戦場の笑顔   作:匿名

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尋問室

赤いランプが点灯する。

録音開始。

 


情報テープ『尋問』

 

 

……冗談みたいな光景だ。

 

金属製の机を挟んで座っているのは、戦闘員でもなければ一般人の子供。手錠なし、拘束なし。

 

だがここは“保護”じゃない。尋問室だ。

 

 

 

「……楽にしろ」

 

 

 

ミラーは椅子に腰を下ろし、義足の感覚のない足をわずかにずらす。

 

 

 

「怖がらせるつもりはない。尋問とはいうがあくまで形式的なものだ。」

 

 

 

「録音は取らせてもらうが

肩肘を張らずに答えるだけでいい」

 

 

 

そう言って、視線を向けた先にいたのは――

 

 

 

 

 

一人目

 

保登心愛。

 

 

 

 

 

「名前」

 

「保登心愛です!」

 

 

 

即答。

 

一切の躊躇なし

 

 

 

「年齢」

 

「えっと……15歳!」

 

 

 

声に迷いはない。

だがそれが“正解”かどうかは、俺には関係ない。

 

 

「どこから来た?」

 

「ラビットハウス!……あっ、えっと……」

 

 

言い直す。

無意識だ。嘘をつく時の動作じゃない。

 

 

 

「違う世界、です」

 

 

 

ペンは止めない。

 

 

 

「ある程度事情は聞いている。

ここがなぜ『違う世界』だと思った?」

 

 

「気づいたら、あそこにいました!

その前は働いてる最中だったので…」

 

 

 

曰く、4人は喫茶店の従業員。

内1人は別の店の店員だが今回はヘルプで来ていたらしい

色は違うがデザインの統一された制服にも一応の納得はつく

 

 

 

だがこんなことが有り得るのか?

 

否、絶対にあり得などはしない

 

ファンタジーはフィルムやフィクションの中だけの話だ

 

 

 

 

しかし彼女……保登心愛の言動は一見ふざけているようで、ふざけてはいない

 

受け答えは現にしっかりとしており

経緯や世界はともかく、整合性は取れている

PTSDの兆候も見当たらない

 

 

 

「目的は?」

 

「みんなと帰ること!」

 

 

 

また即答。

それ以上でも以下でもない。

 

 

 

(……誘導尋問が通じないタイプか)

 

 

 

心理的防御がない。

 

だが――

 

壁がないこと自体が、壁になる。

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

二人目。

 

 

 

「……天々座理世、か」

 

 

 

名前を確認する

リゼは背筋を正し、手を膝に置く。

 

 

「緊張しているな」

 

「……はい」

 

 

正直だ。

 

 

「ですが、取り乱すほどではありません」

 

 

声がわずかに震えている。

だが、言葉は整っている。

 

 

「軍事知識があるな」

 

「家庭環境の影響です」

 

 

一拍置いてから続ける。

 

 

「ですが、私は兵士ではありません。

この子たちを守る立場です」

 

 

「守れると?」

 

「……守れないかもしれません」

 

 

リゼは目を伏せた。

 

 

「それでも、考えることはやめません」

 

 

(現実を見ている)

 

 

この少女は

恐怖を認めた上で理性を保っている。

 

 

 

 

 

※

 

 

 

 

 

三人目。

 

 

 

 

 

 

 

「…香風智乃」

 

 

 

あの4人の中で最も幼く、最も非力そうな少女

 

 

 

向けられた視線に

チノの肩が小さく跳ねた。

 

 

「質問をするだけだ」

 

 

ミラー自身も驚くほど、声が低くなった。

 

 

「おおよその事情は保登心愛から聞いた

ラビットハウスという名の喫茶店の娘だと」

 

「……はい」

 

「ここは怖いか」

 

「……はい」

 

肯定。

だが、涙はこらえている。

 

 

「ずっと、心臓が……速いです」

 

「逃げないようと思わない?」

 

「……逃げても、皆さんが困るだけです」

 

(……分かっている)

 

 

怯えている。

それでも、状況を受け止めている。

 

(こいつが一番

現実を直視しているかもしれない)

 

 

 

※

 

 

 

 

 

四人目。

 

 

 

「……桐間紗路」

 

「は、はいっ!?」

 

 

椅子が軋む。

 

 

「正直に答えるだけでいい」

 

「はい! 正直に!

全部正直に言いますから、撃たないでください!」

 

 

(撃つ予定はない)

 

 

「……質問だ」

 

 「も、もう遺書書いた方がいいですか!?

え、お金はないですけど将来が不安で……!」

 

「落ち着け」

 

「無理です!

しょ、正直に言いますと

このままどこかに売られるんじゃないかって!」

 

 

 

ミラーは額を押さえた。

 

――こいつに至っては怯えきってしまっている

 

妥当な反応だが

これではまともに話を聞くことは困難だろう

 

 

「最後に聞いておく」

 

「な、なんでしょう……」

 

「俺たちをどう思う」

 

 「えっと……怖いけど……

 

 でも、悪い人じゃないって思いたいです!」

 

 

 

 

 

 

 

……これでスパイだったら、逆に尊敬する。

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