強者がありふれた世界   作:超高校級の切望

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奈落での語らい

 ハジメは意識を取り戻す。失っていた魔力が回復し、腕の切断面が塞がっていた。

 どうやら流れ落ちてきている水の効能のようだ。

 

 出処を掘り進めていくとバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

 

 その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させかのような鉱石。

 

 飲めば鈍痛が消え、疲労で靄かかった頭もクリアになる。

 

 ハジメはそれを香織に飲ませようとするが片腕では上手く出来ない。

 

「……………ごめん」

 

 ひとこと謝罪し口の中に水を含み、香織の唇と重ね流し込む。コクリと香織の喉が反射的に動くも目を覚さない。精神的な傷は完治しないのだろう。

 

 「……………ソウジ……!」

 

 香織の治療は中断された。あの肉食の熊………仮に狼で腹一杯になったとしても、別の獣に食われていることだろう。

 

「畜生!!」

 

 直ぐにでも死体を回収したい。獣共になんて食わせてやるものかと、そう思うのに怖くて外に出られない。

 

 

 

 香織はまだ起きていない。彼女を胸に抱くのは守るためか、自分の為か。

 水のおかげで飢えで死んでないだけの死にかけで固定された死に体達。

 

(どうして僕達がこんな目に?)

 

 痛みと飢餓感を感じる度に水を飲み、クリアとなった思考で繰り返す自問自答。答えは出ず死を望み、しかしやはり生を望むを繰り返す。

 

(なぜ僕が苦しまなきゃならない)

 

 弟を救けなかったり

 

(なんでソウジが死ななきゃならない………)

 

 強いていうなら、弱かったからだろう。

 

(僕が何をした……)

 

 非はないのは確かだ。

 

(なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……)

 

 この世界の神だ。

 

(神は理不尽に誘拐した……)

 

 そして戦えと、身勝手な使命を押し付けた。

 

(クラスメイトは僕を裏切った……)

 

 最初の魔法は檜山。そのせいでソウジが………そして、おそらく二発目の魔法も。

 

(化物共は僕の弟を喰った……)

 

 黒く黒く、思考が染まっていく。白紙に黒インクが落ちたように、ジワリジワリとハジメの中の美しかったものが汚れていく。

 

 誰が悪いのか、誰が自分に理不尽を強いているのか、誰が自分を傷つけたのか、誰が弟を奪ったのか。

 

 無意識に敵を探し求める。激しい痛みと飢餓感、そして暗い密閉空間がハジメの精神を蝕む。暗い感情を加速させる。

 

(どうして誰も助けてくれない……)

 

 ここには誰もいないから。

 

(誰も助けてくれないならどうすればいい?)

 

 自分でなんとかするしかない。

 

(この苦痛を消すにはどうすればいい?)

 

 自分でなんとかするしかない。

 

 

 ハジメの思考は現状の打開を無意識に考え始めていた。

 

 激しい苦痛からの解放を望む心が、湧き上がっていた怒りや憎しみといった感情すら不要なものと切り捨て始める。

 

 憤怒と憎悪に心を染めてる時間すら無駄だ。どれだけ心を黒く染めても苦痛は少しも消えないのだから。この理不尽に過ぎる状況を打開するには、生き残るためには、余計なものは削ぎ落とさなくてはならない。

 

()は何を望んでる?)

 

 〝生〟を望んでる。

 

(それを邪魔するのは誰だ?)

 

 邪魔するのは敵だ

 

(敵とはなんだ?)

 

 邪魔をするもの、理不尽を強いる全て。

 

(では俺は何をすべきだ?)

 

(俺は、俺は……!)

 

「……は、じめ君?」

「………!」

 

 ポツリと呟かれた香織の声に思考の淀みが取り払われる。寝言なのか一瞬だけ意識が戻ったのか、それ以降は呼び掛けてもうめき声だけ。

 

「………………ははっ」

 

 一人じゃない。青い光に照らされた部屋にもう一人もいたことをずっと忘れていた。

 助けようと手を伸ばした。弟を助けようと魔法をずっと使ってくれた。

 

(………助けなきゃ)

 

 恩がある。奈落へ落ちる自分へと手を伸ばしてくれた。

 どう見ても助からない弟を最後まで救おうとしてくれた。だから、と外を睨む。

 

 そこにいるであろうあらゆる魔物共。お前等は敵で、そして、俺達を邪魔する敵だ。

 

 

 

 そしてハジメは狼を殺しその肉を喰らう。かくして奈落に怪物が生まれる。本来の歴史と変わらずに。

 ただ一つ異なるのは、そのつよい情動は『帰りたい』ではなく『帰したい』になったことだろう。

 

 

 

「……………ぅ、ん」

「…………白崎!?」

 

 弟を食った可能性の最も高い憎き爪熊を切り刻んで食おうとしていたハジメはその声に振り返る。何度目とも知れぬうめき声。しかし、今度はしっかりとその瞼が開いた。

 

「…………あれ、ハジメ君? なんか、変わったね」

「俺が解る、のか?」

 

 魔物の肉を食ったハジメは死にかけた。魔物の持つ魔力が体内の魔力と反発でもしたのか、全身が砕けるような激痛に襲われ………ようなというか、普通に全身が壊れていた。

 

 特殊な水………錬成の派生技能『鉱物鑑定』によると神晶石から取れる神水という死んでない限り治せる水のおかげで再生と破壊を繰り返して筋肉の超再生のごとくより強い体に作り直された。

 

 背は伸び、痛苦により髪は白く染まってしまった。目つきとかもだいぶ変わった自覚がある。

 

「解るよ………色は変わってるけど虹彩は同じだし、指紋も変わってないもん……」

「そうか…………ん? そう、か?」

 

 よく解らないが説明の手間が一つ省けた。

 

「…………ソウジ君は?」

「……………………」

「………ごめんなさい。何も、出来なくて………」

「お前のせいじゃないさ………」

 

 その後ハジメは魔物の肉を食ったこと。その結果技能を手にした事、神水という回復薬。そして、食料は魔物の肉くらいしかない事。

 

「……………少し、試していい?」

 

 香織は魔物の肉に回復魔法を掛けてから口に含む。

 その際に解毒の魔法、痛み止めなどの魔法も使っておく。

 

「うっ! あ、う………んあ……!」

 

 ビクンと身を震わせる。珠のような汗を流し自分の体を抱きしめる香織だが、ハジメの様に肉が千切れ骨が砕けている様子はない。それでも熱した鉄でも飲んだかのように苦しそうだ。

 

 

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白崎香織 17歳 女 レベル:7

天職:治癒師

筋力:120

体力:200

耐性:350

敏捷:150

魔力:800

魔耐:1200

 

技能:回復魔法[+回復効果上昇]・光属性適性・高速魔力回復・胃酸強化・言語理解

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「魔力は上がってるが技能は増えてないな………いや、胃酸強化は発現してるか」

 

 それに見た目が変わった様子もない。

 

「う〜ん。失敗、なのかな?」

「何をしたんだ?」

「えっと………」

 

 魔物の魔力が体内にはいると拒絶反応が起きると聞いて、香織は回復魔法について思い出した。これもまた他者の肉体に魔力を流す行為だが拒絶反応が起きるなど聞いたことがない。魔物相手にでも、だ。

 

 死して魔力が残留しているだけの魔物の肉に回復魔法をかければ自分の魔力で上書きできるのでは、と思ったのだが。

 

「まあテイマーなんかが魔物相手に回復魔法かけることを考えりゃ、完全に反発したりはしないんだろ」

 

 これは闇魔法や回復魔法と言った魔法として魔力を変換した結果なのかもしれない。ただ、それでも魔力は混ざったからかハジメ程の拒絶反応はでなかったようだ。

 

「胃酸強化を得たなら、今度は普通に食ってみろ。それで技能を得られるはずだ………」

 

 というハジメに従い食べてみるが、やはり技能は得られない。

 

「相性、とか?」

「俺、今んとこ全部手にしたけど…」

「もともとも持ってた技能の数の違いかも…………」

 

 ハジメは実質一つ。その事を考えれば確かに可能性はある。でもその後ウサギを食わせてみたら技能を得ていたから相性もあるのかもしれない。

 

「白崎、聞いてくれ………」

「うん………」

「俺はこれから地上を目指す。バケモン共を殺して、食って、力を得て、地上に戻って………元の世界に帰す方法を見つける」

「…………うん」

「そうなると、神も………教会の連中も邪魔だ………」

 

 呼び寄せた駒が『実家に帰らせてもらいます!』と帰って『勝手にしろ!』とはいかないだろう。確実に邪魔が入り、そして神の意思に従い教会が邪魔をする。つまり、人と争う。

 

「俺は俺の邪魔をする奴を容赦する気はない。殺すことにも、なると思う………」

「………………」

「お前のいう、強い俺じゃなくなった。だから………」

 

 オルクス迷宮に潜る前日、香織はハジメの部屋に訪れていた。その際に香織はハジメに構う理由を話した。

 

 その昔、ガラの悪い男達に絡まれている子供と老婆を守るために間に入り、結果として土下座して衆目の目を集め居心地悪くさせてみるも腹の虫が治まらないのか不良の一人が踏みつけてきた。人間、背中は意外と頑丈。踏みつけ程度ならと数発耐えようとしたところにソウジが文字通り飛んできた飛び蹴りで不良の一人を蹴り飛ばし、そのまま一度も地面に足をつけることなく不良全員を逆に踏みつけていた。

 

 そんな強くて優しい自慢の弟よりもハジメが格好良かったと言われ困惑したものだ。

 

 曰く、力があるから動ける者は知っていても力がなくても動ける者は始めて見た。その強さに憧れた、と。

 

「違うよ、ハジメ君。私は別に、力で解決する人が嫌いなわけじゃないんだよ。ただ、ハジメ君の勇気に、優しさに憧れたの。今のハジメ君は、行動に結果を出せる力を得たただけ。今だって、私のために動こうとしている」

「…………………」

「私はハジメ君について行くよ。その過程できっと、人と争うこともあると思う。向こうも殺しに来るかもしれない…………殺さなきゃ………いけないかも、しれない。それでもハジメ君は、ただ殺したいから殺す、なんて事は絶対にしない人だって、私は信じてる」

「なんで、そこまで」

「……………好きだから、だよ」

「…………………………………………………ぇ」

 

 言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

 

「ごめんなさい。こんな時に………弱ってる心に、つけ込むみたい。でも、この気持ちは本当だから」

「え、あ…………え、え?」

 

 ハジメは混乱している。

 

「貴方と居たい。貴方を支えたい。今度こそ、あなたを守りたい。だから、元の世界に帰る方法を探す旅に、私も連れて行ってほしい」

「あ、はい………」

 

 

 香織も目を覚まし、留まる理由はなくなった。いずれここに花を添えよう。そう心に近い2人は奈落の底へと向かっていった。

 

 

 

 

 その暫く後。新たに作り出された爪熊が二尾狼を食らう。生まれたてだが、自分がこの階層の王である自覚をしている爪熊は不意に妙な音を聞いた。

 

 何かを削る音。やがてボコリと地面から手が生えた。その手に向かい不壊の筈の階層壁を突き破り現れる剣。掌に刺さり、しかし貫くことなく沈んでいく。

 

 ドグンと階層全体が揺れた。爪熊はしかし逃げずにその場に留まる。這い出てきた手は地面を掴み体を地の底から持ち上げていく。

 

 爪熊が知る由もないが、それは人間と呼ばれる種族だ。その強さは爪熊に遠く及ばない。

 

 ギョロリと赤い瞳が周囲を見渡し爪熊を発見した。

 

「グフォウ!」

 

 爪を振るう。弾かれた。

 少年は何もしていない。見えない何かが少年の周りにある。

 

 それは南雲ソウジが生まれながらに宿すモノ。モノというのは正確ではない。宿すも厳密には違う。それは間違いなく南雲ソウジそのものなのだから。

 

 ただ、『人』という種が『南雲ソウジ』の器として脆弱だった。

 異世界へと渡り多少頑丈になっただけでも、到底耐えきれぬ存在格。その感覚を理解してやれるのはこのトータスにおいて神の他におるまい。

 

 今、ソウジの周りにあるのは『南雲ソウジ』の本質が人という器から溢れ出した結果だ。法則を歪め、摂理を蹂躙し、■した筈の■■が顕現する。




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