受肉転生 ~宿儺と一緒に本気出す~   作:てとらとりす

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二話

 

宿儺の声が響き、光の渦が激しく揺れ動く。

 

吸い込まれる意識の中で、俺は自分の心臓が高鳴るのを感じていた。

恐怖ではない、むしろ期待に似た何かだった。

やがて、暗闇の中に淡い温もりを感じる。

 

 

「おぎゃああああ……!」

 

 

小さな産声が部屋に響き渡る。

 

粘つく水に濡れた体が、優しく包まれた布にくるまれ、柔らかな手が俺の身体を抱き上げる。

その瞬間、言いようのない安心感と、何故か懐かしい匂いに包まれた。

 

 

(……ここは)

 

 

目はまだはっきりと開かない。だが、柔らかな肌の感触と、温かい腕の中にいることはわかった。

 

 

「―――――――――」

 

 

優しい声が耳に届く。だが何を言っているのか聞き取れない、どうやら言語が地球とは違うらしい

泣き疲れた俺の顔に、そっと手が触れた。それが母親の手だと分かった。

 

 

(俺は……生まれ変わったのか?)

 

 

頭の中がまだふわふわしている。だが、かすかな意識の底から、現実感がゆっくりと戻ってくる。

 

 

(ていうか俺、男だよな?女の子だったらどうしよう……)

 

 

そんな不安が浮かびかけたその瞬間、脳内に聞き覚えのある声が響いた。

 

 

『生まれたばかりで、真っ先に考えるのがそれか?小僧』

 

 

宿儺だ。

その声は明らかに嘲笑混じりで、だけどどこか楽しげでもあった。

 

 

(本当に、俺の中にいるんだな)

 

 

あの虚無の空間で交わした会話は、夢でも幻でもなかったと、今になってようやく実感が湧いてきた。

 

 

『俺は、このまま記憶も自我も洗い流されて消えると思っていたがな……まさか魂の器としてここまで馴染むとは』

 

 

(馴染んだ?俺が?)

 

 

『ああ。お前の“空席”は俺の居場所にちょうどいい。まるで最初から俺のために用意されていたようにな』

 

 

(そんなもん用意した覚えはないんだけど……)

 

 

俺がそう内心で返すと、宿儺は「フッ」と鼻で笑う。

 

 

『だが、悪くない感覚だ。小僧、お前は以前の世界では何もなしえなかったようだがこの世界では――違うのだろう?』

 

 

(……ああ)

 

 

確かに、前の世界では俺は凡庸だった。だけど、今の俺なら――いや、俺たちなら。

 

その時、腕の中の温もりが、再び俺の頬に触れた。

 

母の声が遠くで聞こえる。笑っているようだった。

初めて聞く声なのに、なぜか安心できる。たぶん、これが「愛されている」という感覚なんだろう。

 

 

(前の世界では、碌に愛されてなかったからな...)

 

 

ただ漠然と生きているだけの日々。必要とされることも、真っ直ぐに愛されることもなかった。

誰かの顔色を伺い、空気を読んで、言いたいことを飲み込む。

そんなふうに生きて、気づけば何も残っていなかった。

 

だけど、今この温もりは確かに俺を包んでいる。

無条件の愛情。存在そのものを喜んでくれる気配。

 

 

『フン……くだらんな』

 

 

宿儺の声が俺の中で響く。だが、その口調に刺々しさはなかった。

 

 

(宿儺も、そういうのに飢えてたのか?)

 

 

不意に、宿儺の気配がほんのわずか揺れた。

 

 

『否定はせん』

 

 

(……本当に呪いの王なのかよ。意外と人間臭いよな宿儺って)

 

 

心の中で軽口を叩いても、返ってくるはずの毒舌はなかった。

 

 

『……』

 

 

代わりに伝わってくるのは、ほんのわずかな、哀しみにも似た沈黙。

おそらく、宿儺は、誰も愛そうとしなかった。だから「呪い」になったのだ。

けれど今、この身体の中で、母親に抱かれた俺を通して、宿儺は“愛される感覚”に触れている。

 

 

『小僧は、勝手に人の心を代弁することが好きなようだな』

 

 

(あ、すまん、もしかして不快だったか? 人の顔色を窺ってきた俺の悪い癖なんだ)

 

 

『ああ、不愉快だ』

 

 

そんなやり取りをしていると、何かが身体を包んだ。温かな布。母の腕で、やさしく包まれていく。

 

 

「―――――――」

 

 

「―――――――――――――」

 

 

母親と父親らしき人が俺を見て笑いかける、この顔は俺に期待している顔だおそらく

自分たちの子供がどんな子になるかという期待だろう

 

 

(期待か)

 

 

前世では、だれかの期待に応えれたことなんてない。何かをなしたわけでも、誇れる力があったわけでもなかった。

ただ普通に、流されるように生きて、終わった。でも今は――

 

 

(やってやる。前世では、散々な結果だったけど、俺はこの人生無駄にしない)

 

 

『フン……口だけでなければ、悪くない。その言葉、忘れるなよ、小僧』

 

 

(おう、言っとくけど宿儺もちゃんと俺を巻き込んだ責任持てよ。)

 

 

宿儺はそれに何も言わなかった。

けれど、再び沈黙の中に宿る気配は、達観でも傲慢でもない――どこか、信頼にも似た静けさだった。

 

母の腕の中で、俺は目を閉じる。

微かに聞こえる心音、遠くで誰かの笑い声。

この世界の始まりが、確かにここにあると感じながら。

 

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