強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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最奥の蛇達

 ハジメと香織は奈落の底を目指す。道中、同行者が増えた。

 真なるオルクス迷宮。その53階層辺りで封印されていた金髪紅眼の少女。

 

 なんと三百年前に滅んだ吸血鬼族の女王様。希少種通り越して絶滅危惧種である。

 そんな彼女は光る立方体に下半身と手が沈む形で封印されていた。魔力を吸い込む特殊な鉱石らしい。

 

 彼女は魔力がある限り死なない不死身の肉体を持ち、全属性に対する適正、ハジメや香織、魔物のような魔力を直接操り魔法陣を介さず魔法を扱う事ができる。

 

 その魔力も上級クラスをポンポン使いこなせる程膨大。

 

 最初は封印されるような奴など信用できないと放置しようとしたハジメだが香織のとりなしもあり解放。なんか出てきたサソリをぶっ殺してから話を聞けば信頼していた叔父に裏切られたらしい。

 

 故に過去を捨て新しい名前が欲しいという吸血鬼に、ハジメは月を意味するユエという名を与えた。

 

 強力な火力が加わったハジメパーティーは3人でさらなる奈落を目指す。

 そうして辿り着いた100層目。

 

 そこは巨大な広間。これまでの迷宮さながらの無数の道や地下でありながら存在した森林とも異なる見晴らしのよい大広間。

 

 無数の柱が存在し、その奥には柱が消え、その奥には扉。七角形の頂点に印象的な模様がある。

 

「なんか、ゲームのラスボスの間みたいだね」

「みたいじゃなくて、ここが最下層なんだろうな」

「らすぼす? むぅ、また2人にしか解らない言葉………」

 

 ユエはむむ、と羨ましそうに2人を睨む。

 

「地球の人なら皆知ってる言葉だから。地球に来たら、私が持ってるゲームやらせてあげるね」

 

 と、ユエを後ろから抱きしめる香織。ユエも楽しみ、と笑う。美少女達の仲の良い様子にハジメは笑う。

 

 髪はキラキラのフワフワ、瞳も綺麗。人形のように愛らしいユエを香織は可愛がりユエもユエで三百年ぶりに人の温もりを与えてくれる香織に懐いている。

 

「でも『ボス』については学んだ。補給しておく……かぷ」

「あう」

 

 チューと香織の首元に噛みつき血を吸うユエ。ユエ曰く香織とハジメの血は美味いらしく、個人的には男より女の方が好きらしい。

 

 少し前のハジメなら大変目の保養になったと喜び…………いや、まともに見れねぇなあこれ。

 

 回復薬はなるべく取っておくため、香織は魔法で血液を生成。これがあれば或いは、とソウジを思い浮かべすぐに首を振る。

 

 ちなみに魔力は〝高速魔力回復〟を持っているので直ぐに回復した。

 

「行くか………」

「うん」

「ん………」

 

 三人が扉に向かい歩く。最後の柱の間を越えた瞬間、扉とハジメ達の間30メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 ハジメと香織はその魔法陣に見覚えがあった。

 忘れようもないあの日、ハジメ達が奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

 だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「…………っ」

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

 ハジメが引きつった笑み浮かべ香織が息を呑みユエは決然とした表情を崩さず香織の手をギュッと掴んだ。

 

「そう、だね………」

 

 おそらく魔法陣から出てくる化物を倒さないと奥の扉は開かないのだろう。

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメ達。光が収まった時、それは産声を上げた。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 体長30メートル、6つの頭と長い首、鋼鉄の如き鱗に覆われた巨躯を持つヒュドラ。赤黒い瞳が己の階層へ到達した侵入者を睨見つける。

 

 赤い文様が刻まれた頭部が口を開く。口内から溢れる炎の氾濫。津波のように視界を覆う。

 

 三人はその場を左右に飛び退き反撃を開始。ハジメのドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃った。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

 まずは一つ、と思った瞬間、白い文様の頭が吠えると赤首の傷が癒えた。白首は回復魔法らしい。

 

 ユエの氷魔法と香織の爆光刃が緑と青の紋様の首を吹き飛ばすも同じ。白首を何とかしなくては。

 

「〝緋槍〟!」

「死ね!」

 

 炎の槍と電磁加速した銃弾が白首に吸い込まれるように向かっていく。が、割り込んだ黄首が射線に割り込みコブラのように頭を肥大化。

 

 爆炎の中から淡く黄色に輝く無傷の黄首。タンクだろう。

 攻撃、回復、防御………首一つ一つに役割があるようだ。一匹一つの固有魔法という魔物の原則を超えた怪物。

 

「〝朽ちろ。呪え。命を蝕むは汝の咎〟〝叛天〟」

「「「「「「クルアアアアアア!?」」」」」」

 

 と、香織が魔法を発動すると全ての首が苦しみ出す。

 ()()()()()()()()()()。制御していたはずの魔力が暴走し肉体を破壊しているのだ。

 

 ハジメが魔物の肉を食い死にかけたという話を参考に()()()()()()()。魔力譲渡の魔法である〝廻聖〟を『改悪』した魔法だ。

 

 本来馴染むはずの魔力を変質させ流し込み対象の肉体を破壊する。更に恐ろしいのは……

 

「クルル………」

「「「「「クルオオオオオ!?」」」」」

 

 香織の魔力が消える前に回復魔法をかけると、その魔力と同調し持続時間と効果が増す。目と口から血を流し暴れ回る6つの首。

 

 ギョロリと忌々しげに香織を睨む黒首。不死身の肉体を持つユエが咄嗟に間に入り込む。

 

「いやぁああああ!!!」

「!? ユエ!」

 

 ヘイトが香織に集中した隙を逃さんとハジメが攻撃しようとした瞬間、突如ユエが叫ぶ。

 

「ユエ!? これは………〝万天〟!」

 

 体内の魔力、そして首の色からして闇魔法。精神的に負荷をかける類と判断した香織は状態異常解除の魔法を扱う。

 

 〝叛天〟が解けた。6つの首からの攻撃に警戒する香織だったが、突然胴体部分から7つ目の首がせり上がってきた。

 

「クルアアアアアア!!」

 

 銀の首から放たれる極光。香織が即座に結界を張る。

 ハジメが咄嗟に前に立ちはだかり二人を守るべく防御系の技能〝金剛〟を発動。天職が結界師ではない香織の結界はいとも容易く貫かれ、ハジメが光に呑まれる。

 

「!?」

「ハジメ君!」

「あ………ハジ、メ? 香織………何、が」

 

 正気に戻ってユエが香織の叫びに反応し、辺りを見回し仁王立ちしながら全身から煙を上げるハジメに気付く。

 

「ハジメ君!」

 

 すぐさま駆け寄る香織。魔法を発動させるが、傷が酷い。指、肩、脇腹が焼け爛れ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。不幸中の幸いは足に大きな影響が出なかったことぐらいか。

 

「っ!? なんで!」

 

 回復魔法を使うが効果が薄い。

 実は、ヒュドラのあの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれていたのだ。普通は為す術もなく溶かされて終わりである。

 しかし、神水の回復力は凄まじく溶解速度を上回って修復していく。速度は遅いもののハジメの魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体とも相まって時間をかければ治りそうではある。もっとも、右目に関しては極光の光で蒸発してしまい、神水では欠損は再生できない以上治らないのだが。

 

 明確な隙を逃すはずもなく、香織の魔法は肉体全てに激痛を与える。隠れていた銀首も他の首同様香織を睨みつけ………

 

 天井が破壊され瓦礫に沈む。

 

「……………え」

 

 ヒュドラよりも大きな何かが落ちてきた。それも、破壊不可能だった階層を分ける壁を破壊して。

 

「…………蛇?」

 

 濡れたように光を反射する漆黒の鱗を持つ巨大な蛇。蛇といったが胴体に一対の腕が生え、鋭い爪が生えていた。

 

 何よりも特徴なのはその頭部。頭部と言っていいのかも不明だ。なにせ、()()

 

 蛇の首と胴体の境目が何処かは置いておいて、首が切断され断面を血の一滴も流さず晒している。

 

「「────」」

 

 一瞬ユエも香織も、ヒュドラもハジメのことも頭の中から抜け落ちる。圧倒的な存在感。息することすらこの存在の前でしたくない。瞬きの音すら立てるのが怖い。

 

「「「「「「「クルオオオオオアアア!!」」」」」」」

「……………………」

 

 瓦礫から飛び出し吠えるヒュドラ。鬱陶しいとばかりに振るった尾がヒュドラの体を吹き飛ばす。ヒュドラの巨体が信じられぬ速度で一度も地面に接することなく壁に激突。

 

 砂煙の中で白い光が灯り、吹き荒れる風の刃が砂煙を払う。無傷のヒュドラ。また回復したようだ。

 

 首無し蛇が苛立ったように尾を揺らすと変化が現れる。切断面の骨が伸び、増殖する。やがて頭蓋骨を生み出した。

 

 蛇の骨と異なり下顎は分かれておらず、角が生えている。眼孔の奥に赤い瞳がゴロリと現れヒュドラを睥睨し口を大きく開いた。

 

「クルアアアアアア!!」

「シャアアア!!」

 

 放たれた極光に相対するは青白い光線。バチバチと暴れ回る紫電。おそらくは雷属性の砲撃。黄首が防ごうとするも消し飛んだ。

 

「クル、クルオオオオン!!」

 

 直撃を免れた白首が吠え傷を癒す。

 

 そのまま他の首が次々に魔法を放つ。

 

「くっ!」

「香織、ハジメ!!」

 

 流れ弾の一つ、氷の塊がハジメに向かい咄嗟に庇う香織に突き刺さる。魔力が殆ど残っていない今、結界を張ったところで破られると判断したのだ。

 

 ユエが慌てて神水を飲ませ傷を癒し魔力を回復させる。

 

「けほ、はぁ………!」

 

 肺に残った血を吐き出し咳き込む香織。ハジメを抱えてせめて大怪獣バトルから離れようとした瞬間、首無し蛇改め骨首蛇の尾が偶然降ってくる。

 

 狙ってなどいない。象のタップダンスに近付いた蟻が偶々踏み潰されるだけ。

 

 だが突然、蟻は抵抗する。

 

「………………あれ?」

 

 何かに引っ張られるような感覚。気付けば香織達はヒュドラ達の戦いから離れた場所にいた。

 

「ふ、ぐ………」

 

 片腕に香織を抱え、口でユエの纏う襤褸布を咥えたハジメだ。

 

「べっ! なんだ、あのもう一匹は……」

「ハジメ君!」

「ハジメ!」

 

 香織とユエが呼び掛けると骨首蛇はピクリと身を揺らす。振り返った骨首蛇がヒュドラの一斉掃射を受け吹き飛ぶ。

 

 轟音を立てハジメ達の真横に倒れた骨首蛇。先程香織達を潰そうとしていたのを思い出したハジメがドンナーを向け…………

 

「…………ア、ニキ…………?」

「………………………は?」

 

 掠れた声。だが、ハジメが聞き間違えるはずがない声。

 

「…………お前、ソウジなのか?」

「え?」

「「「「「「「クルアアアアアア!!」」」」」」」

 

 と、ヒュドラが吼えると骨首蛇は起き上がる。その身体に無数の魔法が殺到する。

 

「グウ………!!」

 

 豪雨の如く降り注ぐ魔法の雨。骨首蛇はギョロリとヒュドラを睨みつけ、被弾しながら突き進む。

 

「ソウジ!」

「ハジメ、駄目!」

「まだ怪我が!」

「どけ!!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!」

 

 ユエと香織が抑えようとする。まだ意識が戻っただけの死にかけだ。そもそも本当にソウジなのか?

 一体何があってあんな姿に。

 

 混乱する香織達と違いハジメは止まらない。そんな事、弟を前に兄貴が命をかけない理由にならないからだ。

 

 毛皮を加工して作った布に巻かれた特製の発明品を取り出すハジメ。衝撃や熱に強いタウル鉱石と魔力への親和性が高く、硬度が増すシュタル鉱石という異世界特有の鉱石を使用した弾丸を放つ対物ライフル『シュラーゲン』。

 

 通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起し発生した圧力が銃弾を押し出す。

 

ドガンッ!!

 

 大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。

 

 極太のレーザーの如く放たれた光が骨首蛇を追い抜き大口を空けていた銀首を消し飛ばす。驚愕するヒュドラの首達。

 

 白首が骨首蛇の牙により噛み砕かれ、鋭い爪がヒュドラの肉体を押さえつける。

 

「「「「「クルアアアアアア!!」」」」」

 

 残った首が叫ぶが黄首が爪で引き裂かれる。

 ハジメは無数の風の刃と氷の礫を回避しながら接近していく。

 

 〝天歩〟の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、合わせて〝天歩〟の各技能を格段に上昇させる。今のハジメには世界の全てが緩やかに進む。

 

 ドパンッ! ドパンッ!

 

 響く銃声。青首と緑首が破壊される。黒首が紋様を光らせる。ハジメに襲いかかる孤独感と飢餓感。

 

「今更知るかよ!」

「シャアアア!!」

 

 弾切れを確認したハジメが黒首を叩き潰し残った赤首が炎を放とうと口を開く。その口に骨首蛇が光線を放った。

 

 後頭部から光が突き抜け床を抉りながら突き進む。

 銀、白、黄、青、緑、黒、赤。全ての首が破壊された。まだ新しい首が出てこないかと警戒するハジメだが、胴体を骨首蛇が噛み砕く。

 

 と、肉の断面から赤い糸が伸びていく。それは筋繊維だ。

 骨を包み、やがて鱗が多い骨首蛇は一匹の巨大な蛇へと変化する。

 

 やはり角と一対とはいえ腕があるのでどちらかと言うと竜のようだが。

 

「シャアアアアアアアア!!」

 

 肉を取り戻しこれまで以上の咆哮を挙げる大蛇。その身体に罅が入り、ボロボロと崩れていく。

 

 胴体部分があった場所に佇むは、ハジメの言う通りソウジだった。フラつき倒れたソウジに駆け寄ろうとするハジメ。しかし彼も膝を付く。

 

 身体に力が入らない。視界が暗く染まっていく。

 弟が生きているのか、それを確認する前にハジメの意識は闇へと沈んだ。




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