彼等と歩幅を合わせられなくなったのは970年前。その身が死病に冒されてから。
人間と魔人が拮抗し久しい今と異なり過激な戦乱。労働力として、戦地の兵士のガス抜きとして亜人を狙う両種族。それに抗う亜人達。
強者が生まれ、死に、新たに生まれ、そんな時代。
吸血鬼を、魔人を、人間を、時に同族。なんか分からん銀色の奴………。
死なないから勝てただけの戦いは何時しか真っ当に勝てるようになって、かと思えば三百年前に吸血鬼族のバグの吸血姫やそれすら霞む人族のバグみたいな傭兵王が生まれたり。
吸血姫の方は生きてたけど聞いていたより弱かったし、傭兵王はやはり人なので寿命で死んだが。
さて、何時からだろう。ただ生き残り剣を振るだけの自分の周りに、並べる者がいなくなったのは。
何時からだろう、挑まれる側になったのは。挑まれることすら消え、ただその剣と相対するだけで冥土への最上の土産とされるようになったのは。
それを羨ましいと思った。この身は死ねないのだから。
己の強さを証明するために更なる強者に挑み、
嗚呼、それは戦士として誉れだろうさ。羨ましいよ。
でもさぁ…………
ああ、そりゃああるさ。勝ち目が見えない戦いなんて。不死じゃなきゃ死ぬ戦いなんていくらでもあって、そんな相手に本気を出させりゃそりゃあ、あの世で自慢できるさ。
けどそうじゃないだろ。俺達が目指した武の先は。
全力で、出せる全てを使って、汎ゆる手段を模索して、何もかもやって、それでも勝てなかった。敬意を払うならその時でいいだろ。だから、出来る事があるなら最後まで抗う。殺される為に来ておいて、殺す為に全力で戦う。
そんな矛盾だらけの英雄に竜は笑う。
そうでなくては。竜を殺すためなら何でもしろよ。
神から聖剣を授かれ、徒党を組め、寝込みを襲え、酒で酔わせろ!
その上で潰す。前世ではそれが出来なかった! 気がする!
今世ではやってみせるぞ。この身は最強の竜なのだから!
軌跡を描く獣の爪と竜の牙。
音を置き去りに、景色を置き去りに、空間を経ち時間を裂き、両者は加速していく。
己こそが最強であると証明する。男として生まれた獣であるなら、竜が生まれ変わった男であるなら………。
竜や獣を抜きにして、男ならぁ!!
「「やっぱ欲しいよな、最強の称号!!」」
両者の声が揃い、一際強力な一撃がぶつかり合い互いに吹き飛ばされる。ソウジは周囲に雲を出現させその雲を掴み浮く。
レグルスは空気中の粒子の位置、空気の流れ、温度、湿度………そういった差異に生まれる本来認知不可能な、認知しても意味がない筈のそれを踏むことで空中に立つ。
「
自身の魂の奥底。未だ全てを引き出せぬ己の根源に接続し、斬り刻まれた身体が更に赤く染まる程に力を引き出す。
溢れるオーラが竜を象る。大気が悲鳴を上げる。大地が軋む。ただ一人の存在………否、一匹の存在が引き起こすは厄災。
汎ゆる神話において神にすら敵対する絶対者。即ち厄災。今振りまく厄災はただの余波。これから起こる本物の厄災は、ただ一人に向けられる。
「我が一刀………序章、鉄断ち。詠章、魔絶。破章、空割。急章、
この戦いの中、成長しているのは何もソウジだけの特権ではない。レグルスもまた研ぎ澄まされていった。これより放つは、1000年の時において最大最強の斬撃。
「
「〝獅子王〟」
世界を噛み砕くは竜の牙。
天地を裂くは至高の一刀。
竜の牙が英雄の一撃を噛み砕く。刹那、レグルスが剣を振るう。苦し紛れでは断じてない。
切り払うは過去。ソウジが
「
自身の魂の奥底。未だ全てを引き出せぬ己の根源に接続し、斬り刻まれた身体が更に赤く染まる程に力を引き出す。
「2度も同じ手を食うか!!」
ソウジは叫び、剣を振るう。何もない空間に響く金属音。相対するレグルスは知らないが、察しはついた。見えずとも間違うはずのない、未来の自分が放ってだあろう斬撃。ソウジはレグルスがやったように
斯くして世界は塗り替わる。
即ち、過去を斬る為の剣が折られていた世界へと。
故に防ぐ手段は存在しない。レグルスの領域へと迫ったソウジの剣がレグルスの自動再生を断ち切った。
「…………ごふ」
血を吐き、理解する。あれ程までに忌々しかった不死が消えている。傷が塞がらない。だけど体中の痛みが消えて、痛いのは傷だけだ。
死病すら切り裂いてくれたらしい。彼なりの慈悲だろうか、そう思いソウジを見て、笑う。もう勝負はついたのに、まだ敵として
まだ、剣士として戦ってくれるのだ。
檻と例えた永劫の生。待ち望んだ終焉の、嗚呼、なんと短い事か。
敵うなら、この時が永遠に続けばいいのに。そう願わずには居られない。
「…………終わったか」
「…………ああ」
全身から血を流し、突き刺した剣に寄りかかるソウジ。その眼前に倒れる獣人の死体。
とても幸福そうに、とても楽しそうに、眠るように事切れている。
「すっげぇ楽しかったなあ………」
死病を断ち切ったとは言え、刻一刻と死に近付く体で寧ろ剣技は益々冴えていった。
「やっぱいいな。
そう言って立ち上がり倒れそうになる体をハジメが支える。
「香織呼んでくる」
「いいよ別に。レグルスの魂食ったし、そもそも俺〝不死〟とか持ってるし……どうせ跡も残さず消えるんだ。この傷は、もう少しこのままで」
「はあ………せめて止血はしろ。ユエに凍らせる」
「おう」