イナズマイレブン ROAD TO VICTORY 作:linez
さらに3日が経った日の放課後。ついにサッカー部と野球部の決闘の時間がやってきた。
本来ならば体験入部期間も兼ねた部活動の時間だが、野球部のファンの多さ、そしてにわかに話題になり始めたサッカー部のおかげで大半の生徒がその決闘に釘付けになっている。
おかげで焔が体験入部しようと思っていたバスケ部とハンドボール部は実質オフの日となってしまっており、なし崩し的に校庭で行われるサッカーバトルを観戦することになった。
野球部は妙に気合が入っているようで、黒の野球用のユニフォームを着てグラウンドに出てきた。花形クラブの勇姿を見た生徒たちの間で歓声が上がる。
対するサッカー部は、学校指定のジャージで出てきている。これではどっちがサッカー部なのか分かったものではない。
そして雲明は…いた。しかし試合には出ないようで、バインダーを見ながら桜咲らと話している。あれほどのパフォーマンスが出来るというのに出ないというのは、いわゆる舐めプというやつだろうか。だとしたら、野球部に本気で喧嘩を売ったのは一体…。
もう一度、焔は笹波雲明の名前をネットで検索した。が、集合写真以外は出てこない。桜咲の常軌を逸したスーパーゴールの動画と、木曽路兵太のプロフィール及び紹介文は見つかったものの、謎は深まる一方だった。
「おい、始まるぞ!」
「来夏さん、サッカーなんかできんのかよ」
「四川堂くんって、生徒会よね?なんでサッカーなんかやってるのかな」
「あの1年のデブとか動けんのか?」
ギャラリーがざわつき始めた。
両者がウォーミングアップを終え、グラウンドに向かい合う。形式はキーパー含む5on5のサッカーバトル形式のようだ。
公正を保つためなのか、陸上部員が笛を吹いた。
まずは野球部が攻め込んでいく。来夏のディフェンスをかわして、柳生へとパスを回す。190センチという体格もあってか、柳生は桜咲相手にも互角に渡り合っている。野球部の他のメンバーもサッカー経験者で構成されているのか、中々動きにキレがある。
対して、サッカー部側はまず間違いなく、経験者は木曽路と桜咲だけだ。忍原、古道飼、そして何故かサッカー部にいる生徒会の四川堂はてんで初心者なのが丸わかりである。この日に備えてかなりの練習を積んだのはなんとなく分かるが、それでも経験の差は覆せそうにない。
仮にゲームのようにチームの能力値を合計したら、野球部の方が上回っていることは一目瞭然だろう。
それを如実に表すかのように、まずは柳生の強烈なシュートで野球部が1点先取した。
「こりゃ、決まったな」
「所詮サッカーなんてこんなもんだろ」
「口だけかよ。つまんね」
焔の周囲で観戦していた生徒らも拍子抜けしたようで、早くも試合に飽き始めている。
反対に、総合力でも負けて先取点も奪われたはずのサッカー部はまったく焦る様子がない。
雲明が何やら指示を出すと、途端にサッカー部の動きが変わった。
ものすごく大雑把に言えば、守備も攻撃も、野球部チームの基軸となっている柳生を封じるという戦術に切り替えたのだ。
木曽路のトリッキーな動きや、体育の授業でも噂になっていた古道飼のスピード。さらに前線から下がってきた桜咲の執拗なチャージ。雲明が細かく指示しているのもあるが、先程と同じチームとは思えないほどマークの受け渡しが上手い。あんなものに捕まってしまっては、さしもの野球部エースもそう簡単には動けないだろう。
そうこうしているうちに柳生がボールをこぼし、それを拾った木曽路が2人を手玉に取って来夏へとパスを繋げた。
「つなぎのソジ…?あいつも上手いな」
焔は木曽路の記事を見返した。
一瞬焔がスマホに目を落とした後見えたのは、まさかの来夏のシュート。振り抜くシュートではなく、ダンスを取り入れた特異なフォームでボールを操っている。必殺技とまではいかないだろうが、その片鱗であることは間違いない。
始めて数日足らずであそこまでとは、流石は名実共に南雲原のスターとでも言うべきか。
しかし、まだ狙いは正確ではなかった。ボールは惜しくもゴールポストを跳ね返る。そこへ飛び込んできた桜咲が至近距離からのスライディングシュートを決めて、サッカー部が同点に追いついた。
「おお、すげえ!サッカー部追いついた!」
「来夏さん、素敵…」
「あの2人抜いた奴もすげーな!」
「古道飼ってあんな速いのかよ!」
さっきまで飽き飽きしていたギャラリーの空気が一気に変わる。個性的なサッカー部の面々によって、試合も徐々に流れが傾き始めていた。
「…いや、あれは…!」
焔は異変が起きていることに気がついた。
さっきから、野球部の様子がおかしい。総合力では上回っているはずなのに、まったくチームとして機能していない。試合の中で変わったことといえば、サッカー部が柳生を徹底的にマークしているくらいだが、それだけでがらりと試合の模様が変わってしまっている。
いくら戦略を立てたところで、結局のところ練習量や経験の差はどうしようもない。そこを突いて他のメンバーでボールを回せば勝機はあるだろうに、なぜか野球部は頑なにそれをやろうとしない。まるで、ゴールを決めることよりも柳生にボールを持たせる方が大事かのようにプレーしている。
何よりもすごいのは、そういった野球部の空気や考え方を見切っているかのようなサッカー部の動き、そして恐らく指示を与えているであろう雲明だ。
思うようなプレーが出来ずに苦しむ柳生に、雲明が何やら声をかけている。何度か口を開いた後、柳生は泣き始めた。
一体、何が。あの余裕に満ちた振る舞いの柳生駿河の表情がぐちゃぐちゃになっている。
「誰がなんと言おうと、俺はやる!!」
柳生は吹っ切れたような顔で桜咲と競り合った。
そこにはもう、お山の大将を気取った者の姿はなかった。少し前までの焔と同じ、純粋にサッカーを楽しむ少年の姿があった。
「………俺は」
焔は手のひらを見つめた。
ああ、クソ。やっぱりだ。やらないと言ったのに、見ないと決めたのに、どうしてこんなにサッカーがやりたくなってしまうのだろう。
それはきっと、まだサッカーを捨てきれていないからだ。
でも、サッカーをやりたくない理由もある。
やりたい理由を取るか、やりたくない理由を取るか。
誰が、なんと言おうと。
柳生の言葉が胸の奥底でこだまのように鳴り響く。
…いや、あった。
サッカーをやれて、やりたくない理由も潰せる方法が。焔の目の前に広がる真っ暗な道の前に、それは光の道となって現れた。
結果として、桜咲の強烈な一振りによって追加点を挙げたサッカー部が2ー1で勝利。試合終了の笛が吹かれると、校舎の方角から歓声が上がった。
そういえば、まだ体験入部の期間は終わっていなかった。
クリアファイルに挟んだままの空欄の入部届にボールペンで書き込むと、焔は担任に提出するべく職員室へと向かった。
本当は決断までもう少し書きたいシーンがあったけどごっちゃになりそうなのでカット。
読んでくれる人は話知ってるだろうし、外野視点で原作のシーンをそのままやってるだけだからこの辺は駆け足でも良いかなと…