それらは当然のものとして扱われてきたし、ケッセウスもそこに疑問を抱かなかった。そうプログラムされているのだから、そうなって当然であると。

 しかしもし違うのなら。ケッセウス自身もNPCが経営する店や機関を利用することがあるけれど、「決められたことしか話さない」のはそういうルールがあるからで、そこに感情があるのなら。つまり、「決められたことしか話してはいけない」だけだとしたら。

 ケッセウスの仲間らが作り出した自我封印による乗っ取り……それに伴う哲学的ゾンビ。あれの反対だ。ゾンビのふりをした人間。それがNPCであると。

 

「ああ、だから、一つアドバイスです。下層ではNPCという言葉を使う人はいません。現地民自身が嫌な顔をしたことがないのでどう思われているかはわかりませんが、それでもこの言葉は使われなくなりましたし、使っている人間には漏れなく白い目が向けられます」

「良い文化だと思います。素直にね」

「ええ、ありがとうございます」

 

 下層。棺桶……鋼鉄街列車の下部層。

 ここはゲーム時代の延長線上にあるような上層とは全く違う文化圏が築かれているのだと、ケッセウスは心持ちを新たに襟首を正すのであった。

 

 

 三度の案内のもと確かに入り組んでいる地形を抜けて、そこ……見た目は雑居ビル、実際に不動産で買う時も『時代錯誤シリーズ・雑居ビルB』であるそこに辿り着く。

 そのビルの前にいたのは、獣族──これも下層では異族という呼び名になる──の女性。眼鏡をかけた、如何にも秘書然とした女性だった。

 

鼠唇(ネズミクチビル)さん、こちら、上層からお越しくださったケッセウスさんです」

「チューリップって読めつってんだろタコ。……じゃない、ええと、コホン。……初めまして、ケッセウスさん。此度は我々チュウチュウファミリーの不手際に関する始末をつけていただくこと、誠に──」

「おう、来ましたかい。形式ばった挨拶は要りませんね? オレは井坂チュノスケ、チュウチュウファミリーの頭取です。そんでもってお()さんの知り合いだ。この意味はわかりますね?」

「──無論ですとも。ではお二方、すみません。丁寧にお出迎えいただく予定をキャンセルする形になってしまいますが、私は彼についていかなくてはなりませんので」

 

 一瞬能面のような顔になりかけたケッセウスだが、なんとかそれを取り繕うことに成功した。

 後頭部をガジガジ掻いて「まーたボスの段取り無視だよ……」とか、顎に指を添えて「あれが……。こうして見るとただの鼠族男性なのですがねぇ」とか言っている二人に別れを告げ、さっさか歩いていくチュノスケに追従する。

 

 個別通話(ウィスパー)

 

「すいませんね。手続きだの歓待だの面子だのって色々やってると長いんで、切り上げさせてもらった」

「いや、時間は有限だ、とてもいい判断でしたよ」

「お姫さんのように華麗にたぁ行かねえが、オレもソレなんでね、ちったぁわかってるつもりですよ、時間の大切さってやつは」

 

 運営(ソレ)。彼女やケッセウスに接触してきた運営プレイヤーは皆「なんでもない一プレイヤー」だった。他のプレイヤーと比べて遜色ないというか、あくまで隠れ潜むだけの存在だったのだ。

 しかし、彼はどうだ。下層の一画を支配するマフィアファミリーの頭取。そんなにも目立ち、そしてそんなにも影響を及ぼすポジションが──敵、だなんて。

 

「……わかりませんね。あなたは……慕われている様子だ。先程の彼女や、今私達を監視するような目で見ているあなたのファミリー然り」

「おう、気付きますかい。いいね、じゃあ散らそう。そんで、何がわかりませんのかね。ファミリーなんだ、頭を慕うのは当然だろう」

「けれどあなたは……あなた方は彼らへ……私達へ裏切りに等しい殺戮を行った。目的がわからないのですよ。雪こもり姫然り、あなた然り、私達プレイヤーとまるで友人のように接しながら冷酷を働く。裏切るのが好き、というようにも見えない。種明かしをして絶望に染まる私達を見たいというわけでもないでしょう。特にあなたは……そんなに慕わせて、慕いたくなるような態度を見せて、導いて……それで、その実、なんて」

「まぁ別に、なんかの目的のために慕わせているってわけじゃあないですからね。人付き合いをしていくうちに自然とそうなったってだけだ。そして、オレらの目的と人付き合いにはなんら関連性がない。実際問題別にオレがどこにいようと問題ないわけですよ。下層で壁の染みになっていようが、ファミリーの頭取をしていようが、どうでもね」

 

 目的。運営彼らの目的。のべ一万人を殺してまでやり遂げねばならなかった……目的。

 それが何かを問うのは越権行為だ。恐らくまた思考が停止する。

 

「ま、気楽にしてくださいよ。プレイヤーを苦しめんのが目的ならもっと昔にもっと効果的にやってるんだ。なんせこっちはアンタらの脳が発する電気信号を全部束ねて管理してたんでね、苦痛なんてどうとでも発生させられてたさ」

「……わかった。今は目先の物事に集中するとしますよ」

「賢明な判断だ。──さ、ここが『疑似牢獄』だよ。一応企業秘密、仕組みと手法は内緒にしてくださいよ?」

 

 連れてこられた場所は、誰かのマイハウス。中に家主がいるのだろう、独りでに開いたドアに入れば──ツンという悪臭に面食らった。

 

「臭い……? そんなもの……こんな悪臭が実装されていたのですか?」

「人間、味を感じるための大部分は匂いって言われていましてね。だから料理スキルによる料理には実は香ばしい匂いや美味しそうな匂いを直接脳が感じ取るような仕組みが搭載されてんのさ。で、良い匂いが作れるんなら、材料と組み合わせ次第では悪臭も作れるってモンで、この部屋には八百種類を超える特定の匂いを強調した料理が配置されている。それがうまい具合に調和して悪臭になってんでさ」

「技術の無駄遣いというか……どういうメンタルをしていればそれを思いつくのですか……」

「拷問って手が使えねえんだ、こういうところから責めていくしかねぇってね」

 

 そう、『Rauta』はゲームである。だから、不快なもの、というのは極力排除されている。無論クリーチャーの見た目がグロテスクであるという部分は避けようがないけれど、たとえばクリーチャーの前肢が腹に刺さったところでそのままの痛みなんて覚えないし、麻痺や火傷といった状態異常の痛みがダイレクトに伝わることなんてない。

 不快……本来そうなるべき不快、というのはプレイヤーが離れてしまわないように極力ポップに仕立て上げられている。そのルールの中では拷問なんて大して意味がない。悲鳴を上げるようなダメージを与える手段が無いのだ。

 なれば成程、緩和されているはずの不快な臭いをどうにか発生させて感じさせる、というのは中々の拷問になる。特にプレイヤーはこの三年で「悲劇というストレス』以外のストレスをほとんど感じない状態で生きてきただろうから、殊更に。

 

 そんな感じで悪臭の漂う家の中、大きく開けた部屋の中に、ワニくらいの大きさの一匹の虫がいた。

 

「クリーチャー、巨大ハイドラハネラエ。リアルで言うところのミズダニの仲間です。巨大ユスリカもでけえっちゃでけえが、こっちは倍率もとんでもない」

「確か……酸性雪の洞窟、その碧の湖で出てくるクリーチャー……でしたか?」

「おお、博識だ。作り手としちゃその知識量は嬉しくなる」

 

 体長五メートルはあろうかという巨大なミズダニ。半透明なその身体は、中身がスカスカに見える。

 

「そう……『疑似牢獄』ってのはこいつのことでね。テイムしたミズダニをプレイヤーに重なる位置に召喚(サモン)すんのさ。ミズダニには攻撃禁止の命令を出している上で、こいつはとんでもなく強く育ててあるんで、倒せもしない。チェスカのお嬢さんの呪いの装備があればさらに堅固になる。そうして犯罪者はミズダニのヘモコエルの中で出されねえ限り一生を過ごすのさ」

「成程……恐ろしいな。しかしその『疑似牢獄』に入れていたプレイヤーがいなくなった、と」

「ああ、とんでもねえ不手際ですよ。お姫さんに全幅の信頼を受けて管理していたってのに」

「色々確認したいことがあります。まず、誰かが私怨で殺してしまった、という線はないのですね?」

「ない。これはウチのファミリーを信じての話じゃなく、事実無い。この家に入るのはオレと家主と囚人だけ。私怨を持っている奴がいようがいまいができねえが正しいですか」

 

 マイハウスは不干渉オブジェクトである。これはケッセウスや運営の誰ぞかでなくとも、プレイヤーなら大体みんな知っていることだろう。

 完全に別の世界に入るようなものであるため、見た目の大きさと家の中の広さが一致しないなんてザラにある。

 外部から殺すことはできない。さらに『疑似牢獄』の仕組み上、ミズダニを傷つけずに中身だけを殺す、というのも無理そうだ。

 

「さらに言えば、今回の奴さんは殺害された、死んだ、ってより消えたって表現が正しい。どうやって殺されたか、じゃなく、なんで消えたか、の方を聞きたいのさ」

「……それはつまり、あなた達だけが確認できる手段の方でも消えている、ということか」

「ええ」

 

 死ではなく消。

 運営的知識のないケッセウスでは限界があるだろうに、どうして彼が派遣されたのか。

 そんなことは自明だった。

 

「成程……私達と同様の存在がどこまでできるのか、という話ですか」

「恐らくは、ですけどね。オレはお()さんのような技術屋とは言えないんで、さっぱりだが」

 

 考える。確かにミズダニを傷つけずに中身だけを操作する、という点に関して亡霊たちはうってつけだ。

 干渉しさえしなければ、NPCもクリーチャーもプレイヤーもなんだってすり抜けられる。いいや、干渉できないからすり抜けられる、と言った方が良いか。

 ただし、できないこともある。それが。

 

「……マイハウスへの侵入はできないのです。私達とて、ね」

「なんだ、そうなんですかい。……そりゃ、もしや手詰まりか?」

「いえ……ですから、招かれれば入れます。招待設定をしない限りドアが開いていても無断でマイハウスに入ることはできない。これは正しいですか?」

「是を」

「つまり、招かれたのでしょうね。犯人は……それが私達であれそうでなかれ」

「家主が共犯ってことですかい?」

「自覚があるかどうかは定かじゃないですが」

「と言いますと?」

 

 つまり、と、ケッセウスは指を立てる。

 家主は外にいるプレイヤーを招待する。それを受けてプレイヤーはマイハウスに入ることができる。

 このルールは絶対に守られる。だが、家主には表にいるプレイヤーが本人であるかを確認する術がない。表示された「周囲にいるプレイヤー」から入れたい者の名前を選び、招待ボタンを押下する。それ以外の手順が存在しない。

 

「であるのなら、仮に同名の偽物や同名と見紛うプレイヤーが来た時、それを見抜けない」

「……まず、同名のプレイヤーは発生し得ない。そりゃシステムの方の話ですよ。だが……成程、同名に見えるプレイヤー、ね」

「井坂チュノスケ、という名前に似せた表示名を持ち、容姿をあなたにして、言動もあなたにした、全く別のプレイヤー。これを家主さんは見分けることができるのか」

「……ファミリーの絆ってモンがある。だから見抜ける……てのは、希望的観測が過ぎるなぁ」

「恐らくあなた達運営はそういうところも調べたはずだ。つまり、この家の訪問履歴を。そしてあなたの訪問記録は除外したのでしょう。人は"あって当然のもの"には上手く注意を向けることができませんからね。よってその中を調べるべきです。あなたの記憶にない訪問、または……プレイヤーIDですか? それの違うあなたの訪問記録の存在を」

 

 どのようにして消したのか、はまだわからない。

 だが、どのようにして接触したのか、はこれで解かれるだろう。

 

「少し待っていてくれますかね。ちょいと調べてくるんで」

「……では外に出ていても構いませんか? この臭い、私にも効くので」

「ええ、勿論」

 

 まずは一手、ご期待通り。

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