一般通過のクロスオーバー   作:ヤックルたんペロペロ

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ダークライ「誠に遺憾です」

 前回までのあらすじ。

 

 天元から定期的に餌づけされるようになったシシ神は、幸せ鹿生活《ハッピーディアーライフ》を送っていた。

 

 しかしそこに現れた縫い目の術師──羂索の策謀により、シシ神は首を奪われ暴走してしまうことになる。

 

 数多の命が無作為に奪われていく中、羂索の野望を止めるべく立ち上がった天元は術師と共同戦線を組み、人類の存亡をかけた戦いが始まった────。

 

 

 

 それから時は流れ、平………ん? その、人類の存亡をかけた戦いを詳しく(kwsk)知りたいって?

 

 いかんせん吾輩は意識が無かったものだから、吾輩目線で語ることはできない。具体的な話を聞かされたのも天元からだったし。

 

 まあ吾輩がこうして語っているということは、少なくともシシ神は『死ななかった』ということだ。

 

 天元からは「神なんだから人間に隙を見せるな」と叱られた。これじゃあ生と死を司るだけで、普通の鹿と大差ないじゃないかと。

 

 吾輩は反省を兼ねて首を伸ばし、頭を地面につける。天元は頭を押さえて呆れたため息をついた。

 

 

 皆が知りたがっている『羂索VS天元VSダークライ』に関しては、来年の春に劇場公開される。

 

 解き明かされる羂索の過去や、天元のお色気(サーヴィス)シーン。そして単純に巻き込まれただけのダークライ。

 映画のポスターの宣伝言葉にもなっている「生きるとは何か?」の意味をぜひ劇場で確認してみてくれ!

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 それでそう、世は平安時代になった。

 

 この間暴走(やらかし)てしまった吾輩は、天元がつくった結界の中で過ごしている。

 吾輩が住まうこの内部にある森はかつてと同様、「シシ神の森」と呼ばれるようになった。天元曰く、結界に認知阻害? の効果が付与されているらしく、吾輩を狙う者はめっきり現れなくなった。

 

 命の循環の方は森の中で行えているので今のところ問題ない。暴走した時に蓄えた分もその直後に自然に還している。

 

 しかしずっと同じ場所にいるのも飽きてくるわけで。

 

 試しに結界の外に出てみると、天元の傘下らしい術師がすっ飛んできた。以降、暇つぶしがてら境界線のところで反復横跳びすることが増えた。

 

 仮にもシシ神の暴走で人類が危険に晒されたわけだから、ニンゲン側も監視はしておきたいのだろう。

 

 監視役のマニュアルに、「シシ神が外に出た場合は餌で釣り、内部に連れ戻すように」という項目があるのは何かこう、腑に落ちないが。

 

 

 

 次第に監視役をからかうのにも飽きてきて、吾輩はとうとう家出することにした。

 

 鹿の角を頭につけて「おねがい♡」してきた天元には悪いが、吾輩だってたまには遊びに行きたくなる。

 

 特に、人間社会の観察は長い暇つぶしにはもってこいなのだ。感覚的にはアリの行列をしゃがみ込んでじっと眺めるあの感覚に似ている。

 

 

(帰りにお土産くらいは持ってくるか)

 

 

 脱走した後は水上歩行で追っ手を振り切った。

 

 術師を見ているとふと思うのだが、吾輩はやつらのような特殊な力が使えない。呪力…というものらしい力でバトル漫画の真似事ができるのが羨ましい。吾輩だけ世界観がクトゥルフ方面じゃないか。いやまあ、ジブリの世界観なんだけど。

 

 呪力が使えないのは魔法が使えないのと同じで、生死を司る神がそんなことまでできたらズルくね? ということなのかもしれない。

 

 吾輩もマカンコウサッポウみたいなことがしてみたかった。

 

 

 肝心の変化については問題なし。手をグーパーさせて、握った拳で岩を殴ったらめっちゃ痛かった。

 

 ちょいとブランクが空いたが見た目は完璧な子ども。

 それから野を越え山を越え、時には川に流され人里に向かう。

 

 シシ神やデイダラボッチの姿ならまだしも人間の姿であれば動物が近寄ってくる。が、勘のいい個体は耳や尾をピンと立てると、蜘蛛の子を散らして逃げていく。

 

 人間に化けている吾輩は肉体の強度もそのまま人間。ゆえに狼に噛みつかれたり猪に吹っ飛ば(タックル)されたり、『くまさんに であった♩』すると大ダメージを負う。

 

 だったら鹿の姿で移動すればいいんじゃないかって?

 

 人間の里に行く前に二足歩行を練習しないといけないだろう。人間の姿で四足歩行の癖が出たらヤバい子待ったなしである。

 

 

(あっ)

 

 

 ある日……森の中、クマさんに────出会っちゃった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 あえなくツキノワグマに敗北した少年は、土の中に埋められた。蘇るのはクマの気配が消えてからだ。

 

 少年はタイミングを見計らい土の中から這い出し、クマが戻ってくる前にこの場を去ることにした。

 

 しかしそこで妙に森の気配が静かなことに気づく。

 

 鳥の鳴き声一つ聞こえない。先ほどまでは地中の中でもその鳥たちの声が聞こえていたというのに。

 

 不思議に思った彼は辺りを見渡した。感じるのは濃厚な血の香り。

 

 鉄くさい匂いのする場所には『死』の気配があった。シシ神の本能がその場所へ彼を導く。

 

 足音を一切立てず、茂みの間から顔を覗かせ真っ赤な現場を見た。

 

 草木に広がる血の跡。横たわるのは彼を土まんじゅうにした犯人で、黒い瞳からはすでに生気が消えていた。

 

 喰らう側だった獣が今や喰らわれる側になり、ああこれもまた命の循環。

 

 などと思考していたその時に、クマを仕留めた捕食者が彼の存在に気づいた。

 

 捕食者からすればその子どもは矮小な体の幼子でしかなかった。ただそれは最初見た時の感想で、捕食者はすぐにその子どもの違和感を抱く。

 

 人間であれば──それこそ動物であれば流れる呪力の流れ。ましてやこの血なまぐさい状況を子どもが目の当たりにしたならば、恐怖でその呪力は強く不安定に放出されるだろう。

 

 だが、その子どもからは呪力の流れが一切感じられなかった。

 

 その代わりに感ぜられるのはもっと別の、本能的に訴えてくる『何か』。

 

 捕食者たる男はこの時点で子どもに興味を持った。

 

 その『何か』を知るために手っ取り早いのは何か? そう、答えは簡単である。

 

 

「────『解』」

 

 

 シシ神は土まんじゅう先輩から、サイコロステーキ先輩に進化した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 サイコロステーキにされた少年はそのまま死体に徹したのだが、肉のカケラをヒョイパクした大漢が思わずといった様子で「美味いな…」と呟いたものだから、「お前人の心とかないんか?」と思ったショックでうっかり蘇ってしまった。

 

 その後は首根っこを掴まれお持ち帰りされてしまい、大漢の専属料理人らしい少年に捌かれることになった。

 

 仔細を語るとまあ何ともB級スプラッタ的ショッキングなことをされ、「お任せください宿儺様!」と声高らかに語る料理人の方も大概頭がおかしかった。

 

 こんなに頭のネジが外れている人間に出会うなんて久しぶりだ。額に傷のあるあの人間もイかれていたが、術師ってのはどうも異常な人間が多い。いや、異常な人間だから術師をやっているのか?

 

 ぐつぐつ煮込まれていた彼はそこいらでそろそろ夜になることもあり、料理人に拘束プレイをかまして大鍋から這い出た。

 

 大鍋で煮込まれたのなんてシシ神生でもはじめてである。「ヘタをとっときゃ再生する」理論で自分の頭部がまな板の上に残されているのも彼の人間部分の常識を軽々と踏み荒らしてくる。

 

 この世界は彼を飽きさせないが、そろそろ元の世界のぬくい日々が恋しくなってきた。

 

 

「逃さんぞ」

 

 

 首が伸びていく少年の前に現れた人間喰らいの大漢。

 

 ふたたび──いや、前の世界の分を合わせれば、三度シシ神の暴走が始まろうとしていた。

 

 


 

【来春公開予定、劇場版『羂索VS天元VSダークライ(仮題)』】

 

 

「羂索、お前が成そうとしていることは『生死のシステム』の崩壊だ────つまりシシ神が死ねば、人類は消滅し得る」

 

 今なお黒いドロが地を這い、首を無くした巨大なバケモノが数多の命を食い殺している。

 

 まるで地獄のような光景だった。

 

 しかしてその光景を眺めながら、羂索は薄ら笑う。

 

「『神』が暴走した先に何が起こるのか楽しみにしていたんだが、首を取り返そうとするだけとはね。────正直、少し期待外れだよ」

 

 このまま朝が来れば、あのバケモノは消滅する。

 その先で天元の宣言通り生物は『生死』の概念を無くし消滅するのか。あるいは『死』が無くなり、新しい命が『生』まれることも無くなって、ゾンビのようになった人間どもが地上を彷徨うのか。

 

 これで期待を超える『何か』が起これば、なんて面白いのだろうかと羂索は目を細める。

 

 

「これ以上貴様の好きにはさせんぞ」

 

「では思う存分、呪い合おうじゃないか──天元」

 

 

 世界は呪いに満ちていて。

 

 しかしその根源たる『いのち』には呪いなどなく。

 

 バケモノの頭上には、色の薄くなった三日月が覗いていた。

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