夜明けのプリンシパル ─ウインバリアシオンと彼女に惚れ込んだトレーナーのお話─ 作:鵜鷺りょく
シリーズ完結から一ヶ月。簡単にですが、登場人物一覧の最終形と、シリーズ全体を振り返ってのあとがきを作ってみました。
登場人物一覧(最終)
※あとがきは最後にあります。
◆ ウインバリアシオン
本作の主人公。愛称はシオン、バリちゃん、バリやん等。
中央トレセン学園の高等部に所属するウマ娘。レースの世界で誰よりも輝く
何度負けても諦めない負けん気の強い性格で、日頃の地道な努力も欠かさない。一方で年相応の弱さもあり、何か思い悩むと限界まで一人で抱え込んでしまう一面も。
夢や目標への執着は人一倍強いが、その分嫉妬や劣等感といった負の感情も大きい。良くも悪くも周りを気にしてしまうため、自分と周囲を比べて落ち込んでしまうこともしばしばある。
新人トレーナーの松早と担当契約を結び、レースの世界にデビューを果たす。
打倒オルフェを掲げていくつものレースに挑むが、宿敵に届かない現実とファン達からの期待に焦り、一時は走ることを諦めてしまうまで追い詰められた。その中で自分のために力を尽くしてくれる松早の気持ちさえ信じられなくなるが、後に彼の過去を知り、それまでの自分の走りが誰かにとっての救いになっていたことを自覚する。
オルフェや周囲と比較してばかりだった自分の走り方を見直し、再スタートを切った三年目の宝塚記念ではついにオルフェに勝利。勝ち取った一着の喜びを松早やファン達と分かち合った。
トレーナーである松早のことは信頼しており、オルフェに勝つという目標を笑わず、信じてスカウトしてくれたことに感謝している。彼の何気ない言葉に思わず赤面したり、お互いの距離をもう少し近づけたいと思うほどには彼を慕っているが、仕事で無理をし過ぎるところだけは常々改めてほしいと思っている。
オルフェのことは長年追いかけてきたライバルとして目の敵にしている。何度も負けてきた悔しさからか、彼女が絡むと口調が荒くなったり、冷静でいられなくなったりもする。一方、いつも眩しく輝いている彼女の在り方に本心では憧れており、その背中に自分にとっての
《筆者コメ》
言うまでもなく推し。本当に大好きな子ですが、その分、キャラ描写はかなり慎重にならざるを得ないところも多くありました。
もっとたくさん可愛いシーンも書いてあげたかったんですけどね……本作のテーマ上、特に後半は、どうしても苦悩や成長といった場面が中心になっていました。
総じてかっこよくなりすぎず、一人の競技者として悩みながらももがき続ける、等身大の女の子。
自分の気持ちだって強いのに、周りのことまで気遣ってしまう。だから余計苦しくもなる。私にとって、かつて育成ストーリーで泣いてしまったほどに惹かれ、本作で書きたいと願ったシオンはそういう子でした。
◆
シオンの担当トレーナー。本名は
中央トレセン学園に所属する新人トレーナー。ある模擬レースでシオンのことを知り、その走りに惚れ込んだことで彼女にスカウトを持ちかけた。幼い頃から自分の夢や目標が持てず、レースに賭けるウマ娘たちの熱量に惹かれ、「彼女たちの近くでなら何かが見つかるかもしれない」と感じてトレーナーを志した過去がある。
真面目だが自己評価の低いところがあり、感情表現も不器用。トレーナーとしての責任感が強く、特に担当のシオンに対しては真摯に接している。また人一倍仕事に打ち込みすぎる一面もある。
付き合いが長かったり、雑に接してくる相手には割と遠慮がなく、素の口の悪さが出ることもある。実はトレーナーとしてはなかなかスパルタな方らしい。
作中ではシオンと契約し、ウマ娘のトレーナーとして本格的に始動。
真摯に彼女を支え、早いうちからその信頼を得るようになっていたが、初戦の日本ダービーでは敗北。責任を感じるあまり夏合宿ではとことん仕事に打ち込み、シオンの成長には繋げられたが、無理がたたって最終日に倒れてしまった。合宿後もシオンとともに秋のレースを戦い抜き、彼女が挫折しかけた時は傍に寄り添って勇気づけた。
一方でトレーナーとしての無力感から精神的に追い詰められていき、後にある事故がきっかけで記憶障害に陥った。一時はシオンのことも分からなくなったが、彼女たちの尽力によって回復。もう一度シオンと向き合ったことで自分の過去も乗り越えた。
復帰した後は、宝塚記念におけるシオンのGⅠ初勝利を傍で見届けた。
シオンのことは大切に思っており、彼女のためならどこまでも力を尽くすことができる。レースのことだけではなく、まず何よりも彼女自身の気持ちを大切にし、必要となればライバルとの合同合宿やファンとの交流会を積極的に設けたりもしていた。
かつては自分には何もないと思い込んでいたが、劣等感を抱え苦しみながらも努力し続けるシオンと出会い、いつしか"彼女の夢が叶うところを一番傍で見届けること"が自分自身の夢になっていた。
《筆者コメ》
全く同じではないけれど、シオンとどこか似通ったところがあるトレーナー。それが彼のコンセプトでした。
似た苦しみを知っているからこそシオンと深く響き合い、反面、二人だけでは最悪どこまでも落ちてしまいそうになる。結果としてかなり危ういコンビになっていた気もします。
ただ、そういった重めの要素を抜くと実は分かりやすい人です。素は口が悪く皮肉っぽいところもあるものの、気持ち自体は真っ直ぐで、基本シオン相手にだけは強く出られません。
大人だからというのもあると思いますが、案外"好きな子の前ではカッコつけたがる少年"みたいな一面もあるのかもしれませんね。
◆ オルフェーヴル
シオンのライバル。史上七人目のクラシック三冠ウマ娘。
中央トレセン学園の高等部に所属するウマ娘。いつも堂々とした態度を崩さず、その立ち振る舞いは当人が自称する通り王のそれといえる。周辺世代の中でも頭抜けた実力を有しており、学園のベテラントレーナーたちからも別格と評されている。
性格は基本マイペース。何事も我が道を行くタイプではあるが、決して周りを軽んじているわけではなく、むしろ面倒見がいいところもある。臣下、もとい彼女を慕うウマ娘たちも多い。
意外にノリの良いところもあり、トレーナーである天池と夏祭りへ遊びに行ったり、シオン陣営との合同合宿でも彼女なりに意欲を見せたりしていた。
作中では、主に夏合宿あたりからシオンと深く関わっていくことになる。
日本ダービーの後、シオンを負かした張本人ではありながら、敗戦のショックから立ち直れずにいた彼女を強引に連れ出して復帰のきっかけを作った。続く夏の合同合宿でも、併走トレーニングや模擬レースでは容赦なく彼女を叩きのめしていたが、同時にその成長を促そうとするような態度も見られた。
秋のレースでもシオンと度々対戦し、菊花賞ではお互いの全力を出し切った末、三冠ウマ娘の栄光を勝ち取った。以降も彼女のことは気に掛けていたらしく、ジャパンカップの様子も観戦していた。
松早が記憶障害に陥った際は、シオンに手を貸してその回復に一役買う。その後の宝塚記念でシオンと全力でぶつかり合い、敗れはしたものの彼女を認め、いずれ雪辱を果たすことを天池と誓い合った。
シオンに対しては、雑に扱っているようでそれなりに興味はあるらしく、レースでぶつかっていく度に彼女を気に掛ける場面も増えていった。彼女をからかって反応を楽しんでいることもある。
天池のことはトレーナーとして信頼を置いており、遠回しに"信頼できるトレーナーはお前だけだ"と伝えたりもしている。それはそれとして、自由奔放に振る舞うことで彼のことを遠慮なく振り回したりもする。
《筆者コメ》
王様らしい口調が難しかったです。でも書いてて何か楽しかった。
シオンが越えなければいけない大きな壁として、なるべく格を落とさないようにと気を遣っていたキャラでもありました。本作では原作の育成ストーリーよりも出番が増えており、もちろんセリフの量もそれなりに多かったので。こういう時はどんな風に言いそうかなーと悩んだ時は、某金ピカ鎧の英雄王を参考にしたりもしていました。
作中では、度々オルフェがちょっかいをかけてくれるおかげで、いつもどこか遠慮がちなシオンのムキになる一面を引き出してくれていたかなと思います。そういう意味でも、やっぱり彼女にとっては欠かせない存在なんだなぁとしみじみ思いますね。
◆
オルフェの担当トレーナー。松早の同期。
中央トレセン学園に所属する新人トレーナー。松早と一緒に観戦したある模擬レースの後、オルフェにスカウトを持ちかけて契約を果たした。新人トレーナーの中では優秀な方で、オルフェの右腕として周囲からも期待されている。
飄々とした性格で、他人から見ると何を考えているか分かりづらいタイプ。物言いが大げさで胡散臭く、嫌味なことをさらっと言ったりもするので、関わった相手からは総じて警戒されやすい。
一方で苦労人な所もあり、特に担当ウマ娘であるオルフェには振り回されがち。敵陣営でありながら無理をしがちな松早を気遣ったりと、意外に友達思いでもある。
作中では第一章から登場。シオンのスカウトに思い悩む松早をからかい、一年後の日本ダービーではオルフェと共に彼らの前に立ちはだかって見せた。
夏合宿では松早から合同トレーニングの誘いを受け、シオンの執念がオルフェの成長の糧になることを見込んで承諾。松早にちょっかいをかけるのは相変わらずで、その担当ウマ娘であるシオンと話す機会もあったが、例に漏れず余計なことを口走ったせいで彼女からも警戒されることになった。
秋に入り、菊花賞でオルフェが三冠を達成する姿を見届ける。その後はしばらく忙しくしていたが、合間にオルフェに付き添う形でシオンたちのジャパンカップを見に行ったりもしていた。
松早が記憶障害に陥った際は友人として色々手助けをしていた。思い悩むシオンに養成所時代のことを語り、松早の人柄と彼がシオンの走りに救われたことを伝え、二人の関係修復に一役買った。
オルフェのことは大切に思っており、基本彼女に対しては頭が上がらない。自由人気質な彼女のフォローで苦労させられる場面は多いものの、最近はそれに慣れすぎてむしろ快感になってきたらしい。
松早に対しては内心結構なライバル意識を向けている。養成所時代に彼がウマ娘たちのために力を尽くす場面を何度も見てきており、そんな彼の姿にトレーナーとしての理想像を見たこともあった。
《筆者コメ》
実は本作で一番書きやすかったかもしれない人です。
特に松早と絡む場面では軽快に話してくれますし、程よく嫌味なことも言うので言い返しやすい。地味に松早のことをちゃんと「松早」と呼んでくれる貴重なキャラでもありましたね。(本作は松早視点が多く、シオンも基本トレーナーさんとしか呼ばない)
実はシオンと似ているところがあり、彼の松早に対する複雑な対抗心は彼女がオルフェに向ける思いと近かったりします。お互い自分のそういうところを苦く思っているので、二人の相性が何となく悪いのは軽い同族嫌悪ゆえなのかもしれません。
◆
URA所属の女性職員。シオンのデビュー当時からのファン。
折に触れてはシオンたちを訪ねてくる。学園にやってくる表向きの目的は社内広報のための取材としているが、実際はシオンの顔を見たかったり、彼女のことで松早にお小言を言いたいだけだったりと割と身勝手な理由。
基本的には面倒見のいい姉御肌。ちょくちょく職権を濫用しているような場面もあるが、基本的に仕事はちゃんとこなしており、色々な権限を任されるくらいには優秀らしい。
シオンのことが絡むと基本的にテンションがおかしくなり、異常に早口になったり妄想癖が強くなったりする。
本編では日本ダービー前にシオンたちの元を訪れ、戯れで松早のトレーナー力を試したりしつつ、最終的には二人に激励を贈った。夏合宿でもURAの仕事と称して合宿所を訪れ、ダービーで負けたばかりのシオンにあえてきついトレーニングを提案する松早に釘を刺しつつ、慎重に二人を見守っていた。
秋以降は長期の仕事で遠方に出張していたが、忙しいながらもその合間でシオンには連絡を取っていた様子。松早にも同様で、文化祭でジャージメイド姿になったシオンの写真を送るように圧力をかけたりもしていた。
三年目の宝塚記念前には仕事を落ち着けて帰ってきたが、一番苦しい時にシオンたちの傍にいられなかったことを悔やみつつ、せめて自分にしか出来ない役割として松早にキツい説教を行った。
シオンに対しては彼女のデビュー戦の頃から惚れ込んでおり、プライベートでも親交を深めていった結果、今は年の離れた友人のような関係になっている。接しているとたまに様子がおかしいことはあるが、それでも彼女のことを気に掛けており、松早に負けず劣らず彼女の幸せを願っている。
その松早とは何かと折り合いが悪く、顔を合わせると軽い口論に発展することもしばしば。それでもシオンを想う同士として信頼はしており、トレーナーとしての手腕も高く評価している。
《筆者コメ》
実は本作で一番書きやすかったかもしれない人パート2。
天池もそうでしたが、松早に遠慮ない言葉をぶつけてくれる存在というだけでかなり筆が軽くなっていた印象でした。シオンのことを考えている時の強火オタクみたいな思考描写も楽しかったですし、もう少しそういう場面を書きたかったキャラでもあります。
主な出番が前半に固まってしまっており、結果としては後半にいくほど存在感が薄くなっていたかもしれません。
当初の構想からいくと、実はこの人の大きな出番はもっと先にあったりするんですよね……。
あとがき
お世話になっております。鵜鷺りょくと申します。
一ヶ月も経った今になってではありますが、あらためまして、本作『夜明けのプリンシパル』を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
内容をまとめるのに少々悩みましたが、ここに筆者からの本作への思いを綴らせていただきます。
●本作スタートまでの経緯
当初、pixivにて連載を開始したのが2024年の12月でした。ちょうどウマ娘でシオンが育成実装された後だったかと思います。私の未熟さもあり、第三章まで進んだ所で半年以上もの休止期間をいただいた後、2026年の1月からはハーメルンとの並行態勢にて更新再開となりました。
完結まで全てを合わせると、ざっと一年半以上。全体文字数も30万字を越え、それまで長編を書ききった経験のなかった私にとっては、かなり長いお付き合いになった作品でした。
本作を書き始めたきっかけとしては、やはり推しのウマ娘であるシオンの成長物語を自分の手でも書いてみたいと思ったところにありました。思えば三周年での発表からキャラデザに惹かれ、断片的な情報を拾いながら短編を書いたりもしているうちに、自分の中で彼女のイメージが育っていったせいなのかもしれません。
そうして構想自体はあったんですが、最初は上手くまとまらず、なかなか表に出すことができませんでした。そんな中ついにゲームの方でシオンが育成実装され、私も早速お迎えしてその物語に触れてみることになりました。
あんなに自然に涙が出たのは久しぶりのことでした。バレエの世界で夢破れた過去と、オルフェに挑みながらも届かずに焦りを募らせていく現在。たくさんの誤魔化せない気持ちの中で悩み続けるシオンの姿には、もしかすると自分の中でも何か重なるものがあったのか、心の底から感情が込み上げてきました。
もう頑張らないでくれよ、と。育成ストーリーを追った方たちにはそれだけで伝わるかもしれませんが、個人的にはあの場面が一番印象に残っています。その気持ちを向けてしまった相手のことも含め、あのどうしようもなさが本当にしんどくてもう……。
ただ、結果的に言えばそれが最後の一押しだったのかもしれません。そうしてさらにシオンの物語にのめり込んでいった結果、本作『夜明けのプリンシパル』は、半ば見切り発車のような形で投稿をスタートする運びとなりました。
●シオンと本作の物語について
シオンの魅力はと聞かれれば、私としてはやっぱり、綺麗なものばかりではいられない夢や目標への気持ちにあると思います。
オルフェへの嫉妬と憧れ。主役を目指してレースに打ち込む今の自分と、輝き方を見出せずにバレエの世界を去ってしまった過去の自分。人一倍まじめなシオンだからこそ、その狭間で何度も揺れ動きながら、自分の中に現れる負の感情を後ろめたく思ったりもして苦しんでいました。
本当はそんなもの、持っていて自然なもののはずなのに。それでも前を向いて、地道に努力を積み重ねてきた自分のことを褒めてあげてもよかったのに。一方でそれができない難しさを察せてしまうところもあり、本当にままならないものだと思います。
だからこそ、トレーナーの存在は転機だったのでしょう。綺麗なものばかりではないシオンのことを理解して、受け止めて、一緒の歩幅で走って行ってくれる存在。本作のオリジナルトレーナーである松早も、キャラを構想していた時の土台はそこにありました。
原作のトレーナーは、ある経緯があってシオンとの適切な距離感を意識するようになり、彼女のためを思ってあえて心の深くに立ち入らない場面もありました。一方で本作の松早は、原作と異なる経緯を辿っていたこともあり、シオンに対してはかなり踏み込んだ対応をしていたと思います。
どちらが正しいのかは分かりません。ただどちらにしても、シオンの抱えているものは結局どこかで爆発することになっていたと思います。クラシック期後半で降りかかることとなる彼女への試練は、本作でも原作とはおおよそ変わらない展開にしていました。
シオンの隣に立つトレーナー・松早という人物は、全く同じではないけれど、彼女の苦悩を理解できるだけのバックボーンを持っています。かつて自分の夢や目標を見つけられず、それを持って何かに打ち込んでいける周りの人たちに劣等感を覚えていた彼は、やがてトレーナーを志しながら地道な努力を続けるも、結局求めていたものには手が届きませんでした。
歩んだ道は違っても、松早はシオンの抱いてきた感情を実感として知っている。だからこそその走りに惹かれ、彼女の気持ちを汲み取って接することができた。似たもの同士のシオンの隣だからこそ、彼女を支えることを原動力にして進むことができた。
そうして気づけば、お互いになくてはならない存在になっていた。そんな二人の関係は、共依存とまでは言いませんが、何か一つでも掛け違えれば一緒にどこまでも落ちていってしまいそうな危うさもあったと思います。
近しいがゆえに、早いうちから打ち解けていくことのできたシオンと松早。ですが、ともにまじめで自己評価の低いところのある二人は、一番大事ともいえる思いをそれぞれの胸の内に隠していました。
まだ誇れるような結果を出せていないから。トレーナーとして担当ウマ娘の力になれていないから。
最初は小さなすれ違いだったかもしれません。それが少しずつ歪みを増していくのが、この『夜明けのプリンシパル』ならではの展開になっていったと思います。
「君は俺の夢だった」
「あたしはあなたにトレーナーでいてほしい」
本作で二人が得た答えは、たったそれだけの言葉でした。
シオンはずっとオルフェを追い越せなかった。敗北を重ね、その果てには世代の主役の座も持って行かれて、もう彼女には追いつけないと思った。心のどこかで主役としての理想像にもなっていたオルフェになれない事実は、シオンを打ちのめし、ずっと積み上げ握りしめてきた努力すら手放させようとしました。
事実、シオンがオルフェになることはおそらくできないと思います。生まれ持った人柄も資質も、積み上げてきた実績だって違う。ウマ娘の世界にもそこから生じる実力や注目度の差などは必ずあるはずですから。見る者全てを惹き付けてしまうようなオルフェと同じ輝きを得ることは、きっと難しかったことでしょう。
それでも、もしそんなシオンだけを見つめ続けた誰かがいたなら。結果だけではなく、届かない壁に挑み続ける彼女の在り方を愛した誰かがいたなら。その人たちの中で、ウインバリアシオンという存在は確かに輝いていたはずです。
本作において、松早はシオンの走りに救われました。ネイチャやシュヴァルたち三姉妹も。クラスメートのパーマーたちに、笹田や釘街といったファンたちも。作中には、それぞれの形でシオンのことを想い、愛し、彼女が彼女のまま報われることを望む人たちがいました。
シオンにとって、それは最初こそ重荷になりかけていました。ですが、あるいはワガママとも言えるほどに強い気持ちでシオンの傍に居た松早の本心を聞いたことで、シオンは自分を見守ってきてくれた人たちの気持ちを正しく受け取り直すことができました。
憐れみや義務感ではない。みんなが抱えるそれぞれの気持ちがシオンを支えてきた。それはいつもどうしようもない感情を抱えてしまいがちだった彼女への肯定でもあり、他でもないウインバリアシオンを信じる人たちにとっての主役になると、彼女が自分の在り方を見つけるきっかけにもなっていきました。
届かなくても立ち止まらなかった。何度俯くことがあっても顔を上げてきた。
辛くて情けなくて、恰好がつかないことばかりでも。そんな自分の走りを誇って、ひたすら前に進んでいく。
そしてその輝きが、他の誰かに劣っているとは限らない。
最終盤。オルフェを打ち破っての宝塚記念勝利という展開は、本作では大きな史実改変になっていたかと思います。それでも私自身、この物語の答えをどうしても示したくて、そこまで書ききることは早くから決めていました。賛否はあるかもしれませんが、しっかり悔いのない締めくくりになったのではないかと思っています。
自分勝手でも嘘偽りのない、どうしても譲ることのできない気持ち。それを抱えて、傷つきながらも走ってきたウマ娘とトレーナーの相互救済。振り返ってみれば、本作『夜明けのプリンシパル』で描きたかったのはそういうテーマだったのかもしれません。
●終わりに
……すごく長くなりました。申し訳ありません。
一応物書きの端くれでありながら、昔から端的な言語化が苦手なものでして。そこは何とぞご容赦を。
さて、ウマ娘の重厚な原作ストーリーをお借りしながらも割と好き勝手に書かせていただいた本作ですが、重ね重ね、ここまでお付き合いいただけたことに心より感謝いたします。
散々最後だ最後だと言ってきましたが、正直、まだこの作品を通してやりたいことは色々あったりします。それは単純な続きとして、三年目以降からシオンが引退するまでの道行きを書いていきたいという気持ちであったり、もっと多くの人に触れていただくため、いつかちゃんとした本にまとめて即売会に持って行ってみたいという興味であったり。
実現するかはまだ分かりません。ですが、また気が向いた時にでも構いませんので、こちらの作品の状況を覗いてみていただければ嬉しく思います。ご意見やご感想なども引き続きお待ちしておりますので、何とぞ。(いただけると本当に励みになります……)
それでは流石にこの辺りで。またどこかでお会いいたしましょう。