TS王女は勇者と結婚したくない!   作:日ノ 九鳥

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TS王女はシーフを説得したい

 翌朝、俺たちは街を出発した。日記は上手くリオンの荷物に忍び込ませた。

 

 王都まではあと六日もあれば到着するだろう。それが俺に残されたタイムリミット。大きな街からの王都への道なのである程度は整備されていて歩きやすい。しかし大きな問題を抱えた今の俺には歩くほど自らの破滅に近づく処刑台への階段にも思えていた。……言い過ぎか。

 

 ……俺は前を歩くニーナの背中を見つめる。ショートボブの茶髪が朝日に照らされて揺れている。身長も俺より小さく、ほんわかとした雰囲気もあって可愛らしいという印象を与える娘だ。

 

 

 彼女がリオンの幼馴染にして我らがパーティの索敵や探索を担うシーフだ。

 

 魔王を討伐するという過酷な旅に付いてきたのだ。彼女のリオンへの想いは一度振られたくらいで消えてはいないはず。彼女を説得し、再度リオンにアプローチしてもらう。リオンには俺との脈はないとそれとなく伝える。

 

 そして魔王を倒した勇者とその幼馴染はめでたく想いが通じ合い、一緒になるのだ。……うむ、素晴らしい。

 

「イゾルデさん?」

 

 考えながら視線を送りすぎたのだろうか。ニーナが振り返って、首を傾げた。

 

「どうかしました?さっきから私のこと見てるような……?」

 

「……あぁ、ちょっと話があるんだ。二人きりで。」

 

「二人きりで?」

 

 ニーナは不思議そうな顔をしたが「わかりました。」と頷いた。

 

 昼食をとって休憩の時間になったので俺はニーナを少し離れた場所に呼んだ。リオンとクラリッサは道の脇で休んでいる。話が聞かれることはないだろう。

 

「それで、お話って?」

 

 ニーナが無邪気に訪ねてくる。

 

 さて、どう切り出したものか。

 

「ニーナとリオンって幼馴染なんだよな。」

 

「はいっ!小さなころから一緒でした。」

 

「いい関係だとおもうんだよな。二人とも。」

 

「……え?」

 

 ニーナの顔が少し赤くなる。

 

「い、いきなりなんですがイゾルデさん。」

 

「いや、だって幼馴染って特別だろ?長い時間を過ごしてお互いのこともよく知っててさ。」

 

「……それは……まぁ。えへへ。」

 

 ニーナは口の端を少し緩めつつ、目線を少し逸らす。

 

「……好きなんだろ?リオンの事。見ればわかるさ。」

 

「!」

 

 本当は日記見るまで知らなかったけど。……ニーナは顔を真っ赤にして口をモゴモゴさせ、小さく頷いた。

 

「……はい。でも、諦めました。」

 

「諦める……なんで?」

 

 知ってて聞くのは残酷だが……すまない。君と俺の将来の為なんだ。

 

「だってリオンは……」

 

 そう言葉を区切ると俺の顔を見上げるニーナ。

 

「リオンは幼馴染としか見ていないって?」

 

「え?……まぁそれもあるかも。」

 

「諦めないでもっと想いを伝えるべきだよ。リオンはきっと向き合ってくれるはずだ。」

 

「でも……」

 

 ニーナはじっと俺を見つめる。

 

「イゾルデさんはどうなんですか?」

 

「私?」

 

 予想外の質問に言葉がつまる。

 

「……アイツは私にとって友人かな。」

 

「本当に……?」

 

「本当だって。」

 

 話が逸れそうなので冷静に否定する。ニーナの視線は少し疑わしげだ。

 

「イゾルデさん、……もしかして」

 

「だからお前が相応しいと思うんだよ。幼馴染でずっと一緒にしてさ……お互いのことを知ってて_」

 

「イゾルデさん」

 

 ニーナが俺の言葉を遮った。

 

「私の為にそんなこと言ってくれてるんですよね。」

 

「え?」

 

 まぁ君の為でもあるけども。

 

「イゾルデさんもリオンが好きなんですよね……。」

 

 は?

 

「いや、ちが_」

 

「同じ人を好きになって……、私の為に身を引こうとして……。」

 

「いや、まって_」 

 

「私なんかに、そんな優しくしてくれて……でもいいんです。」

 

 ニーナは微笑みつつ涙を浮かべる。

 

「相思相愛の二人が一緒になるべきなんです!リオンはイゾルデさんが好きなんですから!」

 

「いや、そうじゃなくてね。」

 

「驚かないんですね。やっぱりイゾルデさんもリオンの気持ちはわかってて……なのに私に譲ろうと……。」

 

「ニーナ!……聞いてくれ。私は本当にリオンに恋情を抱いてなどいないんだ。だからお前はリオンと一緒になることに躊躇なんかしなくていいんだ。」

 

「そこまで私に……。わかりました……!」

 

 ニーナは感激した様子で、涙を拭う。……やっと誤解が解けたか。

 

「では……リオンの側室になりたいです!」

 

「側室!?」

 

 なんで!?

 

「イゾルデさん言ってましたよね。魔王を討伐した功績でリオンはきっと貴族になるだろうって。つまり側室を持っても問題ないですよね?」

 

「うん……まぁ。」

 

「でしたらお願いします。正室は勿論イゾルデさんです!……だから私もリオンのそばにいることを許してほしいなぁって。」

 

「ねぇ!聞いてニーナ私は本当に_」

 

 全力で誤解を解きたいところだったがタイムアップだ。二人で話している俺達をリオンが呼びに来た。それを見たニーナは話は纏まったとばかりに彼の元に向かう。

 

「じゃあイゾルデさん!約束ですね!」

 

 

 二人のところに向かうニーナの背をみて俺は頭を抱える。……なんでこうなる。

 

 作戦失敗だ。ニーナは完全に勘違いしている。俺が健気にも身を引こうとしていると思っているのだ。

 

 

 休憩は終わって再び王都へ四人で歩く。ニーナはリオンと楽しそうに談笑している。……いい雰囲気じゃないか。なんで上手くいかないんだ。

 

 ……仕方がない。次はクラリッサだ。なぜか側室云々という話になってしまったのにクラリッサとリオンをくっつけるのは不誠実かもしれないが、もとより側室でいいと言っているのだ。

 クラリッサの説得に成功した暁には二人でどちらが正室か決めてくれ。

 

 聖女であるクラリッサは聡明な女性だ。彼女なら論理的に話せば勘違いされることもないだろう。

 

 俺は横を歩く次のターゲットをどう説得するか考えながら歩き続けた。

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