強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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オルクス迷宮

 訓練は進み実戦訓練として【オルクス迷宮】に挑むこととなった。

 全百階層からなる広大な迷宮。七大迷宮と呼ばれる迷宮の中でも最大とされるその迷宮は階層を降りる事に魔物が強力になっていき、その分良質な魔石も取れる。

 

 魔石とは魔道具の燃料にも魔法の効果を上げる染料にも使える、日常的にも軍事的にも非常にありがたい資源だ。

 

 そのうえで経験が積めるのだから、オルクスを生活の中心として栄える宿場町ホルアドは多くの人が行き交う。

 そんな中でも全員分の部屋を取れるのは王権だろうか?

 ちなみに神子であるソウジは一番高い部屋を与えられた。アウスも同室。部屋が分かれていてそこに使用人が泊まれるらしい。

 

「お望みとあらば、私の体を如何様にも」

 

 と、修道服越しでも豊満とわかる肉体に手を添え人間離れした美しい顔で笑みを浮かべるアウス。と、扉がノックされる。

 

「やっほ〜、きちゃった」

「恵里」

「高ぶってる? 恋人の僕が捌け口になってあげるよ? だからほら、お前は出てけよ人形女」

「主命を帯びていますので。それに、男性にとって理想的な肢体(からだ)を持っているのは私ですので」

「ああん? なめんなダッチワイフ。こっちには鈴もいるんだよ。2対1だ」

「ええ!? あ、遊びに来ただけじゃなかったのエリリン!?」

「鈴を巻き込むな………後そういう行為は高校卒業してからと言われている」

 

 はじめに行っておくと、ソウジにだって性欲はある。でも親との約束があるのだ。

 

「……………やっぱり、僕を抱きたいとは思わないんだね」

「そんなことはないが……」

「でもそれは恋人だからじゃないでしょ?」

 

 恵里とソウジは確かに恋人同士だが、それは恵里から告白してソウジが受け入れたから。そしてソウジは別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………え、え?」

 

 鈴は何も知らなかったので混乱している。

 

「いこっか、鈴」

「え、あう…………トランプ……」

 

 城抱えの職人に作ってもらったトランプを3人で使う予定だったが、2人でやることになってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 さて翌日。

 一同は危なげなく迷宮を進む。一流とそれ以外を分けるラインという20階層まであっという間であった。本当にこの程度が、と首を傾げるソウジ。教会の聖騎士達のほうが上とは何だったのか。

 

「極稀にですが、人間の中にも魔力操作を持つ者たちがいるのですよ。そして固有魔法を持つ者も………そういった特性は遺伝しやすく、その血筋は教会に引き取られることが主で市井に流れることは少ないのです」

 

 つまり冒険者や国の騎士と比べ教会の聖騎士は一線を画すということだろう。

 

「お前も聖騎士なのか?」

 

 ちなみに説明しているのはアウスだ。迷宮にまでついてくるらしい。光輝は「貴方も俺が守りますよ」といっていたが無視され、しかも今まさに前線で龍太郎とはしゃいで側にいない。

 

「しかし神子様のお兄様、中々面白い戦い方をしますね」

 

 と、錬成で作った穴に魔物を落としそのまま拘束して首を落とすハジメを見るアウス。鉱物の形を操る『錬金』の応用だ。鉱物が操れるなら石でも操れるだろうという発想に至り実現した。

 

 回を重ねる事に練度が増している。

 

「力も少なく、大きな破壊も齎さない。故にこそ頭を使う。俺やお前にはまず思い浮かばない。自慢の兄だ」

「照れるんだけど…………」

「ソウジンって結構ブラコンだよね」

「そこも可愛いよね」

 

 戻ってきたハジメが照れて鈴が苦笑し恵里は何故か得意気。この5人がチームである。

 

 

 

 

 暫く進み、小休止に入った。ハジメはふと香織に視線を向けると微笑みハジメは気恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「……………もしかして2人とも昨日の夜『自主禁制(ありふ錬金)』したの!?」

「谷口さん!?」

 

 ギョッと目を見開くハジメ。恵里はああ、と手を叩く。

 

「香織の反応的に、香織から貪るように『自主禁制(ありふ錬金)』したんだろうね」

「何!? 貪るような『自主禁制(ありふ錬金)』って!」

「兄上殿、『自主禁制(ありふ錬金)』は別に恥ずべき行為ではありません。神の使徒として呼ばれたあなた方の血を『自主禁制(ありふ錬金)』で増やすのも……まあ教会は喜ぶでしょう」

「僕別に『自主禁制(ありふ錬金)』してないよ!?」

「ええ〜? うっそだぁ。絶対流れで『自主禁制(ありふ錬金)』したでしょ!」

 

 ギャアギャア騒がしくなるチームになんだなんだと視線が集まり一部の男子がおお、と反応し女子達が顔を赤くして俯く。

 

「お前等迷宮内で下ネタとか正気か?」

 

 これにはメルドも呆れている。そろそろ辞めないと光輝が「女性になんてことを言わせるんだ」と南雲兄弟のせいにしかねない。だからか、彼女が来た。

 

「もう貴方達、何を話しているのよ何を」

「シズシズ!」

「チッ。雫か………何しに来たんだよ」

「あんな大声で猥談されたら注意したくもなるでしょ。ここ、迷宮なのよ?」

「……お前、大丈夫か?」

 

 恵里の何時もの如き敵意も笑って流していた雫を心配そうに覗き込むソウジ。

 

「え、何が?」

「まあ、そうか。お前力を得てはしゃぐ男どもと違って馬鹿じゃないし、かといって女の中で唯一の前衛だもんな。感覚が違うか」

「っだから……何が?」

「強がって後で爆発されてもな。()()は命がかかっているんだ。一度下がったらどうだ?」

「……………!」

 

 雫が目を見開き息を呑む。ハジメと鈴は首を傾げ恵里はとても苦々しく顔を歪める。

 

「私、は……」

「雫! そろそろ出発する。戻ってきてくれ!」

 

 と、光輝が呼びに来た。

 

「丁度いい幼馴染。雫を後ろに下げろ。いろいろ無理が来てる」

「南雲………雫がそんなに弱いわけないだろ。強いからって、人を見下すな!」

「……………」

「だ、大丈夫! 心配してくれてありがとうソウジ君」

「大丈夫に見えぬのだがな………」

「お前の勝手な見方で雫を決めつけるな! 行こう、雫」

 

 と、光輝は雫の肩に手を乗せ踵を返させる。

 

「お前………そろそろ自分が見ている光景をまず疑う所から入った方がいいぞ。じゃないと、何も守れない」

「なんだと!?」

 

 光輝が振り返り叫ぶがソウジは気にせず酒を飲んでいる。

 水は案外腐りやすいから少し酒を混ぜておけばいいとはメルドの助言だが、酒持ってきていいって意味じゃねえよ。

 

 どうにもソウジは酒を気に入ったらしくグビグビ飲む。酒には結構強いが、何回か搾った酒を数樽ほど飲んだ時は寝落ちした。二日酔いすることなく翌日にはケロッとしていたが。

 

 光輝は迷宮を舐め腐っているその態度に腹を立てるがメルドが行くぞ! と叫び光輝は大人しく戻っていった。

 

「雫………あまり無茶するなよ?」

「……………ありがと」

「…………………」

「エリリン目ぇ怖!」

 

 殺意に質量があったらそのまま殺せそうな目で雫の背中を睨む恵里に鈴が思わず叫んだ。

 

 

 

 その後順調に進む。途中香織達がル〇ンダイブしてきたゴリラを気持ち悪がり怖がらせたと勘違いした光輝が許さん! と大技を打ち、崩落させる気かと怒られたりしたがまあ順調。

 

 順調過ぎて欠伸が出てくる。ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。インディコライトが内包された水晶のようだ。香織を含め女子達は夢見るようにその美しい姿にうっとりした表情になる。好きだね、女子は宝石が。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは宝石の原石みたいなものである。特に何か効能があるわけではないがその煌びやかな輝きが貴族のご婦人、ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪、イヤリング、ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入る。

 

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。ハジメから求婚されたいのだろう。恵里ともう1人もそっとソウジを見ていた。と……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 檜山が唐突に動き出す。崩れた壁をヒョイヒョイ登りグランツ鉱石に近付いていく。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 メルドが叫ぶが檜山は聞こえないふりをする。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認した。フェアスコープとは魔力の流れを見て罠を感知するアイテムだ。判定やいかに?

 

「団長! トラップです!」

 

 残念(ファンブル)。罠だった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 ソウジ達は空気が変わったのを感じた。ほんの一瞬には浮遊感。

 

 多くの生徒が尻もちつく中、ソウジは立ったまま周囲を見渡す。

 先程までの岩場ではなく、石造りの橋の上。先程のトラップは失われて等しい神代の魔法の一つ、転移魔法だったようだ。

 

 橋の横幅は十メートルくらいあるが手すりどころか縁石すらない。足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまに奈落の底だ。ソウジ達はその巨大な橋の中間にいた。

 

 橋の両サイドにはそれぞれ奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 それを確認したメルドが表情を険しくしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 必死な様子の号令にわたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもない。撤退は叶わない。

 階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。骨格だけの身体に剣を備えたモンスター。トラウムソルジャーの群だ。

 

 更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れる。

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの絞り出すような呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「…………まさか、ベヒモスなのか」

 

 トリケラトプスのような四足獣。ただし鋭い爪と牙が獰猛な肉食性であることをこれでもかと物語る。

 

 そして角から放たれる炎。あれがベヒモスの固有魔法なのだろう。

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったメルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルドの必死な形相に一瞬怯む光輝だったが、すぐに「見捨ててはいけない!」と踏み止まる。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に叫ぼうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このまま撤退中の生徒達を騎士諸共全員轢殺すだろう。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

 そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防いだ。

 

 衝突の瞬間凄まじい衝撃波が発生しベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

 生徒達がこれまでと一線を画すトラウムソルジャーに苦戦している中、ソウジはジッとベヒモスを見つめ獰猛な笑みを浮かべた。

 

 獣が牙を剥くように、されど何処か鋭く冷たい刃のような笑み。

 

 障壁に何度も撤退し亀裂を走らせるベヒモス。押し出されるように撤退したいメルド達はしかし見殺しに出来ないと残る光輝のせいで動けないでいると、その頭を誰かが踏み付ける。

 

「邪魔だ」

 

 ひび割れていたとはいえ王国の精鋭が張った3重の障壁を切り捨てるソウジ。刀はそのままベヒモスの角とぶつかり合い、()()()()()()()

 

「グルアアア!?」

 

 自身が弾き飛ばされるとは思ってもいなかったベヒモスが蹈鞴を踏む。

 

「……ソウジ?」

 

 地面に降りベヒモスと相対する弟弟子の背を見ながら呆然と呟く雫は、ふと昔を思い出す。

 

 ゲームだったか漫画の取材でやってきた夫婦の息子。祖父が一度剣を握らせ、生徒の1人と試合をさせてみた。結果ソウジが圧倒し、しかもその後弟子に来ないかと誘われていた。

 

 受け入れることはあっても勧誘する所は見たところはがない。故に何故と、そう祖父に尋ねた。

 

『彼の中には修羅が住んでおる。そして、剣を振るう術など簡単に身につけるであろう才覚。だからこそ、我々は剣の道を示さねばならんのだ』

 

 その時はよく分からなかった。だが今、ソウジの顔を見て理解した。

 凶悪で強力な魔物を前に先程までの退屈など何処かへ行ったかのように楽しそうな顔。戦いに生きる、修羅の顔だ。

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