夜明けのプリンシパル ─ウインバリアシオンと彼女に惚れ込んだトレーナーのお話─ 作:鵜鷺りょく
「おいしくな~れっ、萌え萌え、キュン──!!」
【1】
「んっ、ん──ぷはぁっ」
抜けるような青空の下。柔らかい芝生の上に座ったまま、火照った身体が冷えていく感覚に身を委ねる。
みんなで水筒のドリンクを手にとって、大きな一息を吐いたのは、三人ともほとんど同じタイミングだった。
「いやー、今日も走った走った。ほんと、鬼ごっこなんて、昔はよく気楽にやってたもんだけどさ。こう本気でやってみると、結構くるもんだよねー……」
「ふふ。そうっすね」
疲労感を笑い飛ばすみたいに言うネイチャさんに、あたしも頷きを返していた。
色々と変わったルールとはいえ、基本的には馴染み深い子供の頃の遊びの延長線。だからか、ハードなトレーニングを終えた達成感は確かにありつつ、一方では、友達と思いっきり遊んだ後のような懐かしさも感じている。
次のレースに向けて追い込んでいく段階の今では、実はちょっとした気分転換になっていたりもして。
「……」
「? シュヴァルさん、どうかしたっすか」
反対側に座っていたシュヴァルさんにも声をかける。
さっきから何かが気になっているみたいで、彼女はずっとグラウンドの外側の方を見つめていた。
「あ、すみません。その……トレーナーさん、大丈夫かなと思って」
「あー……えっと、そうっすね」
不安げなシュヴァルさんの問いには、つい曖昧な返事を返してしまった。
今日の鬼ごっこトレーニング、その最後の一セット。一旦ここまでの成果を試すため、これまでとは違う展開を作るという話になった結果、トレーナーさんにもトレーニングに混ざってもらうことになった。
自分のことは気を遣わなくていいって、そう言ってくれていたけど。結局その言葉の通りに、今までと変わらない勢いで駆け回るあたしたちに食らいつきながらも、あの人は一つも弱音を零さず、最後まで全力を尽くしてくれた。
今は飲み物を買いに行っていて、席を外しているところだ。
「すごい、ですよね。シオンさんの動きが分かるっていうのもそうですけど……僕たちのペースにも、本当にずっとついてきてて」
「だね。急に混ざるって言った時は心配になったもんだけど。いざやってみたらしっかり動き回ってくれるし、アタシらのアシストとか、シオンさんへのフェイントとかも熟してくれちゃってさ」
しかもしれっと一点取ってやんの、と。ネイチャさんは苦笑いを浮かべながら付け足した。確かにあれはあたしもびっくりして、すぐに頭を切り替えるのに苦労した。……色んな意味で。
でも、それもきっと想定通りだ。
今までにはなかった"四人目の参入"。そのおかげで、間違いなくトレーニングの空気は一変した。単純に注意しないといけない相手が増えただけじゃなく、ネイチャさんたちの動きも今までとは別物みたいになっていて。
あたしたちのことをずっと見ていてくれたトレーナーさんだから、できたことなんだと思う。
「タフな人だよ、ほんと。まあ、流石にくたびれちゃったみたいだけどね」
「……ですね」
平気そうな顔をして、強がってはいたけど。それでも息切れは残ってたし、足もガクガク震えていたような気がする。
今頃は多分、少し離れたところで休憩を取っているんだろう。飲み物を買いにいったのも嘘じゃないかもしれないけど、きっとそれ以上に、あたしたちに心配をかけないために。
「本当に、いつも無茶ばっかりするんすよ」
一瞬だけ浮かび上がった複雑な気持ちは、表に出さないようにした。
夏合宿の時の出来事は、正直まだしっかり記憶に残っている。隠れて無理をしていたって聞かされた時の驚きも、実際に倒れてしまう瞬間を見て、サッと血の気が引いた感覚も。
もう無理はしないって、約束はしてくれたけど。それでも、担当ウマ娘のためにできることがあったら、基本じっとしてはいられない人だ。それを分かってるから、あたしもそれ以上は何も言えなくなる。
──あなたは、どうしていつも、そこまで。
「……?」
無意識のうちに、あたしも建物の向こうの方に視線を向けるようになっていた。
それを自覚した途端、一方で、じーっとこちらを見ている視線のことにも気づく。それは二つあって、ちょうどあたしの両隣から注がれているみたいだった。
「あの……どうかしたっすか? 二人とも」
「んー? いや、今の何かいい感じだなって。ねっ、シュヴァル?」
「! あ、えっと……」
流れるようなネイチャさんからのパス。しどろもどろになりながらも、シュヴァルさんはそれに応えた。
「その、僕も、いいなって思って……シオンさんが、トレーナーさんのことをちゃんと分かってる感じとか。トレーナーさんもシオンさんのために一生懸命で、お互い、想い合ってるんだな、と……」
「……そう、ですかね」
少しずつながら、誤魔化しのないシュヴァルさんの言葉がしっかりと耳に届く。そうあらためて言われてしまうと、ちょっと照れくさい感じもあったけど。
……そうだ。そんな風に、後ろめたく考えてばかりもいられない。
トレーナーさんが頑張ってくれてるなら、あたしは今度こそそれを結果に繋げてみせる。
そうすればきっと、あの人の負担だって少しは軽くなるはずなんだから。
「──あっ、こら! そっちもっとちゃんと持ちなって!」
「むーりー! これ重すぎだってー!!」
ふと、そんな賑やかなやり取りがどこかから聞こえてくる。
声がした方を振り向くと、ちょうど向こうで何人かのウマ娘たちが大きな荷物を運んでいるところだった。特に、この時期はよく見かける光景だ。
「聖蹄祭、もうすぐですね」
「そーだね。アタシらも忙しくなるわー……そういえば、シオンさんのクラスって何かするんでしたっけ?」
「メイド喫茶っすよ。よく分からないけど、王道、なんすかね……パーマーさんとかはそんな感じに言ってましたけど」
よくよく考えてみれば確かに、うちの学内でも、毎年どこかのクラスがやっているのは見かけていた気がする。それでもまさか、いつか自分のクラスでやることになるなんて思わなかった。
「……今年の秋はレースが続いてましたから。聖蹄祭の準備とかは、少ししか参加できてなかったんです。ありがたいことに、クラスの子たちは、むしろ頑張ってって応援してくれたんすけどね」
この学園では特別珍しいことでもないんだろうけど。
クラスのみんなの心遣いが嬉しかった反面、やっぱり同じくらいに申し訳なさもあって。
「でも、トレーナーさんが何とか休養日を調整してくれて。当日だけは、ちゃんと参加できることになったんすよ」
「"その方がシオンもすっきりするだろ"……って?」
「!」
「ふふ。つくづく分かってるね、シオンさんのこと」
悪戯っぽく笑うネイチャさん。頭の中で思い返していたトレーナーさんとのやり取りを言い当てられて、あたしはしばらく何も言い返すことができなかった。
「──あれ、待てよ? ってことは、シオンさんも接客やるんだよね。つまり」
「シオンさんの、メイド姿……」
「……」
ついに二人も気づいてしまった。いや、この話が始まった時点で、遅かれ早かれだったとは思うんだけど。
「そー……なんすよねー……」
「だ、大丈夫? 何か遠い目になっちゃってるけど」
気遣うネイチャさんの声が聞こえる。自分がそんな感じの顔をしていると気づいて、ああ、やっぱりどこかで心の整理がついていなかったんだなと再認識した。
……当日までには、何とか最低限の覚悟は決めとかないとだな。
【2】
「お、おいしく、なーれっ……もえ、もえキ──あぁっ、やっぱダメだーッ!!」
じわじわと近づきつつあった祭典の気配。
今年の聖蹄祭は、ついにその開催日を迎えた。
いつもより少し早起きをして、自分の教室へと駆けつけた。いそいそと今日限定のその衣装に着替えて、スターティングメンバーの一人として機材の確認を一通り終える。
そうして今は開店までの待ち時間。あたしは今、まさに最大の試練の真っ只中におかれていた。
「うんうん。やっぱり苦戦してるねー、ふふ」
「うっ……まさか、ここまで難しいなんて思ってなくて。……というかパーマーさん、ちょっと面白がってないっすか?」
「あはは。いやー、シオンらしくてかわいいなーと思ってさ」
同じく準備を終えたばかりのパーマーさんがクスクスと笑う。ヒラリと揺れるエプロンの裾まで何だかご機嫌そうに見えた。
改めて見ても、ちょっと変わった恰好だなって思う。あたしもメイドさんの服装とかは写真なんかで見たことがあるけど、ジャージの上にエプロンを羽織ったこの"ジャージメイド"っていうのは、今まであんまり聞いたことがない。
全体的にヒラヒラのフリルやリボンが可愛くて、素人目にも衣装の作り込みはとても細かい。ジャージはてっきり学園指定のを使い回すのかと思ったら、何とそこまで特注にしたらしくて、メイドさん一人一人のパーソナルカラーも違っている。例を挙げるとパーマーさんは薄緑で、あたしはピンクだ。
これだけでも力の入れようが伝わってくる。そして、だからこそ。
「どうしよう……開店までもうちょっとしかないのに」
あたしの方は、全然余裕がない状況に陥っていた。
トレーニングのスケジュールは順調にこなすことができて、何とか無事に休養日を合わせて臨むことができた聖蹄祭当日。けれど肝心のクラス出し物の準備──メイドさんとしての立ち居振る舞いに対する心構えの方が、全然形になっていなかった。
一応、寮の部屋でこっそり練習もしていたんだけど。少し甘く見ていたのか、接客だけなら何とかなるかもしれないと、そう油断していたところもあったのかもしれない。
この所謂おまじないの口上と言い、指先で滑らかにハートを作って掲げるポーズと言い。現時点でも、課題は山積みだった。
「そんな思い詰めなくてもいいって。シオンが忙しかったのはみんな分かってるしさ。今のだって十分可愛かったし、こういうイベントはもっと気軽に楽しまなきゃ損だよ」
「そうっすかね……」
「うんうん。そんじゃ、この辺りで後ろの方をご覧ください」
「?」
パーマーさんに言われるまま振り返る。そっちでは確か、同じくスターティングメンバーのヘリオスさんとミラクルさんが練習をしていたはずだけど。
「いぇーい☆ 乗ってっかーご主人! まじモエ、キュンキュンであげてくぜぃ、ふぅ~っ!☆」
「ふふ。いつにもましてノリノリだね、ヘリオス」
ギュンギュンと連続ターンしながら、指のハートを四方八方へ撃ち出しまくるヘリオスさん。何かもうとにかく勢いが凄いけど、彼女なら本番もあれくらい飛ばしていそうな予感がある。
型破りこの上ない感じもする一方で、実際気持ちのいい盛り上がりも感じられて。傍についているミラクルさんも、楽しそうに微笑んでいた。
「ヘリオスくらい、とはいかないかもだけどさ。あれくらいやりやすいようにやればいいんだよ。お手本はあくまでお手本、大事なのはおもてなしの心ってね」
「……そう、かもしれませんね」
一番大事なのはお客さんのこと。ポーズ自体は拙くても、一生懸命に接客を頑張れば何とかなるのかもしれない。普段のトレーニングでも、それほど器用な方じゃないあたしはいつもそうしてきたはずだ。
それに案外、やっていくうちに場慣れしていくものかもしれないし。
「ありがとうございます、パーマーさん。あたし、何とか頑張ってみるっす」
「その意気その意気。……それに、シオンがあんまり暗い顔ばっかりしてたら、トレーナーさんも心配になっちゃうだろうしね」
「…………へ。あっ……」
「ふふ。何やかんや、ちゃんと呼んでんだ」
唐突な話の切り出しに、一瞬だけ遅れて動揺する。
見通していたようなパーマーさんの視線。言い訳を探すみたいに、あたしは頭をフル回転させる。
思い出したのは、あるミーティングでのトレーナーさんとのやり取りだった。
『順調だな。聖蹄祭の当日も、この分ならちゃんと空けられそうだ。クラスの出し物もあるだろうし、当日はみんなと楽しんでおいで』
『ありがとうございます。助かります』
ちょうどスケジュールの話をしていた時。そもそも、休養日の調整をしてもらったのだってあたしのワガママみたいなものだし、事情を説明しておく必要はあった。
その流れで声を掛けないのは、さすがに、印象が悪いかなとか思っちゃって。
『……ち、ちなみに、あたしたちのクラスは喫茶店やるんすけど。トレーナーさんも、よければ』
せっかくだし見に来て欲しい、とか。そんなことを考えていたわけじゃ。
「……」
「熱々だねー」
「パーマーさん!」
すっかりいつものペースだった。からかわれているのは分かってても、あたしはついムキになっちゃってて。
……トレーナーさん、どんな顔するかな。
すっかり賑やかな待ち時間。その終了を告げるアナウンスが鳴ったのは、もう少し後のことだった。
──────────
開店から二時間くらいが経った。そろそろお昼に入る頃のあたしたちのメイド喫茶には、もうなかなかの数のお客さんたちが足を運んでくれていた。
トレセン学園の聖蹄祭には一般の人たちもやってくる。そこに生徒の数も合わせれば、たくさん来てくれるのはそりゃそうなるものなのかもしれないけど。それでも嬉しい忙しさの中で、あたしも接客で不慣れだったところを少しずつ改善していく。
そして、ついにその時はやってきた。
「……じゃあ、いくっすよ」
ふわとろの卵の上にハートを書き終えて、役目を終えたケチャップをゆっくりと机に置く。
そこで一つ、大きな深呼吸。波打つような自分の中の集中力が頂点を迎えた。その瞬間、あたしはぴっと指を伸ばす。
小気味よくステップを踏んで、身体を理想的な斜め角度に傾ける。
自然かつ思い切りのいい笑顔を意識しながら、流れるように両手の指で輪を作った。
ちょっと形を整えてハートマーク。すかさずおまじないを唱える。
「おいしくな~れっ、萌え萌え、キュン──!!」
それまでの接客で培った経験値。そしてもう何も感じなくなってきた思考回路もそのままに、勢いで突っ切っていく。
やった、やりきった。
溢れる達成感。それは間違いなく今日一番の出来だったと思う。
急上昇するテンションに、最後はウインクまで付け足して。今この瞬間、きっとあたしは最高のジャージメイドになれたんだと、心のどこかでそう叫んでいた気がした。
「……。…………」
「……。…………」
そして、数秒間の沈黙。
ポーズを取ったまま固まるあたしの正面で、席に着いたトレーナーさんはただじっとこちらを見ていた。
「……あ、あの」
「え」
「せめて、何か、言ってもらえると……」
内心ちょっとだけ泣きそうになりながら、あたしはだんだん冷静さを取り戻していく。
そうだ。何でちゃんと考えなかったんだろう。トレーナーさんは今日、あくまで担当ウマ娘に誘われたからこうして来てくれているんであって、別にメイドさんが好きかなんて分からなかったじゃないか。
そもそも全然興味がない可能性だってあるし……。
そんな人が、いきなりこんなおもてなしをされたって意味が分かるわけ。
「ごめん。びっくりしたんだ。すごく可愛かったから」
「っっ……」
少しだけ視線を逸らすようにしながら、トレーナーさんは照れくさそうに頬を掻く。
それでもストレートなその感想は、確かにあたしにも衝撃を与えていた。"鉄は熱いうちに打て"なんて言ったりもするけど、今はむしろ、ちょっとテンションが下がって落ち着いていたこのタイミングだったからこそ、こんなにも胸の辺りがうるさくなってしまうんだと思う。
顔も真っ赤になってたりするかな……そう気づいて、無意識にさっとお盆で横顔を隠していた。
「こ、ここでもフェイントかけてくるんすね……ほんと、そういうとこあるんだからな」
「?」
なんて、そんな文句を呟いてみても、きっと伝わりはしないんだろうけど。
そこには多分、悪意もいたずらっけもないんだろう。思ったことをそのまま口にしているだけで、だからこそ、余計にタチが悪いんじゃないかとも思った。
「んん。すみません、こっちの話っすから……あらためて、今日は来てもらってありがとうございます、トレーナーさん」
「こちらこそ。誘ってくれてありがとう」
一旦咳払いをはさんで、話の流れを変えることにする。トレーナーさんも特に気にした様子もなくお礼を返してくれた。
「お店、なかなか本格的なんだな。内装とか、衣装も。俺は正直、こういうお店はあんまり詳しいわけじゃないけど……でも、このオムライスも美味しいよ。さっきのおまじないが効いてる気がする」
「そ、そうっすかね……はは、まあ、当店の看板メニューですから」
無自覚な追いうちを何とか躱す。興味深そうに教室の中を見渡すトレーナーさんの姿は、初めて外国の文化に触れた時の旅行者さんみたいだった。
「この衣装も、教室の飾り付けも、みんなでたくさんアイデアを出し合って決めたそうなんです。オムライスとかの料理も、時間いっぱい味を追及したって」
「そっか。それは、納得の完成度だな」
「はい。……次は、あたしももっと力になれるといいな」
思わず零れてしまった一言。「そうだな」と、トレーナーさんは笑って肯定してくれた。
応援してくれているクラスの子たちにも、いつか何かを返せたらいいんだけど。
「……ところで、この"メイドさんの写真撮影"ってやつ。これは頼んでもいいのかな」
「はい。大丈夫ですよ」
机の上のメニュー表を指差しながら、トレーナーさんがそう尋ねる。あたしもすっかり慣れた感覚で返事を返していた。
「よかった。せっかくだし記念に残しておきたいっていうのもあるんだけど……実は、
「笹田さんから?」
「"メイドバリちゃんの写真を撮ってこい。さもなきゃ末代まで祟る"──って。色々忙しいくせに、どこでそんな情報仕入れたんだろうなあの人」
「それは、物騒っすね……」
冗談、だと思うけど。こうしてトレーナーさんも渋々言うことを聞くくらいには、真に迫ったやり取りが裏であったんじゃないかと思う。
URA所属の笹田さん。デビュー当時からファンとして応援してくれている一人で、あたしも色々とお世話になっている。今は長期の出張中で、やっぱり忙しいのか以前ほどは連絡が取れなくなっていた。最後にやり取りをしたのは、確か神戸新聞杯の前の晩だったかな。
何かと学園とも関わりの深い立場だから。今年の聖蹄祭の情報を知るような機会もどこかであったんだろう。一旦、そう納得しておくことにする。
「ともかく、そういうわけだから。シオンの写真、お願いしてもいいかな」
「……」
ところで、うちのお店では写真撮影にも色々なプランがある。
メイドさん一人だけを指名して写真を撮るプラン。他にも、何人かを指名して集合写真を撮るためのプラン。
そして、もちろん。
「……ご」
「ん?」
「ご主人様との、ツーショットっていうのもあるっすけど」
そういうプランも用意されている。むしろ、これが一番人気まであるくらいだ。
トレーナーさんが言っているのは多分それじゃないんだろうけど。……あたしは、それがいいと思ったから。
「分かった。じゃあ、それもお願いするよ」
「! はいっ、かしこまりました」
ぴくりと、尻尾と耳が動き出しかける。ギリギリのところで、それは何とか我慢した。
今のあたしは一つの役を演じている身だから。照れ隠し、っていうのも少しはあったけど。
ちょんとエプロンをつまみ上げて、両手を腰の辺りに重ね合わせる。粛々としたメイドさんらしさを意識しながら、あたしは一つ、丁寧なお辞儀を返してみせた。
※2026/3/23追記
シリーズ用の質問コーナーを開設してみました。
必要に応じてお使いください。(『活動報告』に飛びます)
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