一般通過のクロスオーバー   作:ヤックルたんペロペロ

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✖︎呪術
天に昇る日


 どうも人間の諸君、吾輩である。

 

 どうやら魔法パワーで異世界に飛ばされてしまったらしい吾輩は、人間たちがマンモス狩りに命懸けになっているのを尻目に草を食べていた。

 

 人間の文明が発展するまでまた首を長くして待たねばならない。この世界でも吾輩の存在理由(レゾンデートル)は変わらぬため、命の循環をしながら日々を過ごした。

 

 この時代なら必死こいて覚えた変化の術を使う必要もない。

 

 

(………神がいない)

 

 

 ただ、この世界には吾輩のような『神』がいなかった。コダマたちもおらず、ちょいと寂しさを感じている。

 

 その代わりによくわからぬ者たちはいた。

 

 それらは生きているというわけではないが、死んでいるというわけでもない。吾輩の『命の循環』の枠には当てはまらぬ者たちである。

 

 一応逃げ惑うそれらを夜の姿で捕まえて吸収してみると、跡形も残らず消滅した。

 

 循環の枠に当てはまらぬ彼らを消しても、『(ことわり)』には触れぬようだった。

 

 この逆も然りである。ただし彼らは生命力を流された瞬間、爆散した。

 

 はじめはその原因が分からなかったが、彼らに触れているうちにすぐに分かった。

 彼らは人間ではないが、ヒトに近しいものを持つ。

 苦しみ、怒り、憎悪……彼らは『(マイナス)』の存在だ。それも人間たちから生み出された──あるいは切り離された者たち。

 そんな彼らに『+』を含んだエネルギーを送ってしまうと肉体が耐えられないようだ。

 

 

 彼らを生命とみなさぬ以上、吾輩が干渉することはない。まあ、デイダラボッチの姿で歩く時にうっかり気づかずぶつかってしまうかもだが……そこは許してヒヤシンス。

 

 

 ひとまず時間はたんまりあったので、将来に向けて変化の術のクオリティを上げることに専念した。

 

 

 

 

 

Many tens of thousands of years later...

 

 

 

 

 

 スポンジボブでしか見ないようなリアルな時間が経った後、ようやく人間たちの文明に動きがあった。狩猟生活から採集生活へと移行していき、その盛衰に合わせて異形の者たちも活発になっていった。

 

 そろそろ調子に乗って目立っていると、人間たちが「カブト狩りじゃあ!」のテンションで吾輩の命を狙いに来てしまう。

 

 そのためなるべく目立たないようにはしているのだが、いかんせんデイダラボッチ時の姿が巨体なせいで目立ってしまう。(夜はその巨体さのあまり上手く化けることができない)

 

 昼の時は一般鹿に化けているので目立ちはしないのだが…。

 

 

 悩んでいるうちに人間たちが討伐に来てしまったので、仕方なく自然に還ってもらった。

 

 予想外だったのは不老不死の目的以外に、吾輩を人間曰く「呪い」の類として認識し、祓おうとしている者たちもいたことだ。

 

 側から見たら夜の吾輩は呪いの彼らに見えてしまうのだろうか? ……いや、結構見えるな。

 

 ああ……もっと命懸けになれるような『きっかけ』さえあれば、デイダラボッチの姿でも変化の術を使えるようになる気がするのに。痒いところに手が届かない。

 

 

(しかし、人間は何でそこまで不老不死に執着するのかね?)

 

 

『人間』の吾輩だったら……いや、人間の吾輩でも別にどうでもよいと思っている。

 なら尚更不老不死への執着を理解するのは難しそうだ。

 

 

 生きることも、死ぬことも同じである。

 

 ただありのままを受け入れなさい。

 

 

 

 

 

 それからまたまた時が経ち、吾輩でも知っている時代になってきた。

 

 コダマネットワークが使えないので情報収集が大変なのがネックである。自分で人間社会に紛れ込み、情報を得るしかない。

 

 人間たちの方は吾輩を畏怖し、ほとんど狙いに来ることがなくなった。狙いに来るとしたら特殊な力を使う者たちである。術師? という者たちらしい。

 

 吾輩ってば防御力はペラだから、割と簡単に殺されてしまう。ただ触れた瞬間に命を吸い取ってしまえば、あとは自然に還るだけ。

 

 吾輩だって好きで命を奪いたいわけじゃないのになあ…さすがに良心が痛むというか。

 

 でもまあ仕方ないね。正当防衛だから。

 

 

 

「私を、殺してくれ」

 

 

 

 しかし今回の客は少し訳アリらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 人魚の肉を食べれば不老不死になれる、なんて伝説は日本各地にある。

 

 他にも不老不死にまつわる伝承は探せば世界各国で出てくるだろう。

 

 何が言いたいかと言えば、昔の人間にとって『不老不死』とは喉から手が出るほど求めてやまないものだったということだ。

 

 

 ゆえにこそ、仮に老いず──または死なない者がいたなら、こう考える者が出てくるだろう。

 

 こいつを食らえば、己が不老不死になれるのではないか────と。

 

 その考えはどこまでも醜悪で、残酷で。

 

 数多の手が欲望のまま手を伸ばし、手にかける。

 

 

 

 

 

「お前の噂は聞いた。生物の『生死』を操る存在だと」

 

 

 崖の上からデイダラボッチを見上げるその人間は、妙齢の女である。

 

 しかし体のいたるところが欠けており、さながら生きる骸だった。その身で死んでいないことが逆に異常なほど彼女の気配は死気に満ちている。

 

 デイダラボッチは首を傾げる動作をした後、緩慢な動きで彼女の元へ近寄った。

 

「私は……私はッ、死ねない体なんだ。死んでも、死ねない………もう、こんな地獄のような毎日は嫌なんだ…」

 

 命からがら逃げのびて、欠けた部分は絶えず激痛が襲う。それでも彼女には終わりがなく、ただただ苦しみの中で溺れている。

 

「お前が私の救いなんだ…!! だから、どうか………後生だ」

 

 女は膝をつき、深々と頭を下げる。

 

 そんな彼女をデイダラボッチはじっと見つめ、巨大な手を伸ばした。

 人間一人など簡単に潰せてしまえるその大きさ。だがその手つきは思いの外優しく、彼女を包み込む。

 

「……ありが…」

 

 彼女は瞳を瞑った。この地獄からようやく抜け出せることに心から安堵して。

 

 

 だが────しかし。

 

 

「なっ、ぜ……」

 

 

 彼女の欠けていた傷が治り、痛みが消えていく。

 

 そうして肉体が完全に戻った時、彼女はデイダラボッチを見つめた。涙に濡れ、裏切られたような顔で、その後には怒りをぶつける。

 

 なぜ殺してくれぬのかと。なぜ、なぜだと。

 

 彼女は地面を殴り、治った拳が血だらけになるまでその行為を続ける。

 

 視界は涙で歪み、最後は額を頭に擦り付けるようにして大声で泣いた。

 

 デイダラボッチはその様子をただ静かに見つめ続けた。

 

 

 夜が過ぎれば、やがて朝が来る。

 

 

 日が昇り始めても泣き続けていた女は、ふいに感じた風の気配に顔を上げた。

 

 その異形の姿が変貌していく。まるで地平線から昇る朝日から逃れるように、その巨体な体は彼女のいる場所に向かって傾いていく。

 

 彼女は飛ばされぬよう、とっさに木にしがみついた。

 

 生じた風圧は蒸し暑さとともにやって来る嵐のようである。

 

 枝が折れ、葉っぱが舞い、やがて嵐が嘘のように静寂が訪れる。

 

 彼女は恐る恐る目を開いた。

 

 

「人……間?」

 

 

 少女にしては背が高く、少年にしては線が細い。

 中性的な見目のその人物は、いきなり彼女の前に現れた。これが誰なのか、冷静さを欠いている彼女でもすぐに分かった。

 

「お前は………呪い、ではないのか? なら、いったい…」

 

 人ならざる存在は彼女の手に唇を近づけ、チュッと口づけた。その行動に思わず彼女の手が引っ込む。傷はすでに治っていた。

 

「これは……術式によるもの? いや、そもそもお前はいったい何なんだ」

 

「 」

 

「………話せ、ないのか」

 

 呪霊でもなく、人間でもないのなら。それこそこのような芸当ができるのは神しかいないだろう。

『生死』を司るその術式──権能? を鑑みるなら、確かに神に相応しい。

 

 だがこの世に『神』と呼ばれる存在はいても、それは人間の信仰心から生じた呪いである。

 

 純粋な神など、この世には存在しないはずだ。

 

 だが────。

 

 

「お前は………まさか本当に神だとでもいうのか?」

 

 その問いには肯定の頷きが返され、とうとう彼女────天元はへたり込み、から笑いをこぼした。

 

 神は自分に「生きろ」と言ったのだろうか?

 

 それとも神でさえ彼女を殺すことはできなかったのだろうか?

 

 どちらにせよ天元が死ぬことはできない。不死の術式を持ってしまったのだから。

 

 項垂れた彼女は、『生』きるしかなかった。

 

 そこに意味はあるのだろうか? 自分が生きることで生まれる意味が。

 

 わからない。暗く重たい感情が腹の底に溜まる。

 

「……なんだ?」

 

 ふとその時、肩を叩かれる。

 

 顔を上げた天元はそこで、顔いっぱいに森の風を浴びた。木々や花の匂いが体の中に入り込んでくる。

 薄明るい世界の最果てには日が顔を見せ始め、世界を照らしていく。

 

 生きていれば、何気ない場面で目にすることのある朝日の姿。

 

 それがなぜだか、今ばかりは特別なもののように感じられた。

 

 なぜだろうかと彼女は考え、ああ、と独りごちる。

 

 

 

「もし死んでいたら、私はこの朝日を拝めなかったのか……」

 

 

 

 胸中はいまだに死への希求が棚に惜しみなく陳列されて、彼女はその商品の一つを取ろうとしている。

 

 それでも、何気ない世界の『色』に心を奪われてわずかに涙を流す心が、彼女にはまだ残っていた。

 

 そう、残っている。

 

 

「………なあ、お前に名はあるのか? 私は『天元』と言う」

 

 

 それに神は口を開いて、そして噤み、地面に文字を書いた。あいにくと天元はその文字を読むことができず、その意味は文字を習得してから知ることになる。

 

 

 

 シシ神────。

 

 呪い蔓延るこの世界には、本物の神がおはした。




神を守らなければならない天元VS神を暴走させた先で何が起こるか見たい羂索の戦いの末に、最後は暴走したシシ神を宿儺が泣きながら食べて終了。
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