情報元は「無職転生 ロキシーだって本気出す」というスピンオフです。
ピッコマとかで見れます。
フィットア領捜索隊を結成して、もう一年が経った。
俺たちの活動方針は明確だ。
魔大陸の主要な町で信用を得る。
依頼をこなし、人を助け、転移者の情報を集めながら、
「名の知れた誠実な冒険者団」として評判を築く。
ある程度の知名度が広まったら、次の大きな町へ移動する。
最初の数か月は、まさに土台作りだった。
金も人脈も足りず、右も左もわからない状態で、
俺たちは手探りのまま動き続けた。
そんな中で、最も頼りになったのがノコパラだった。
ノコパラが選ぶ依頼はどれも、
地味なようで後に繋がるものばかりだった。
例えば、ある町での行商人護衛。
ただの護衛任務かと思いきや、
その商人は実はギルドと深い繋がりを持っていて、
無事に護送を終えた後、
俺たちの名前はギルド支部長の耳にまで届いた。
あのおかげで、俺たちの情報がだいぶ円滑に回るようになった。
ほかにも、村の井戸の水質を調べるという一見地味な依頼。
けれど、その裏には毒を仕込んでいた密売人の組織が絡んでいて、
結果的に、時間はかかったが、
その組織を壊滅させ、村全体の信頼を勝ち取った。
ノコパラがどんな意図で受ける依頼を決めているのかは、いまだによく分からない。
ただ、確かなのは、あいつが選んだ依頼は、
結果として俺たちの信用と地盤を固めてくれたということだ。
昔ノコパラとパーティーを組んでいたことがあるというブレイズですら、
「こいつ、こんなに勘がいいやつだったか?」と本気で首を傾げていた。
「ハッ、俺は昔から有能だ。お前が鈍かっただけだろ」
軽口を叩き合いながらも、どこか楽しそうにしている。
過去に何があったにせよ、根っこの部分では互いを認め合っているのだろう。
言葉に出さずとも、二人の間には確かな信頼のようなものが見え隠れしていた。
ブレイズの存在も、俺たちにとって欠かせないものになっていた。
戦闘になれば、誰よりも状況判断が早い。敵の動き、地形、味方の位置。
そのすべてを一瞬で見極め、最適解を叩き出す。
その判断と俺の術式が噛み合えば、戦闘依頼は一瞬だった。
強敵だろうが群れだろうが、相手が動く前に詰んでいることが多い。
戦闘以外の依頼でも、ブレイズは地味で堅実なやり方を崩さなかった。
荷運び、護衛、魔物駆除、井戸の調査、迷子の捜索。
雑用のような仕事でも手を抜かず、丁寧に、誠実に、依頼をこなす。
一つひとつは小さくて、地味で、目立たない。
でも積み重ねれば、町の人たちにとっては忘れられない恩になる。
実際、俺たちが次の町へ移動する時には、
いつの間にか、たくさんの人が見送りに来てくれるようになっていた。
……もっとも、そんなブレイズも最初から今のブレイズではなかったらしい。
ノコパラいわく、昔パーティーを組んでいた頃のブレイズは、
勢い任せで、考えるより先に動くタイプだったらしい。
良く言えば真っ直ぐ、悪く言えば無鉄砲。
けれど、それでは守れないものがあったのだろう。
仲間か、夢か、あるいは自分自身か。
痛いほどの現実を味わって、
ようやく辿り着いた形なのだと思う。
この一年の中で、最も成長したのは、アイシャだった。
正直に言う。アイシャは天才だ。
乾いたスポンジが水を吸うように、
知識という知識を吸収していく。
魔神語なんて、普通は年単位で覚えそうなものだが。
数ヶ月で日常会話レベルに追いつき、半年で読み書きもこなすようになった。
「覚える」というより、「理解する」速度が異常だ。
ブレイズからは、信頼の築き方を学んでいた。
挨拶の仕方、礼の言い方、相手の話をどう聞くか。
アイシャなりに真似しながら、自分の形に馴染ませていく。
気づけば、大人たちにかわいがられる子として扱われていた。
その裏には、アイシャなりの計算もあるのだろう。
言葉にすればただの処世術だが、
それを身につけるには膨大な経験が必要だ。
ノコパラからは直接、コネの作り方、使い方、交渉術を学んでいた。
最初、ノコパラは「ガキにわかるわけねぇ」と鼻で笑っていた。
その言葉を聞いた時、俺も正直、同じ気持ちだった。
コネと交渉は、経験あってこその技術だ。
ただ教えれば身につくものじゃないと、そう思っていた。
だが、アイシャは違った。
ノコパラの何気ない一言や、取引中の仕草をすぐに真似してみせる。
そして、どこでどう応用できるかまで理解していた。
最初は、邪魔くさそうな顔をしていたノコパラだが。
アイシャがあまりにも簡単に言葉を飲み込んで、
それを当然のように使いこなすものだから、
いつの間にか得意げに講釈を始めるようになっており、
途中からは完全に“子分”ができた気分だったのか、やたら嬉しそうだった。
あの時のノコパラの、誇らしげな表情は今でも忘れられない。
……あれすらもアイシャの計算だったら、ちょっと怖いが。
しかもただ覚えるだけじゃない。
「なぜ必要なのか」「どこで役に立つのか」を理解した上で使いこなす。
大人の会話に混じっても違和感がないのは、そのせいだ。
魔神語を覚えてしまったアイシャに、俺が教えられることなんて、
せいぜい初級魔術と一部の中級魔術、それと、算術ぐらいだ。
それでも、授業の時間になると、
アイシャは当たり前のように俺の膝の上にすっぽり座って、
膝の上でちょこんと背筋を伸ばし、俺の言葉を聞く。
初級魔術は、俺が覚えていない解毒魔術などを除けば、ほぼコンプリートだ。
しかも無詠唱、俺にも出来ないのになぜかアイシャは出来る。
普通にルーデウスがやっていたように、
原理から教えていただけなのだが……
ロキシーさんに聞かせたらきっと驚くだろう。
そんな姿を見ていると、ふと考えてしまう。
俺は、変われているのだろうか。
この一年で、俺はちゃんと前に進めているだろうか。
力は伸びた。
技量も上がった。
以前より、ずっと強い。
強くなったと、確かに言える。
しかし、どれだけ鍛えても、
足りないという感覚が消えない。
……そんな不安が、ふっと心をかすめる。
だが、すぐに思い直す。
いやこれでいい。
強くなることは、目的じゃない。手段だ。
俺を貫き通すための力だ。
強さそのものを追いかければ、きっとどこかで道を誤る。
宿儺に縋りついたあのときみたいに。
だから、焦らなくていい。
満足なんて、しなくていい。
むしろ、自分に満足してしまったら終わりだ。
自分に、満足していない状態を続けること、
きっとそれが成長につながる。
だからこのままでいいのだ。
過去の自分に嫉妬させるような未来を、
いつか胸を張って迎えられるように。
―――ブレイズ視点―――
最初俺は、赤喰大蛇を訳の分からない力で瞬殺したカインを見て、
心の底で―――
「ああ……こいつにくっついていれば楽ができる」
本気でそう思った。
寄生して、背中に乗って、
流れに身を任せて、ぬくぬくと旅をする。
今思い返しても、反吐が出るほど情けない考えだ。
……言い訳がましいが、あの時の俺は疲れていた。
仲間が死に、その死にも、自分の愚かさにも向き合えず、
ただ、何のやる気も出なかった。
だから、カインのパーティーに入ったのも、ただ楽をしたかっただけだ。
力のあるやつに寄りかかって、その後ろを歩いていけばいい。
逃げ続けていた。自分自身から。
―――なのに。
カインの理想を語る姿が、
あまりにもあいつと……デールと重なった。
あの馬鹿みたいに真っ直ぐで、
まぶしいほどの夢を抱えていた男。
「世界で一番の冒険者になる」と言って、
俺たちを引っ張っていこうとした男。
気づけば、俺はもう一度夢を見たいと思っていた。
デールがあんな事故一つで死んで、
希望なんて脆く、あっけなく、信じる価値なんてない。
誰かに期待なんてしても、どうせ簡単に裏切られる。
そうやって諦めていたはずなのに。
……また、期待したくなってしまった。
最初はどこにでもいる理想を語るだけで、
現実が見れていない子供かと思っていた。
世界を知らずに夢を見て、現実を見ようとしない、
ただの子供。そう思っていた。
だが、違った。
あいつは誰よりも現実を見ていた。
いや、見させられていた。
あいつが魔大陸に来た経緯を聞けば、嫌でも分かる。
それは、普通の子供が耐えられるような現実じゃない。
心が折れ、諦めるのが自然なはずだった。
いや、多分……一度は折れたんだろう。
折れて、崩れて、全部投げ出す方が楽だったはずだ。
流されて、言い訳して、見なかったことにして、
そうやって正しさを手放しても、誰も責めない状況だったのに。
それでもあいつは立った。
流れに身を任せることが一番楽な選択だったはずなのに、だ。
あれほどの非情な現実を見させられてなお理想を語れるカインが、
俺には理解できなかった。
羨ましかった。
腹が立った。
妬ましかった。
そして……どうしようもなく、尊敬していた。
理想を語るだけなら誰にでもできる。
この世界で、綺麗事を口にする人間なんていくらでも見てきた。
だが、地獄を知ってなお理想を握っていられる奴、
そんな奴、俺はカインの他に知らない。
燃え尽きたはずの心を、もう一度燃やせる奴。
それがどれほど難しいことか、俺は身に沁みて分かっていた。
誰もが言い訳を抱えて、立ち上がれなくなる。
“仕方なかった”と呟いて、納得して、そこから動かなくなる。
それが普通だ。
それが、生きるということだと思ってた。
けど、カインは違った。
諦めず、腐らず、立ち止まらずに前を向いていた。
その背中を見ていると、思わず拳を握りたくなる。
何をどうしても届かないはずなのに、
それでも追いかけたくなる。
……そんなカインは、惰性でパーティーに入った俺になぜか期待していた。
「お前ならできる」
そう言って、背中を押すでも、追い立てるでもなく、ただ横に立って。
今になってようやくわかったことだが、
カインは、あまり人を信じることが得意じゃない。
ときどき、あの時の俺と同じ眼をする。
人を疑うことを、身に染みつかせた奴の目だ。
それでも、あいつは無理に人を信じようとしていた。
自分で自分の臆病さを押さえつけるように、
それでも前を見るように。
そして、その目は、
無理やりにしてはあまりにもまっすぐだった。
その期待はなぜか心地よかった。
期待されることは苦しいだけのはずなのに、
カインの期待は不思議と嫌じゃなかった。
きっと、あいつの境遇に共感してしまったからだ。
だからだろう。
あのまっすぐな視線を向けられた時、
俺は初めて、逃げたいと思わなかった。
そして思った。
―――この期待に応えねば、と。
カインを裏切るという選択肢だけは、最初からどこにもなかった。
あの日、そう気づいた瞬間から、
俺は、俺のすべてを使って、カインに貢献しようと決めた。
魔物との戦闘では、できる限り早く状況を判断し、指示をだした。
指示は短く、最低限でいい。
カインは理由も問わず、俺の指示にためらいなく動いてくれた。
信頼してくれているのだ。
ならば、俺も応えねばならない。
その信頼に、同じだけの信頼で返す。
雑用の依頼でも同じだ。
俺はノコパラみたいに、
話術でコネを作ったりはできない。
気の利いた受け答えも得意じゃない。
だからそのぶん、手を動かした。
時間がかかってもいい。
泥まみれになってもいい。
ただ、誠実に、確実に。
そんな俺を、カインは決して笑わなかった。
馬鹿にすることも、焦らせることもなく、ただ隣で同じように働いた。
そして、依頼が終わるたびに言うのだ。
「ありがとう」
それだけ。
本当に、それだけだ。
だが俺には、それだけで十分だった。
気づけば、俺の中に残っていた惰性は跡形もなく消えていて、
代わりに生まれていたのは、ただ一つの願いだった。
カインを支えたい。
……いや、もしかすると守る必要なんてないのかもしれない。
カインは、自分の力で未来を切り開ける。
だが、それでも。
時々、どうしようもなく不安になる瞬間がある。
生き急ぎすぎているように見えるからだ。
昨日のことだ。
魔大陸の主要な町はほとんど回り終え、
評判もそれなりに広がり、
パーティー結成から一年が経とうとしてきた頃。
「そろそろフィットア領に戻ろうと思う」
カインがそう提案した。
もちろん俺達は賛成した。
クラスマで保護されている、転移者と一緒に船で帰る予定だが
その前に、魔大陸の港町ウェンポートを見ておきたいと言い。
俺たちは行商人の馬車に同乗し、ウェンポートへ向かった。
道中、深い渓谷を通ることになった。
あの地形は、嫌な記憶を呼び起こす。
見覚えのある景色だった。
ここではない。だが、よく似ていた。
デールが命を落とした渓谷に。
鼓動が喉までせり上がり、息が詰まる。
思い出したくもない光景が、脳裏に勝手に流れ込んでくる。
足元が消えたような感覚に陥る。
息が苦しい。
肺が空気を求めて震えるのに、
呼吸は浅くしか入ってこない。
どうやら俺はまだ、
完全には立ち直れていないらしい。
ノコパラを見ると、
あいつは鼻をほじりながら欠伸をしていた。
……場違いなほど、いつも通りだった。
不安になり、思わずカインの方へ視線を向ける。
馬車の上で、カインはわずかに揺れながらうとうとしていた。
ギルドとの交渉、商人との調整、報告書の作成、そして転移者の保護計画。
連日の夜更かし続きだった。
ようやく故郷に帰る目処が立ったことで、
少し肩の力が抜けたのだろう。
アイシャは、カインの膝の上で眠っていた。
小さな手が、カインの指をしっかりと握っている。
不安や緊張とは無縁の、安らかな寝顔だった。
ふと、視線を道にそらす。
少し先に、四人組の若い冒険者が歩いていた。
まだ粗削りな装備に、笑いながら肩を叩き合っている姿が、やけに懐かしく見えた。
……あの頃の俺たちも、きっとあんな風だったのだろう。
そう思った瞬間だった。
昨夜の雨で緩んでいた崖の上から、
鈍い音とともに岩が外れた。
視界の端で、巨大な影が動いた。
落石だ。
四人組の真上に、容赦なく迫っていた。
咄嗟に叫ぶより早く、
カインの姿が視界を横切った。
馬車から飛び降り、落石に気づいていない冒険者を突き飛ばす。
岩が砕ける轟音とともに、土煙が上がり、岩の破片が四方に弾ける。
「カイン!!」
「お兄ちゃん!!」
ノコパラとアイシャが同時に叫び、駆け出す。
俺も馬車を飛び降りた。
土煙の中、見えたのは崩れた岩の隙間で膝をつくカインの姿。
肩が……抉れていた。
肩から腰にかけて、肉が削げ、骨が覗いている。
それなのに、あいつはまだ立っていた。
いつものカインなら、
雷竜の攻撃を素手で受け止めるような奴で、
あの程度の落石では傷一つつかないはずだ。
あいつが神子だと言い張るあの力で、
落石をバラバラにすることもできたはずだ。
……けれど、今回は違った。
寝起きだったのだろう。
完全に意識が覚める前に、
思考よりも先に身体が動いたのかもしれない。
カインは、苦痛に顔を歪めながらも、周囲を見回した。
助けた冒険者たちの無事を確認すると、
小さく安堵の息を漏らす。
その表情には怯えも焦りもなかった。
ただ、“よかった”という安堵だけが浮かんでいた。
右手がわずかに震えながら胸元へと移動する。
盛り上がった肉が骨を覆い、皮膚が再生していく。
ほんの数秒。
そこに残ったのは、傷一つない肌。
ただ、服が裂けた跡だけが、
さっきまでの出来事を証明していた。
「アイシャ……心配させて、ごめんな」
その一言に、アイシャは顔をくしゃくしゃにして泣きながらしがみついた。
小さな手が、震えるようにカインの服を掴む。
ノコパラは黙って見つめていた。
俺も……言葉が出なかった。
―――
その日のうちに、俺たちはウェンポートへ着いた。
宿を取って、荷物を下ろすと、
アイシャはカインのそばから離れず、
疲れたのかそのままベッドで眠ってしまった。
カインは、眠ったアイシャを黙ってみていた。
俺はノコパラに呼ばれ、宿の裏手にある小さな石段に腰を下ろした。
海が見える。
遠くで波が白く砕け、風が塩の匂いを運んできた。
隣に座ったノコパラは、いつも通りだらしなく足を投げ出している。
「話ってのは、なんだ?」
沈黙。
遠くで波の音がかすかに聞こえる。
「なあブレイズ……お前、カインの奴をどう思う?」
「どう、とは?」
「最初はよ。あいつについてりゃ、楽に生きられると思ってたんだ。強いし、頭も切れるし、無茶もする。きっかけは……あれだったが、あいつの後ろついてりゃ、飯にも困らねぇってな」
俺と同じだ、俺もカインの強さに寄生しようとしていた。
あの頃の自分を思い出す。
仲間も目的も失っていた頃。
そんなとき、カインの存在は、あまりにも眩しかった。
強さも、信念も、仲間を守ろうとする覚悟も、全部を持っていた。
だからつい、自分の弱さを誤魔化すように、あいつの影に隠れようとした。
「でも、違った……全然、違ぇんだよ」
ノコパラがため息混じりに笑う。
「あいつは強いくせによ、妙に危なっかしい。自分を削ることでしか、人を救えねぇと思ってやがる」
その言葉に、俺は小さく笑ってしまった。
「……昔のお前なら、そんな奴すぐ損切りしようとしてただろうな」
「ああ、実際、何度も言おうと思ったさ。『死にてぇなら勝手にしろ』ってな。けど……言えなかった」
俺は黙った。
ノコパラがそんな顔をするのは、初めて見た。
「なあ、ブレイズ……本当はよ、リカリスの町を出る時にパーティーから抜けるつもりだったんだよ」
「……そうなのか」
「お前らが次の町に行こうとしてた時にな。あいつに言ったんだ。『俺はパーティーを抜けるぜ』ってな。そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」
「さあな……」
「『なんでだ……お前も来るんだぞ?』って、首をかしげやがった」
ノコパラはその時のことを思い出すように、ゆっくりと目を細めた。
「俺は言った『なんでだよ、俺は戦力にならねぇし、なるつもりもねぇぞ』って、そこで、あいつは一切迷わずに言った。」
『なんでって、俺にはお前が必要だからだ』
「そのまま続けて言いやがったんだ」
『お前は人を見れる。頭の回転も速いし、俺が見落とすことをいつも拾ってくれる。
俺に見えないところが見えてる。それは俺にはできないことだ』
「笑っちまうだろ? あいつ、本気で言ってたんだぜ。俺みたいなやつが必要だなんてよ」
ノコパラはうつむき、ひとつ息を吐いた。
「久しぶり……そう、久しぶりだったんだよ『必要だ』なんて言われたのなんて……ほんとに久しぶりだった」
ノコパラの言葉に、俺は黙って耳を傾けた。
あいつがこうして過去を話すのは珍しい。
いつもは冗談ばかりで、誰かに本音を見せるようなやつじゃない。
「デールの奴が死んでから、俺は思ったね、誰かのために動くのなんて、もうまっぴらだってな」
デール
昔、俺とノコパラ、そしてロキシーと組んでいたパーティー
『リカリス愚連隊』のリーダー。
快活で、頼りがいがあって、でかい夢を持っていた。
……それが、落石であっけなく命を落とした。
俺たちが目を逸らしたほんの一瞬の間に、崩れた岩に飲まれて。
助けられなかった。
「でもよ、その一言で……もう一回ぐらい信じてみてもいいのかもって思っちまったんだよな。意味わかんねぇだろ?」
「わかるさ」
「……カインについていけば楽に暮らせる、そう思ってた。でも、気づけば逆だ。楽どころか、あいつの心配ばっかだ。危なっかしいんだよあいつは。だから、デールの時みたいなことにはしたくない」
「なあ、ノコパラ……カインがいれば、デールは死ななかったと思うか?」
言ってから、自分でも本当にバカな問いだと思った。
そんなもの、誰にも分かるはずがない。
「知るかよ。そんなもしもを言い出したらきりがねぇだろ」
ノコパラは少し黙ったあと、鼻を鳴らした。
「けど、これだけは言えるぜ」
「……?」
ノコパラは俺を見ながらニヤリと笑った。
「あいつらは……絶対に気が合うってな」
「違いない」
二人で同時に笑った。
「なぁ、ブレイズ。俺ら、また似たような馬鹿やってんな」
「ハッ……馬鹿やってんのはお前だけだ」
「なっ! おめぇ人がせっかく真面目に話してやってんのに……!」
怒鳴りながらも、ノコパラの顔はどこか楽しそうで、
俺の胸の奥に刺さっていた棘も、抜けきらなくても痛まない程度には和らいでいた。
重かった話も、笑いと一緒に少しだけ軽くなった気がした。
俺は小さく息を吐き、心の中で決意する。
――俺は、俺にできるすべてを使ってカインを支えよう。
この先もこうして、くだらないことで笑い合えるように。
そして、二度と同じ後悔をしないために。