イナズマイレブン ROAD TO VICTORY 作:linez
「このキャラこんな事言うかな…?」って考えてるうちに迷走していくのがよくあるパターンだと思う
ようやく本格的にチームとして動き始めた南雲原中サッカー部だったが、キャプテンを決めなくてはフットボールフロンティアに出場はできないと、顧問の香澄崎から伝達があった。
「キャプテンは雲明でいいんじゃないか」
夕陽が差し込む部室で、桜咲がいの一番に提案した。
「え…。でも、僕は試合には…」
「例えフィールドの外にいようと、このチームの柱がお前であることに変わりはない。控え選手に登録されていれば、キャプテンになれる」
「……」
桜咲の提案に、忍原をはじめとしたサッカー部の面々は文句なしとばかりに頷いている。一方の雲明は、どこか思うところがあるのか言葉に詰まってしまった。
「それともお前は、自分がサッカー部の一員じゃないとでも言いたいのか?俺たちとやるんだろう、サッカーを」
「……」
なおも黙ったままの雲明に、不信感を抱いた柳生が椅子から立ち上がる。
「笹波!これだけのメンツを巻き込んでサッカー部を立ち上げたやつに、覚悟はないのか!?」
柳生がそこまで説得したところで、ようやく雲明は喋り始めた。
「あります!でも…」
「…でも、なんだ?」
「僕、1年生ですよ」
その言葉を聞いたサッカー部員たちは、数回瞬きをして沈黙した。
直後、部室にどっと笑いが巻き起こった。
「おおそうだった!忘れてたわ!あまりに態度デカいからな!」
「あのすいません、俺もゲームキャプテンは上級生の桜咲先輩か四川堂先輩がやるもんだと」
「「「「お前もかい」」」」
学年のことを気にしていた部員が、雲明の他に約1名。しれっと小さく手を上げた焔は、雲明以外のメンバーから総ツッコミを食らってしまった。
「考えてみろよ、焔。ここにいる全員、俺もお前も、先輩たちも。みんな雲明に集められたんだ。ここまで来たらもう学年とか関係ないだろ?」
木曽路が輪になって座っているサッカー部の面々を見回しながら肩を組んでくる。
「そりゃまあ確かに…いや、そうだね。これまでのこと考えれば、やっぱり雲明君しかいないか」
野球部に立ち向かい、放送室をジャックし、ダンスバトルでは自らの技術を披露した。
焔が知っている雲明の凄まじい行動はこれだけだったが、そのくらいぶっ飛んだ奴なら、きっと他にとんでもないことをやっていたに違いない。それこそ、こんなに人を集めてしまうくらいの事をだ。
それに比べたら、学年などもはや誤差だろう。
「でしょ?ほら雲明」
焔を含むその場の全員が、異論なしといった様子で雲明に笑いかけた。
しばしその様子を見回した雲明が、決心を固めたように頷く。
「よし、決まり!よろしく頼んますよ、コーチ兼監督兼キャプテン!」
「それじゃあ、新キャプテンからの一言とか欲しいかな」
「ここは行っとかないと」
木曽路、忍原、四川堂のお膳立てを受けた雲明は、台に乗って高らかに宣言した。
「このサッカー部を、日本一にしてみせます!!」
いきなり突拍子もない宣言だったが、その場にいる誰もが、誇張でも虚勢でもないことを理解していた。
笹波雲明ならば、それを本気で成し遂げようとする。
そういう所に惹かれて、ここの一員になったのだと。
***
「ではこれより、フットボールフロンティア1回戦の作戦会議を始めます」
キャプテンの堂々とした宣言も済んだところで、南雲原中サッカー部は次の試合の作戦会議に移った。
次の試合の相手は、近隣の学校である西ノ宮中。ここ数年は全て1回戦で敗退しているらしいが、雲明の説明に驕りは一切見られない。
「楽に勝てそうな相手に思えますが…。優秀なマネージャーの加入によって直近の練習試合では3連勝しており、チームの実力、調子ともに尻上がりに良くなっています」
古ぼけたホワイトボードに、西ノ宮中の主要メンバーたちの顔写真を手際よく貼り付け、フォーメーションを書き込んでいく。
「まず最も警戒すべき選手は、金星やつる。攻撃の要であり、3人のフォワードを自在に使ってゲームメイクする司令塔で、西ノ宮の攻撃パターンはほとんどのケースでこの選手を経由しています。よって、まずは最優先でこの選手を封じること」
「ブロック・ザ・キーマンだな」
柳生が雲明の言葉に、すぐさま柳生が苦い顔で反応する。
あの何人にも囲まれる圧迫感と、1人潰しというある意味陰湿なプレーは、戦術的にも精神的にも効果抜群だろう。
「はい。柳生先輩には良い被験体になってもらいましたから」
「へっ、どういたしまして」
「物騒だなぁ…」
焔は遠慮のない雲明の物言いに引きつった笑いを浮かべた。確かにこの言い草を同い年の人間のそれとして見るのには、かなり無理があるかもしれない。
しかも雲明の言動からして、被験者という言い方もまったく誇張している様子がない。
性格はひねくれているが、一つ一つの言葉に純粋すぎるほど思いが表れている。この数日間で、焔は雲明にそんな印象を抱いていた。
「他に警戒すべき点は、スプリントを活かした必殺技のエンデヴァーランが厄介…ですが、これは古道飼君のスピードであれば十分対応可能。恐るるに足らず、です」
「おお!さっすが〜!」
「やるじゃん亀雄!」
木曽路と忍原が同時に古道飼の背中を叩いた。
サッカー界には、時に必殺技を凌駕する身体能力を持った選手が現れるが、焔の目の前にいる古道飼はまさにその例だ。
「えへへ…」
それに反して本人は自信がないのか、2人に褒められて露骨に照れている。
めちゃくちゃ頼れるような、そうでもないような。
何にせよ、同じディフェンダーなら上手くやっていくしかない。焔もさりげなく古道飼の肩に手を置いた。
「重要になるのは、中盤の底の2人とセンターバック2人。つまり木曽路と牛島先輩、古道飼君、または焔君で金星にブロック・ザ・キーマンを発動。ボールを奪回した後、濱南先輩を含めた6人で速攻をかけ、ディフェンダー4人も素早くラインを押し上げます」
今度は攻撃の説明に移った。
雲明は赤のペンを青のペンに持ち替えると、さっきと同じようにホワイトボードに矢印を書き込み、マグネットを動かしながらなおも説明を続けていく。
「ボールを奪った後の攻撃プランはズバリ、中央からのゴリ押しです。基軸になるのは木曽路のテクニックと柳生先輩のフィジカルを活かした速攻。そして、桜咲先輩と忍原先輩がフィニッシャーとなって得点を奪う…。これが南雲原の攻撃パターンです」
平たく言えば、金星を潰してからのカウンターアタックがこのチームの基本戦術となるということになる。実践できるようになるには少し時間を要するかもしれないが、戦術自体は至ってシンプルかつ簡潔にまとまっているようだ。
試合相手が決まって2日と経たないうちにここまで作戦を組み立ててしまう雲明の分析力と情報収集力は、さすがの一言に尽きる。
「以上が、次の試合の戦略です。試合に向けての練習メニューも用意しておきましたので、各々それに従って練習を始めて下さい」
***
桜咲と忍原、濱南の3人は西ノ宮のゴールキーパーの必殺技スウェットスティルネスを破るべく、必殺シュートの習得に取り掛かった。
桜咲と忍原は部室横の小さなグラウンドでそれぞれゴールを使ってシュート練習、濱南は別メニューで基礎的なキックを習得すべく、造船所跡で特訓に励んでいる。
「おらよっ!」
桜咲が右足で強烈なシュートを放った。だが、何度やっても途中で失速してしまう。
一息つくと、桜咲はベンチに置いたパッドの映像を再生した。映されているのは、プロサッカー選手であり世界的にも最高峰と名高いストライカー、剣城京介。その中学時代のシュートを切り抜いた動画だ。
雲明曰く桜咲の足は柔軟性とパワーに長けており、剣城の足と特徴が似ているとのことだった。従って、シンプルかつ豪快なストレートシュートを必殺技に昇華するには、剣城の技を参考にするのが最適である、と。
「ロストエンジェルか…」
剣城京介といえば、フォワードをやっている日本の選手ならば誰もが憧れている選手だ。桜咲もその例外ではない。
このロストエンジェルのように化身を出すことはさすがに叶わないだろうが、それでも同い年の頃の剣城の動きならば、必殺シュートを編み出せる可能性はある。
「そっちはどう?」
同じく休憩中の忍原が、パッドを凝視している桜咲に声をかけた。
「ま、少し手詰まってるが、試合までには何とかなる…ってとこか」
「ふーん。ちなみに私の方は割と順調かも?」
「本当かよ」
「疑うなら見てみる?」
桜咲が答えるまもなく、忍原はボールを持ってゴールの前に立った。
「行くよ!」の掛け声と共に、地面に手をついて逆さゴマのような動きで風圧をまき起こしていく。これは確か、旋風陣とかいう技の動きだったか。風圧によってボールが浮き、風に乗って忍原の周囲を回り始めた。
桜咲のシュートを剛とするなら、忍原は柔のシュートとでも言うべきか。パワーは桜咲には及ばないが、いつボールがゴールに向かってくるか分からない、相手のキーパーの不意をつける必殺技だ。
急カーブを描いて飛んでいったボールは、ゴールを大きく外れて後ろのサッカー部室に直撃した。
「あっ」
忍原が声を漏らす。
「枠にも飛んでねーじゃねーか」
「ち、ちょっとミスっただけだから!」
「……」
見て損した。
露骨に呆れ顔になった桜咲に、忍原はわざとらしくそっぽを向いた。
「ふーんだ!今はこうでも、絶対あんたより凄いシュート編み出してやるから!」
「俺だってこの間まで素人だった奴にゃ負けねーよ」
一応、曲がるシュートだけに曲がりなりにも期待はできそうだ。
だが、間違いなく次の試合の生命線になるのは自分のシュートだろう。ならば、他人に構うのはこれくらいにしておかなくては。
気合いを入れ直すと、桜咲は反対側のゴールに向かってシュートを撃った。
***
一方、こちらは桜咲ら3人を除くディフェンス組。
商店街の有志が集まってできたサッカーチーム、南雲原ショップキーパーズの協力のもとディフェンスの特訓が始まっていた。
「外!」
焔たちから見て左サイドに張った早風にボールが回ってきた。
相手は大人、しかもかなりガタイの良い男だ。初心者かつフィジカル的にも雲泥の差がある井馬里では、その昔サッカーもやっていたという早風の相手にはならない。
よって、ゴールを守るためには焔のカバーリングが不可欠になってくる。すぐさま焔は左サイドに走り込むと、井馬里と共に早風を囲んだ。古道飼と黒原も焔のカバーによって空いたスペースを埋めるため、中央へとシフトしてくる。
ここまでは雲明の指示通りだが、問題はここからだ。そもそもボールを取らなければ元も子もない。
だが、井馬里のフォローも欠かしてはいけないから…
「そらっ!」
「あ…!」
「ぐっ、くそ…!!」
決まり手は、ごり押し。
早風の強烈なパワーチャージをくらい、焔と井馬里は仰向けに倒された。さすがに大人にフィジカル勝負に持ち込まれてしまっては勝ち目がない。もっと早く対応しなくては。
古道飼のカバーで失点は免れたが、こんなに簡単に抜かれるとは我ながら情けない。
最初の位置に戻ろうとすると、井馬里が倒れているのが見えた。
「先輩!」
焔が走り寄ると、井馬里は「問題ありませんわ」と焔を制して立ち上がった。
「サッカー部に来た以上、このくらいのことは覚悟の上です。心配は無用ですわ」
井馬里はそう告げると、何も無かったかのように所定の位置へと戻った。
「焔くん、今のは焦って守りすぎです。初心者の人をカバーしようっていう意識は良くても、それを意識しすぎて判断が中途半端になってました」
「ああ、やっぱりか…」
まさに図星。薄々感じていた今の失敗の原因を、雲明は見逃さなかったようだ。
「井馬里先輩はフィジカルは足りていませんが、相手の動きを見極めることには長けています。お互いの長所と短所を補い合いながら、数的優位を作ることを心がけてください」
「了解」
その後も何度か試行錯誤を重ね、今度も同じシチュエーションで早風が攻め上がってきた。
「サイド!ポジション取りを速く!」
雲明の指示が飛ぶ。井馬里も古道飼も黒原もディフェンスの動きに慣れてきたのか、先ほどよりもポジションのシフトが速くなっている。
これなら、行ける。
焔たちよりかなり体格差がある早風だが、逆に言えばフィジカルとスピードに長けた早風を止めることができれば、そんじょそこらのFWは完全に封殺できるということになる。
さっきと同じパワーチャージで間から突破されることを警戒していた焔だが、井馬里の読みは違っていた。
「外から!」
どういう原理か、早風の動きを察知した井馬里の指示。
動きを読まれて躊躇した早風の懐に、焔が素早く飛び込んだ。
「必殺トリックカット!」
「なっ…」
早風とボールの間に上手く身体を入れ、足にボールを引っ掛けてターン。すぐに早風の背後のスペースにパスを出す。
井馬里は焔の意図を察したようにボールのもとへと走り込み、雲明のもとへとボールを返した。
「おっし!やった!」
上手くいった。
反射的に井馬里とタッチをしようと軽く腕を上げた。
「え……」
井馬里は突然の焔の行動に戸惑ったのか、驚いたような目で固まっている。
「あ、えーと…」
まずい、ミスった。
引っ越す前のチームではもちろん、穂香にサッカーを教えてもらう時にも、よくタッチをしてもらっていたものだ。そんな中でプレーが上手くいった時のタッチは焔の習慣にもなっていたのだが、肝心の井馬里にはそれがなかったらしい。
まだまともに話したことすらないが、クールとも冷たいとも言える井馬里の性格を考えるに、汚らわしいとか思われてるかもしれない。
「…ええ、上手くいきましたわね」
焔の予想に反して井馬里の表情がほんの少しだけ柔らかくなった。
ハイタッチをしようと迷子になってしまった手のひらに、井馬里の手が重なった。痛快な音は鳴らず、ただ本当に手が重なっただけだったが、それでも焔を安堵させるには十分だった。
今まで感じたことがない、可憐で柔らかい感触がした。
「でも、よく今相手の動きが分かりましたね。どうやったんです?」
だが、不可解だったのは井馬里の読みだった。
確かに彼女は頭の回転も速く、華奢な見た目に反して動きも素早い。だが、今のような動きの予測はサッカー経験者、それもかなり慣れている選手のそれと遜色ない。
それをまるっきりの初心者がやってのけたのだ。焔は少しの恐怖すら感じたほどだった。
「人というものは、最も美しい場所に惹かれるものです」
「うつく……なんて?」
「今のお相手の目は、最も美しい場所を捉えていた。その目をわたくしは見逃さなかった。それだけですわ」
「は、はぁ…」
そういえば、井馬里は面接の時に美しさを高めるとか言っていたような記憶がある。焔に見えない何かを持っているのだろうが、その実態はまったくつかめそうにない。
ともあれ、この読みと自分のスピードがあれば経験の差もきっとカバーできるだろう。
こうして得意分野を活かすという点では、反対サイドの2人のディフェンスもよく出来ている。
「やった、できた!!」
「ふむ、古道飼君といいましたか。ご主人様が選んだだけのことはあるようで」
センターバックの古道飼と右サイドバックの黒原も、中々連携がとれているようだ。むしろ、印象に残るという意味では焔たちよりも上かもしれない。
まず目を引くのは、巨体からは考えられないほどの古道飼のスプリントの速さだ。優柔不断な一面はあれど、雲明の的確な指示のおかげでそのあたりは補える。それをもってあの速さのディフェンダーに迫られては、そうそうオフェンス側も対応できないだろう。
そして黒原も雲明の執事を自称するだけあって、指示を実行に移す際の機敏さは焔たちのそれを上回っている。
雲明の指示ありきのディフェンスではあるが、2人の連携は焔と井馬里のサイドよりも洗練されているようにも見える。
サッカーを始めて間もないにも関わらずこの動きとは、チームメイトながら末恐ろしい。
古道飼たちの方を一瞥すると、焔は井馬里の方に向き直る。
「井馬里先輩、俺たちも頑張りましょう。負けてらんないんで」
「もとよりそのつもりですわ」
井馬里はきっぱりと言い切った。
不利な条件であっても毅然と振る舞う彼女の姿勢は、まるで多くの試合をこなしてきた百戦錬磨の選手のようにも見えた。
ファイアレッドたのしい