夜明けのプリンシパル ─ウインバリアシオンと彼女に惚れ込んだトレーナーのお話─ 作:鵜鷺りょく
それは、雨上がりの虹のような。
【Preparation】恵み雨 「シオンとトレーナーの再スタートのお話」
予定していた委員会の集まりが延期になった。
放課後。わざわざ教室まで来てくれた同じ委員会の子から、そんな知らせを聞いた。担当の先生が急用で来られなくなったんだそうだ。
ホームルームが終わって、ちょうど移動をしようとしていたところだったから、少なからずびっくりする。
振り返ると、教室の中はまだまだ賑やかだった。戻ってクラスの子たちと話していこうかと思ったけど、すぐに考えを改める。
(一時間くらい早くなっちゃうけど……いいよね?)
怒られることなんて、ないだろうし。
気を取り直して、あたしは進路をトレーナー室の方角へと向けた。
──────────
トレーナーさんが退院してから、数日が経った。
先月、ある事故でトレーナーさんが大怪我をした。命に別状はなかったけど、そこに記憶の障害も重なって、そっちの方は治る見込みも立たないくらいに酷かった。
この学園で過ごした時間も、あたしのことも分からなくなっていたくらいで。しばらくは気の休まらない時間が続いた。
カレンダーの上で言えば、たった一ヶ月と少しのこと。だけど、あたしたちにとっては長くて苦しい、本当に、終わりの見えないような毎日だったと思う。
(……でも、ちゃんと戻ってきたんだ)
ほんの少し前のことを想うだけで。時々頬をつねっては、これが現実なんだと確かめたくなる。
オルフェさんや天池さん。色んな人たちに支えられながら、あたしたちは、やっと今までに積み重ねたものを取り戻すことができた。
トレーナーさんがトレーナー室にいて、トレーニングの時間になったら、二人で一緒に外へ出て行く。
そんな当たり前の日常が、今は心の底から待ち遠しくて。
少しでもたくさん、それに浸っていたいと思うのは、きっと自然な気持ちなんだろう。
──君は、俺の夢だったんだ。
「……えへへ」
思い出すと、ついニヤけてしまう。ほとんど無意識のうちに、人目のある廊下の途中とかでも、お構いなしにそうなる。
顔がぽっと温かくなって、跳ねるつま先の勢いのまま、身体を一回転させる。
嬉しい時のピルエット。バレエを習っていた時に染みついてしまった動きで、あたしにとっては、昔からの癖みたいなものだった。
「──」
ひと続きの動きを終えた後は、いつもちょっとだけ恥ずかしい。周りをキョロキョロしてしまって、誰も居ないことに安心する。これもいつものことだ。
それだけ、あたしは大切なものをもらった。
真っ直ぐで、重みがあって、温かい。何より、ここまで一緒にやってきたあたしたちが間違いじゃなかったと、そう教えてくれる魔法みたいな言葉だ。
今はその不器用さを知っている。似たもの同士の傷跡を抱えてきたことも。だからこそ、この先も一緒に走って行けるんだってことも。
信じられるものがあるから、振り返らずに、進んでいける。
コンコン
少し歩いて、トレーナー室の前に辿り着く。
どこか軽快なノックの音は、まるで今のあたしそのものみたいで。何となく浮ついているのは、もう少しの間だけ許してほしい。
その一方で、扉の向こうからの返事はなかった。
(留守、かな……?)
電気は点いている。試しに取っ手に指を引っかけると、引き扉は簡単に開いた。
本当に留守だとしたら不用心だけど。よく仕事に没頭してしまう人だし、単に忙しいだけなのかもしれない。
様子を見るために、あたしは隙間からそっと中を覗き込む。
「──え」
次の瞬間には、反射的に扉を押しのけていた。
一部だけを切り取って見えていた景色は、それでも見間違いじゃなかったと知る。
部屋の中には、男の人と女の人が二人きり。
二人は室内の真ん中あたりに立っていて。ちょうど、女の人の両手が男の人に向けて伸ばされているところだった。
「! ば、バリちゃん……!? もう来ちゃったの!?」
そこで聞き覚えのある声がした。女の人は、あたしの知っている人だった。
URA職員の
最近は長期の出張でしばらく遠くに行っていたらしくて、あたしも、あんまり会えていなかったけど。
──ギリィ
そんな人が、今、トレーナーさんと真正面から向かい合っている。
……いや、ちょっとだけ、訂正。
笹田さんの、斜め上に向かって伸ばされている腕の先に、すっかり変わり果てたトレーナーさんの姿がある。
「ぐ……ぁ……」
服の襟元をグッと鷲掴みにして、間接的に首を締め上げるように。
笹田さんに持ち上げられたトレーナーさんのつま先は、明らかに地面から数センチ浮いていた。
「な、なにやってるんすか!?」
その様子は、まるで凄惨な事件現場。何でそうなったかなんて、あたしには何も分からない。
ただ、すっかり青ざめているトレーナーさんの顔を見て、あたしは思わず悲鳴を上げていた。
──────────
「……ちょっと。話が違うじゃないのよ」
そして、何も知らないシオンが去った後のトレーナー室。そこには元通り、自分と笹田さんの二人だけが残されていた。
彼女が去ったと言っても、別に逃げていったわけじゃない。いや、こちらとしては、それでもよかったのだが。
締め上げられて、宙に浮かんでいた自分を放っておくことなく、シオンはまず一目散に駆け寄ってきてくれた。笹田さんもそこで手を離して、一旦は解放されたから、自分はこうして話ができている。
「あの子はまだ来ないって、あんたがそう言うから、こうやってしばきに来てやったってのに」
「すみません……ごほっ……今日は、委員会の仕事があると聞いていたので。もう少し、後になると思ってたんですが……」
喉がつかえるようで、まだ微妙に話しづらい。酸素の不足を訴えるように、頭は少しボーッとしていた。
……まあ、この人を呼びつけたのだって、ほとんど自分なのだが。
こうなったのには、少しばかり複雑な経緯というものがある。少し気持ちに整理をつけたくて、この人のこういう容赦のないところを頼らせてもらおうと考えた。そうして、現状へと至っている。
『何か、あったんすか……?』
それでも、シオンに見られてしまったのは、全くの想定外だった。
すぐに笹田さんに詰め寄るのではなく、彼女と自分を交互に見つめながら、不安げにそう尋ねていた。彼女が理由もなくそんなことをする人ではないと、シオンも信じていたのだろう。
自分の考えのせいで二人の関係が悪くなる。そういう展開だけは、何とか避けられたようだった。
「ま、恨まれる覚悟くらいはしてたけど。元気そうで安心したわ。……ちょっと前まで、何にも覚えてないトレーナーの世話をしていたとは、思えないくらいね」
本当にそう思う。シオンがいつも通りでいてくれることは、自分にとっても救いだった。
色々と回り道をして、情けないところを見せて、傷つけて。
それでも、彼女は変わらない。ひたむきで優しい、頼りになる担当ウマ娘のままだ。
「あらためて、今日はお呼びだてしてすみませんでした。出張からは、まだ帰ってきたばかりだったんでしょう」
「私の方から勝手に来たの。色々あったとはいえ、これでも遅すぎるくらいでしょ」
不機嫌そうに答える。それもこの人なりの優しさなのだと、今なら少しは分かる。
ここ最近であったことは、笹田さんにも大体話していた。
彼女の方も、近況についてはシオンから度々聞いていたそうだけど。だからといって、それだけで全部を把握できたわけじゃなかっただろう。きっと、意図的に伝えられていなかったところもあったはずだ。
「……前々から、なーんか心配なとこはあったのよね」
自分からそれを伝えれば、こうして来てくれると思った。
不甲斐ないトレーナーのことを叱りつけるために。古くからのファンとして、シオンのことを大事に思う彼女だからこそ。
「私も、もっと小突いとくべきだったわ。"自分にトレーナーの資格がない"とか、本気でそんなことを考えてたなんてね」
「……」
「私は容赦しないわよ。お望み通り、手厳しいことも言わせてもらう」
それが、今は本当に助かっている。
「自分の夢がないだとか、周りのトレーナーより劣ってるだとか。あんたが抱えてきた問題なんて、本来、あの子には何の関係もないの」
自分だけでは、どうにも手が届かない気がしていた。まるで忘れ物をした時のような、違和感のような何かが、まだ自分の心にへばりついている。
それは余計なものだ。ちゃんと整理して、片付けておくべきものだ。これから、彼女ともう一度、歩き出していくために。
「今回みたいなケースは、レア中のレアよ。ただ運良く、あの子が受け入れてくれたってだけ。ウマ娘の支えでいなきゃいけないトレーナーが迷うことなんて、あっちゃならないんだから」
ただ、厳格なURA職員としての、彼女の言葉が必要だった。
そこまで口にすると、笹田さんは大きく溜め息を吐く。
「気づいてなかったのは、多分、あんただけよ」
「?」
「少なくとも、私は見てきたつもり。バリちゃんがどれだけあんたを慕ってたか。あんたと進んでいく中で、どれだけの信頼を預けてたか。……多少
刺々しい口ぶりは変わらない。けれど、紡がれる言葉の雰囲気が、少しずつ変わっていく。
笹田さんの目は、何かを見透かしているように、固く構えられていた。
「バリちゃんのために、あんたは力を尽くしてきた。たとえ明確な成果はなかったとしても、その度にあの子は、あんたに"ありがとう"と伝えてくれたはずよ」
「……」
意外な角度から、殴り返されたみたいだった。不意打ちのようなその言葉は、今までシオンと歩んできた記憶のいくつかを呼び起こしていく。
(ありがとう、か)
そんなことは、もう数えられないくらいにあったと思う。
彼女の律儀な性格からきているものだと、それくらいにしか思えていなかったけど。それでも、自分は、確かに。
「あんたは、ただそれだけのことを誇って、あの子の隣で笑っていればよかったの」
その言葉は、なかなか反則じみていた。
──それでも、あたしはあなたがいい。
なるべく考えないようにしていた。たった数日前の出来事のことまで思い出してきて、少しだけ、目の奥がツンとする。
そうやって、改めて気づかされた。
どうしようもなく、もうここにはない過去に怯えて。自分は今まで、とても遠回りをしてしまっていたのだ。
「……ありがとう、ございます」
「あーうっさいうっさい。散々しばかれた相手にお礼なんて言って、あの子に聞かれたらまた誤解されるわよ」
「え?」
「あんた、色々吹っ切れたら、ウソが下手になったわね」
シンプルに不思議そうに、笹田さんが尋ねてくる。
また? ……そう言われて、おそらくさっきのシオンとのやり取りのことだろうと、徐々に気づいていく。
『何か、あったんすか……?』
『あ、や、違うのよ? ……いや、そうとも言い切れないところはあるけど。聞いてバリちゃん、これには深いわけが』
目の前でトレーナーが締め上げられていたというその状況。事情も分からずに困惑するシオンに対して、さしもの笹田さんも上手い言い訳が見つからないみたいだった。
そこで、確か自分が口を挟んだのだ。
『俺が、お願いしたんだ』
あの時はもう地面に下ろしてもらっていたけど、酸欠のせいか、頭がよく回っていなかったようにも思える。
『お願い、っすか? ……え。それって、さっきみたいに、
『うん。……ごめん。もう少しだけ、笹田さんと大切な話があるんだ。シオンは、先に準備して待っててくれるかな』
『……』
それきり、彼女は黙り込んでいた。少しすると、言った通りに部屋を出て行ってはくれたけど。
何だか微妙な顔をしていて、瞳の色には、やや影が差していたように思える。
「──」
少し、血の気が引く。誤解を招きかねないやり取りだったと、今さら気が付いてしまった。
「あれ、下手したら私の趣味まで疑われかねないんだけど」
「……すみません」
心底呆れた様子で、笹田さんがまた溜め息を吐く。
「ったく……あんたがそんな調子じゃ、こっちの計画も狂うっての」
「? 何か言いましたか」
「何でもない。ほら、あんたもさっさと準備しな。バリちゃんが待ってんでしょ」
それから、バシッと背中を叩かれる。内臓が飛び出そうなほどの力加減だった。
そして、笹田さんはそのままトレーナー室を出ていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……はぁ」
トレーナー室の扉を閉める。と同時に、私はまた頭を抱える。
一応、自分から来ておいて何だけど。やっぱり、何かと気の重い時間だったように思えた。
バリちゃんからは、事前に色々聞いていた。
彼女が話さなかったことは、改めて
だから、私はそれなりに色々なことを知っていた。長く傍を離れている間に、あの子たちに何があったのか。苦しいレースが続いていたことも、その途中にあったケガのことも、味わった挫折も。
結局は全部、よくある話だ。この世界では特に。そうやって夢を諦めていくウマ娘たちを、今までたくさん見てきた。そういうところはどうしようもなく、私もURAという大きな組織の中の人間なのだ。
あいつはそれに向き合った。私は、何もできなかった。
それだけのことだ。……だから、せめて憎まれ役くらいは買うつもりで、ここにやってきたわけだけど。
(……それも、上手くできたかどうか)
ああいう役目は得意だ。私は言うべきことには迷わないタイプだから。……でも、ちょっとは疲れる。
深呼吸をする。ぐいっと、身体を上に伸ばす。
まあいいかと、やっと思考を切り替える。どうあれ、あの子たちはもう大丈夫そうだ。こっちが勝手に悩んでいたって、これ以上できることは何もない。
この後は戻ってまた仕事だ。出張までして慎重に進めていた例のプロジェクトも、やることはまだ山ほど残っている。
考えるだけでも、気が滅入ってきそうだけど。
「私にできること、か」
それでも、自分なりのちょっとした思惑があれば、忙しいのも案外悪くない。
今はまだ、秘密でいい。こんなのは、きっと成り行きに任せてしまうことだ。あの子たちがこの先どうなるかなんて、そんなの分からない。
私はこれからも、ただそれを見守っていけばいい。
(……いつか、話せるといいわね)
私が惚れ込んだ。私にとっての、物語の主役に。
頑張り屋の赤いウマ娘と、小憎たらしい担当トレーナーの、
「──ごめん。遅くなった」
今日のトレーニングの支度を終えて、建物から出てくる。そこに、いつものジャージを着たシオンが立っていた。
「……お疲れ様です」
「あ……やっぱり、怒ってる?」
「そういうわけじゃないっすけど」
判断に迷う。彼女がそう言うならそうなのかもしれない。けれど、キュッと逆三角に結ばれた唇からは、少しご機嫌斜めなのも伝わってくる。
納得できないことがあるのは、間違いなくそうなのだろう。やっぱり少し、説明をしておく必要がありそうだった。
「ちょっと、遠回りして行こうか。時間もあるし」
今日使うコースは、直前まで別の予約が入っていたはずだ。あんまり早く行って、後片付けの場に遭遇するのも気まずい。
反対側の道へと促すと、シオンも素直についてきてくれた。
「笹田さんには、怒られましたか?」
「そうだな。……やっぱり、気づいてたんだ」
「そんな感じかなって、ついさっき納得したんすよ。トレーナーさんが変なこと言うから、最初はびっくりしたっすけど」
「はは……」
思慮深い子で助かった、というべきなのかもしれない。
笹田さんが決してそういう趣味趣向じゃないことも、わざわざフォローしておくまでもなさそうだった。
「全部、話したんすね」
「……ああ」
だからこそ、気づかれてしまったこともあるのだろうけど。
しばらく歩くと、広場の辺りまでやってくる。噴水は穏やかな音を立てるばかりで、いつかとは違って、そこは至って平穏な午後の景色だった。
不意に、足を止める。宙を舞う水流が美しいアーチを描くまでは、まだもう少しあるのだろう。
「何も伝えてなくて、ごめん。でも、こればっかりはちゃんとけじめをつけておきたかったから。どんな事情があるにせよ、俺が何もかもを忘れて、君を傷つけてしまったのは事実だ」
「……」
「自己満足でも、その罰は必要だと思った。ここから、もう一度やり直していくために」
話しながら、肩にさげていた鞄を探る。やがて、中から一枚のクリアファイルを取り出して、シオンに手渡した。
「あ、新しいメニューっすね……うっ。これは、また」
「その通り。今のシオンに合わせて、作り直してみたんだ」
自分にとっては一ヶ月ほどの完全なブランクだった。再スタートの一歩目は慎重にと、退院してからの数日は、まず今のシオンの状態を見ることにした。
問題がないのは、すぐに分かった。自分がいない間も、シオンは一人で練習を続けてくれていたのだそうだ。ひとえにその成果と言えるだろう。
先月の天皇賞への出走も、レース勘を鈍らせない効果に繋がっていると思う。大変な事態の中で、それでもシオンは自分が戻ってくることを信じて、一人でも準備をしてくれていたのだ。
「……トレーナーさんって、やっぱり結構スパルタっすよね。いや、次のレースも近いし、これくらいの目標が必要なのは分かるっすけど」
ならば、自分もちゃんと応えないといけない。そうして気持ちも新たに、自分でも厳しめに思えるくらいの数値を設定して、メニューを組んでみたのだけど。
シオンの反応は、何となく予想していた通りだった。逆に言えば、辛抱強い彼女でもそうなってしまうくらいのレベル、だと言っていいだろう。
「今のあたしに、できると思いますか?」
「もちろん。大変だとは思ってるけど。シオンならできるって、俺は信じてるから」
「……そう言われると、受け取るしかなくなっちゃいますね」
ふっと表情が解ける。そっと抱きしめられた資料の端が、そよ風に揺れていた。
懐かしい感じがした。初めて出会った日の彼女も、今と同じような顔をしていただろうか。
「でも、思ったことは、何でも言ってくれ」
「?」
「メニューのことも、トレーニングのことも。君自身のことも。どんなに小さなことでも、一緒に背負わせてほしいから」
前にも、同じようなことを言ったかもしれない。
けれど、一度離れてしまった今こそ、それはもう一度必要な宣言だと思った。
「俺も、ちゃんと変わっていくよ。これからも、シオンのトレーナーで在り続けるために」
「……」
情けないところもあるだろう。力が及ばないこともあるだろう。
そういうのは多分、すぐには変われない。悩んで苦しんで、一つずつ受け入れていくしかない。
……それでも、きっともう大丈夫だ。
今ここにいる自分を。この世界を目指して走ってきた、かつての自分自身を。他でもない、シオンが受け入れてくれた。
最初から、それだけでよかったんだ。
「それ、トレーナーさんもっすよ」
「え?」
「あたしだって、同じ気持ちですから。……それでお互いに一方通行とか、もう嫌なんで」
照れ隠しをするみたいに、シオンが笑う。
ずっと、たくさんの苦難を超えてきた。その光景はまるで、長い雨が上がった後の鮮やかな虹のように。しっかりと目に焼き付いて、離れそうにない。
(……まだ、時間はあるな)
もう少しだけ、広場で寄り道をしていくことにする。
まずは二人でベンチに腰を下ろした。水のせせらぎが心地よく、明るい昼間の陽気が包み込む。
そこに出来たての資料を広げて。自分たちは久しぶりに、とても穏やかで長い話をした。
【あとがき】
お久しぶりです。鵜鷺りょくと申します。
第43話、いかがだったでしょうか。
今回より第六章が開幕です。
シオンたちの始まりの物語を描いてきた本シリーズも、ついに最終章となりました。
前章での再会を通して、再スタートを切ったシオンたち。URA職員の笹田さんは第四章ぶりの登場になりますが、覚えていらっしゃいましたでしょうか。
シオンが前を向き、松早トレーナーの禊も済んだ。そんな回だったと思います。
【Preparation】と題して、次のレースの準備期間にあたるお話は次週も続きます。
この物語の終幕を支えるお話として、楽しんでいただければ幸いに思います。