Rauta   作:Ubiquintetous / 五劫偏在

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明朗なるがんじがらめの1139日目

 この街の主な動力は蒸気機関である。スチームパンク世界であるから当然なのだけど、地球の方でそう長く蒸気機関が使われ続けなかったくらいには色々非効率なのが蒸気機関だ。

 石油燃料の内燃機関に重量・熱効率で遥かに負けて、燃費も負ける。燃料補給も難があり、灰の処理にも手間がかかる。ボイラーの設置やメンテナンスには専門の知識と大勢を必要とするためコストが嵩み、常に事故による高いリスクが付き纏う。……まぁここは内燃機関もそうだけど。

 よく引き合いに出される環境問題も蒸気機関の方が劣る。普通に劣る。

 仮に再度地球で蒸気機関が評価されるとしたら、まぁ、蒸気タービン関連での発展か、電子機器が使えなくなった場合か、燃料を石炭としなくなった場合くらいか。

 その点『Rauta』における蒸気機関の燃料関係は割といい線行ってる──というか世界が元にあったので当然といえば当然──と思う。

 

「はいよー、礦石炭(イエンテ)五個、玄石炭(シュライン)二個、極石炭(アルマリタス)一個ね」

「ありがとう、おばちゃん」

「いいのいいの、こんなおばちゃんのとこから毎月買ってくれるお客さんなんて少ないんだから」

「うん、いつまでも元気でね」

「勿論。なんたってそれがウリだからね」

 

 現地民の女性から籠いっぱいに買ったのは三種類の石炭。

 これこそがこの世界の蒸気機関における燃料。プレイヤーこと採掘者が外部より採掘してくるものであり、棺桶を含む都市全ての機関を動かすスペシャル燃料。なお、普通の石炭に比べて非常に強力な酸化物を吐き出すので、スペシャル燃料といいつつ大気汚染の度合いは全くスペシャルじゃない。

 殞晶酸化物──これがこの世界の雨や雪をとんでもないデバフの塊に仕立て上げている元凶。ま、殞晶ことこの三種類の石炭を使わなければ生まれないものなので、使っているやつが悪いというのはそれはそう。

 

 一応『Rauta』の世界における蒸気機関は「とんでもなく熱効率が悪いけどとんでもないエネルギーが得られるから」という理由で存続していることになっている。

 あとまだ辿り着いてはいないけど、電力を上手く扱えないから、というのも大きいかな。導電性の高い金属……銅やアルミニウムがこっちの世界じゃほとんど産出されない。鉱石資源は耐熱・耐圧・耐食に振り切っていて、絶縁体の方もゴムやらプラスチックやらが一切出てきていないので難しい。磁性材料はあるけどまぁ磁性材料だけじゃどうにも……なるかもしれないけど電力方面には行かないだろう。電磁気学自体はいつかまとめられそう。

 実は地球より人類史の長い『Rauta』の世界だけど、科学技術の進みは完全に蒸気機関へ振り切っていると言っていい。

 やっぱり雷が電気であると知られていないのが大きいか。なんせこの世界の雷は「神々が自在に落とせるもの」だからね。静電気と雷を結び付ける発想が欠落している。

 

「ねえ」

「ん?」

 

 そんな……あることないことをつらつら考えていたら、声を掛けられた。

 真っ白な雪の降る帰り道。人とすれ違うこと自体珍しい辺境の地で。

 

「わたし、キレイ?」

「私の方が可愛いかな、少なくとも」

「──」

 

 伸びてくるのは不可視の波。

 その悉くを遮断して、ようやく振り返る。

 

 そこにいたのは──なんらかのクリーチャーを最低限ヒトのカタチにまで押し固めたような姿の、ナニカ。

 ほとんど自在と言っていいほどのキャラクリエイトを作った私達へ挑戦状をたたきつけるようなその造形は、なるほど「頑張ったんだな」という感じは伝わってくる。

 

「連続殺人、乗っ取りと成り済まし、窃盗ときて今度は都市伝説か。盛況だね」

「なぜ──届かな──イ」

「後手後手はつまらないからね。とりあえず考え得るクラッキングの全てに対応できるようガチガチに固めてみたんだよ。ああ、そういう意味じゃあ」

 

 雪のように煌めくプラチナブロンドの長い髪。前髪は短くしてあるのでできないけれど、後ろ髪は実はもこもこ衣装に隠しているだけで腰まであったりする。

 それをしゃらぁんと梳いて流して。

 

「キャラクリ精度含めて、私の方がキレイだね」

 

 どうせなるなら理想の姿で、がこのアバターのコンセプトだ。

 頻繁に舐められるから少女より女性にした方がよかったかな、と思いつつ、キャラクリでできる限りの幼さを演出した顔立ち、身長。服に着られている感の一切ない着こなしで見せるはお姫様モチーフの耐寒ふわもこ服。雪の精をイメージしたアクセサリや色味が全体の儚さや透明感を際立たせるマッチ具合。

 君の頑張りは認めよう。けど私のこれには敵わないよ。

 

「ァ、ぁ──」

「そうして、はい、捕まえ……ありゃ?」

 

 雑談という時間稼ぎをしつつ、急遽構築した檻に捕まえる……つもりだったんだけどな。

 逃げられたか。……足取りを辿るシーカーだけ放って、プレイヤーIDを検索して……ってまた破損してるし。またNPC化関連か。わかっていたけど、懲りないなぁ。

 

 しかし……単純に走って逃げたとか緊急脱出に類する行為でワープしたとかじゃなかったな、今。

 透明化したというか、存在が希釈された? そんな感じの消え方だった。

 

「……うー、タスクが増える増える」

 

 裏方ーズの、だけど。

 

 

 未だJOY福をミズダニから元に戻す、乖離させる、という手段は見つかっていない。

 彼のプレイヤーIDを持つプレイヤー、ないしはNPCを作ったところでそこに魂が宿るわけでもなし。プレイヤーIDは魂のIDというわけじゃないので如何ともしがたい。

 なにもできない騒霊(ポルターガイスト)状態の亡霊たちにはプレイヤーIDが付与されていない。だからスキャンにも引っかからない。彼らは精神だけの状態で記憶や知識を持ち運んでいるから、そこには何かしらのコアと呼べるものが存在するはずなのだけど、今のところそれらを検出するすべを私達は有していない。

 ホットミルクをカップに入れて、いつものテレビをポチ。ちなみにマイハウスの家具は蒸気機関とは一切関係のない力で動いているので世界設定とか一切ないものと思ってくれていい。

 

「都市伝説……っていうと、あとは赤マント、テケテケ、人面犬、きさらぎ駅、八尺様……とか?」

「うーん、テケテケと人面犬は都市伝説感あるけど、後ろ二つはインターネット都市伝説じゃね、どっちかというと。で、赤マントは聞いたことすらない。赤い洗面器を被った男なら知ってる」

 

 今日は珍しく来客がいる。

 咋・明白……と書いて「あから様」と呼べ、と言ってくる女性。通称あかちゃん。私はアカラと呼んでいるプレイヤー。

 運営ではなくプレイヤーである。チェスカと同じ枠かな、一応。

 私が殞晶を購入したのは彼女が来るからだ。彼女に納品するためでもある。……転売って、いやだって私冒険行かないんだもん。現地民で売ってくれる人がいる、って調べなかったプレイヤーが悪いよ。

 

「あとなんかある?」

「んー、ツチノコとか。あ、あと子供の頃は黄色い救急車とか聞いたっけな?」

「あったね、そういうのも。ツチノコはUMA臭いけど。……あと、幸せのフォルクスワーゲン、アポロ月面計画、人面魚、下水道のワニ、サンチアゴ航空513便、メアリーセレスト号……」

「うわその辺なんか耳にしたことあるけど全然知らんかも。あ、死体洗いバイトとかは都市伝説じゃね一応。桜の木の下には死体が、も」

「梶井基次郎本人が出てきそう」

 

 ふーむ。

 

「けど、口裂け女が出たから他の都市伝説も出るはず、は大分暴論じゃね、そもそも。つか口裂け女て。姫っちがドッキリに会う日がくるとはなー」

 

 まぁあれは口裂け女というか全身ぐちゃぐちゃ女だったけど。

 

「まー最近なんか探偵みたいな役割を任せられることが増えてさ。ちょっと考えちゃうんだよね」

「探偵て。姫っちがなるとしたら犯人でしょ。それも無自覚快楽殺人とかその辺」

「……人の事なんだと思ってるの?」

「割合サイコ」

 

 酷い話だ。確かに最初はわからなかったけど、今では充分わかっている。そのために人間生活をイチからやったのだし。

 

「ああ、あと、こういうテレビの砂嵐に顔が映るとかそういうのはあるよね」

「それでいうならクネクネも都市伝説じゃね」

「いやだから……テケテケもだけど、怪談だよそっちは」

「姫っちが出したんじゃん」

「そだっけ」

「つか怪談都市伝説は都市伝説じゃないってのかよー。だったら口裂け女だって都市伝説じゃないじゃんかよー」

「……確かに」

 

 言われてみれば、だ。

 ……じゃあそっち重点で行くか。

 

「古いのでいくと、血液型占いなんかはそうじゃない? 昔は日本人全員信じてたとか」

「信じてたね。ま、アレはロマン色が強そうだけど。連綿と続く血脈が性格にまで作用するなんて面白い、ってさ」

「マイナスとか含めたって確か三百そこらなんでしょ、血液型って。それで性格が分類できちゃあ世話無いよね。じゃあ星座とか手相はどうなんだっていやほんと占いなんて全部そうなんだけど」

「星座はまぁ……個人の運勢を占えるかどうかはともかくとして、少し先の未来くらいは見えて当たり前だけど」

「え、姫っちそういうの信じる派なん?」

「個人占いは眉唾、吉兆占いは都合の良いとこだけ拾うの直せばいい線行ってる、って感じ?」

「何故に上から目線……」

 

 事実そうだから、としか。

 

 いやいや、そんな話はどうだっていいのだ。

 

「怪談主体の都市伝説。他に何かある?」

「聞かれると思って今ウチが入ってるグループに投げかけ中。集合知を見せてやるからちょっと待っちっち」

「おお」

 

 インターネット集合知には遠く及ばないだろうけど、普通の集合知も中々侮り難いものだ。

 これは楽しみ。

 

「えーと? 『赤い部屋』、『八尺お姉様』、『猿夢』、『ムラサキカガミ』、『予言して死ぬ牛』、『ソロかくれんぼ』、『呪物コトリバコ』『星を見つめる女』、『ドッペルゲンガー』、『メリーさん』、『田んぼのクネり手』、『雪山で肩叩くやつ』、『犬鳴村のやつ』、『花子さん!』、『レッドペーパーブルーペーパー』、『ターボババア』、『ストゥルルソンさん』……」

「ふざけてる奴もいるけど助かる」

「姫っち自体は座敷童感あるよね」

「妖怪じゃん」

「妖怪は都市伝説じゃないってのかよー」

「妖怪は都市伝説じゃないよ」

「じゃないか」

 

 全てメモして裏方ーズに回す。どういう都市伝説で、どういう対策が必要か。惜しむらくはその都市伝説に関する話を検索することができないことか。あっちのネットを引き込む方法が無いからね。

 そこから考えられる攻撃方法や感染経路を洗い、先手を打っておく。私達の想像を超えることができたら、その時は手放しで賞賛しよう。

 

 ちなみにアカラは大丈夫だ。この流れで彼女がまさに、というのは最も危惧するところなので、先にスキャンを済ませておいてある。

 

「チェスカにはメール送ってあるけど、私フレンド極少だからさ。アカラの方からも告知しといて。都市伝説を騙る悪質プレイヤーがいる、って」

「はいよん。……けど馬鹿だよね。この前殺人事件? みたいなのあったばっかじゃんね。それでプレイヤーの中にもやっぱり悪い奴はいる、って感じになりつつあるのに、そこにこれって……そういう不安を増長させたいんだろうねこういうのやる人は」

「ちなみにその殺人事件を解決したのが私」

「えマ?」

「マ」

 

 大々的に喧伝することはないけれど、お友達くらいには自慢したい年頃。……年頃て。

 

「じゃあ名探偵からの注意報ってことにしておくか……」

「それは余計なトラブルが増えそうだから遠慮する」

「けど情報元はっきりしておかないと危ないんよ。こういう人外系はそのまま人外種族にヘイト向く可能性あるし」

「……なるほど、確かに」

 

 そういう懸念点があるのか。思い至らなんだ。

 

「中層の内部路面列車(キャピラリー)なんか『きさらぎ駅』の恰好の的だしねー。やろうと思えばテケテケとかクネクネみたいなことできる、って種族もいるかもしれないし」

「流石にいないような」

「かもしれないで充分じゃん? 偏見と差別が現地民とプレイヤーレベルにまで広がらないように努めるのもプレイヤーの使命なのヨ」

 

 差別か。……まぁ、そうだな。

 ケッセウスも少し報告にいれていたか。上層にいるプレイヤーは差別意識がどうたらこうたら。

 現地民は一個の生命だ。それは運営である私が保証する。だが、プレイヤーと同じに扱え、というのはまた違ってくる話。この話の論点は「プレイヤーが普遍的存在である」という主張を掲げているかどうかが重要になる。

 プレイヤーはこの世界において特別な存在だ。だから優遇されるのは当然である。ただ現地民が不当に扱われたりいないものとして扱われたりするのが違う、というだけ。

 ……この辺はプレイヤー……移住者が考えるべきことだ。私の口出していい話じゃない。

 排斥も迎合も好きにしたらいい。ただし、彼らにも考える頭があることを忘れるな、というところかな。

 

「さて、そろそろ行くよ。月分の最低限納品殞晶確かに」

「気を付けてね。都市伝説に襲われて、自分だけじゃ対処できない場合は、助けてヒメトラマンって叫ぶんだよ」

「三分間戦ってくれんの?」

「ジュワッ」

 

 肩を竦め、手をひらひらさせて去っていくアカラ。

 

 さて。

 対策作りと……JOY福復元方法についての思案を続けようか。

 

 

 四日後。

 

「……呼べって言ったのに」

「いやー、たはは……」

 

 中心街にほど近い馬屋前。そんな場所に私はいて、アカラもいた。

 

 襲われた、らしい。

 猛吹雪の中、馬車に乗ったアカラ。自分で操縦するそれをオートに切り替えた直後、急発進及び急制動を繰り返した馬車がアカラを振り落とし、さらにいないはずの御者が見えたと思ったら、引き返してきた馬車がアカラを……と。

 咄嗟に防御力を上昇させるスキルを使ったので事なきを得たとか言ってるけど体力は削れたらしい。

 

 結構な音がして、何事かと集まってきたプレイヤーによって保護され、結果無事だった、と。

 

「PVP禁止エリアだから……衝突によるHP減少に見せかけた何かだと思うんだよね」

「あー、確かに。引かれたからHP減ったって思わせておいて、ってやつ?」

「そう」

 

 問題は、エリアログに何の証拠も残っていないことだ。

 アカラが馬車を借りたところまではログにあるけど、その後が無い。エリアを出たというログも、馬車の中にはるインスタンスにアカラが入ったというログもない。

 このことから導き出せるのは、アカラが乗った馬車が実は馬車ではなかった、というケースだろう。つまり、JOY福がミズダニになったように、その馬車もなんらかの変形・融合されたクリーチャー及びプレイヤー。

 ダメージも……だから、クリーチャー故に出せたものだと考えるのなら……いやでもPVP禁止エリアには変わらないからなぁ。

 

 街中でプレイヤーがダメージを負う方法は大きく分けて三つ。一つはマイハウス、一つは雪や雨などによるデバフ、一つは寒冷値や空腹値などによるペナルティ。

 

「空腹と渇水は問題なかったんだよね?」

「レストラン入ったすぐあとだったよ。あ、もち毒とかも食らってない」

「……」

 

 怪談主体の都市伝説で来る、と読んだのが仇になったか。

 睨むべきは正体不明の方? 突然現れる……そして突然消える。

 今回もなんらかの実験をしてきていると見るべきな気がする。先日の連続殺人はNPC化実験、成り代わりと変容はクリーチャー化実験? それとも私刑?

 

「……アカラ。最近なんか……人に言えないようなこととかやった? 悪いこと」

「してないしてない。なに、バチが当たったって?」

「いや……」

 

 ケッセウスがそうであったというだけで、悪事を働くプレイヤーだけがターゲットというわけではないのかもしれないけど……アカラには何の特徴があったんだ?

 彼が基準に上げていた強さでいうと、アカラはそこまででもない、という評価だ。上位層には遠く及ばないけど戦えないほどじゃないってくらいか。

 アカラが狙われた理由がわからない。私との接触が理由なら、なんで四日後なんだ。その日でいいだろうに。

 

 とりあえず……テスト空間にこの馬車のIDを出現させてみるか。中身の伴わないモノだけど、思考の手助けにはなるだろう。

 

「おーいマジレスプリンセス、来たぜー」

「マルハノ。ごめんね、上層まで呼び出しちゃって」

「なんのなんの。つか嬉しいって。信頼できる護衛役にオレの名前挙げてくれたんだろ?」

「うん。私のフレが通り魔……になるのかな、それっぽいのに当たっちゃって、しばらく警護お願いできる?」

「任せろ! ってわけで、オレはマルハノ刃。よろしくな、アカラさん」

「ご、護衛なんてそんな、大丈夫なのに……」

「いやいや、最近何かと物騒だ。あ、生活とかプライベートな部分には立ち入らないから安心してくれ。その上でとりあえずフレンド交換だけしちまおうぜ」

「姫っちって案外過保護なんだね……」

 

 過保護、というか。

 監視するにあたって知っているプレイヤーの方が都合が良いというか。

 

 二度目狙われるかどうかはわからないけど、現状狙われたのが私とアカラだけとなれば監視の目をつけるのは当然だ。

 ただその時に運営パウワーを使ってしまうと大変よろしくないので護衛を使う。前回の事件でマルハノ刃の「戦闘者」感は測れたし。

 

「私はもうちょい調査していくから、先帰ってて。街中でも気を付けてよ、都市伝説となるとどこから襲ってくるかわかんないし」

「オレが守ると言いたいが、物事に絶対はねえからな。アカラさん、あんた自身も気を付けてもらう必要がある。……んじゃ、マジレスプリンセス」

「うん。頼んだ」

「任せとけ!」

 

 そう言って二人が去っていく。こちらを遠巻きに眺めていたプレイヤー……たしかアカラのグループにいたプレイヤーも離れたのを確認。心配になって出てきたのか、それともあれが犯人か。犯人は現場に戻るというし。……監視の目飛ばしておくか。

 

 共通項。……あとは、猛吹雪、か? 私の時もそうだった気がする。

 雪や天候には特に細工の仕様がないと思うけど、一応覚えておかないと。

 

 ……轍は雪で埋まる。数秒としない内に、だ。

 アカラの話で気になったのは、いないはずの御者がいたという点と、馬車から振り落とされたという点。そして急旋回した馬車がアカラを轢くために戻ってきたという点。

 現地民が乗る馬車には御者がいるが、プレイヤーが操作する馬車には御者は居ない。先程の馬車はプレイヤー用の馬車じゃなかった、という時点で終わりに見えるこの話だけど、あれが現地民の馬車であるとすると……。

 そして馬車から振り落とされた。籠の扉は閉じていたはずなのに、どうやって振り落とすんだ? そもそも籠に見えているだけの何か違うものだったとか?

 さらに……急旋回したらしいけど、急旋回できる幅が無いんだよな。戻ってきたのなら馬車は街中に通り抜けているはずだし。

 

 アカラが嘘を吐いている……うーん。

 勘違いしている可能性はあるけど、嘘を吐いている風には見えなかった。

 

 すべての説がストンとこない。何か見落としているのだろうか。

 

「──ねえ」

「それはナイス過ぎ!!」

「わたしキレ──えっ」

 

 先日作った檻で捕まえるは口裂け女モドキ。

 一本釣りでぃ!

 

 さーて解析す──。

 

「危ねえ! シールドスキル:バッシュ!」

 

 背後でガインと音が鳴って、私をギリギリ掠めるルートに変更された馬車が鼻先三寸を通り抜けていく。

 

「済まねえ、逸らし損ねた! 雪ん子、大丈夫か!?」

「……チキン鳥井?」

「おう俺だ! んで前見ろ前! 戻ってくんぞ、なんだアイツ!」

 

 彼の視線の先を見れば、成程急制動……というかカクカクな旋回で戻ってくる馬車の影が。

 ……自動操縦、か。成程ね。

 

「クソ、迎え撃つ! 雪ん子下がってろ!」

「その必要はないかな。──食らえ、口裂け女ガード」

 

 チキン鳥井には見えてない檻を引っ張って、中の口裂け女を私と馬車の中間に置く。

 鳥井と口裂け女の二人が何かを言う前に、馬車と檻が衝突して……消えた。

 

「き……消えた?」

「みたいだね。ま、犯人というかやり口はわかったから」

「マジか。スゲーな雪ん子。明らかにヤベー感じのだったけど」

 

 ……ただ検証方法どうしよっかなーこれ。

 運営パウワー無しだと難しいなー。

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