強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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とうとう来たぜ、詠唱!


レグルス

 2本の剣がぶつかり合う。

 斬撃が樹海の一部を斬り飛ばした。

 

「なぁ!?」

「きゃああ!?」

「っ!!」

「あ〜!」

「ひゃああ!」

 

 ハジメはソウジが強いことは知っていた。オルクスにて自分達が苦労した試練用ヒュドラを超える防衛用ヒュドラと戦い勝利したと聞いた。

 ここに来る間にも何時の間にか消えて、ハジメ達はそれを察知することも出来なかった。

 

 オスカーをしてハジメでも武装を整えて漸く渡り合えると評した真なる神の使徒とやらを超える戦闘能力。

 

 人類でソウジに敵う者などいないだろうと思っていた。が、違った。確かにソウジはこの世界において圧倒的な強者だ。

 

 だが、それに並ぶ強者はそれなりにありふれていた。

 

 [+瞬光]を発動したハジメでも空間に一瞬走る線しか捉えられぬ超高速移動。

 世界が遅れて強者達の激突に気付き、響く金属音。斬り刻まれる森と大地。

 

 局所的な大災害。原因はたった2人。

 

 獅子の(つるぎ)が振るわれる。刃渡りを無視した斬撃が崖を生み出す。

 

 斬撃が飛んだ、なんてものじゃない。世界をそのまま切り裂いたかのように一瞬にして見渡す限りの大地が斬られた。

 

「まさか、神代魔法か!?」

 

 恐らくは空間に関係する神代魔法。視界を一つの紙として切り裂くような、ラスボス地味た光景にハジメはそう判断した。

 

「いいや、ただの剣技だな………水禍(すいか)

 

 膨大な水が溢れ出し一本一本が激流の大河の如き流れを持って蛇を象る。水は切れない。子供でも知っている常識を、しかし獅子の剣士、獣の英雄は斬り伏せて見せる。

 

「我が名はレグルス。フェアベルゲン最強の剣士………なんて、ただ永く生きただけの棒振り親父だけどね」

 

 ジャリッと足元の石が僅かな体重移動で音を鳴らした瞬間にはソウジの目の前に移動したレグルス。両者の剣が高速で振るわれる。

 

 ソウジの手首が宙を舞う。

 

「────」

「千里先から這い上がって来るといい」

 

 引き寄せ、再生させるまで1秒もかからない。その刹那に確かに紡がれる言葉。

 

「〝獅子千塵〟」

 

 放たれるは突き技。千里(約4千キロ)先まで塵へと消し飛ばすを突き技と呼ぶならだが。

 

「うん。やはり、強いな」

 

 ブシュとレグルスの肩から鮮血が溢れ出す。あの一瞬で反撃まで。ああ、なんてつよい。

 

「てめぇ、どういうつもりだ!!」

「……………ん?」

 

 と、ハジメがレグルスに向かい叫ぶ。レグルスは漸く思い出したかのようにハジメに視線を向けた。

 

「フェアベルゲンとは話がついた筈だ!」

「うん。そうだね、これは個人的要件だ………出来ればフェアベルゲンに何もしないでくれると嬉しいな。ほら、今回僕が悪いから、未来ある若者を斬り殺すのは………ね?」

 

 下手に出ているようで強者故の上から目線。自身に責があることは自覚しているがそれはそれで報復するなら殺すと言ってきている。

 

「ならてめぇをぶっ殺すまでだ!!」

 

 ハジメはメツェライを撃ち放ち、香織が〝叛天〟を使いユエが〝凍柩〟を発動。

 

「……………あ?」

 

 斬られたアーティファクトを見て疑問の声を漏らすハジメ。()()()()()? いや、自分が造ったアーティファクトだ。それは覚えてる。だが、あれ? 名前はなにで、効果は?

 

 同様の疑問は香織達も。香織は魔力を持つ者なら………確か、高速魔法より有益な何かを使おうとして、ユエもどの属性かの拘束魔法を使おうとしていた筈。

 

 使おうとしたそれを思い出せない。()()()()()()()()()()()

 

「何、世界は案外頑丈でね。僕が切った概念程度、直に直るよ」

「てめぇ、いったい…………」

「レグルス様…………」

 

 ハジメがギロリと睨みつける中、シアが怯えたような声を漏らす。事実彼女は怯えているのだろう。

 

「フェアベルゲン最強の剣士………()()()()()老獅子………ですぅ」

「は、千年?」

「うん。僕、不老不死なんだ」

 

 と、レグルスの傷が癒えていく。回復魔法ではない、今のは………

 

「自動再生?」

「30代の頃に目覚めてね、以来ずっと、老いることも死ぬことも無く生きているよ」

 

 ユエと同じ技能を持つ不老不死の剣士。千年剣を振り続けた正真正銘の誰よりも剣を振るった剣士、それがレグルス。

 

「なんで俺達を………いや、ソウジを襲った!」

「仕方ないだろ、だって僕は、()()だもん」

「ああ!?」

「ずっと待っていたんだ。この時を………」

「怪物退治でもしたいってか!? ソウジが、竜だから!」

「うん」

 

 と、遠方から響く爆音。大きく抉られた大地の向こうに竜が現れた。抉られた大地を遡るように樹海へ向かってくる。

 

 狭苦しい奈落で見た巨大な蛇竜………よりも巨大。距離があるのにその姿がよく見える。下手したらそこらの山よりも巨大。

 

『オオオオオオオオ!!』

 

 ただの咆哮で空間が軋む。大地が砕ける。

 口内にたまる尋常ならざるエネルギー。国一つ消し飛ばす竜の息吹をレグルスは一刀のもと斬り伏せ消滅させる。

 

 真っ二つに分かれた竜が己の半身に噛みつき投げ飛ばす。超特大質量が樹海の一部を覆い………

 

「〝獅子刃々(ししじんじん)〟」

 

 無数の斬撃が細切れにする。その肉の一つから現れたソウジがレグルスへと斬りかかる。

 

「はは!」

「……ははぁ!」

 

 どちらも嬉しそうに笑みを浮かべ、レグルスが地面が砕けるほどの踏み込みでソウジを弾き飛ばす。

 

「僕はね? 英雄なんだ。全力で敵国と、怪物と、戦う英雄。ああ、解ってるよ? 英雄っていうのは誰かのために戦った奴が、誰かに呼ばれてなるものだ。もうすでに呼ばれてる僕は、別に称号が欲しいんじゃない…………ただ、認められないだけだ」

 

 こふ、と血を吐く。口元を拭い、その視線はソウジが吹き飛ばされた方向に固定されている。

 

「竜なんだろう、君の弟? なら、殺し合わせてくれ。頼むよ………死なないだけで生き残ってきた僕にとって、きっとこれは最後のチャンスなんだ」

 

 レグルスは認めない。自分が最強の剣士などと、亜人の英雄等と。

 

「僕より凄い奴がいたんだ。僕より正しい奴がいたんだ。僕より勇敢で、頑張り屋で、寂しがり屋で、果敢で、乱暴で、国を想って、戦って死んだ者達がいたんだ」

 

 だが不死身故にレグルスは何時も生き残る。彼等より弱いのに、間違うのに。臆病で、怠け者で、孤高ぶって、暴力を嫌って、国を想えず、時に戦いから逃げ出そうと背を向けた自分が生き残った。

 

「戦いの先で死にたいんだ。誇れる戦いが欲しいんだ……ただただ剣を振り続けて、何時の間にか至っていたなんて、自慢にもならないんだ。彼等と一緒に戦ったと、心の底からいいたいんだ」

「勝手な事を………だったら大人しく殺されてろよ!」

「それじゃあ駄目だ。ただ強いからって、強大な竜だからってだけで殺されるのは…………()()()()

 

 へし折れ倒れた木々を蹴り飛ばしながら立ち上がるソウジ。その顔は喜色に彩られていた。

 

「解るよ。解るようになったんだ……自分が強い事を自覚するとさ、ぶつけてみたいよね。証明したいよね、自分は最強だぞって! 獣なら、男ならさ」

「…………一つ聞いていいか?」

「なんだい?」

「帝国………なんで無事なの?」

 

 もしや帝国にもこの男と戦えるだけの何かがあるのか、と期待している。つまり、ここを越えて先を歩くつもりだ。勝つ気なのだ、この少年は。

 

「三百年前………神にそそのかされるまま吸血鬼の国を滅ぼし英雄となった男がその功績で立てたのがあの国だ。その際吸血鬼が抵抗し、生まれた厄災が2つ」

 

 ユエがピクリと肩を揺らす。

 

「傭兵王………彼が殺しきれず帝国のそこに封じた厄災の一つ。それが出す被害を考えたらね………僕の英雄譚のためだけに起こさなくていい怪物をわざわざ起こしてフェアベルゲンまで危険にさらすのは違うだろ?」

 

 帝国は別に、亜人を滅ぼす事など出来ないのだから。

 

「まあ、ヘルシャーの理念も忘れ弱者を虐げるあの国じゃ、そろそろ目覚めるかもだけどさ………僕が知る頃のあれより君の方が強い」

「でも強くなっている可能性もあるのか。いいな、この世は退屈しない」

「それはなにより。でもさ、今は僕の番だよ?」

「そうだな。なら、本気出せ。そら出せ………」

「〝空獅子(からじし)〟」

 

 ソウジの言葉にレグルスが世界を断つ。

 先程までの刃渡り無視した斬撃などとは比べ物にならない。空間そのものを切り裂き汎ゆる防御も意味をなさない絶対切断。

 

 それをソウジは弾いてみせた。

 単純な話し、ソウジの持つ竜骨の剣が()()()()()()()()()。あれを斬るなら星を斬る方が簡単だろう。

 

「────永劫の檻。終わらぬ研鑽」

 

 レグルスが自動再生に目覚めたのは30代後半。その時には、彼は()()()()()()()()()()()

  戦士として鍛えた肉体が衰えていく中、その技能を得た時は思った。これで戦えると。

 

「朽ちぬ身を持つ獅子は、不滅を呪う」

 

 だが、その技能は、『その時』を再生させ続けた。死病に冒されたその身は常に激痛を訴え、おまけに死なぬならせめてとどれだけ鍛えようと落ちた筋肉が再びその身につくことはなかった。

 

「死する英雄、堕ちる怪物。この身は独人(ひとり)遺された」

 

 そうして、死なぬこの身に代わり次々と死んでいく戦友達。どうしたら死ぬんだ此奴、と思った傭兵王も、しかし寿命に敵うことはなかった。

 

「不死を欲するなど愚かしいと、愚者を蔑み爪を研ぐ永遠」

 

 死なぬ身を羨む者達もいた。アホらしい。そんなバカの相手などしたくなくて、剣を振るった。

 鎧を両断するのに100年かかった。

 魔法を切るのに200年かかった。

 神代魔法の欠片とも言える空間に作用する固有魔法を切るのに400年かかった。

 目に映る景色を斬るのに700年。

 目に見えぬ人の意識に干渉し斬ったのは900年。

 概念を切るれるようになったのは本当に最近。50年前の950年の時だ。

 

「訪れる終わり。不死を殺す毒蛇の牙」

 

 無意味に強くなり続けて、斬るべき相手も居なくなった。探せば居るのかもしれないが、フェアベルゲンから離れるという選択を、嘗ての友戦友達の記憶が許さなかった。そこに現れた、強大な竜。

 

「死を恐れよ老獅子よ。その爪の意味を今示せ」

 

 殺したい。殺されたい。全力で殺しにかかって、終わってこそ漸く無意味に生きた1000年に意味が訪れる。

 

 だから、来るがいい異界の竜。厄災の化身。望んだ英雄は、ここにいるぞ。

 

逸脱(abweichen)……英雄を讃えよ、偉業を願う獅子蛇よ(アインヘリヤル・アイオーン)

 

 この世の理を切り裂く、逸脱者が顕現した。




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