強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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亜人の神

 アルフレリック達は外に飛び出す。フェアベルゲンは困惑に包まれていた。

 魔力こそ持っていなかったが素質があった者達が己の中から湧き上がる力に困惑し、魔力を手にしても素質がなかった者達はその者達の困惑した態度に困惑する。

 

 古くから魔力を持っていた者達はソウジの言葉通り、少なくともここから確認できる全ての亜人族に魔力が宿っているのを感じる。

 

「代わりに此奴は貰ってくぞ。後、ハウリアの追放を解除しろ」

「!! 違う、違う違う違う!! これは、我々の力だ! 現に俺は、お前など居なくとも魔力を扱えた! 人間などに、我々が力を授かるなどあるかぁ!!」

 

 ジンは叫ぶ。国を思って、と言われていたがなるほど、自分達こそ真に優れていると誇りを胸に、何時しかそれは高慢に形を変えたらしい。憎むべき人間族に亜人族にとって選ばれた証たる魔力を与えられたなど認めたくないようだ。

 

「二度目はねえつったよな……」

 

 ソウジに向かって振り下ろされた拳を手首をつかみ止めるハジメ。その腕を圧し折り、ジンの腹を殴り付けた。

 

 轟音を立て吹き飛ぶジン。魔力持ちでなければ即死だろう。なんなら今すぐ治療しなければどの道死ぬ。大慌てで駆けていく戦士達。慕われてはいるようだ。

 

「で? お前等はどうする?」

「我々は敵対しない。むしろ感謝する、異邦の神よ」

「ん、神?」

「魔力を与える者を神というのだろう?」

「あ〜…………」

 

 確かに魔人も人間族も、どちらも神より魔力を与えられ故に魔力を持たぬ亜人は神に選ばれなかった存在と見下していたのだったか。

 

「因みにどうやったんだ?」

「魂魄魔法………どうにも俺は、奪ったり与えたりとエネルギーの移動が得意みたいでな」

「魂魄魔法って……まさか魂の欠片でも与えたのか?」

「魂魄魔法は魂以外にも生体電気とか体温とか魔力にも干渉出来るからな」

 

 最も、どうにも亜人達は()()()()()()()()()のようだが。それでも無意識に魔力による強化をわずかに行えている。そうでなければ人と変わらぬ体躯で人以上の力など出せない。

 

 外部から魔力を与えられたことにより内部から刺激され魔力に目覚めた。

 

(感覚としてはライセンの魔物達に近かったな。なんか混ぜられてるし………身体能力特化の魔物と人を混ぜて作ったのかもな)

 

 さらりとこの世界の根幹に触れるソウジ。でもそういうものだと思っているのでわざわざ口に出したりはしない。

 

「魔力の鍛え方ならお前等が教えやれよ」

 

 ただあるだけの魔力を今後練り、身体強化に回せば身体強化の枠組みでは人間を超えるだろう。魔力操作持ちも何人か、少ないが目覚めている。カムもその1人。シアの血縁なだけはある。

 

「し、しかしアルフレリック! 魔力を与えられたからといって、罪を犯したものを見逃すのは………!」

 

 納得言っていない様子のゼル。その視線はチラチラと吹き飛んだ壁の向こう。ジンを傷つけたハジメ達を認めたくないらしい。

 

「この国には賠償金とかそういうのはないのか………」

「なんだ、それは?」

「要するに無罪を金で買う、みたいな? 罪を見逃すかわりに魔力を与えてやったろ」

「そのような前例があれば、罪を犯しても何かで帳消し出来ると思われると言っているのだ!」

 

 まあ、ゼルの言ってる事も間違いではない。所詮は地球の文化で、ここは異世界だ。

 

「ならば、お前さん達の奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死者として扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

「アルフレリック! それでは!」

 

 力に怯え屈服。ないし力を与えられ服従するようなものだ。示しがつかないとゼルは叫ぶ。

 

「元より神子様がお認めになった相手を攻撃した上に、掟を破ったのは我々も同じだ。与えられた力、貴方の意思で消えるのか? 貴方が死ねば………」

「魔力の没収自体は何時でも出来るが、俺が死んだら消えるなんてことはねえよ。最低限魔力を使って生きてりゃ子にも遺伝していくだろ」

 

 逆に使わなければ魔力は再び不活性化していく。人が進化の過程で水かきや尾を失っていくのと同じだ。

 

「ハウリア族はシア・ハウリアを筆頭に、南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

「それから南雲ソウジは暫定的に魔力を授けた神として扱う。キャスパリーグは、その贄とする」

「ふへぇ?」

 

 自身の名を呼ばれビクッと震えるキャスパリーグ。

 

「おい、神と言ってもてめぇ等の都合の良いように使うなら………」

「魔力に目覚めた理由として使うだけだ。混乱を少しでも少なくしたいのでな………」

「…………神の名の下に戦争でも起こしたら、俺がお前等を滅ぼすからな」

 

 ハジメは〝威圧〟を放ち長老達に警告する。神の名の下にどれだけ血が流れたのか、そんなもの歴史の授業を習う現代人なら大まかに知っていることだ。

 

「戦争するなら、それはお前等の意思で、お前等の誇りを守るためにしろ」

「こ、心得た………」

「まあ、信者の行動を神が支配できるなんて思ってないから、俺は兄貴ほど厳しく言う気はねえよ。止めもしねえけどな」

「にゃ!?」

 

 ソウジはそういうとキャスパリーグを再び担ぐ。

 

 シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がれない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいる。

 

「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

 ハジメの言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行くハジメの後を追うシア達。アルフレリック達も、ハジメ達を門まで送るようだ。

 

 シアが、オロオロしながらハジメに尋ねた。

 

「あ、あの、父様達……死ななくていいんですか?」

「? さっきの話聞いてなかったのか?」

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだ。どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。

 

「……素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「……ハジメ君に救われた。それを受け入れて喜べばいいと思うよ」

「…………」

 

 

 ユエと香織の言葉に、シアはそっと隣を歩くハジメに視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める。

 

「まぁ、約束だからな」

「ッ……」

 

 シアは、肩を震わせた。樹海の案内と引き換えにシアの家族の命を守る。シアが必死に取り付けたハジメとの約束だ。

 

 元々〝未来視〟でハジメ達が守ってくれる未来は見えていたが、それで見える未来は絶対ではない。

 シアの選択次第でいくらでも変わる。だからこそシアはハジメの協力を取り付けるのに必死だった。

 

 相手は亜人族に差別的な人間族で、シア自身は何も持たない身の上だ。交渉の材料など、自分の〝女〟か〝固有能力〟しかない。それすら、あっさり無視されたが。

 

 結果としてソウジが先走ったりして約束は取り付けられたし、道中話している内に何となくハジメなら約束を違えることはないだろうと感じていた。それは、自分が亜人族であるにもかかわらず、差別的な視線が一度もなかったことも要因の一つだ。だが、それはあくまで『何となく』であり、確信があったわけではない。

 

 今回はいくらハジメでも見捨てるのではという思いがシアにはあった。帝国兵の時とはわけが違う。言ってみれば、帝国の皇帝陛下の前で宣戦布告するに等しい。

 にもかかわらず一歩も引かずに約束を守り通してくれた。例えそれが、ハジメ自身の為であっても、香織の言う通り、シアと大切な家族は確かに守られたのだ。

 

 心臓が跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 シアは、香織の言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ハジメに全力で抱きつく!

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

「どわっ!? いきなり何だ!?」

「ああ!?」

「むっ……」

 

 香織が叫びユエが眉間にしわを刻む。

 

「感謝すんならソウジにしろ! 結局ほぼ全部ソウジのおかげだからな!」

 

 と、ハジメがソウジを指さすとソウジは頭を垂れたハウリア達に取り囲まれていた。よくよく見れば穏健派の長老や会議室に控えていた兵士達も混じっている。

 

「ソウジ様…………」

「ソウジ様、感謝を! これで、これで! 数の差を覆せる!」

「ああ、神よ! 貴方こそ我等に力をお与えくださった真なる神!!」

「ソウジ様にも感謝してます。でもやっぱり、私にとって私の願いを聞いてくれたのはハジメさんなので!」

 

 此奴、さらっとソウジを様付けで呼びやがった。

 魔力がないから差別されていた亜人にとっては、ソウジが行ったことはまさに神の御業だったのだろう。

 

 一部人間などが、と納得いっていない者もいるようだが………きっと彼等の中では何時か彼等の前に現れる神は亜人の姿をしていたのだろうな。

 

 

 

 フェアベルゲンからさるソウジ達。それを見つめる姿なき視線。

 

 ソウジは彼等の恨みを刺激していない。感情を操ったりしていない。ただ、ただただ眺めるだけだった者達に逆襲できた可能性を与えただけだ。

 

──嗚呼、何故我等の時代ではなかったのか

 

──嗚呼、何故我等は救われなかったのか

 

──羨ましい。恨めしい。妬ましい

 

──我等に救いはない

 

──我等の過去は消えぬ

 

 過去は変わらない。既に過ぎ去ったが故に。

 恨みは消えない。憎悪は変わらない。憤怒を忘れない。

 

 ジン達を憎々しげに睨んだ鬼火達。魂すら失い、されど残った想念が、ほんの一時、■なる竜の力に触れ、学んだ。

 

 心せよ、これなるは亜人の業。見捨てられし者共の咆哮。敗者の想念。

 

 未だ彷徨うだけの怨念が、ソウジの力を借り受けず、再びお前達の前に現れる。それはそう遠くない出来事である。

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