強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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最弱と最強

 ハジメが戦闘において超役立たずである事が証明されて2週間。

 結局非戦闘職であろうと『神の使徒に戦えない者は居てはならない』という教会の方針を申し訳なさそうに告げたメルドによる鍛錬にハジメも参加する事となった。

 

 逆にソウジは訓練に殆ど顔を出さない。それでもステータスは未だ最強であり、教会が汎ゆる自由を保障したため咎められることはない。まあトータスの住人には、であり光輝は真面目に参加しろとよく絡んでいるのだが。

 

 ソウジの側には常にアウス(アウスナメは長いとソウジが決めた呼び方)が控えているので恋人である恵里も抜け出し恵里の親友の鈴も付き合い光輝は「真面目な2人まで巻き込むなんて!」と憤慨していた。

 

 当然全くこれっぽっちも気にしないのが我が弟なのだが、と思い出し笑いするハジメ。ちなみに場所は王立図書館。図書館ではお静かには異世界でも共通なのか、思ったより響いた笑い声に数人が反応する。それほど大きな音ではなかったのでお咎めはなかった。

 

 

 

 

 さて、訓練の時間が近付きある場所によってから訓練場に向かう。既に他の生徒も揃っていたがまだ自主練。遅れはしなかったようだと支給された西洋剣を取り出し素振りでもしようとしたハジメだったが唐突に背中に衝撃。

 

 誰かに蹴られたのだ。誰か、とはいったが誰かは分かっている。振り返ればニヤニヤと笑う檜山とその取り巻き達。

 

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

 

 一体なにがそんなに面白いのかゲラゲラと笑う檜山達。これで優しいと有名な香織に好かれたがってんだから脳の何処かが駄目になっているのだろうな。

 

「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

 馴れ馴れしく肩を掴み人目のない場所に連れて行こうとする檜山達。周りの生徒は見て見ぬふり。

 

 

「いや、一人でするから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 

 無駄だと思いつつも一応、やんわりと断ってみるハジメ。

 

「はぁ? 俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの? マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

 そう言って、脇腹を殴る檜山。ハジメは「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら呻く。

 

 元々暴力的な檜山達ではあるが、段々暴力にためらいを覚えなくなってきている。思春期男子がいきなり大きな力を得れば溺れるのは仕方ないこととはいえ、その矛先を向けられては堪ったものではない。かと言って反抗できるほどの力もない。ハジメは歯を食いしばるしかなかった。

 

 やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない場所に来ると、檜山はハジメを突き飛ばした。

 

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

 檜山、中野、斎藤、近藤の四人がハジメを取り囲む。ハジメは悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がった。

 

「ぐぁ!?」

 

 その瞬間、背後から背中を強打された。近藤が剣の鞘で殴ったのだ。悲鳴を上げ前のめりに倒れるハジメに、更に追撃が加わる。

 

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む──〝火球〟」

 

 殴られた衝撃で立ち上がれないハジメは体を転がそうとしてハッと動きを留めてしまう。その体を中野の放った炎が襲う。

 

「づあああ!?」

 

 下級魔法であろうと炎は炎だ。魔耐も低いハジメが食らえば当然その身を焼き焦がす。

 

「やべ!? お、おい水!」

 

 無様に避ける姿を笑おうとしていただけの中野が慌てる。と

 

「ここに風撃を望む──〝風球〟」

 

 檜山が放った魔法が炎を散らしながらハジメを吹き飛ばす。

 

「あ〜あ、なんで避けねえんだよ。ちゃんと鍛えてねぇからだなあ!?」

「げふ、か………」

「お、おい………やりすぎなんじゃ………」

 

 流石にこれ以上はと及び腰の中野達にチッと舌打ちする檜山はそのままハジメを蹴り飛ばす。

 

「てめぇが不真面目なせいで俺達が悪者だよ! 何処まで人に迷惑かけてんだ、あぁ!?」

「だ、大介!」

「おら! 避ける練習だよ! さっさと立て!」

 

 稽古とは名ばかりのリンチを続けようとしたまさにその瞬間だった。

 

「何をしている」

「「「────」」」

 

 決して大きくない声。されど聞き逃すことを許さぬ威圧感が込められた声に檜山達の動きが止まる。

 ギギッと錆びついたブリキ人形のように振り返った檜山達だが、そこに誰もいない。

 

「無事………とは言えないな」

「「「!?」」」

 

 何時移動したのか、ハジメの前でしゃがみ込むソウジ。

 

「…………命に別条はないな。雑魚の魔法か………すまんがもう少し耐えられるか?」

「……………これ」

 

 と、ハジメが中野の炎から咄嗟に庇った物を渡す。それは刀だ。錬成師としてハジメが八重樫流門下であるソウジの為に打った。柄紐はソウジがそれぐらいは手伝いたいと編んで渡しておいたものだ。

 

 漫画で刀鍛冶にハマっていた際の知識だけで、王宮の錬成師や鍛冶師達に相談してようやく完成した一振り。

 

「……………全く、お前と来たら」

 

 紐なんぞ後でいくらでも結えるのに。そう思いながらも笑みをこぼしてしまう。そして立ち上がり檜山達へ振り返る。

 

 日本人らしい茶色の瞳は今や赤く染まり瞳孔は縦に裂けていた。その姿に遅れてやってきたアウスはうっとりと頬を染める。

 

「さて、やってくれたなお前達」

 

 カチカチと無意識に歯が鳴る。生物としての格の違いが怒りを向けられただけで死を覚悟させる。

 しかして知恵を持つとは愚かな物で、時に本能を無視してしまう。

 

「ちょ、調子に乗んなよ! こっちはサボってるお前と違って、鍛えてきたんだぜ! なぁ!?」

「あ、ああそうだ! もうお前にビビるだけの俺達と思うなよ!」

「何時までもイキってんじゃねえ!」

「今日ここで、どっちが上か教えてやるよ!」

「無礼な…………」

 

 アウスが額に青筋を浮かべるがソウジが一歩前に出る。抜かれた刀が陽光に輝く。

 

「は! 剣で風や炎が切れるかよ! ここに風撃を望む──〝風球〟!」

「ここに焼撃を望む──〝火球〟」

「あまり八重樫を舐めるなよ、カスども」

 

 ()()()

 

「「「「は?」」」」

 

 呆けた檜山の顔にめり込む足裏。パキパキと鼻の軟骨が砕けた。鼻血を噴き出しながら倒れる檜山。

 

「お前が弱いせいでまるで俺が悪役のようじゃないか。何処まで人に迷惑をかけるのか………ほら立て、回避の練習だ」

 

 ボウッと炎が灯る。放たれた火球は鼻を押さえて涙を流す檜山に当たり爆発。火傷を負いながら吹き飛ばされる檜山。

 

 気絶しない程度に威力を弱めた。火傷だってハジメよりも軽い。だが、痛めつける側のつもりだった檜山はいざ自分が痛みを与えられひぃぃと無様に呻くだけ。

 

「何をしてるんだ!」

 

 と、そのタイミングで光輝がやってきた。檜山とハジメを見て、キッとソウジを睨んだ。

 

「訓練をサボっていると思えば、クラスメートや自分の兄まで!」

「兄を焼いたから復讐しただけだ。ああ、焼いたのは別のやつだったか? どいつだ」

 

 その言葉に斎藤と近藤は中野を指さす。自分は関係ないから見逃してくれと叫ぶ。

 

「ハジメ君! ひどい火傷………骨まで………!」

「づ、ぅ………」

「見ろ、天之河、此奴等は訓練なら此処までやっていいと証明した。俺はそれにならっただけだ」

「確かに檜山達がやったことは良くないことだ。だけど、だからといって同じことをしていい理由にならない!」

「む。珍しく正論…………だがな、正しさなんぞ知らん」

「っ! お前はそうやって、簡単に悪の道を!」

「悪同士の潰しあいだぞ? 見過ごせよ正義の味方」

「檜山をお前なんかと一緒にするな! 檜山はやり過ぎただけで元々は善意じゃないか! 南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲はもう少し真面目になった方がいい。檜山達も南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ!?」

 

 何をどうすればそんな結論になるのか。決まっている、人が善なる物であるという盲目的な人間讃歌をしていれば、だ。

 

 同時に自分を善なる人間達の守護者とでも思い違いをしているから、自分に逆らう者は悪に違いないなどと思い込める。

 

「そ、そうだよ! 俺はぁ、南雲を鍛えてやろうと! や、やりすぎたけどこんな事されるいわれはねぇよぉ! 天之河、勇者なんだろ!? そいつを殺しちまえ!!」

「い、いやそこまで………」

 

 と、ソウジは光輝の横を通り抜け檜山を見下ろす。冷たいその瞳に檜山はヒッと後退りする。

 

「っ! 待て、南雲!!」

 

 剣を掲げたソウジを慌ててとめる光輝。ソウジは鬱陶しそうに睨む。

 

「どけよ正義の味方。そいつは駄目だ。人を殺すことはあっても救うことはない。人を守りたいんだろ? 悪が許せないんだろ? ならそいつはここで殺させろ」

「ふざけたことを言うな!」

 

 ギリギリと両手で構えた聖剣が片手に握る刀に押し込まれていく。それでも光輝の目は決してお前の思い通りにさせないと語る。

 

「……………お前、人の笑顔を悪意から守りたいのか? それとも悪を許せないのか?」

「何を…………!?」

「正義の味方か、断罪者か………お前はどっちだろうな」

 

 スッと刀を引くソウジ。前のめりになる光輝に足をかけ転ばせた。

 

「次、此奴等が兄貴を執拗に甚振ったら同じ分だけ痛めつける。正々見張っておけよ? そうでなくとも、そいつ等は人を苦しめることしか出来ん」

 

 そう言って去ろうとするソウジ。

 

「まて、南雲! 俺と勝負しろ!」

「……………なに?」

「メルドさんは言っていた。ステータスが全てじゃないと! 訓練もせず怠けたお前と、鍛えた俺。どちらが上だと思う? 俺が勝ったら、お前もちゃんと世界を救う為に訓練してもらう!」

「…………………」

 

 勝負の結果、ソウジはこれまで通り訓練参加は気が向いたらになった。




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