強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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帝国の兵士

 ハウリアを襲う翼を持った魔物の名はハイベリア。

 ワイヴァーンの様な見た目に、鎧竜の一部を思わせる棘と瘤のついた尾を持つ飛竜。

 

 魔法が使える帝国兵や冒険者でも群と遭遇したら逃げを選択する魔物達に囲まれハウリアの大人達はせめて子供達はと懸命に逃げる。

 

 岩陰に隠れ石を投げつけるなどしながら抵抗するが身体能力に優れたライセンの魔物であるハイベリアにとっては餌の足掻きとすら感じない。

 

 モーニングスターの様な尾で岩を破壊し兎人族の親子を燻り出す。

 個を守ろうとする親ごと食い千切らんと鋭い牙の生え揃った口を開き…………。

 

雷禍(らいか)

 

 響く雷鳴。瞬く雷光。

 突如発生した無数の雷が兎人族達に爪を、牙を、尾を振るおうとしていたハイベリア達を焼き払った。

 

禍炎(かえん)

 

 さらにハウリア達と距離のあったハイベリア達の間に現れる炎の壁。魔法を分解するライセンにおいて煌々と燃え上がる炎はハイベリア達には縁のない現象。

 

 若い個体が炎を飛び越え子供のハウリアへ襲いかかろうとした瞬間、炎の一部が蛇のように蠢き若いハイベリアへ食らいつく。

 

「キィィィ! キイイイイイイ!!」

 

 断末魔はすぐに炎の中へと消えていく。黒焦げになってもまだ燃えているハイベリアの上に降りるのはソウジ。魔物植物を使った草履は燃えることなくハイベリアの死骸を踏みつけた。

 

「………………」

「!!」

 

 上空で待機していたハイベリアの一匹を見据える。それは若い個体に狩りの練習をさせようとしていたこの群れの長だ。

 

「……………………」

「…………………」

 

 見つめ合う飛竜と人の形をした竜。瞳孔が縦に裂けた金と赤の瞳。

 

「……キイイイイ!!」

「キィ!」

「キエエ!」

 

 長の叫びに若い個体が何やら不満げに叫ぶ。

 

「キイイイイイ!!」

 

 だが再び長が叫ぶ。炎の壁の向こうからソウジを睨んでいたハイベリア達は唸った後飛んでいく。

 

 一匹だけ残っていた。若い個体でこそあるがその体躯は他の個体より一回り大きい。

 低く唸りソウジを睨みつける。ソウジが長から視線を外し若い固体を見つめ剣を構え……

 

「キイイイイイ!!」

「ギ──!!」

 

 長が落下しながら若い個体を踏みつけた。

 

「キイ、キキイイイキェェェ!!」

「キィアアアアアア!!」

 

 若い個体が長に向かい吠えるが長がそれ以上の声量を以って吠える。若い個体はビクリと身を揺らし固め、長がどくとゆっくり立ち上がり後ずさる。

 

 何やら唸るが長が再び吠える。

 

 その様子を見ていたソウジは雷を落とす。ハイベリアを焼き殺すどころか消し飛ばす程の威力の落雷が若い個体の真横に落ちた。

 

「キィィィ………!」

「ギィ………」

 

 長が若い個体に唸ると若い個体は首の位置を長より低くした後飛び立つ。長はソウジを一度見てから飛んだ。

 

 ハイベリアの群は長に率いられてライセン大峡谷の奥へと消えていく。

 

「いい飛竜の長老に統率された群だな」

 

 未だ全てを思い出した訳では無いが、少なくともソウジの前世である竜は群れないタイプだった。子育てらしき記憶もない。少し羨ましく思った。

 

 周囲の火を消して剣を腕に突き刺し体内に収納していく。因みにソウジの服は流れた血で汚れないようになっているアーティファクトだ。

 

「あ、貴方は…………?」

「…………………」

「あ、いました! みんな〜、助けが来ましたよ〜!」

 

 恐る恐る尋ねるハウリアの言葉にソウジは答えず振り返る。そちらから砂煙を上げながら迫る魔力駆動四輪に乗ったシアが叫んだ。

 

 

「シア! 無事だったのか!」

「父様!」

 

 真っ先に反応したのは濃紺の短髪の初老の兎人族の男性。ウサ耳のおっさんである。

 

 四輪から飛び降りたシアはそのまま父と抱き合う。お互いの無事を確かめ合うように。

 

「無事でよかった。それで、彼等は?」

「あ、はい。この人達は!」

 

 ハジメが一人で勝手に行くなと弟を叱っている間にシア達親子も話し合う。一通り話し終えるとシアの父はハジメ達に向き直る。

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 カムと名乗った男が頭を下げると他のハウリア族達もハジメ達に頭を下げる。

 

「礼ならソウジに行ってくれ。俺が決める前に動いたのは此奴だ………どうすんだよ、まさか安全な場所まで送るのか?」

「え、樹海の案内じゃ……」

「ソウジはその約束してねえからなあ……」

 

 弟の手柄を取るようなお兄ちゃんではない。

 

「樹海………ああ。そうだな、樹海。行こうか」

「いいのか?」

「そっちに行かなきゃ此奴等、安全な場所まで面倒見なきゃいけなくなる。逆戻りさせて悪いな」

 

 それでもただ逃げていた時と違い、今はハジメもソウジもいる。同じにはならない。

 

「かまいませんよ。むしろ、ありがたい。もし、安全な場所まで送るなんて言われてしまえば、我々はきっと貴方達に制限なく甘えてしまう」

「随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

 シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。

 にもかかわらず、同じ人間族であるハジメ達に頭を下げしかもハジメ達の助力を受け入れ、しかも求めすぎないという。

 あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問を抱くハジメ。

 

 カムは、そんな疑問を苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 その言葉にハジメは感心半分呆れ半分。

 一人の女の子のために一族ごと故郷を出て行くくらいだから情の深い一族だとは思っていたが初対面の人間族相手にあっさり信頼を向けるとは警戒心が薄すぎる。というか人がいいにも程がある。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

「ドードー鳥みたいだ」

「言ってやるなソウジ………後誰が照れ屋だ」

「そうだよ! ハジメ君が照れ屋なのはベッドの上だけ!」

「香織!?」

「……………ユエ?」

 

 ユエは咄嗟にソウジが兄の生々しい情事について聞かないよう耳を塞いでやった。

 

 

 

「帝国兵、残ってるな」

 

 ハウリア族と共にライセン大峡谷の出入口にたどり着いた。ソウジは上を見上げながら呟く。ソウジが言うならそうなんだろう。

 

 道中魔物達を寄せ付けなかったソウジ達を憧れの目で見ていた子供達も余程小さな子達を除けば今は不安そうだ。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。ハジメさん達と同じ……敵対できますか?」

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを……」

「だったら……何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

「まあ、しなくて済むならそれに越したことはねえが……」

 

 ソウジ曰くハジメは魔物の魔力に脳まで汚染されていたらしい。魂魄魔法で整えて攻撃的な思考は大人しくなったとは言え、敵対者には容赦しねえと決めたのはまだ魔物の肉を食らう前のハジメだ。

 

「それでも俺達の邪魔をするってんなら、そん時は殺すしかねえだろ」

「…………………」

 

 香織は何も言わない。敵対する人間を見逃そうと、そんな甘い考えで生きていけるような世界でないのは奈落での生活とオスカーからの話で十分に理解している。

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい……覚えてます……」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない」

「な、なるほど……」

 

 何ともハジメらしい考えに、苦笑いしながら納得するシア。

 〝未来視〟で帝国と相対するハジメを見たといっても未来というものは絶対ではないから実際はどうなるか分からない。見た未来の確度は高いが、もし帝国側につかれたら今度こそ死より辛い奴隷生活が待っている。表には出さないが〝自分のせいで〟という負い目があるシアは、どうしても確認せずにはいられなかったのだ。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

 快活に笑うカム。下手に正義を出されるよりも双方に利があることを示されたほうが安心出来たようだ。

 

 

 

 

 

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 ライセン大峡谷の出入口。その階段を登り終えるとソウジの言う通り帝国兵がいた。その数は30人ほど。

 全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

 だが、それも一瞬のこと。直ぐにその表情は喜色に染まり、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

 帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族の視線に怯えて震える姿はむしろ彼等を興奮させるだけだ。

 

 好き勝手に騒ぐ帝国兵達。

 兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやくハジメの存在に気がついた。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

「ああ、人間だ」

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長はさも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子でそうハジメに命令した。

 

 当然、ハジメが従うはずもない。

 

「断る」

「……今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。苦労してたところ悪いが、諦めてくれ」

 

 小隊長の男は青筋を浮かべながらハジメを睨む。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。其の上で、俺はこういう態度を貫けることを察してほしいものだな」

 

 ハジメの言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でハジメを睨んでいる。

 その時、小隊長が剣呑な雰囲気に背中を押されたのかハジメの後ろから出てきたユエに気がついた。幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶がありえもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女。

 

 よくよく見れば見目麗しい女は兎人族以外にも。

 

 ハジメの服の裾をギュッと握っているユエ。心配そうに見つめる香織。よほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達、3人ともえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

「…………………3人?」

 

 ソウジはユエと香織を見た後、暫く考え首を傾げながら自分を指差す。

 余談だがハジメ達の母、南雲菫はソウジをモデルにヤマトタケル伝説を漫画にしたことがある。剣を習ってるしね。そしてヤマトタケルは女装の似合う男の娘。

 

 成長したソウジは中性的ではあるが男の娘ではない。化粧の一つでもしなければ勘違いされることはあまりないのだが、どうも小隊長は発情するあまりに化粧の一つで女に見えるソウジを女と勘違いしたらしい。髪が伸びたのもあるのかもしれない。

 

「俺は男だが………」

「女の子として扱えば女の子になるんだよぉ!」

 

 違った、勘違いしてない。上級者だこの変態。

 

「へへ。小隊長、また始まった」

「女より男の後ろがいいってなあ。わからねえよ」

「………………?」

 

 ニタニタと向けられる視線の意味を理解しないソウジ。ハジメはこの無垢な弟から穢らわしいカスどもを離すと決めた。

 

「あんたらにゃ過ぎた相手ばかりだろ。人の女欲しがったり、男に手を出そうとしたり、モテないのは哀れだがそういうとこだぞ」

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか!」

 

 ハジメが怯えないことに苛立ったように剣を抜く小隊長。

 

「てめぇは、震えながら許しをこえばいいんだよ!?」

「…………………」

 

 首に添えられた剣を見て、ハジメは思う。こんなもんか、と。前の自分なら怯えるしかなかった相手。

 相手の気が済むまで暴行を受ければよかった日本とは違う。昔の自分には怯えながらただ邪魔をするだけがせいぜいだった相手も…………()()()()()()()()()()()()()()

 

「!! 死ね、クソガキ!!」

 

 その哀れむような目が癪に障ったのか気も短く剣を振るおうと振り上げる小隊長。ドパンッとドンナーが火を噴き小隊長の頭が消えた。

 

「え……」

 

 何が起きたか分からない帝国兵達。再び銃声が響き6人の頭が吹き飛んだ。銃声が一発に聞こえるほどの早撃ち。

 

 突然仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも武器をハジメ達に向ける。過程を理解しないまま、原因はわかっていると行動に移す。中々に迅速、人格面は褒められたものではないが流石は帝国兵。実力は本物。

 

 前衛が飛び出し後衛が詠唱を開始。

 後衛を守るために数人が残る。ちゃんとしているが、想定が甘い。

 

 後衛達の足元に転がる黒い筒状の何か。疑問に思いながらも詠唱を続け、続けたが故に吹き飛んだ。

 

 燃焼石という火薬のような効果を持つ鉱石を粉末化した燃焼粉を詰め込んだ〝手榴弾〟が爆発したからだ。ご丁寧に金属片が仕込まれた〝破片手榴弾〟である。

 

 爆炎と金属破片で密集していた数十名が死に、背後からの爆風に思わずたたらを踏む突撃中の前衛七人。何事かと背後を振り向いてしまった六人は、直後首がずれ落ちた。

 

 何時の間にかそこに立つソウジが生き残った一人を見ると兵士はその場でへたり込んだ。

 ほんの一瞬で、仲間が殲滅されたのである。無理もあるまい。

 

 彼等は決して弱い部隊ではない。上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だ。それ故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは? と呆然としながら視線を彷徨わせた。

 

 死に損なった兵士達の首も銃弾で破壊されるか斬り落とされるか。最後にの残った一人の頭へハジメはドンナーをゴリッと押しつけた。

 

「い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!」

 

 顔中の穴という穴、そして股間から体液を流し命乞いをする兵士。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

「そうか? なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

 百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、まだ近くにいて道中でかち合うようなら助けようと思ったからだ。帝国まで移送済みなら、わざわざ国を敵に回す気はないが。

 

「……………は、話せば殺さないか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか? 別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

 人数を絞る。それが意味する事はつまり、労働力にも愛玩にもならない老人を殺したのだろう。奴隷という資源は食料を必要とするのだから、金にならないのはそりゃ殺す。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。

 

「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」

 

 ハジメの殺意に気がついた兵士が再び必死に命乞いする。

 

「お、おいあんた!」

 

 誰か助けてくれと視線を彷徨わせた男が見たのは悲痛な顔をする香織。ビクリと香織が震える。

 

「助けてくれ! こんな、酷いだろ!? 止めてくれよ、あんたもこんなの納得してないだろ!」

「……………兎人族の皆さんは、貴方に命乞いをしましたか?」

「……………へぁ?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自身の常識と価値観と照らし合わせ意味不明な質問に困惑している兵士に、香織はただただ目をそらさないことだけを選んだ。

 

「…………! ふ、ふざけんじゃねえ!! 亜人を救いたいってか!? てめぇらの気持ち悪い趣味に俺達を巻き込むなこのぎぜっぺ!!」

 

 ドパンッと男の頭が消し飛ぶ。聞くに堪えない罵声を履こうとしていた下顎だけが僅かに動き、ドシャリと倒れる。

 

 あまりに容赦のないハジメ達の行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずとハジメに尋ねた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

「はぁ?」

 

 呆れを多分に含んだ視線を向けるハジメに「うっ」と唸るシア。自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つ。兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。ハジメが言葉を発しようとしたが、その機先を制するようにユエが反論した。

 

「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

 

 それはつまり相手が弱かったなら自分がされていることを相手にしていたということ。或いはそれ以上だろう、今回の場合。

 

「そ、それは……」

「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメに向けるのはお門違い」

「……」

 

 ユエは静かに怒っているようだ。守られておきながら、ハジメ達に向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。当然といえば当然な指摘。兎人族達もバツが悪そうな表情をしている。

 

「ふむ、ハジメ殿、ソウジ殿申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「ハジメさん、ソウジさん、すみません」

 

 シアとカムが代表して謝罪するが、ハジメは気にしてないという様に手をヒラヒラと振るだけだった。ソウジも「いい」と簡単に返す。

 

 帝国兵の死体はユエとソウジが魔法で谷底に落とした。直ぐにでも血の匂いに誘われた魔物の腹に収まるだろう。

 

「……………どんな気分?」

「………檜山達の気持ちが少し分かった」

 

 抵抗を無視して一方的に痛めつける。存外、()()()()()

 

「…………気持ち悪い」

「そう思えるなら兄貴は大丈夫だろう。俺は特に何も思わなかったからな」

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