アイズさんは好きだけど負けヒロインが可哀想すぎるからいっその事誰も選ばない展開にしてやろうという妄想こじつけ話。 作:わさびこんぶ
世界は熱気に包まれていた。かつて〖
少年――ベル・クラネルは今、眠りについている。彼は新たな英雄、そして最後の英雄だ。黒竜討伐と約束の刻を生き抜いた折にランクアップを果たし、現在は世界最強の一角であるLv12。英雄として最前線で戦い、その傷によりほぼ1ヶ月間、昏睡状態にある。
――夢を見ていた。祖父にしつこく英雄譚を読んで欲しいとねだる僕。それを呆れたように窘める姉。双子の騒ぎ声に、苦笑する兄。
祖父は立派な人だった。血の繋がらない僕のこともそうだけど、行き場のない子供達を家に受け入れていたのだ。血縁なんてものがなくても、家の中はいつも騒がしくて、笑い声が途切れることはなかった。
やがて兄と姉が村を出て、双子が村を出て、祖父が亡くなった。1人になった僕は、夢を叶えるために〖
「いつまで寝ている愚兎。」
「……マスター?」
「それ以外に何に見えるノロマ。さっさと起きろ。」
ヘディンさんにベッドから蹴り落とされ、慌てて立ち上がり姿を整える。
「傷は〖
グサリ。ヘディンさんの言葉は常に研ぎ澄まされている。いくらステータスで上回っても、この人に逆らう事などできない。そして実際起きてみると、確かに体調に問題は全くなさそうだ。走り回る事もできるだろう。それでも眠り続けていたのは、きっと肉体ではなく、精神の問題だ。
あの大戦は、僕にとって大きなトラウマとなった。それほど、失ったものが多すぎた。感情の整理がまだ付いておらず、夢の中に逃避行したいのが本音。でもそんな事をマスターが許すはずも無い。
「来い。」
「え?」
「皆が貴様を待っている。」
「?」
病室を出て、医局の玄関ドアを開いた瞬間、歓声が響きわたった。
色とりどりに舞う紙袋と、何処からか聞こえてくるファンファーレ、英雄を讃える言葉の洪水。その中心に僕は立たされていた。
「〖
名前が呼ばれる。瓦礫だらけでかつての荘厳さは見る影もないオラリオ。だが、人々の顔は明るく希望に満ち溢れていた。
(
英雄の2つ名とは後世まで語り継がれる偉大な呼び名だ。白兎、とは如何なものか。心の中で大きなショックを受ける。
「ベルくぅぅぅぅん!!!!」
「か、神様!?」
黒いツインテールを揺らし、ヘスティア様が飛び込んできた。
「目が覚めたんだね!心配したよ!完治したはずなのになかなか目覚めないから、どうしようって!もう二度と目覚めないんじゃ無いかもって!!」
目を潤ませた神様が僕を抱きしめて、ついでにその豊満な胸をぎゅうぎゅうと顔に押し付ける。
「落ち着いてください!そしてとっとと離れてくださいヘスティア様!ベル様はまだ病み上がりなんですよ!ヘスティア様の無駄に着いた脂肪がベル様の負担になっています!!」
リリがLv5の腕力で無理やり神様をひっぺがす。
「わぁぁ、離してくれぇぇ!ベルくんとの感動的な再会を邪魔するんじゃなぁぁい!」
「ベル、体はもう問題ないか?」
「うん、もう大丈夫だよ。」
ヘスティア様が騒いでいる横でヴェルフと春姫さんが声をかけてくる。
「ベル様、無事回復されたようで心から嬉しく思います。目覚めた時おそばに居れず申し訳ございません……。実は今、英雄のファミリアという事で各方面から面会の申請が押し寄せているのでございます。」
春姫さんの顔色が心なしがげっそりとして見える。
「各方面?」
「……あー、場所を変えるか。」
路地に入り込んで人目を避ける。
「なんつーか……。今までは黒竜にダンジョン、全員が一致団結して立ち向かわなきゃならねぇ世界共通の脅威があった。だがそれが無くなれば……、まぁ、今度は自分達のってこったな。全く、嫌になるぜ。」
「それって、つまり……。」
「ええ。人間同士、ファミリア同士の争いが始まるということだ。私達冒険者もダンジョンを完略した。だからもう急かす必要はない。その強大な力を持った個を引き入れられれば、良い手駒になるという事だろう。」
「リューさん……」
「世界がやっと平和になったと言うのに、どうしてこのような事が起きるのでしょう……。」
はっきりと述べたリューさんに、春姫さんは苦しげに眉を寄せた。神様とリリも、いつの間にか騒ぐのをやめている。
「今に始まったことではない。あのような大きな脅威があったお陰で、抑止されていた争いとも言える。何より、英雄を目の当たりにするという娯楽が無くなった神々が少々暴走しているようだな。」
「そうだね、それについては僕からも謝るよ。神には、本当にどうしようもない奴ばかりなんだ。たくさんの子供達の命が犠牲になる戦争ですら、ゲームの1つと考えている奴もいる。」
「全く、ほんとうに神ってものは好き勝手してくれますね。」
ヘディンさんと神様の言葉に思わずぐっと拳を握りしめた。神の蛮行については僕にも心当たりがある。そしてそれが、下界の住民には想像もできないほど残虐である事も知っていた。
(姉さんと兄さん、大丈夫かな……?)
嫌な想像に顔が青ざめていく。
「……しかし、今はどこも復興に追われていてまだ戦争どころでは無いでしょう。特にオラリオは酷い。再建に駆り出される冒険者が動き出すのは、最短でも数年先だ。とりあえず私達は、今日は全てを忘れて、英雄の祝宴を楽しみましょう。ベル、貴方も。今はただ、喜びを噛み締めるべきだ。」
リューさんに手を取られ、しっかりと言い聞かされる。
「はい……。」
「こらぁ!何どさくさに紛れて手を繋いでいるんだエルフ君!?」
「全く油断なりませんねこのムッツリエルフは!!」
「なっ!ち、違う!私は――」
「せんぱ〜い!!宴会の準備ができました!はやく行きましょ?」
遅れてやって来たニイナに、他の3人そっちのけで手を引かれて歩き出す。いつもの〖ヘスティア・ファミリア〗の光景に、思わず笑みが零れた。
あの〖アポロン・ファミリア〗と対立した時に、そのきっかけとなった〖神の宴〗、その会場であった豪華絢爛な宮殿、の残骸の上で宴会は行われていた。かつての煌びやかさはなりを潜め、天井はなく、壁にも複数の風穴が空いている。
「やぁ、ベルくん!久しぶりだね。」
「ヘルメス様」
「ここに来るのはあの時ぶりだな。いやぁ、にしてもここはいい眺めになったものだ。見るがいいさ、あのバベルを!」
「あ、あはは……」
1番大きく空いた穴からはバベルが見える。それはかつての見る影もなくボロボロで、根元からポッキリと折れてしまっている。どう頑張っても”いい眺め”には見えそうになかった。
「いやぁ、まさかベルくんが英雄と呼ばれる日が来ようとは!!」
「あのバベルも、ベルさんの英雄としての象徴ですかね?」
「やめてください、シルさん……」
様々な人に賞賛や感謝の言葉をかけられ、その度に照れ臭くも嬉しかった。だが、この2人からの言葉はどこか揶揄われている気がする。
「ごめんなさい、白兎さん?」
「もう、シルさんってば!」
あの2つ名は、ほんとに2つ名だったらしい。正直なんだかかっこ悪くて嫌だ。一度は獅子の字が入った事もあったのだから、どうかその路線で行って欲しかった。
「ちなみにその案を出したのはオ・レ・さ!そして満場一致で決定だった!」
ヘルメス様が声高々に言う。
「……。」
「べ、べべべるくん!?見た事ないような怖い顔をしているけど……!?」
犯人はここに居た。
「まぁでも、本当にいい2つ名だと思いますよ?だって、『The White Rabbit』だったら英雄譚にしたとき童話っぽくてなんだか可愛いし、歴史書には〖最後の英雄〗って書けますし。何よりベルさんらしくて、私は好きだなぁ。」
「そ、そうさ!その辺りもちゃんと考えているんだよ!」
「……。」
それでも納得いかない、と思っていると、
「ベル?」
「……!アイズさん!」
「け、剣姫!ちょうどいい所に来た!ベルくんが君とダンスを踊りたいそうだよ!」
「はっ!?え、ちょ、ヘルメス様!?」
宴会では音楽が流れ続け、中心ではたくさんの人がペアになって踊っていた。と言っても、あの時のような舞踏会のダンスでは無く、民族舞踊に近い明るく軽快なものだが。
「ベル、そうなの?」
「え、その……はい。」
「いいよ、行こう。」
アイズさんが僕の手を引いて、ダンスホールの中心へと向かう。
「あー、行っちゃった。」
「ふぅ、助かった……。」
残念そうなシルさんの声と安堵したようなヘルメス様の声が聞こえる。図らずともあの時と同じように、ヘルメス様に嵌められてアイズさんと踊ることになった。
(今回は、ちゃんと自分で誘いたかったのに……。)
自分の情けなさにため息が出る。
「ベル、今日は何人の女の子と話したの?」
「へ?」
突拍子のないアイズさんの質問。いつもの事だが、答え方を間違えると大変なことになってしまう。
「人数、ですか?えと……ファミリアの皆と、挨拶した人と……あ、道中でも……いや、その前に医局でも……」
思い出したらキリがない。段々とアイズさんが不機嫌になっているのが分かってとても焦る。
「ベルは、やっぱり不良だね。」
アイズさんがワンピースをひらめかせながら言った。少し頬を膨らませた姿が、怒られているはずなのになんだか可愛らしく思えた。
「……不良じゃなくて、英雄になりました。」
アイズさんの体を支え、少し大袈裟に回転してみる。
「……うん、そうだね。君はもう英雄になった。」
「っはい!」
アイズさんの言葉にだらしなく頬が緩んでしまう。
(そうだ、僕は英雄だ。夢を叶えられたんだ。)
やっとその自覚が芽生えてきて、変な高揚感が増す。そのために走り続けてきた。貴方の為に、走り続けてきたのだ。今なら言える気がする、そんな衝動のままに口を開いた。
「アイズさん、僕は一目見たときから貴方のことが――「ベル!!!」
その先の言葉は、会場に飛び込んできたジュリエッタによってかき消される。
「ジュリー!?どうしてここに?」
「貴方、何をしているの!正気!?こんな時に!!」
「え?こんな時……って?」
ほとんど悲鳴に近かったそれは、急速に僕の頭を冷やしていく。その時、柱の影にでも隠れていたのだろうヘグニさんが現れた。
「べ、ベル。ギルドに君宛の手紙が2週間ほど前届いていたんだ。緊急時に使う封がされていたから、君が目覚めたと聞いて急いで持ってきたよ。」
その、手紙だ。
「見せてください!」
ジュリエッタの絶望したような声がどこか遠くなっていく。
封を切る前から、指が震えていた。
――嫌な予感、という言葉では足りなかった。もっと、重くて、逃げ場のない感覚。
『ベルへ』
見慣れた文字だった。
兄さんの少し下手で、それでいて優しい字。
そこから先は、うまく読めなかった。
毒。
もう長くない。
娘は無事。
どうか、君に。
最後に添えられた言葉だけが、はっきりと目に残った。
『君を誇りに思っている』
息が、止まった。
次の瞬間、僕は走っていた。宴の喧騒を背に、石畳を蹴って、外へ。
さっきまで青かった空が、いつの間にか重く垂れ込めていた。ぽつり、と冷たいものが頬に当たる。
ベルが飛び出した後、辺りは騒然としていた。天井のない会場では雨を盛大に浴びることになる。屋根のある場所へ向かう者、食事や装飾を避難させる者、様々だった。
「ベル!!」
「ジュリー、急いで馬に!!」
その中で先程の事態を目にした者は何事かとざわめき立てた。慌ててジュリエッタとジェームズ――ベルと家族同然に育ってきた双子の兄妹がベルを追いかけようとする。
「待つんだ。」
宴に参加していたフィンが、馬の前に立ちはだかって物理的に馬を抑えた。
「っ〖
「邪魔をするな!」
いきなり現れた阻害者に双子は冷静さを失う。
「落ち着け。彼はLv12、しかも速度を極めたステータスを持っている。馬などでは到底追いつけないよ。」
「!だからってどうしろと言うの!?」
「簡単な話さ。彼に続くステータスを持った人間を馬にすればいい。アイズ、ベート。」
「わかった。」「……チッ。」
出てきた名前に目を見開く。この2人は都市最強であるロキ・ファミリアの中でも最速の2人だ。Lv11とLv10に届くこの2人は、〖
「捕まって。」
「きゃあ!」「っ!」
アイズがジュリエッタを、ベートがジェームズを担ぎあげる。無表情のアイズと明らさまにイラついているベートは正直怖い。
「この2人を持ってしても、彼には追いつけないだろう。行き先は分かっているはずだ。案内を頼んだよ。」
「あ、案内って――うぎゃあああ!!!」
次の瞬間、己の残像が見えた気がした。
「おい、フィン。何かあるのか?」
リヴェリアが疑問を投げかける。
「いや、何も無い。親指もこの通り静かだよ。」
「……?じゃあなぜ彼等に2人をつけた?」
「ただの親切心さ。」
リヴェリアは、そんな訳ないと言いたげにフィンを見つめる。この切れ者が動く時は何かがあるのだと、長い付き合いで心得ていた。
「手紙。」
「手紙?」
「モンクレール家の紋章だった。」
「…まさか……!」
「ベートさんがベルのために着いてくるなんて、少し意外です。」
「あ゙あ!?別にアイツのためじゃねぇよ!断る理由がねぇから、
「そうですか。」
平然と会話する2人に抱えられ、双子は死にそうになっていた。
「どっち?」
「南よ……!まっすぐ向かって……!」
アイズの風によって保護されているため負担は少ないはずだが、随分と顔色が悪い。
「……おい、あの手紙はなんだ?誰からの、なんの手紙だったんだ。」
ベートの直球な質問に、ジュリエッタは思わず喉を詰まらせた。
「……あれは、俺らの兄と姉から届いた手紙だ。2人は色々あって……命が危ない。」
ジェームズが簡潔に説明する。
「そう……!」「チッ!」
アイズとベートは、さらに速度をあげた。
「お願い、どうか間に合って……!」
ジュリエッタが切実に願った。
全力で走った。
脚が悲鳴を上げても、息が裂けそうでも、止まらなかった。ただ、彼らの元へ行かなければならない。それだけだった。
村に辿り着いた頃には、雨は豪雨に変わっていた。
(……!人が集まっている……?)
こんな雨にも関わらず、住民は村の外れに集まっているようだ。
(ああ、やめてくれ。)
足を進めながら無意識にそう願った。雨音以外何も聞こえない。人々は黒い服に身をつつみ、傘もささずに俯いていた。
「……あ……」
心臓が嫌な音を立てて軋む。そこは墓地だった。人々が顔を向ける先にある穴。その中の棺に寝かされていたのは姉――リリアーナだった。記憶の中よりも幾許か大人になっていた彼女は、静かに目を閉じて横たわっている。
声にならなかった。
どのくらい経ったのだろう。ただ呆然と立ち尽くして、目の前の光景を受け入れられないままだ。
「いやぁぁぁぁ……!!」「うそだ……こんなこと…。」
いつの間にかジュリエッタとジェームズも居て、2人の悲鳴を雨音がかき消そうとしている。
「貴方は、お2人の弟君であり英雄のベル・クラネル様ですね……?」
目を真っ赤に腫らした女性がそう言いながら、震える腕で、何かを差し出してきた。
小さな、温もり。
それは赤ん坊だった。薄い茶色の髪に薄い緑の目、ふにゃふにゃとして、今にも壊れそうなか弱い体。泣き声はなかった。ただ、こちらを見る目だけが、やけに澄んでいた。
その瞬間、胸の奥が、ぐしゃりと潰れた。
『私達の宝を、どうか君に』
姉さんの文字が、脳裏に浮かぶ。
『誇りに思っている』
耐えきれず、崩れ落ちた。
「うっ……うあぁ……」
視界が歪んで、嗚咽がこぼれ落ちる。胸が引き裂かれるように痛んで苦しい。
(世界を救った、英雄?なんて馬鹿げた称号だろう。)
家族を、守れなかった。たったそれだけの事ができなかった人間に、英雄を名乗る資格なんてない。
「おね……ちゃ……!」
喉が引き攣り、声が震える。どうしてもっと早く駆けつけられなかったのだろう。床に落として割れた瓶が目に入った。
(僕のせいだ。僕が呑気に寝ていたから……!)
後悔と怒りが押し寄せて、でもそれが形になる前に悲しみと喪失感でぐちゃぐちゃになる。
「ご……なさ……」
「うずくまってんじゃねェ!」
怒鳴り声が耳を突き刺した。振り向くと、ベートさんが立っていた。濡れた髪に、険しい目。
「守るべきもんがまだあんだろが! てめェには!」
胸を掴まれ、引き起こされる。
「英雄だなんだって持ち上げられて、調子乗ってんじゃねェぞ!」
その時、赤ん坊の手が僕の頬に触れた。温かくて、柔らかくて、小さな手だ。
「あう、あ、だぁ」
何かを必死に訴えてしきりに僕の頬を叩く。なんの形にもならない音は、どこか不満げだ。どうやら僕の涙がほっぺたにかかるのが気に食わなかったらしい。
「……かわいいね。」
「んぶぅ、あぶぶ」
アイズさんの言葉に、ヨダレまみれの小さな口を必死に動かして答えている。
(あぁこの子は、まだ何も分かっていないんだな。)
守らなければならない、と思った。この子は姉と兄に託された命、形見だ。この子を守り抜くことが、僕のこれからの使命だ。壊さないようにソッと抱きしめる。
「ベートさん、ありがとうございます。」
「……礼を言われる筋合いなんてねぇ!」
先程の言動は不器用な彼なりの励ましだったのだろう。いつの間にか、涙も止まっていた。
「ベル、このまま雨に降られたらこの子が風邪引いちゃうよ。中に入ろう。」
アイズさんに促されてその場を離れる。
「お茶の用意はできています。そこで全てお話しましょう。」
村長の家には、双子の姿もあった。今は落ち着いて、ブランケットにくるまっている。そこで告げられたのは壮絶な事実だった。
ダンジョンとの一戦は下界中を巻き込んだ戦いだった。貴族として領地を治めていた兄――ルイスは、避難民を分け隔てなく受け入れていた。その中に、かつて子供だった兄を家から追いやり、その後祖父に拾われ僕らの故郷で平和に暮らしていた兄を、借金や困窮した民を押し付けるために無理やり連れ戻した男、クーズがいた。奴は、豊かになった領地を見てもう一度我がものにしようとしたらしい。
大戦が終わった直後、避難民の支援に追われる領主の館に、大勢の兵士が乗り込んできた。そして、王の勅命により領主を捕らえに来たとのたまったのだ。なんとか逃げることができたが、道中で毒が付着した矢で傷を負ってしまったらしい。領地の外れにある地図にも乗らないような村で療養していたが、解毒薬がなかったために抗い切ることができず、兄は3日前、姉は今日の朝亡くなったそうだ。
「っごめんなさい……!僕がもっと早く来ていれば2人は……!」
ベルが声を絞り出した。
「……。ベル様、お2人が避難民を受け入れようとなさったのは、貴方の影響なのです。貴方が頑張っているから、少しでも支えになりたいと。」
「俺はこの村の住民ではありません。俺は、旦那様が受け入れてくださったから生き延びることができた避難民です。そしてそれは、貴方のお陰でもあります。」
「世界を救い、数多の命を救った貴方を、感謝こそすれ、誰が責めるというのですか。」
口々にかけられる言葉に目を見開く。
「ベル、悪いのは全部クーズって人だよ。だから、君が自分を責める必要はない。みんな君に感謝してる。」
「っアイズさん……!」
また、涙が溢れはじめた。
「……ジュリー。」
「ええそうね、お兄ちゃん。このままでいいはずないわ。必ず、アイツに地獄を見せてやりましょう。」
「クーズの野郎だけじゃない。奴らにも。」
その横で、黒く淀んだ瞳が双子の間に交わされた。
ベルくんは思春期ゆえ「姉さん、兄さん」呼びしてるけど、ほんとは「お姉ちゃん、お兄ちゃん」です。思ったより絶望ですんまへんね!