ぽっと出マスター、二人三脚で人理修復せざるを得なくなりました   作:4j

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こんにちは!
誤字脱字報告、お気に入り登録、感想をありがとうございます!

前の投稿から時間が経ってしまいすみません……。
仕事が長引くのと、考えが纏まらないのとが重なり暫く止まっていました。
あんまり間開けたくないなとは思うのですが、気長に見て貰えると嬉しいです。


では、続きをどうぞ!



魔女の怒り

 

 ルーラー、ジャンヌ・ダルクとの邂逅を経て、私たちはジャンヌと行動を共にすることとなった。

 あの砦を離れる際、ジャンヌを見た途端怯えた様子で一目散に砦の奥に引っ込んでしまった兵士を、複雑そうに見つめていた彼女の姿が印象に残っている。

 何を想ったのか。想像にかたくないが、今の状況への憂いもあったのだと推察する。

 

 彼女に連れられ森へと退避し、今後の方針を詰める。

 まず前提の情報整理から。この特異点にはジャンヌ・ダルクが二人存在すること。ここにはいないもう一人のジャンヌは、オルレアンで大量殺戮を行いシャルル七世を含む多くの命が奪われオルレアンは陥落した。

 フランスは人間の自由と権利を最初に謳った国。この権利の主張が遅れれば、文明は停滞する。百年戦争は痛ましい歴史であると共にこれを経てフランスは国家としてして確立し、封建社会を崩壊させ主権国家が形成される最大の要因になった。

 つまり中世から近世へのまさに転換期なのだ。以降の文明には非常に影響が及ぶ時期である。

 

 文明的な背景についてはさておき。

 話は特異点の攻略に移ろう。

 

 目的地は「竜の魔女」がいるとされるオルレアン。オルレアンを奪還しもう一人のジャンヌを排除する。

 大量のワイバーンを召喚する技能をジャンヌは持ちあわせておらず、またその召喚は上級と非常に困難なもの。その上ワイバーンは時代背景ともこの時代の魔術師レベルとも不一致。そんな状況を覆せるということは、聖杯が絡んでいる可能性が高い。

 聖杯という魔力リソースが背景にあることを考慮すると、そう簡単に撃破することはできないだろう。ジャンヌ自身にとんでもなくバフが入ってるとか、際限なくワイバーン呼べるとかは十分に考えられる。

 何騎いたかまでは記憶にないが、狂化を付与されたサーヴァントも召喚していたはず。

 よって味方してくれそうな現地サーヴァントと接触し協力体制を取りたい。

 

「本来であれば、ルーラーが持つサーヴァントの探知機能で捜索が可能性なのですが、生憎使えません。通常のサーヴァント都同様、ある程度間の距離にならなければ検知できないでしょう」

「…待った、それ、もう一人のジャンヌは?」

「…! 迂闊でした、その可能性はあります。もう一人の私がサーヴァント化しているならルーラーでしょう、とすると検知が可能な以上単騎の現地サーヴァントは狙われる。慎重にいきたいところですが、悠長にしている時間はありませんね」

 

 さすが戦場を生き軍を指揮した聖女と言うべきか、ジャンヌの判断は早かった。

 情報戦は勝敗の分け目だ。持ちうるか否かでチャンスを棒に振ることもあり情勢を大きく左右することになる。

 サーヴァントを一騎でも多く味方に付けられれば、敵方の戦力分散に繋がり味方側は消耗を抑えられる。その宝具やスキルが状況に合致すれば形勢を覆すことも十分あり得る。

 

 目指すはラ・シャリテ。

 オルレアンにほど近い街で、できる限り多くの情報を仕入れたい。

 こんな時ではあるが、道中の藤丸やマシュはかのジャンヌ・ダルクにお目にかかれてとても心が弾んでいるようだった。世界史に詳しくなくても聞いたことはあるだろう歴史上の人物である。Apocryphaやゲームを通じて知っている私でもやっぱり高揚は隠せない。本物だァの感覚である。

 それを言えば冬木からずっと本物だァしかないのだけど。如何せんずっと気を張ってたものだから。しみじみ思うことなかったって言うか。

 彼らは同年代なこともあってか会話も弾んでいる気がする。緊張していたように見えたジャンヌの表情も、心做しか明るく思う。

 善性の固まりしかない少年少女の前だからか、フォウくんもリラックスしてるように見える。マシュの肩の上でだらーんと脱力中だ。

 もう少しこののほほんとした安寧が続けばよかったのだけど、生憎そうは問屋が卸さないらしい。

 

「…?サーヴァントの反応が急速に離れていく…」

 

 ロマニの検知を皮切りに、ラ・シャリテへの道を全力で向かうことになるとは。

 ロマニが齎した情報は単純な追跡情報ではなかった。直後けたたましい声でフォウくんが鳴き、目的の方向から上がる煙を目撃してしまったのだから。

 

 

 

* * *

 

 

 

 街が燃えている。瓦礫が積み上がっている。

 冬木より赤々と燃え盛ってはいなくとも、ひとつの街の崩壊は「どうしようもなく終わっていた」あの冬木を彷彿とさせて顔が曇る。それほどまでに【あれ】は衝撃的だった。頭を振ってあの時の記憶を吹き飛ばす。今は、そっちに思考を取られるときではない。

 

「ドクター!生体反応を…」

「走査をかけてる!………だめだ、そこ一帯に生存反応はない…」

「そんな…!こんなことって…!」

「……つまりさっき離脱したサーヴァントの仕業、と見るのが濃厚だね」

「ああ、恐らくそうだろう。」

 

 瓦礫が崩れる音がする。

 岩影からむくりと起き上がる影が見えた。ふらつくその姿は遠目から見ても人影だとわかった。

 

「…! あの人、生存者じゃ…!」

「ッま、待ってください先輩!ドクターは先程”生体反応はない”と…!」

「でも、あれは人だよね…?」

「……人、に見える。でも中身は違うってこと…?」

「……ああ、みんな気をつけて欲しい。……あれはリビングデッド。死亡した人間の亡骸が動いているだけ。いわば…ゾンビだよ」

 

 立ち上がったそれを凝視する。

 あらぬ方向に折れ曲がった手足。生気のない顔色。纏う衣服は。ヒトだったもの。

 

「……ッ」

 

 ゾンビを扱うゲームや映画とは違う。リアリティはもちろんコンテンツにもあったけれどそうじゃない。

 映像もアクションも、迫力があって真にせまるものがある。でも違う。

 生きていた人間が違うモノに作り変えられている。その尊厳を破壊されている。その死を、弄ばれている。強烈な忌避感、悍ましさが混在している。

 

「…皆さん、気をつけてください。…どうやら一体だけではありません」

 

 ジャンヌの言葉に周りを見渡す。

 ゆらりと立ち上がる影が、複数。いつの間にかそれらが包囲していた。

 一度変容してしまったものは、もとには戻らない。

 かつて人であった彼らが、ただの人に戻ることはない。

 その残酷さに真正面から向き合うには、まだ心が追いつかなかった。

 

「アレはただの生きる屍。既に理性などありはしない」

「……そうだね、わかってはいる。でも…割り切れないよ」

「フン、くだらん」

 

 感傷を鼻を鳴らして一蹴したオルタに思わず苦笑いを浮かべる。彼は戦士だ。敵と見定めたものは友であっても師であっても肉親であっても容赦しない。オルタであれば殊更だ。冷たい言葉に聞こえるが彼にとっては取るに足らない、ただ敵を斃す、それだけなのだろう。

 すぐさま吶喊しその槍が血飛沫を撒き散らす様を見て、頼もしく思うと同時に()ぎるものがある。

 

 投射された宝具の矢が的確に敵を射抜き、周囲の敵が次々と殲滅されていく。

 二人がかりの掃討はあっという間に完了し、そこには静けさが戻った。

 

「みんなありがとう!」

 

 傍らに戻ったアーチャーと護りを担っていたマシュ、ジャンヌ、そしてクー・フーリンににこにこと笑いかけ労う藤丸。それに呼応するようにマシュとジャンヌの表情が和らいだ。

 

「無事で何よりだ、マスター。しかし、安心するにはまだ早いらしい」

 

 そう告げるアーチャーはいつの間にか黒と白の刃を持つ、雌雄一対の干将・莫耶を手にしていた。クー・フーリンは言葉を発することなく、朱槍を肩に掛けてジロリと彼方を睨みつけている。

 解かれぬ警戒姿勢。どういうことだとアーチャーの一言に一時動きが止まるも、その答えはすぐに明らかになった。

 

「大変だ!さっきのサーヴァントが物凄い速度で引き返して来てる!今すぐそこから離れてくれ!」

 

 急速に接近するサーヴァントの気配にロマニが焦った声でアラートを出す。接近する数は五騎。その情報に息を飲む。

 

「退避間に合う?」

「できないことはないがな、殿はいるだろう」

「…全員離脱は微妙か。今にも名乗り出しそうなとこありがたいけど、今後私が丸腰になる可能性しかないのでなしで。むしろ近くにいる方がパスを繋げやすいでしょ」

「…チッ」

 

 槍を構え直したオルタに尋ねると頼もしい一言を貰うも、その場で一蹴する。

 わかってはいたけどこの人は自分を道具と見倣すが故に自己犠牲に走りがちだ。凶暴性が上がって自分の敵に容赦がないクー・フーリン・オルタが自己犠牲的っていうのは意外なように思えてそうじゃなかったりする。正しく「使い魔という兵器」であろうとするからだ。マスター冥利に尽きるけれどしっかり意志を伝えて制する時は制さないとすぐに自分自身まで燃やしてしまう感じだ。

 

「ああ、もうそこまで来てる!」

 

 悲鳴のようなロマニの超えとほぼ同時に彼らは現着した。

 総勢、五騎。それぞれの顔を確かめる。

 ワラキアの領主、串刺し公と称されるヴラド三世。

 血の伯爵夫人カーミラ、真名をエリザベート・バートリー。

 フランス白薔薇の騎士、シュヴァリエ・デオン。

 人々を害し乱暴ものの竜種タラスクを御した、聖女マルタ。

 

 そして、黒き甲冑に身を包んだ既視感のある銀髪の少女。

 傍らから息を飲む音がした。

 

「──なんてこと。誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの、本気でおかしくなりそうなの!だってそれぐらいしないと、あまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!」

 

 言葉通り嘲笑を含んで上擦った声が、聞き覚えのある声が、その静寂を切り裂いた。

 傍に居ない自らの騎士に向けて、少女は侮蔑を吐き続ける。見るに堪えない、悍ましいものを見るように。

 

「貴女は…貴女は、誰ですか!?」

「それらこちらの質問ですが…そうですね、上に立つものとして答えてあげましょう。私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の"私"」

 

 鬱蒼と笑う黒いジャンヌに、白いジャンヌは歯噛みしたように厳しい目を向ける。何故街を襲ったのか、その理由を問いただされた時すらも、その表情から侮蔑が消えることはない。

 その目的は、フランスを滅ぼすため。

 

「何故、こんな国を救おうと思ったのです?何故、こんな愚者たちを救おうと思ったのです?──裏切り、唾を吐いた人間たちだと知りながら!」

 

 眦を決し、彼女は声を荒らげた。

 かつて救国の聖女と呼ばれた彼女は、同胞たちを守り、導くために旗を振り、戦場を駆けた。兵を導き、土地を取り戻し、英雄として神拝されたにも関わらず最期は魔女として火炎の中に消えた少女。

 暗い瞳はギラギラと輝いている。その美しい(かんばせ)が激昂に歪んだ。

 ジャンヌは二の句を継げなかった。

 

「私はもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、主の声も聞こえない。主の声が聞こえないということは、主はこの国に愛想を尽かしたということ。だから滅ぼします。主の嘆きを私が代行します。全ての悪しき種を根元から刈り取ります」

 

 それは宣言だった。

 愛した民に裏切られ、反転した彼女なりの、歪んだ救国。 それに思わないことはない。

 誰しも人間には、善良な心と相反して後ろ暗い思いを抱く時があると私は思っている。"悪"と言うには甘い、小さな"ズル"や"嫉み"。それらは甘い誘惑として心の隙間に忍び込み、時折他者を害する形で顔を出す。人間の愚かな部分でもあり人間らしいとも言える部分とも言えるが。それの性質、タイミングによって最悪を呼び寄せることだって有りうる。小さな悪意でもふとしたきっかけで大きく膨れ上がるし、理性と善性を失い愛憎が逆転することだってある。

 彼女の結論は極論と言って差し支えない。だが、そう切って捨てるには、彼女の身に降り掛かった"悪意の積み重ね"は、彼女を失望させるには十分過ぎるほどだったと言うことなんだろう。

 

「バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘を始末なさい。雑魚ばかりでそろそろ飽きたでしょう?喜びなさい、彼らは強者です。勇者を平らげることこそが貴方たちの存在意義。存分に貪りなさい」

「──よろしい。では私は血を戴こう」

「いけませんわ王様。私は彼女の肉と血、そして(はらわた)を戴きたいのだもの」

 

 その一言に空気が変わる。

 オルタの殺意が刺すように放出され、思わず圧倒されて生唾を呑んだ。それぞれが獲物を構え一触即発な状態へ変貌した。

 

「オルタ」

「なんだ」

「………勝って」

「──フン、他愛もねえ。俺ができねえとでも?」

 

 皮肉そうに鼻を鳴らし不快げに吐き捨てるサーヴァントに否を唱え首を振った。違う。これは祈りであり命令だ。

 人理を護る戦いにおいて初めてのサーヴァント戦。このサーヴァントにおいて油断なんてものは存在しない。わかってる。

 

「殺戮だ、残さずな」

 

 だから気を引き締めろ。

 まだ始まったばかりなのだから。 

 

 

 

 

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