「たくあのガキ………」
「同い年………」
「弟はね、たとえ同い年でもお兄ちゃんにとっては子供なんだよ」
イライラしてるハジメ。香織とユエはお兄ちゃんしているハジメにほっこり。
そうこうしている間にもフェアベルゲンに辿り着き、好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。
アルフレリックは使いを出すと数人の戦士を森に向かわせた。亜人ではないソウジは森の中を迷うだろうから、と。
戻ってくるまでに大迷宮で知った事実を話しておいた。オスカーが未だ存命(?)と聞かされた時は流石に驚いていたが、この世界が神の盤上と聞いても「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」も特に顔色を変えることはなかった。
アルフレリック側も情報を伝える。
ハルツィナ樹海という迷宮の創設者であるリューティリス・ハルツィナ。彼女は解放者の一人であり、証を持つ者が何者であれ敵対を禁じ、気に入ったなら大樹まで案内しろ、と伝えたらしい。
「だが、敵対するなとは言われても相手が我等をどう扱うかによっては抗わなくてはならん」
「……………それで?」
「神子様に会っていただく」
部屋を変える。武装の解除を命じられた。まあ、〝宝物庫〟があるから問題ないのだが。
木製の屋敷。その奥にその女はいた。
金の髪を持つ森人族。目元を布で隠し、表情は伺えない。その横に護衛であろう剣を持った亜人の男。他の戦士達に比べ線が細いが、神子と呼ばれる存在の護衛ならば相応の実力者なのだろう。
「よくぞいらっしゃいました、攻略者様。わたくしはリーステナ・ハルステッドと申します」
鈴を転がすような美しい声。スルッと顔布をどかし、ユエにも負けぬ人外地味た美貌を顕にする。
「あら、まあ………警戒されていますのね、ハジメ様」
緑の瞳がハジメ達を捉え、ハジメの指にはまる〝宝物庫〟を見てコロコロと笑うリーステナ。此奴、まさか見抜いている。
ハジメが警戒をすると、その時。何やら外が騒がしい。ハジメが振り返ると扉を破壊し大柄な男が入ってくる。
「……シア!」
その男の腕にはぐったりとしたシアが。香織がおもわず叫ぶ中、熊の亜人と思わしき男はアルフレリックを睨み叫ぶ。
「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ! なぜ人間を招き入れた!? なぜ神子様の前に連れてきた! こいつら兎人族もだ。忌み子にこの匿った裏切り者を……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ!!」
「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
熊の亜人は信じられんという顔でハジメ達を睨む。その目にはありありと憎悪の光が宿っている。が、それを諌めるのはリーステナ。
「下がりなさい、ジン」
「っ! 神子様!」
「その者達は異世界人。この世界の歴史に、何の関係もない者達です。貴方の恨みは不当です」
「………は?」
此奴、今何と言った?
「異世界人………?」
「何故それを………」
「わたくしの〝真眼〟は、全てを見通します。苦労なされたようで……………貴方がたもまた、教会の被害者と言えましょう。ですからジン、拳を下ろしなさい。彼等もまた異邦より訪れた同胞です」
ユエだけは違う気が、と香織がリーステナを見るとその視線に気付いたリーステナは口元に指を添え微笑んだ。
「…………いえ、いいえ! その様な虚言で庇わずとも、此奴等は人間です! 我等を獣と見下し、蔑む! 同胞の敵だ!」
「ジン………!」
アルフレリックが止めるがジンと呼ばれた男はハジメを睨み続ける。その目に映る光は怒りと憎悪………そしてハジメが良く知る愉悦。要するに理由をつけて殴りたいのだ。一方的に、抵抗も許さず。と……
「どういう状況?」
何時の間にかソウジがハジメとジンの間にいた。何やら白髪の猫人族を抱えている。お米様抱っこだ。
「っ! 其奴は、
「キャスパリーグ?」
ハジメの中の十四才がソワッとした。
「あ、あの……お…おろ、おろひ………」
ワタワタと慌てるキャスパリーグと呼ばれた少女。ソウジはそっと少女を降ろす。
「貴様! やはりフェアベルゲンを、亜人を滅ぼす気か!!」
と、ジンがソウジに殴りかかる。
「…………」
「ジン! やめぬか!」
目を細め剣に手を添えるソウジ。アルフレリックが叫むもジンは止まらず、拳がソウジの顔面を捉えた。
「…………は? なにしてんだてめぇ!!」
身体強化こそしていたがソウジの相手にもならないと思っていたが、その拳がソウジに当たりハジメが宝物庫からメツェライを取り出す。とんでもねえ殺気だ。
「ぐあああ!?」
が、ハジメが痛めつけるまでもなくジンは悲鳴を上げる。その拳は砕け腕の骨も折れ、骨が皮膚を突き破っている。
「があああああああ!?」
「ん? なんだお前、五月蝿いな」
神子の方を見ていたソウジはジンの叫びに今更ジンの行動に気付く。
「ソウジ! お前何処行ってた! その猫人族は?」
「拾った。飼う」
「ああ?」
突如ハジメの脳内に溢れ出す
あれはそう、ソウジが野良猫と仲良くなっていた頃。
通っている道場の娘と一緒に可愛がっていたのだが、その
「返してきなさい!」
「いいだろ。此奴、どうせ虐待受けてるし」
「ひょわあ!?」
ヒョイと足首を掴み持ち上げれば鉄枷と切断された鎖。
「お主……其奴に触れて何ともないのか?」
「? ああ、この程度なら。俺が近くにいりゃ此奴の吸収量を上回って他の奴等に影響もないしな」
「……………ぁ、ああ………」
「ん?」
ガタッと音が聞こえ振り向けば神子が体勢を崩していた。
「あな、あな………た、何? 見え、見えない。見えない! 目が、潰れる!? 人じゃない!! こんな、こんなのもう!!」
「?」
「ああ、こんな、こんな…………」
どうやら本当に色々見れるようだ。恐らくソウジの竜を見抜き、発言的に見通せず怯えているのだろうとハジメは思った。
「こ、こんなの………もう、平伏して支配されるしか。はぁ、はぁ………」
「…………………ん?」
気のせいかな? なんか、嬉しそうに見える。
「……場所を変えよう。神子様、彼等は我々と敵対する気はないのですね?」
「っ! はい。このわたくしが保証いたします。そちらの方に関しては、断言しかねます。も、もし我々に首輪をつけ膝まづかせたいのな、まずわたくしから!」
「え? いや、いいよ別に」
「……………そうですか」
「なんで落ち込んでんだ」
「おほん。場所を移そう」
アルフレリックの案内の下、各種族長老達が集まり会議する部屋に案内された。香織はシアの傷を治してやる。
ソウジはハジメに部屋の隅で正座させられソウジに連れられたキャスパリーグという少女は周りの視線から隠れるようにソウジの背に。あざとかわいい。
現在、部屋には当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、ドワーフっぽい土人族のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、熊人族のジンがハジメと向かい合って座っていた。ハジメの傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。
「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……
ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。
「こちらの仲間を傷つけておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」
グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。
「ああ!? 何いちゃもんつけてんだ、先に俺の弟に殺意を向けてきたのは、その熊野郎だろ? まあ、脆い拳で殴って怪我したみてぇだが、自業自得だ」
「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」
「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」
「そ、それは! しかし!」
「勘違いするなよ? ソウジが被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ? なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」
「俺、被害受けたか?」
「熊野郎は加害したつもりだ」
ソウジは納得、と頷く。ジンの事などまるっきり気にしていないようだ。その様子にジンは忌々しげにソウジを睨む。ソウジの背のキャスパリーグがビクリと震える。
「罪科というならキャスパリーグだ! 其奴はフェアベルゲンのものだ、何故勝手に持ち出している!!」
「昔かわいがってた猫に似てるから」
「そんな理由が通るか!」
「んん、正論………でもお前等だって持て余してんだろ? だってお前等、此奴より弱いし」
怯えるキャスパリーグの頭を撫でてやるソウジ。亜人曰く放置すると危険、ソウジ曰く自分が近くにいれば安全とのことだが。
「少なくとも彼等に危険はないと御子様が認めたのだ。であるなら、我等は口伝通り彼等とは敵対しない。それでよいな?」
アルフレリックの言葉に一部長老は納得してないと態度で示しながらも言葉では同意した。
ただし一部若い者達が暴走する可能性もあり、その時は見逃して欲しいそうだ。
「そこの熊……二度目はねえ。他は、まあ態度次第だな」
場合によっては殺す。殺意を向け襲ってくる相手に、それはむしろ譲歩しすぎていると言えるだろう。だが納得しない者もいる。
「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」
その言葉にハジメは訝しそうな表情をした。そもそも案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはない。そのことは彼等も知っているはずである。だがゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった。
「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。魔力を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。
「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」
「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」
「でも、父様!」
土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。
「そもそもだ。貴様等を守ってきたのは代々魔力持ちが戦士となり、或いは子を生み魔力持ちの数を維持していた戦士達だ! その恩恵を受けておきながら、魔力持ちの子を孕む義務を果たさぬ貴様等が何を悲劇面している!」
「またもや正論………だけどお前等、兎人族は役に立たない穀潰しって虐めて、帝国兵、聖騎士、魔物が来た時敢えて救助送らせておいて守護者気取るのはどうかと思うけどな」
と、ソウジ。ソウジの言葉にハジメがゼルを見れば言葉に詰まっている。
「うわ、マジでやってたのかよ。そのくせ大事な仲間を〜とか、引くわ〜」
ハジメの言葉にゼルとジンが屈辱に顔を歪める。
「て、適当なことを………!」
「いや、一度言葉に詰まっておいてそれはねえだろ」
「皆言ってるしな」
「皆、だと?」
「皆………」
ズル、とゼルとジンの周りに現れる無数の骸。肉のない骸骨は、本来の白ではなく恨みに染まるように黒い。
「「「!?」」」
香織とユエ、シアとカム達ハウリアが思わず互いに抱き合いハジメも目を見開く。
「どうせ戦士は生まれない役立たず、何の貢献もしないからとせめてもの娯楽として追われ、殺され、泣き叫ぶ姿を肴にする、引きこもるしかねえ弱者が。
立ち上がり、ジンとゼルへ向かって歩く。立ち上がり構えを取ろうとした2人を骸が床に押し付ける。
「俺達は別に、フェアベルゲンから
ジンの頭を踏みつける。赤い瞳が冷たく見下ろす。
元より森の外に出られぬ者達。他国との繋がりもなく、娯楽だって少ないだろう。森を大きく切り開くわけにもいかない。
「何せお前等の娯楽はそればかり。お前等を殺したがってる怨霊は幾らでもいんだよ」
ソウジが魂魄魔法で少し力を分けてやるだけで、フェアベルゲンを飲み込む程に骸は現れる。数千年の歴史の中で、戦士の娯楽はまさにそれのみだったのだから。
「お…………」
「ん?」
「おゆ、るしを…………お許しを…………」
「………………」
骸達が霧散していく。その眼窩の奥に宿る鬼火はジン達を憎々しげに照らしながら。
「まあ、戦士の大半の為にマトモな戦士まで割を食わせるのもな。
パンと手を叩く。何かが部屋を………否、フェアベルゲン……樹海を駆け巡る。
「これでお前等亜人は全員魔力持ちだ。よかったな、存分に戦って孕ませて義務とやらを果たすがいい」
「「「………………は?」」」