ジョルジュ「そのうち出番ありますよ」
ハリ「…………」
パーティー会場に着いたジョルジュは酒が飲めない歳なので、ジュースが入ったグラスを受け取る。マドレーヌはシャンパンだ。
「支社長はどうしたんですか?」
「あの人は気にしなくてもいいわ。それに顔見せみたいな目的で参加するのだから、私たちはのびのび楽しめばいいわ」
どうやら、レイレナード・フランス支社の者がパーティーに出席したという事実があればそれでいいみたいだ。要は体面だけ果たしておけば好きに飲み食いして帰ればいいのだ。
「フランスのお偉いさんたちか……」
周囲には派手な正装をした老若男女が思い思いに食べ・飲み・談笑している。会場に着いてから一度離してくれたが、また腕を絡めてマドレーヌが耳に顔を寄せてくる。
「どこかに可愛い女の子がいたら声をかけてもいいのよ?」
「マドレーヌさんのエスコートは……」
「気にしなくてもいいのよ。それにホラ、よーく見てご覧。ジョルジュ君が視線を向けると顔を背ける子達がさっきから沢山いるわ」
言われてみれば何人かの女子達が恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべて、そのような振る舞いをしている。だがそれよりも気になるのは十代、二十代の若者が多い気がする。それに伴って老人たちがやる黒々しい腹の探り合いとかがなくて会場が和やかだ。
「可愛いわね。顔を背けてもチラチラ見ようとしてるのが……なんだか誇らしいわね」
「マドレーヌさんはカッコイイ男に声かけないんですか?」
「あら、言うわね君」
軽口を叩きながら二人は食事が乗ったテーブルに向かう。
あるテーブルの会話――
「それにしても随分大胆だな」
「仕方なかろう。今我々が会うにはこうするのが一番だろうて」
「その通りだ。諸君久しぶりだな」
「と言っても。直ぐにまた会えるがな」
「フン、その話は今はいいだろう。で、あれが候補者か?」
「まぁそうだな」
「戦闘データは送ったが見たか?」
「ああ」
「どうなのだ?」
「合格だ。フン……さすがだよ」
「……これまでの候補者と合わせて二十二人……か」
「時期もある。今回が最後の機会だ」
「では二次選考だな。さて、残れるかな」
「…………」
「遅かったじゃないか」
「首尾はどうだ?」
「…………」
「言葉は不要か……」
「小娘の事は終わりだ。今は久しぶりに集まれたささやかな時を楽しもうではないか」
「そうだな。最後の晩餐となるかもしれんからな」
「これ美味しいわね。隣のお肉よりソースがいいわね」
「そうなんですか? どれも似たような味に感じます」
肉が置いてあるテーブルでマドレーヌとジョルジュは食べ比べをしていた。牛・豚・鳥、それらが様々な味付けがされて置いてある。ジョルジュには解らないが、どれも高級品だ。
「ジョルジュ君ってもしかして味音痴?」
「どうでしょう? とりあえず肉の食感と味がするのは解ります」
「これと……これ……どう? 同じ牛肉でも違いがあるでしょう? 解らない?」
「……そうですね…………肉です」
マドレーヌが小さく切り分けた牛肉を食べさせるが、ジョルジュは簡潔に肉としか言わない。脂が大分違う物を選んだのだが、彼女は溜息をついた。
「顔が整っていて、強くて、礼儀正しくて、この歳にしては完璧なジョルジュ君にこんな弱点があったのね……」
「栄養になればいいじゃないですか? それに何でも食べられますよ」
「そんな野性児みたいのじゃ勿体ないわよ」
ジョルジュにとっては肉は[美味い食べ物]という認識だ。魚の味だって知っているし、焦げたモノの味も知っている。だが体を動かすエネルギーとなり、死なない為の食物の美味い・不味いを気にして食べたことはあまり無い。
納豆が臭い。牛乳が不味い。魚を生で食べるのに抵抗がある。コッペパンが硬い。IS学園の食堂でそんな雑談が聞こえるが、ジョルジュにとっては溜息が出る話だ。
それを食わなくても別の物が与えられ、受け取れるのだから。
別に彼女たちを軽蔑などしていないし、嫌いな物は誰にだってある。中にはアレルギーで食べられない人もいる。しょうがない。
しかし、そういう人達も食べる物を選べるように環境が整えられている。整えた大人達は立派だと思うし、その与えられた選択権で好きな物を選んでる彼女たちは幸せそうだから、それでいい。
だから、目の前のマドレーヌのように食べ比べすることで味を楽しめることが、羨ましいのだ。
そんな事を考えていたが、マドレーヌはふっと笑った。
「まぁでも生きることに真摯なようで良いと思うわ」
「ありがとうございます」
そうだ。その場にある物の何を飲み、何を食べても味を楽しめない。けれどそれで上等だ。生きている事が大事だ。ジョルジュはマドレーヌの言葉が素直に嬉しかった。
「ふ~、ちょっと疲れたよ……」
人の輪から少女が抜け出てきて、ジョルジュ達がいる肉のテーブルにやって来た。先ほどから随分と人が集まっていたので気になっていたが、少女が抜けると少しずつ散開していくので、彼女が中心人物だったのだろう。
「……」
「どうしたの?」
「あ、いえ……」
ボーっと、少女を見ていたジョルジュにマドレーヌが声をかける。
なんだかIS学園にいる同級生に似ているなと思った。
身長が百五十ちょっとで、金髪を解いたら、たぶんあんな風に流れるかもしれない。中性的な顔立ちだからドレスを着たら、たぶんこんな風に似合うかもしれない。でも絶対にあんなに胸はデカくない。デカかったらおかしいが。
少女が皿を取ろうとこちらに近づき、目が合う。
「え!?」
「はい!?」
少女が何故か驚きの声を上げる。思わずジョルジュも驚く。
「どうかしたのお嬢さん」
マドレーヌが少女に声をかけた。
「あ、えと……か、かかか、カッコいい人だなー……って思いまして。すいません急に大声出してしまって」
「あら、奇遇じゃない。この人もあなたに見とれていたわよ」
「え!?」
「は!? ちょ!?」
少女の受け答えに何か察したようでマドレーヌが何かよからぬことを考えたようで、ジョルジュの背中を押す。
「よかったら二人で話してらっしゃいよ」
「何言ってるんですか!?」
(私の事は気にしなくてもいいの。男の子ならここで行っときなさい)
小声でそう言うや自分の皿を持ってテーブルを離れていく。置き去りにされたジョルジュはこのまま少女を放置しては失礼になると思い。自分の口でもう一度誘った。
「えと、ご迷惑でなければ少しだけお話ししませんか?」
「……はい」
少女は少しだけ考えてから了承してくれた。
二人は自分たちの料理と飲み物を持って、会場の隅に置いてある休憩用の椅子に腰かける。
「申し遅れましたジョルジュ・サンソンと申します」
「えと、シャルロット・デュノアです」
「デュノアといえばシェア第三位のISラファール・リヴァイヴの?」
「はい。そのデュノア社の娘です」
顔立ち、名前と続いてやはり友人の関係者だった。
「もしや、お兄さんがいらっしゃるのでは?」
「はい。代表候補生に選ばれてIS学園に転校しています。やっぱり男でISを使えるというのは有名になっていますね」
「それだけではありませんよ。実は俺もIS学園に在籍していて、彼の事は知っています」
「もしかして、カラードとIS委員会の交流実験の選抜者ですか!?」
「はい」
「そうなんですか!? 兄の生活はどうですか?」
「まぁ、マジメな優等生ですね。着替えが異様に早くて可笑しなところがありますが、いい友人ですよ」
他にも女子に対して押しが弱くていつも苦労していそうだとか、時々余計な事を言う奴だとかあるが、身内のマイナス面を知らされたくないだろうから月並みなことを言っておく。シャルロットは笑って答えてくれた。
「兄は少し恥ずかしがりやなところがりますから。一緒に着替える時だって女の子の僕より恥ずかしがって……実は今実家に帰ってきているのですが、新パーツのテストの為にここにはいません。ジョルジュさんはどうして此処へ?」
「俺は支援企業との交流戦の為にIS学園での試合後に直ぐ飛ばされたんですよ。……あれ? どうしてわざわざフランスに呼び戻したりするんですか?」
IS学園は国家がお互いの新ISとの比較や新技術の試験に適した環境だ。学園にパーツや最低限の役員を送り込みその場で試験すればいいはずだ。ジョルジュの場合はフランス支社の者達がマドレーヌの他にも多数いたから(ノーマル乗りを含む)ジョルジュ一人が来た方が手間がかからず、安上がりだからそうしたのだ。
シャルロットは目を泳がせながら答える。
「あ、えと……そ、その。まだ公開したくない製品なのではないでしょうか!? すみません。僕は今回の開発にあまり関わっていなくて知らないんです……」
いくら身内とはいえ、会社の製品に関する事を全て聞いていないだろうし、もし知っていてもそれをジョルジュに教える義務など無いし、ジョルジュが聞く権利は無かった。
「……俺の方こそ無粋な詮索を申し訳ない」
ジョルジュは思い付きで聞いてしまった事をシャルロットに謝罪する。
「気にしないでください! 僕もその……上手い答えができなくて、ごめんなさい」
空気が悪くなってしまったが、学園での話に戻すことで何とかなった。その会話はマドレーヌがジョルジュを呼びに来るまで続いた。
空港――――
「お世話になりました」
「こちらこそ。世話になったわ」
パーティーから三日が過ぎた日。ジョルジュは日本に戻る為に空港に来ていた。見送りはマドレーヌ一人だ。必要ないと言ったが、彼女が車で送ってくれたので必然的に見送りに来た。
「またフランスに来ることがあったら、知らせて頂戴。デートしましょう」
「機会があれば、お願いします。見送りはここまででいいです」
「そう。じゃあ元気で」
「そちらこそお元気で」
別れの挨拶を残して空港に入る。
窓口で簡単な手続きをして、時間まで椅子で休むことにした。
「あれ?」
見覚えのある人物が座っていた。近づいてみたが、間違いなかった。
「ジュリアス先輩?」
「ん? おお、ジョルジュか……」
長い髪をポニーテールでまとめた女性。アスピナ機関の先輩、ジュリアス・エメリーだ。高い身長とスレンダーな体型を持ちクリストフから「スーツ着たら良い意味で男に見える」と評されている。
「先輩どうしてここへ?」
「インテリオルからパーツテストを依頼されて、いくつかの施設を回っていた。これからアスピナへ帰るところだ。お前こそジェラルドとIS学園にいるはずでは?」
彼女はインテリオルと支援契約している立場だ。だが、その機体はオーメルグループのパーツが多く使われている。これは本人の希望でそうしている。
アスピナ機関はオーメルから支援を受けて運営しているので、テストパイロット達に機体を与えてテストする際にはオーメルグループのパーツが推奨される。理由は簡単だ。アスピナ機関としてはその方が割引が効いて安上がりだからだ。ジュリアスはアスピナ・インテリオル両支援組織の特性を惜しみなく使っているといえる。
ジョルジュはジュリアスに今回のフランス出張について説明した。
「そうか……パーティーがあったのか。楽しかったか?」
「ええ、老醜に満ちたパーティーじゃなかったので、初めて若者らしく楽しめたと言いますか……ええ、いい夜でした」
「なんだ? よき出会いでもあったかのような顔だな」
ふっと笑いながらジュリアスが目を細めてそんな事を言ってくるので、背筋がゾクリとした。
「……見ていたかのように言いますね?」
「図星か? まぁ……女の感だ。どうした? ガラにも無いと言いたいのか?」
「いいえ。電話で話しているようですが、ジェラルド先輩の学園での様子でも話しましょうか?」
「それで上手く逃げたつもりか? いいだろう。お前たちの学園での暮らしぶりを聞かせてくれ。私も久しぶりの施設外なのでな。楽しい話を沢山持ち帰りたい」
別に話を逸らしたつもりはないが、久しぶりに会った先輩との話を楽しみたかった。
ジョルジュが日本に着いてから一つの大きな事件が報じられた。
【フランス代表候補生にして世界で二人目の男性操縦者、シャルル・デュノアが死亡した】
詳細はデュノア本社の施設で実験中に事故が起き。その爆発に巻き込まれたらしい。不運にもその時にシャルルはISを持っておらず、絶対防御を展開することができずに爆発に巻き込まれ亡くなったらしい。死体はバラバラになって原型を留めていなかったそうだ。
このニュースは世界中で悲しまれた。純粋に一人の少年が死んだこともそうだが、非情な見解だがISの研究において特異なサンプルが一人減ったのだから。
葬儀は粛々と行われ、シャルルのISは後任の者に託されたそうだ。
その後任が――――――
「初めまして。シャルロット・デュノアです。兄の代わりのようではありますが……皆さんよろしく願いします」
フランスで会った金髪の少女がIS学園一年一組の教壇で自己紹介していた。
「…………」
「ひとまず後処理は完了した」
「……応」
「こちらとしては今騒がれては困るので手を出したが、珍しく積極的に動いたな」
「…………」
「盟友の友人の娘……義理としては遠いと思われる」
「……最後」
「そうであってくれ。ただ存在を消すのは簡単だが、再び表の世界に出すのはかなり無理があるのでな。いずれどこかで綻びが生じ彼女に困難が訪れるであろうが、下手に手を出すなよ」
「……了承」
この作品でもトップクラスのご都合主義(デウス・エクス・マキナ)だ。
奴らが動く理由がちゃんとあるのだが、あまりいい形で整えられなかった。