TS王女は勇者と結婚したくない!   作:日ノ 九鳥

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TS王女は追い詰められる

 村を出発した俺達。昨日も今後について考えてたらほとんど眠れずに過ごしてしまった。

 

 ……いかん、こんな状態ではまともに思考もできない。

 

「イゾルデさん。顔色悪いですよ。……大丈夫ですか?」

 

 心配そうな様子でニーナがこちらを見つめてくる。

 

「……大丈夫。もう帰るだけだし平気。」

 

 そう答えたら余計心配そうにさせてしまった。申し訳ない。

 

 

 街道を歩きながら改めて状況を整理する。

 

 ニーナ:勘違いして側室宣言。

 クラリッサ:俺をリオンと積極的にくっつけようとしてくる。

 リオン:王への謁見の際に俺との婚姻を願い出る予定。

 

 ……どうしたものか。

 特にクラリッサがわからん。彼女の様子からはリオンへの想いを感じないのだ。故に意図が分からず対応を図りかねる。行動が俺にとって最も都合が悪いという点もやっかいだ。

 

 ……リオンとニーナは前側で二人並んで楽しそうに話している。クラリッサは俺の横で何が楽しいのか聖女のような顔で微笑んでいる。……それはいつもか。

 

 「平和だ……俺以外。」

 

 小声で呟く。誰も聞いていないだろう。

 

 

 五日目、これまでのように中継する村や街はないので四人で野営する。宿に比べると環境は大きく劣るが、どうせ宿でもまともに寝られていない俺には関係ないかもしれない。

 

「イゾルデ……ここ数日大丈夫?寝られてないでしょ。」

 

 食事終わりにリオンがこちらに話しかけてきた。……お前のせいだよなんて言ったら優しいコイツはどんな顔するかな、なんて一瞬考えてしまう。

 

「あぁ、大丈夫。……気づかなかったけど旅の疲れが出たのかもな。」

 

「……そう。もうすぐ王都だからゆっくり休んでね。」

 

 残念ながらそこが俺の修羅場なんだ。

 

 

 六日目、王都の城壁がどんどん大きく見えてきた。二日後には俺達はあそこに到着している見込みだ。

 

「わぁ、王都が見えてきましたね!もうすぐ……もうすぐです!」

 

 ようやく旅が終わる……というだけじゃないであろう喜びを無邪気に示すニーナ。

 

「そうだね。もう四人での旅も終わりか……。」

 

 リオンも感慨深げに呟く。

 

「えぇ……。楽しみですわね。」

 

 クラリッサも笑みを浮かべる。……疑心暗鬼に陥った俺はクラリッサが話すたびに何か企んでいるのでは?と浮かんでしまっていけない。

 

「……そうだな。」

 

 事態は好転しないまま、残された時間が減っていく。

 

 

 七日目、最後の野営だ。明日になれば王都に到着し、このままでは俺の自由は無くなる。

 

「……なんでこんなことに。」

 

 俺に残された最後の時間だ。明朝、王都に出発する。そしたら謁見までに腰を据えて話す機会はもう無いだろう。

 

「仕方ないか……。」

 

 俺は翌朝に行動することを決意して、その際の段取りを整理をすることにした。

 

 

 ――――――――――

 

 

 目を覚ました俺は昨日寝る前に決めたことを思い返す。

 

 今日全てを話して理解してもらう。もはやそれしか方法はない。王都に戻れば四人だけで話す時間などとれまい。

 

 朝食を済ませて皆で片づけをし、手が止まったあたりを見据えて声をかける。

 

「みんな、……出発する前に少しだけ時間をくれないか。」

 

 三人が俺を見つめる。

 

「大事な話があるんだ。」

 

 野営に使った近辺の落ち着ける場所で四人腰を据える。

 

「どうしたの、イゾルデ。」

 

 リオンが心配そうな表情で俺を見る。

 

「イゾルデさん、また顔色が……やはり何か……。」

 

 ここ数日ニーナには心配させっぱなしだ。申し訳ない。

 

「……」

 

 クラリッサは言葉こそ発しないがこちらを興味深げに眺めている。

 

 ……声を出す前に深呼吸し、緊張を落ち着かせる。

 

「まず……リオン。謝らなければならないことがある。」

 

 リオンだけでなく三人が真剣な表情になる。俺はリオンを見つけて口を開く。

 

「お前の日記……勝手に読んだ。ごめん。」

 

「え……?」

 

 リオンが驚きの表情を浮かべると共に顔を赤くする。……最近自分が書いたことを思い出したのだろう。

 

「街の宿屋で荷物を整理していたら、お前の日記が紛れ込んでいたんだ。……普通に返せばよかったんだが、つい読んでしまった。本当にごめん。」

 

「えっと……全部、読んだの?」

 

「あぁ。だからもうお前の気持ちも……帰って何をしようとしているかも知ってる。」

 

 リオンの顔が真っ赤になる。ニーナも驚愕の表情を浮かべている。

 

「ニーナとクラリッサの件も全部読んで知った。」

 

「え……。」

 

 ニーナが小さく声を漏らす。一方のクラリッサは静かに聞いていた。

 

「それを知った私はここ数日、二人とリオンをくっつけようとしていた。」

 

「それであんなことを……。」

 

 ニーナが理解したような表情を浮かべる。

 

「そうした理由は1つ。……リオンとの結婚を避けるためだ。」

 

「避ける……ため。」

 

 リオンがショックを受けた表情で俺を見る。

 

「イゾルデ。なんで……。」

 

「……全部話すよ。」

 

 

「信じられないかもしれないが……私には前世の記憶がある。」

 

 三人は静かに聞いている。

 

「こことは別の世界で生きてたんだ。……で、気づいたら赤ん坊になってた。」

 

 そこで一呼吸置く。

 

「そして、前世の私は男だった。」

 

 重い沈黙が場を支配する。しかしニーナが震える声で呟く。

 

 「え……男の人だったんですか?」

 

 「あぁ……私は王女として19年生きている。けどいまだに男として生きた時間のが長いし、意識だって変わってない。」

 

「そういう、ことでしたか……。」

 

 クラリッサは納得したかのように呟く。

 

「だからリオン。私は男と結婚することを考えたこともない。お前のことは好きだよ。でもそれは友情や仲間としての信頼なんだ。……ごめん。」

 

 リオンは黙って俺の話を聞いている。

 

「前の世界とここの世界は文化が全然違ってさ……、私が楽しめるものはほとんどなかった。けど前世にはなかった魔法があった。のめり込んだよ。すぐに生きがいになった。」

 

「それで自分より強い人としか結婚しない……なんて言って自由気ままに研究生活を送ってたんだ。結婚は嫌だけど王女の立場は研究に役立つから。」

 

「けどリオン。お前はたぶん俺より強い。それにお前が私を求めたら間違いなく王は婚約を推し進めるだろ。父親としての立場でも私の事を心配しているようだしな。」

 

「だからお前の気持ちを知って……こんな回りくどいマネをしてた。……改めて、申し訳ない。」

 

 しばらく誰も言葉を発さない。俺も俯く。

 

「イゾルデ……」

 

 沈黙の中、口火を切ったのはリオンだった。彼は俺に近づいて抱きしめる。

 

「それは……辛かっただろう。……ずっと一人で抱えてたんだね。」

 

 リオンは優しい表情で俺を見つめる。予想外の反応に俺は目を見開く。

 

 ニーナとクラリッサも俺の肩に手を置いて慰めてくる。

 

「いや……、そんな。さっきも言ったけど結構好き放題やってたよ?」

 

 想定以上に同情されて気まずい。たしかに重苦しく語っちゃったかもしれないが、それはリオンへの罪悪感であって自分の性別の不一致は結婚さえなければ別になんだが。

 

 「だからホント、辛いのは女性と結婚できないくらいで、……前世だったらクラリッサがタイプだったからアタックしてたのになぁってくらいで……はは。」

 

 空気が辛いので冗談で紛らわせようとしたら、当のクラリッサはそれを聞いてピクリとも表情を動かさず何かを考えこんでいる。

 

「……冗談だよ?勿論ホントに狙ってるわけじゃ」

 

「……面白い提案かもしれませんね。貴女と私が家族に……」

 

「え?」

 

 クラリッサは真面目な顔で提案に興味を示す。同性愛に特に不寛容である教会に所属する彼女が怒ったのかと思ったが違うらしい。

 

「やはりイゾルデ様はリオン様と結婚しましょう。ただし形だけの正室としてです。……ニーナさんと私が側室として加わる。形だけですのでイゾルデ様は自由に魔法の研究を続けられます。」

 

「リオン様の願いも叶う。イゾルデ様ももう婚約の話を持ってこられることもない。ニーナ様もリオンのそばにいられる。私は教会の干渉から抜け出せます。」

 

「それなら……けど。」

 

 俺はリオンの方を見る。

 

「僕なら大丈夫だよ。……一応言っておくと僕の気持ちはさっきの聞いても変わってないからね。まぁ存分に隠れ蓑にしてくれ。」

 

「いいと思います!」

 

 話をようやく理解したニーナが大きな声で賛成する。

 

「四人で家族になりましょう!……私寂しかったんです。旅が終わったら立場も違うし……バラバラになっちゃうのかなって。でもクラリッサさんの言うとおりにすれば一緒にいられますよね!」

 

 「では、みなさん同意で?」

 

 話の主導権を握ったクラリッサがまとめに入る。

 

 三人が頷く。

 

 「……ありがとう、みんな。」

 

 「じゃあ王都に向かおうか。」

 

 リオンがそう言ったのを皮切りに話し合いを終えて俺達は王都へと向かう。

 

 

 この時にクラリッサが浮かべた聖女らしからぬ笑みに気づければ俺の未来は変わっていたのかもしれない。 

 しかしそれに気づけなかった俺は安堵を抱え、久しぶりに軽やかな気持ちで王都へ歩くのだった。

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