受肉転生 ~宿儺と一緒に本気出す~   作:てとらとりす

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十話

 

俺は今机の前で腕を組んで唸っていた。

 

 

(……何を贈るべきか)

 

 

そう、あと数週間後にはルーデウスの誕生日が来る。

この世界で初めてできた友達に、俺は何かを贈りたかった。けれど、正直なところ悩んでいる。

 

 

(剣……は師匠が渡す予定らしいし、杖なんかもロキシーさんとかぶりそうだな、ルーデウスからは人形をもらったからな、俺だけが渡せるものを渡したい……)

 

 

考えが空回りしはじめた俺は、心の奥に呼びかけた。

 

 

(なあ宿儺、何を贈ったら喜ばれると思う?)

 

 

『知らんな。俺は与えたことなどない。貢ぎ物を受けたことなら数えきれぬほどあるがな』

 

 

(……まあ、想像はしてたけど。じゃあ宿儺はもらって嬉しいものとかないのか?)

 

 

しばしの沈黙の後、宿儺の声が低く、楽しげに響いた。

 

 

『人肉だな』

 

 

(いやいや、確かに宿儺の欲しいものとは聞いたけどそれは絶対ない! どんな誕生日プレゼントだよ)

 

 

『フン…冗談に決まっているだろう?』

 

 

(冗談にしても限度ってものが……いや案外ありか?)

 

 

『どうした? 気でも触れたか、小僧』

 

 

(俺はいたって正気だ、人肉をプレゼントするのは論外だが「食べ物を贈る」という発想そのものは、案外いいんじゃないかって思ってさ、ほら、この世界って地球よりは食文化が発達してはなさそうだし)

 

 

『確かに、この世界の食文化は小僧のいた時代よりも大きく遅れているな。味付けも調理法も、すべてが稚拙だ。せっかく豊富な食材があるというのに、塩で焼くだけ、煮るだけでなんとも面白みのない料理法しかない』

 

 

(そうなんだよ、この世界の飯って素材そのものは悪くないのに、バリエーションが乏しいんだよな。)

 

 

『では、ただの肉や果物ではなく、この世界の人間がまだ知らん「料理」を与えればよい。それこそが、小僧だけが渡せる物になるのではないか?』

 

 

(……なるほど、人肉から出た案にしてはまともな案になったな。つまり俺が知ってる地球の料理を再現して、それをルーデウスにプレゼントするってことか)

 

 

『そうだ、もっとも俺としては人の肉塊のほうが面白いと思うがな』

 

 

(料理に面白さは求めてません)

 

 

人肉は論外だが宿儺の言うとおり、前世で当たり前に食べていたものが、ここでは未知のご馳走になる。

そう考えると、確かに「食べ物のプレゼント」ってのはいいと思った。

 

 

(よし、決まりだな。ルーデウスの誕生日には、この世界じゃまだ見ぬ料理をプレゼントしよう)

 

 

『それはいいが小僧、お前に料理ができるのか?』

 

 

(そこは心配しなくていい。前世じゃ自炊ばっかしてたからな。コンビニ飯より、自分で作るほうが安上がりだったし……気づいたら趣味になってるぐらいには作ってきたからな)

 

 

『……趣味? 喰らうことではなく作ることが趣味だと?』

 

 

(そうだよ。まあ、ひとり暮らしが長かったからってのもあるけどな。外食ばっかは金もかかるし、何より自分で作った方が旨いんだ)

 

 

『ほう……ならばこの村で手に入る食材で、小僧がどれほどのものを作れるか、見ものだな』

 

 

(任せろ……って言いたいところだけどこの世界醤油も味噌もない。ケチャップもマヨネーズも、胡椒とかはありそうだけど高いだろうな……)

 

 

世界のどこかにはあるかもしれないが、少なくともこの村にも、たまに行く町にも、醤油なんかが売っているところは見たことがない。

 

頭の中で冷蔵庫を開けるように、村で手に入る食材を一つずつ並べていく。

 

 

(使えそうな材料でおいしく作れそうなものと言えば、コロッケとかかなぁ……)

 

 

コロッケ。庶民的だけど、手をかけた分だけ旨くなる料理だ。

じゃがいもを潰して、挽いた肉を混ぜ込む。

塩と胡椒で味を整えて、衣をつけてカラッと揚げる。

 

 

『コロッケ? たしか小僧の記憶では……油で揚げた芋の塊だったか?』

 

 

(そう!でもただの塊じゃないぞ。外はカリッと、中はほくほく……ん?「小僧の記憶」ってもしかして俺の記憶を勝手に見れるのか?)

 

 

『いや、別の小僧だ、気にするな、お前の記憶を勝手に読むなど無粋な真似などしておらん』

 

 

(そうか、ならまぁいいや、とりあえずは決まったな。ルーデウスへの誕生日プレゼントは――コロッケだ!)

 

 

 

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

 

決めたのはコロッケ――手間をかければかけただけ味わいが増す料理。

問題は材料だと思っていたが。

じゃがいも、肉、小麦粉、卵、パン粉。

と揃えなければならないものは意外と少なく、

どれも町で買えるようなものばかりだ。

 

幸いにも町へ行く予定だ。

父が森で切った木をまとめ、売りに出すのを手伝うことになっている。

そのついでで材料をそろえることにした。

 

取引は町の材木屋で行われ、父が交渉している間、

俺は手伝いをした分のお金が入った財布を持って材料を探しに向かった。

 

町の市場は活気に溢れている。

露店には色鮮やかな野菜が並び、香辛料の匂いが風に混じる。

 

まずはじゃがいも。日本のスーパーにあるものと比べると少し細長い形をしていたが、味は問題ないことは、食べたことがあるので知っている。

 

次は肉だ。少し奮発して牛……っぽい肉を買った。

卵も農家の露店で買い、残りは家にある材料で何とかなりそうだ。

 

 

(よし、材料は十分揃ったな)

 

 

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

 

 

ルーデウスの誕生日当日、

師匠の稽古も終わりグレイラット家の台所を借りていた。

借り物のエプロンを締め、じゃがいもを潰し、刻んだ肉を混ぜ合わせる。

その時、背後からゼニスさんの声がした。

 

 

「カインくん包丁の扱い、上手ねぇ。料理もできるなんて驚いたわ」

 

 

台所を覗いていたゼニスさんが目を丸くした。

 

 

「はい、家でもよく手伝っているので!」

 

 

そう答えると、ゼニスさんは感心したように頷き、ふと何かを思いついたように表情を緩めた。

 

 

「ねぇカインくん。せっかくだから今日の誕生日の席にも一緒に祝ってくれないかしら。ルディもきっと喜ぶわ」

 

 

「家族じゃないのに、いいんですか?」

 

 

「いいのよ、カインくん。確かに家族じゃないかもしれないけど……ルディにとっては、とても大切なお友達でしょう? それに今日はお祝いなんだから、みんなで楽しく過ごす方がきっといい思い出になるわ」

 

 

「……わかりました。じゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらいます」

 

 

頭を下げると、ゼニスさんは嬉しそうに微笑んだ。

夕方、リーリャさんがテーブルの上に料理を並べ、ゼニスさんが皆を席に呼んだ。

俺は、その中に自分で作ったコロッケを並べる。

丸い衣がこんがりと色づき、揚げたての匂いが部屋に広がる。

 

 

「これは、どうしたんですか……?」

 

 

ルーデウスが目を丸くして尋ねる。

 

 

「これは俺からルーデウスに贈る料理だ。芋を潰して肉と混ぜて、衣をつけて油で揚げた料理だ」

 

 

ルーデウスは小さな手でフォークを取り、

じっとコロッケを見つめた。その表情には一瞬、戸惑いの色が浮かんでいた。

だが、すぐにいつもの調子に戻り、静かに口へと運んだ。

サクッとした衣の音が響き、次の瞬間、彼の表情が驚きに変わる。

 

 

「……ッ! すごく美味しいです!」

 

 

ゼニスさんは熱々のコロッケを頬張り満足そうに小さく頷く。

 

師匠は、コロッケを食べると「うまいなぁ、これ!」と声を上げた。

 

ロキシーさんは、小さく一口かじり「……なるほど、食べたことのない味ですね」と静かに感想を漏らした。

 

リーリャさんは、音も立てずに一口運び、驚いたように瞳をわずかに見開いたあと、

「……とても美味しいです」

 

とだけ言い無言のまま静かに食べ進めた。

 

皆がコロッケへ手を伸ばし、皿が少しずつ空になっていく。

 

 

(……作ってよかったな)

 

 

その後、食事を終えると、師匠が手を打ち鳴らして声を上げた。

 

 

「ルディ、俺がお前に贈るものはこれだ」

 

 

師匠が差し出したのは二本の剣。五歳には不釣り合いなほど立派な実剣と、ルーデウスでも扱いやすそうな木剣だった。

 

 

「男は心に一本の剣を持たなくてはいけない――――」

 

 

と俺の誕生日の時と同じことを語り出したが、

長くなりすぎてゼニスさんに「長い」と止められ、苦笑いで締めくくった。

ルーデウスは、ニコニコしていたがあまり何の事かわかっていなさそうだった。

まあ五歳だしな。

 

続いてゼニスさんが抱えるように取り出したのは、一冊の分厚い本。

 

 

「ルディは本が好きだから」

 

 

と言い渡されたそれは、丁寧な挿絵入りの植物辞典。

ルーデウスは目を輝かせ、

感謝をするとゼニスさんがルーデウスを嬉しそうに抱きしめていた。

やはり子供には、分かりやすく実物のほうが嬉しいのだろう。

師匠が少し恨めしそうに、ゼニスさんを見ていた。

 

最後にロキシーさんが差し出したのは、小さな杖。

先端には赤い石が埋め込まれている。

 

 

「先日作成したものです。ルディは最初から魔術を使っていたため失念していましたが、師匠は初級魔術が使える弟子に杖を作るものでした。申し訳ありません」

 

 

と説明し、ルーデウスは真剣な表情で杖を受け取り「大切にします」と答えていた。

 

 

 

 

 

 

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

 

 

 

 

誕生日会も終わり、夜も遅くなったため、師匠に送ってもらい、

家に戻ると、聞き慣れた声が響いた。

 

 

『ずいぶんと浮かれていたな、小僧』

 

 

(まあな。初めて俺の手で誰かを喜ばせられた気がしたからさ)

 

 

『たかが芋の塊で随分と大袈裟だな……だが、まあ、小僧の料理を食った時のあの顔は確かに愉快であったな』

 

 

(だろ? 自分のしたことで誰かに喜んでもらえるのは、うれしいもんだ)

 

 

俺は小さく笑い、布団の中で目を閉じた。

 

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