「御老人かぁ。まあ、何千年生きていればね」
カタカタと笑う骨。ハジメは警戒しながらオスカーの遺骨を睨む。ところで故人じゃない場合遺骨と言うのだろうか? というかこれって故人? それとも故人じゃない?
「生きてるのかそれ? ていうか、何でしゃべれる」
「骨に自身を付与したんだよ。本来なら別の神代魔法の領分だけど、神髄にまで至ったからね」
「神髄?」
「神代魔法の領域を超え一つ上に迫ること、かな。うまくすれば寿命の縛りなんて簡単に超えられるよ。こうして自身の肉体をアーティファクト化したりとか」
僕みたいにね、と笑うオスカー。たぶん笑ってる。声が朗らかだ。
「そうか………まあ、神に逆らうぐらいだもんな」
オタクのハジメは取り敢えず納得。ハジメ君が言うなら、と香織も納得。魔法使いのユエは納得出来ない。
「で、なんで俺の弟が不合格なんだこら」
「僕に言われても。さっきも言ったようにここは自動付与だからねえ……自分の力で攻略しないと」
「暴走してようがあれば此奴の力だろ」
「操れないほど危険な力はないよ」
ハジメは納得いかねえと睨む中、ソウジは魔法陣に触れる。魔法陣が淡く輝いた。
「よし。習得したぞ兄貴」
「「え?」」
「読み取りは俺の使える魂魄魔法の下位だからな。その辺誤魔化してみた」
「てことは君がバーン迷宮をクリアしたのかい?」
「いや、最初から持ってた」
発言的にバーン迷宮が魂魄魔法を手に入れる場所らしい。
「まあ、別にいなくはないか。僕等だってそうだしね………」
「…………んな事より、生きてんなら丁度いい。世界を渡るアーティファクトは何処だ。神域に攻め込む準備してたんだ。別の世界ぐらいいけんだろお前」
「んん? いや、話が見えないな………」
「……………チッ」
仕方ねえ、とハジメは説明する。
自分達が別の世界から神に呼び出された事、ここに偶然落ちた事、救う気はないから帰らせろ等。
「うん。無理」
「はあ!?」
「〝界越の矢〟は皆で造ったし、壊れたし、そもそもあれは神域に渡るもので異世界なんて想定してないからね。全ての神代魔法を手にするか、空間魔法の神髄をナイズ以上に究めない限り世界を渡るのは無理かな。まあ、渡ったところであのクソ野郎が君達を逃すとは思えないけど」
どうにも全ての神代魔法を手にすると出来る事がさらに増えるようだ。或いは極めると本来の性能を超えるらしい。
最も、世界を超える力を持つのはエヒトも同じだが。
「邪魔すんなら神であろうとぶっ殺すだけだ」
「いやあ、無理だよ。君達弱いし」
ビキッとハジメの額に青筋が走りユエがピクリと肩を震わせる。
「最終試練として用意したこの迷宮に偶然迷い込んだのだから、レベルが合ってないのは仕方ないとしても
「使徒? 強いのか?」
「ステータスオール一万以上。魔法や物理攻撃も分解するからなかなか通らないよ」
「ほう」
ソウジはソワっとしている。戦ってみたいのかもしれない。ドラゴンの本能という奴だろう。
ハジメですら4桁なのに。
「先程の話を聞く限り、神に勝てなかったのは人を傷つけられないからだったな? つまり御老人達はその使徒とは戦えるのか?」
「もちろん。強いよ、僕達はこれでも神に喧嘩を売ったからね」
「へえ、ならわからせてもらおうじゃねえか」
「ん、負けない」
と、ハジメとユエ。どうやらなめられたのがそれ程までに気に入らないらしい。
「はい、おしまい」
結論から言おう。オスカーの勝ちだ。
ハジメのドンナーから放たれた弾丸はオスカーに当たることなく止まり、ユエの魔法はせり上がった地面に防がれた。
ならばと回り込もうと地面を踏み込んだ瞬間、
見学席として用意された高台以外、見渡す限り広い階層すべての地面が砂と化しハジメ達の足が沈み込んだ。すぐに固まり、地面を砕こうとする2人の周りに突き刺さる無数の槍。
雷が走り2人は意識を失った。
「ハジメ君! ユエ!」
「気絶する程度の出力だから問題ないよ」
香織が慌てて駆け寄り診察する。確かに2人ともそこまでひどい火傷ではない。手加減され、その上で負けたらしい。
「くそ!」
オスカーから攻略の証しとして渡された指輪により封印されていた書斎や工房が使えるようになった。無数のアーティファクト作成の資料を読みながらも先程の敗北を思い出し時折舌打ちするハジメ。
「これは…………?」
「魔法書だよ。魔力操作を持っていれば基本的に魔法陣は不要だけど、あるとないとで結構変わるからね」
香織はオスカーからこの世界の魔法を学んでいた。現在の『神がもたらしたカンセーされたマホー』ではなく、神に抗わんとした者達が遺した魔法理論。
現象を起こす魔法のみならず現象に干渉する………オスカー達が『魔術』と名付けた物に香織の興味は惹かれたらしい。
ソウジも共に教導用ゴーレムの話を聞いている。ソウジの場合は暇だからだろうが。
「おい、これもら………これは!」
書斎にあったアーティファクトのリストを工房に保管されたアーティファクトと見比べていたハジメはハッと一つの剣に目を引かれる。
『試作品』の張り紙。故にリストに乗っていなかったらしいそれは、巨大な剣。
それは 剣と言うには あまりにも大きすぎた
大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた
それは 正に 鉄塊だった
命名『ドラゴン殺せる剣』。
「お、おお! これは、今の俺なら振り回せる、か?」
「それか。まあある奴との喧嘩用に作った剣だよ…………ふふふふ」
「へえ、ドラゴンの友達か? でも殺せる剣って…………はっ!」
と、ハジメは自分を無言で見つめるソウジの視線に気付く。
「ち、違うんだソウジ。別にお前を殺したいとか、そういうわけじゃない………」
「ああ、知ってるよ。それはそれとして、男ならドラゴンって殺してみたくなるよな」
「き、きいてくれ…………」
ソウジは笑顔だった。
「修行するぞ」
「「しゅぎょー?」」
「いいな」
ソウジが作った飯を机に並べているとハジメがそう切り出した。
「俺達は弱い。確実に神と戦うことになるのなら、今よりも強くならなきゃいけねえ」
「そうだねえ………」
オスカーが茶をすすりながら肯定する。待て、飲んだ茶はどこに消えた? 君のような勘の良い子供は嫌いだよ、って? そうか。
「ならハジメ君。君、僕の弟子になりなさい」
「あ?」
「その神結晶。作ったの僕だよ」
「「……………は?」」
ハジメの恩人ならぬ恩石。高濃度の魔力が自然的、偶発的に固まり生まれる鉱石。それを知るハジメとユエは固まり香織とソウジは目を見合わせ首を傾げた。
「正確にはその核が、かな。いやぁ、懐かしい。作ったのは確か、君ぐらいの年齢だったかな。どっかのバカのせいで無くしたけど」
「………………」
「さて、君なら意味がわかるだろう? 僕は君より遥かな高みの錬成師だ。オルクスの名は継いだけど、そういえば弟子の一人も取ってなかったからね。これじゃあ、あの世に行った時オヤジさんに殴られてしまう」
オルクスの名はどうやら世襲制だったらしい。
「銃と言ったかな? 異世界の発想に、僕の技術を与えてあげよう」
「いいのかよ? そしたらあんたなんか超えるかもしれねえよ」
「そしたら、次のオルクスを名乗ると良い。そうやって、オルクス工房は育ってきたわけだからね。まあ、果たして君が名を継げるかは解らないけど」
「別にいらねえが、まあ特別に差し出させてやるよ」
ハジメはオスカーが伸ばした手を乱暴に使いながら笑う。
「あ、そうだ。君、ユエ君と言ったね」
「? ん………」
「アレーティアって吸血鬼を知ってるかな?」
「!! ………………なん、で?」
オスカーの言葉にユエは大袈裟に肩を揺らした。ハジメと香織は何となく察する。恐らくアレーティアとは、ユエの本来の名前。しかしなぜオスカーの口から?
(…………いや、途中で戻れないことを考えりゃ、ユエを封印した奴等は攻略したのか)
無論空間魔法なる神代魔法で脱出した可能性もあるが、オスカーが名を知っているあたり最奥まで辿り着いたのだろう。
「ディンリード君は、彼女を守れたのか気になってね」
「…………………………………………………え?」