強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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始まり

 響き渡る剣戟の音。

 空間さえ切り裂き、時間さえ歪む超越存在同士の激突。

 

 神を殺すと決めた七人すら、最早手が出せない。観戦することすら身の程知らずな行為だ。

 

「失せろよ人間族亜人族魔人族竜人族(塵共)。我が愉悦を見ていいと誰が許可した。埃は埃らしく嵐の果てに飛ばされていろ」

 

 美しい顔を不快に歪めた神はスイッと指を振るう。それだけで星の如き質量を持つ障壁が圧壊した。

 

 圧倒的で絶対的。彼等が作り出した『神を殺す概念』を『格下の汎ゆる願いを無視する概念』で容易く踏み躙る絶対者は気の遠くなる果てに待ち望んだ存在との逢瀬に埃の一つが混じる事さえ許せない。

 

「くだらんことに気を向けるなよ」

 

 相対する超越者は、むしろそんな態度を許せない。

 余所見した神を切ったところで何も面白くない。

 

 抵抗しろ、抗戦しろ。斬られてたまるかと抗った神を斬ってこそ、我が剣は神を殺すと証明出来るのだから。

 

「お前等も邪魔。因縁があるのか知らないけど、すっこんでろよ弱いんだから」

「私達だって…………殺されるとしても此奴から逃げる訳には」

「……………お前何したの?」

「さて、な…………心当たりなどまるでない」

 

 絡まれて迷惑だというような神の態度に七人組のリーダーの顔が怒りに歪んだ。

 

「ふざけんな! お前が、お前が全部! お前みたいなヤツが神を名乗るから…………!」

「なんだ? 神を名乗るなと? 我では不足か?我とて嫌だぞ。お前等人間族亜人魔人族竜人族(塵芥)にかかずらうのは」

「よく言えたものだね…。これだけ世界を歪めておいて」

 

 メガネが睨みつけると神は肩を竦めた。

 

「我は咎、我は罪、我は人。我が名はエヒトルジュエ、人が描きし『人』の写し身。我が悪徳はお前達の願いによってなされる。だがそれも今日まで………死に絶えろよ(失せろよ)人類(塵屑)。我が逢瀬を阻む事を許さぬ」

 

 なんだって自分の愛しい弟は神々の最終戦争(ラグナロク)してんだろ、と南雲ハジメは遠くからその光景を見つめ現実逃避したい気持ちに襲われる。

 

 全ての始まりはあの日。あの日に戻れたら、きっと自分は弟だけはこの世界に来ないようにしたのだろう。でも弟もあの日に戻ったら嬉々としてこの世界に飛び込むんだろうな。

 

 

──────────

 

 

 南雲ハジメは目を覚ます。夢見が悪いったらない。

 はて、どんな夢だったか。ぼんやりと寝ぼけた思考では上手く思い出せない。

 

 ファ、と欠伸をする。二度寝しよ。

 

「起きるがいい、駄目兄貴」

 

 ベッドから引きずり降ろされた。ゴン、と床に頭をぶつける。

 

「ソウジ…………」

 

 南雲家次男、南雲ソウジ。ハジメの双子の弟にして全てのスペックで兄を上回る上位互換。それを自慢に思いこそすれ劣等感(コンプレックス)を感じたことは無い。

 何せ自慢の弟だ。変わった所はあれど南雲家のようなオタク器質にはそこがいい。ある意味ではブラコンなのかもしれない。

 

「学徒なら学業はこなせよ。未来設計が出来ていようと勉強さえ出来てればいい、などという考えでは親父どもが義務教育のその後をさせている意味がない」

「い、いやぁ、ほら………仕事の手伝いでさ?」

「その前に俺達は学徒だ。優先すべきを違えるな愚兄が………どうせ新作のゲームを買う為の小遣い稼ぎとかだろう? 金なら貸してやるから、徹夜は休日前のみだ」

「うう………はい」

 

 反省しながらも弟に叱られる兄って漫画みたいでいいよね、と思うハジメであった。バレて睨まれた。

 

 

 

 眠気覚ましに渡せれたフ〇スクを噛み砕き登校。他の生徒も概ね揃う時間。

 

 男子生徒達は忌々しげにハジメを睨むがソウジが視線を向けかけると慌てて逸らす。

 

「おはよう、ソウジ君!」

 

 と、ソウジに駆け寄る女子生徒。眼鏡をかけたかわいらしい少女のは中村恵理。

 

「おはようハジメ義兄(にい)さん!」

「兄さんはやめてってば………」

 

 そしてソウジの恋人でもある。ある日突然家にやってきて両親に挨拶してきた。一応両親とも『じゃあ許婚にしちゃおっか!』とか笑顔で宣う程度には公認されている。

 

「おはよう、ハジメ君! あ、ソウジ君と恵里ちゃんもおはよう!」

 

 女神のような笑顔でサラリとハジメ以外を継いで扱いした女子生徒。名を白崎香織。この高校で1、2を争う人気を誇る二大女神の片翼である。

 

「失せろ売女」

「バイタ!?」

 

 因みに恵里は彼女が嫌いだ。というかソウジに少しでも近づく女は一人を除いて全員大嫌いだ。特に白崎香織はかなり嫌いだ。

 

 恋に恋するあまりに自分の気持ちを伝えもしないくせに伝われ伝われと態度で示しその結果相手に向けられる悪意に気付かない自分本位な姿がとてもとても嫌いだ。

 

「その言い方は寄せ恵里」

「ハァイ。ごめんねかおりちゃん、冗談だよ冗談」

「じょ、冗談なんだ。よかった………うん、よかった」

 

 とは言えとても嫌いだが、この女が好きなのはハジメの方であることも理解しているので諌められれば取り敢えず謝る。

 

「朝からあいからわらずね………」

 

 と、苦笑して現れたのは二大女神のもう一翼、八重樫雫。八重樫道場の娘であり、ソウジとは一応姉弟弟子にあたるのだろう。兄弟弟子と言えば………。

 

「香織、雫、また南雲達に話しかけてあげているのかい? まったく、二人は優しいなあ……」

 

 と、なんか現れたイケメン事天之河光輝も一応兄弟子にあたる。ソウジが剣を持ったその日から、ソウジに勝てたことは一度もないけど。

 

 因みに話しかけてあげている、などと上から目線なのは彼女達が彼らを対等と見てるいると思いたくないからだ。

 自分の隣にいるべき彼女達が対等に扱うと自分と対等みたいで嫌なんだよ、とは恵里の言葉。ハジメは流石に光輝を悪く見過ぎだと諌めたが………。

 

「え? 私が話しかけたくて話しかけてるだけだけど………」

 

 と、香織が言えば周りがハジメを睨み、視線に気付いたソウジから慌てて目を逸らす。因みにソウジは一度停学を食らった事がある。万引き犯を捕まえたら逆恨みしたそいつが呼んだ不良達の屍(死んでない)が校庭一面に転がる死屍累々(死んでねえってば)はソウジの異常生を生徒達に刻みつけた。

 

「私も。同じ八重樫流の門下だしね」

「それだけじゃねえだろクソビッチ」

 

 ポツリと呟く恵里の言葉は幸い誰にも聞かれなかった。と………

 

「とう! ふぅ、ギリギリセーフ?」

「まだまだ余裕あるよ、鈴」

 

 教室のドアを空け入ってくる小柄な女子生徒。谷口鈴は恵里の親友だ。恵里曰く『鈴なら別に、僕と一緒になら抱いてもいいよ』とのことだ。何言ってんだろうね、この子ったら。

 

「まあ最後の生徒だがな」

「なんてこったい! エリリ〜ン、慰めて〜!」

「よしよし」

 

 ギューと抱きつき意外とある恵里の胸に顔を埋める鈴。ふへへ、と笑いソウジへドヤ顔。ありふれた日常である。

 

 

 

 昼。

 普段は南雲兄弟と恵里、鈴で屋上にでも行って飯にするのだが、今日は空も淀み雨を警戒して教室で食うことになった。その時………

 

「ハジメ君、ソウジ君、恵里ちゃん鈴ちゃん、一緒に食べよ!」

「失せろ」

「断る」

「う〜ん。2人がこう言ってるから、ごめんねカオリン」

「あ、あはは………」

 

 香織がやってきたが恵里がシッシッと手を払いソウジが机を移動させる手間を嫌い鈴が申し訳なさそうにし、ハジメが苦笑い。しょんぼり落ち込む香織。

 

「そんな言い方ないだろ恵里? 鈴も、一緒に食べよう。もちろん南雲達がいても構わないさ」

「なんだこの野郎ぶっ飛ばすぞ〜!」

 

 シャー!と光輝に威嚇する鈴。光輝が困ったな、と苦笑いした。キモ。と、その時だった。

 光輝の足元が光る。

 

 突如現れた光る魔法陣。それは何か特殊なライトを使った訳でなく、事実光源なく光輝の足元に現れた。

 

 その魔法陣はだんだんと光を強め、、突然に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

 自分の足元まで異常が迫って来たことで、遅れて騒ぐ生徒達。

 

「皆! 教室から出て!」

 

 未だ教室にいた愛子先生が咄嗟にと叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したように一層強くと光ったのは同時だった。

 

 

 数秒か、数分か、光によって白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが存在しない。

 

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせる事となった。

 

 

 

────ツケタ

 

 純白の世界で目を覆うソウジは不意にそんな声を聞いた。

 

──ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタァァァァァァァッ!!

 

 歓喜に震える声。男とも女とも、老人にも子供にも聞こえる『人間の声』の平均値とも異なる、形容詞外のない声はただそれが喜んでいることだけは分かった。

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