ソラを繋ぐ翼   作:ホワイト・フラッグ

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作者は海が苦手です。昔、割れたガラス瓶を踏んで足が血だらけになったから。

サンダル履けばよかった。



12.臨海学校

 シャルロットが転校してきて数日。

 

「お休みなさい。デュノアさん」

「お休みなさい。みんなもまた明日ね」

 

 放課後の自主訓練を終え、寮への帰り時につくシャルロット、ジョルジュ、一夏は他の生徒と別れの挨拶を交わす。

 

「ここでの生活も大分、慣れたようだな」

「うん。二人のおかげだよ」

「気にすんなよ。こうして訓練に付き合ってくれてるんだからな」

 

 最初は皆、兄の不幸を憐れんだりして、少し近づきがたい空気になっていたが、フランスでの面識があったジョルジュと元から優しい一夏の協力で今はクラスの人たちと友人と呼べる関係になっている。

 

「シャルロットの戦い方は変幻自在だ。遠距離から抑えつけてもいいし、近距離で削ることもできる。恐らく誰にとっても脅威になるから、いい相手になるな。俺にとっても一夏にとっても」

「やっぱり豊富な武装は羨ましいな」

 

 射撃武装を一切持たない(機体の都合上持てない)一夏はシャルロットとの戦いには煮え切らないものがある。ライフルの攻撃を掻い潜ったらサブマシンガンやショットガンの弾幕を受け、それを越えても近接ブレードで受け止められる。そしてショットガンや牽制行動で距離を取られて、またライフルで撃たれる。これの繰り返しだ。

 

「わかっているだろう? 近づいたら何としてでも離れちゃいけないんだ。鈴と切り合っている時も時々離れようとするが、アレは駄目だ」

「でも、甲龍の双天牙月は二振りで手数が……」

「だから、それが駄目なんだ。一度距離を置いて立て直そうにも格闘しかできないんだから、不利でも格闘で削らなきゃお前は勝てん」

「それはわかっているだけどなー」

「でも、組んだ時の一夏は頼りになるよ」

 

 戦闘について語り合っている間に三人は寮の2015室の前に来ていた。フランス遠征から帰った後に部屋の再調整がされジョルジュはこの部屋で一夏と二人で寝起きするようになった。

 

「じゃあ、またなシャル」

「うん。またね二人共」

 

 シャルロットと別れたが一夏の呼び方に違和感がある。

 

「なんだ今の?」

「なにがだ?」

「いや……シャルって……」

「ああ、愛称だよ。付けてくれって言われたから……」

「なるほど。鈴と同じか……」

 

 鈴は自分から簡単に呼ばれるように周囲に愛称を勧めている。呼びやすいのでジョルジュもそうさせてもらっているが、シャルロットにも今度呼んでもいいか尋ねようと考える。

 

 寮とはいえ自分たちの部屋なので寛ごうと一夏は自分の荷物を机に置くが、ジョルジュは窓側の自分のベットにカバンを投げる。すると「ムグ……」とくぐもった声が聞こえた。その正体は――――。

 

「……何をするのだ」

「俺の寝床で何をしているんだラウラ?」

「その前にどうして気付いたかを教えて欲しい」

 

 ラウラが布団を跳ね上げてカバンを除ける。彼女は小柄な体をしているので、布団に隠れていてもわかりにくかった。実際に一夏はラウラの登場に驚いている。

 

「布団の右側に印があるだろう。それと左下にも? それが今朝あった位置よりずれている」

 

 ラウラと一夏は言われた印を探した。すると二か所に裁縫の時に作る玉止めで印されていた。やろうと思えば中学生にもできそうな初歩的なマーキングだが、使われた糸が布団と同じ白色であったせいで気付きにくいモノになっていた。

 

「むう……今度からは位置を修正して潜ろう」

「やめろ。で、なんでそこに居た?」

「嫁と一緒に寝るのは当然だろう?」

「その意味が分からないよ」

 

 フランス遠征から帰った日にラウラに無理やり唇を奪われて「お前を嫁にする!」と宣言された。その動機が「気に入った相手を嫁にする風習があるから」だかららしい。

 

「そ、その……私は恋愛ごとに疎くてな。本国の副官に聞いたのだ」

「俺も経験が無いが、その部下は優秀なのか?」

「ああ、今の私には心強いアドバイザーだ!」

「そうかい……」

 

 遠征から帰って来てから何度もこんなことがあった。夜中に気配がして起きてみれば何故か全裸のラウラと格闘することになったり、朝方に顔面を近づけて来たりといろいろだ。その元凶がドイツにいるのでは止めようがない。なんとか説得するしかない。

 

「あのなラウラ……」

「あと、あのクリストフ・ローエンという男からも助言を……」

「わかった。アイツの口が二度と開かないようにしてやる」

 

 ジョルジュは部屋から飛び出て数日前まで寝起きしていた部屋を目指す。あの戯けは余計な事をしてくれる。苛立ちを露わにしながら扉を開けると。

 

 

 

「頑張れー!! ビットマン!!」

 

 元凶はアニメを見ていた。

 

「そのタイミングでAAは駄目だ! そこで使っても威力は低いし、目くらましも効果は薄い! ああ、GAマンが来てくれた! 一旦下がってコジマチャージを!」

「オラァ!」

「うわ!? いきなり蹴ってくるなんてどうしたんだい? アリャーマン」

「俺は! 企業戦士じゃ! ねぇ!」

「でも、去年アスピナの劇で、ハリと二人でやってたじゃん。『スーパーアリャーブラザーズ』を……」

「あれは! 他が! やらなかったからだー!!」

 

 クリストフはこちらの攻撃を上手く躱しながら、昔の恥ずかしい話をぶり返してくる。アレは恥ずかしかった。年少の被験者達との交流を目的に毎年劇をやっているが、運悪く担当になってしまった。

 特に「「 俺達が正義の味方。アリャーブラザーズ!! 」」とか二度とやりたくない。というより。

 

「昔の事はどうでもいいんだよ! ラウラに適当なこと吹き込みやがったな!」

「適当じゃないよ~。お前の気を引くにはどうしたらいいか、聞かれたから真剣に考えて教えたぜ」

「例えば……?」

「お前と会うときはできるだけ肌を露出するといいとか……」

「『できるだけ』どころか、全部脱いだぞ!」

「それだけ頑張ったってことさ! いいねぇ! 色男!!」

「やっぱり遊びじゃねえか!」

 

 案の定クリストフはジョルジュをからかう気満々でラウラに余計な事を吹き込んだようだ。テレビの画面でもアクアビットマンとアリャーマンが戦っているが、あちら(ビットマン)は瀕死にも関わらず、こちら(クリストフ)は余裕そうにジョルジュの足を避ける。お互いに部屋の物を壊さないように配慮しているが、部屋中を使った大立ち回りだ。

 画面の中ではオーメルマンの一角、弟のオーギルが登場し瀕死のアクアビットマンを抱えて飛び去って行く。そしてこちらも――――。

 

「やぁ。ただいま」

 

 ジェラルドが部屋に帰って来た。

 

「あ、お疲れ様でーす」

「お帰りなさい先輩」

「いやぁ疲れたよ」

 

 表情と声から察することができたが、随分と疲れているので、ジョルジュは邪魔にならないようにクリストフから手を退いた。それをいいことにニヤケながら口笛を吹くクリストフを明日の朝一でぶちのめすと心に誓う。

 

「新パーツはどうでした?」

「ああ、良いパーツだと思うよ……」

 

 ジェラルドは先ほどまでローゼンタール社から送られてきたパーツをテストしていたらしい。

 

「そういえば来週から君ら臨海学校じゃないか?」

「そういえば、そんな事言ってましたね」

「たぶんそこでISの専用機持ちは各国・企業から試作パーツが届けられて、試験するだろう。ISもACもこの時期は試作品を出しまくるな」

 

 ジェラルドはベットに腰を下ろしながら二人の後輩に尋ねる。

 

「君たちには何か試験依頼は来ていないのか?」

「自分には何も……」

「俺にはトーラスから『すんごいの』が届きますね」

 

 クリストフは相変わらずだが、コジマ系兵器に扱いに企業連で名が通っており、コジマパンチはオーメルが開発した物だが、アレに限っての話だがデータ取を任されている。本来ならトーラスから新フレーム[アルギュロス]を使って微調整範囲のテストをしてくれと言われているが、本人曰く「あっちも可愛いけど、ランスタンはアンティークだ!」という我が儘が通っている。

 ジョルジュは完全に戦力として支援を期待されているので、あまりパーツテストの話は回って来ない。

 

「テストも勿論大事だが、初日は自由行動らしいじゃないか、遊べるのか?」

 

 ジェラルドはどこかズレた感性を持つ二人の後輩を心配する。

 

「海って遊ぶところなのか?」

「実験するところだろう!? PAが高密度の水の中でどれだけ展開できるか、これは全てのリンクスの行動範囲に関わる重大なテーマだお!」

「いやいや……海は足場の悪い砂浜を使った訓練のためにある。蹴ったはずの地面が陥没・滑ることによって、素早い行動ができなくなり、その分体力を使うから整備されたグラウンドを走るのとは別な要領が必要とされ……」

「あーもうわかった」

 

 思った通りの反応をする後輩二人にジェラルドは溜息をつく。

 

「二人のその考えはそれぞれ間違っていないけど、ゆとりのある考えを持たないと周囲を疲れさせてしまう。これを機に二人は海で遊ぶことを覚えよう」

「でも、どうすれば……」

「そこはクラスメイト達に合わせればいい」

 

 二人はやや納得がいかないものの、頷きジョルジュは部屋を出て行った。ジェラルドは最後に一つ心配事をした。

 

「水着……大丈夫だよな……」

 

 

 

 

 

七月六日――臨海学校初日

 

 

 

「「「 海だーーー!! 」」」

 

 宿泊先の旅館に挨拶をして荷物を置くと一同は水着に着替えて白い砂浜に出た。少女達は状態の違う二種類の青を前にして叫ぶ。まるで突撃前の死兵だ。

 

「あれぇ? 男子は?」

「織斑君はさっきまでセシリアにサンオイル塗ってたけど、泳ぎに行っちゃった」

「あと二人は……」

 

 男子を探す女子生徒達は旅館から歩いてくる二つの影を認めて、硬直する。

 

「何の実験をするかわからないけど、ソレ意味ないだろ?」

「ジェラルド先輩に言われただろう? 海にいるという気分を持ったまま難問に挑むための格好だよ」

 

 クリストフは何が入っているか不明だが大きな荷物を背負っている。それはそれで怪しいのだが、問題は格好だ。大きなその身体を日に晒しながら男物の水着を履いているのだが、その形状は逆三角。所謂ブーメランパンツだ。股関節の拘束が無く、泳ぐの適した水着なのだが、その上に白衣(●●)を着ているのだ。

 一目見ていったい何をしたいのかわからない格好だ。

 

「そう言うお前もヤリ過ぎだろ?」

「そうか? 海で泳ぐのが遊びなのだろう?」

 

 クリストフの格好も奇怪だが、隣のジョルジュはある意味クリストフより海に相応しいが、やはり目立つ格好だった。

 

ダイビングスーツ(●●●●●●●●)なんてガチじゃねえか!」

 

 全身を黒いスーツで覆い。頭には潜水用のゴーグルを付けている。酸素ボンベが無いのは重量の問題で運べなかったからだろうか、これに銛を持っていれば極限生活番組に出演できそうである。

 

「ホラ見ろ! お前の格好に皆が引いているぞ!」

「馬鹿な! どう考えても変質者はお前だろ!」

「「「 二人共だよ!! 」」」

 

 お互いに責任を擦り付け合っていると一斉に言われた。

 

「クリストフ君は何がしたいかわからない!」

「ジョルジュ君は目的地が深すぎて付いて行けない!」

 

「俺はこの中にある装置を……」

「俺は海の遊びといえば魚の鑑賞かと……」

 

「あ~もう! いろいろ置いて来て!」

 

 結局、鷹月に二人共引きずられ旅館へ連れて行かれた。彼女の指示により、潜水ゴーグルと怪しげなカバンを旅館に置いた二人は再び海に出ることを許された。

 

「海で遊ぶって言うのは何も考えずのびのびと泳いだり、ビーチバレーをしたり、そこまでの準備は要らないんだよ」

「そういうモノなのか……」

「そういうモノ! 気を張らずにちょっとやってみよ」

「…………」

 

 鷹月達に誘われてビーチバレーをしてみたが、戦闘と似たモノでチームでの連携が難しかった。だが、徐々に連携が上手くいくようになり相手のコートにボールを叩き付けることができた時は思わず拳を握った。アスピナではあまり野外での遊びをしたことがなかったが、なかなか楽しいモノだと思った。

 

 その後、全身をタオルで包んだ最初のジョルジュとクリストフ(変質者)と同じような目で見られていたラウラが恥ずかしがりながらも水着姿を晒して、数分で逃げたり。一夏と合流して男子チーム対女子選抜チームで試合をしたりと楽しい時間は直ぐに過ぎて行った。

 

 

 

 海での自由時間の後は夕飯。IS学園は多国籍の生徒が集まる学園なので、正座の文化が無い生徒がいる。慣れていないと正座は苦しく食事を楽しめないので膳の席とテーブルの席を用意された。ジョルジュは楽なテーブル席を選んだ。

 

「ほう……」

 

 主に外国籍の生徒は揃って美しく盛りつけられた料理に感嘆する。日本の食事は綺麗に盛られており視覚から楽しむ事ができるのは味覚が正常ではないジョルジュにとって嬉しい。

 

 膳の席で一夏がセシリアに刺身を食べさせている。まるで恋人のようなその行為に回りが憤慨するが、織斑先生が現れて一喝して鎮まる。いつもの事だが、「鎮めるのが面倒だ」なんて酷い事を言う。

 

「……ッ!?」

 

 刺身の横にあった緑の塊を食べた時に鼻に何かが突き刺さるような感覚がした。昔ACを池にいるときに落とされ溺れた時に感じた鼻を詰める感じじゃない。なんだコレは!?

 

「わ、わわ……大丈夫!?」

「……ッ」

 

 正面に座る眼鏡の少女がお茶をくれる。火傷に気を付けて飲むといくらかマシになった。

 

「……ありがとう今、鼻がこう……ナニカされたんだけど、何なのコレ?」

「わ、山葵……それに含まれるアリルイソチオシアネートは揮発性の物質で殺菌効果あるけど、それが舌や鼻を刺激するから……」

「成程。俺の舌の痛覚は正常なんだな……」

「…………」

 

 迂闊だった。周囲の食べ方をよく観察してから箸を伸ばせば良かった。その証拠に離れた席でクリストフが「ブッ!? なんじゃコリャ!? こんな緑は許せねえぞ!」なんてお手本をやってくれたのに。その後も相変わらず味はあまり感じなかったが、食事を楽しんだ。

 

 正面に座った眼鏡の少女をどこかで見たと思ったが、彼女の事を四組の生徒だと思い出したのは食事が終わり、風呂に入っている時だった。

 

 

 

「部屋割りはまぁ……妥当だな。位置も」

 

 一夏、ジョルジュ、クリストフの三人の男達は織斑先生の隣の部屋で寝ることになっている。これは旅行ということで気分が舞い上がった女子達の襲撃を備える為らしい。

 

「こうやって室内でできるなら何で昼間にやろうとしたんだよ?」

「海水に触れた場合も試したかったからな……十三番のデータを」

「うい」

 

 現在。クリストフが昼間に持ち出そうとした小型の粒子実験装置を使っていくつかの実験をしている。装置は歪なダンベルのような形をしている。球状の粒子を生成し任意の機動をさせる空間に通路で繋がれた先には粒子に対してアプローチする物を置く場がある。

 コジマ粒子の生成は例え無害化があっても厳重に注意しなければならない。その事を考慮しているのかクリストフはコジマとは別の無害な粒子を用いている。

 

「十三番回ったぞ」

「よし。そんじゃ観測開始」

 

 クリストフはそう言うと紙屑を装置の中に入れ粒子の流れを見る。そしてエアガンを装置に入れ発砲する。粒子がどのくらい乱れるのかを観察するためだ。他にもレーザーポインターで光の曲がりを見たり、小型の扇風機で風を入れたりする。

 

「エアガンは二番より弾いたな。だけど風でスゲー乱れたな。これじゃ空気抵抗軽減が生かされないな」

「並べると、エアガンは十三番、レーザーは五番、風は八番だな」

 

 彼らがやっていたのはPAの整波パターンの検証だ。エアガンは実弾、レーザーはそのままレーザー兵器、風は機動をそれぞれ想定している。PAは実弾・レーザー兵器への防御だけでなく、空気抵抗を軽減し機体の高速機動に大きく貢献している。

 

「まぁ使い分ければいいか……」

「そんな余裕があんのかよ……」

 

 今回のクリストフ自作(●●)の整波パターンだが、大概のリンクスはこんな事を自分で調整しない。各企業の専門のコジマ技師がやるようなデリケートな事だからだ。下手ないじり方をして機体の防御力を下げてしまったりジェネレーターへの負荷を上げて継戦能力を落とすからだ。

 

 紙屑や道具を片付けてクリストフはトランプを出す。

 

「さーて実験も大体終わったし遊ぼうぜ! ポーカーしようぜ!」

 

 ここで検証したデータは明日からの機体の運用試験で実際に試す。今日できることはここまでなので、アスピナで良く――ほぼ――やっていた遊びをする。

 

「なんか賭けるか?」

 

 アスピナでも簡単な娯楽としてカードゲームは流行っていた。大概そういう時はくだらない物事を賭けていた。

 

「じゃあ五回負けた奴はビール飲む。どうだ?」

「教師の隣室で飲酒か……恐ろしいな」

 

 ジョルジュは了承の意でカードをシャッフルし三つの山札を作る。双方共に三つの山札から好きにカードを引いて五枚の手札を作る。

 

「そういえば一夏は?」

「隣の部屋だ。お前が長風呂に浸かっている間に呼ばれていた」

「姉弟水入らずってか……」

「…………」

 

 ジョルジュは黙ってハートとクラブの2を残し三枚のカードを捨てる。そしてもう一度三つの山札からカードを引き交換する。クリストフも二枚のカードを交換する。

 

「すまねぇ……」

「気にするな……お互い様だろ」

 

 ジョルジュもクリストフも親兄弟などいない。元からいない者を悲しんだりすることは無い。羨ましくは思うが。アスピナで目の前のクリストフ(コイツ)やハリという友人が得られ、優秀な先輩たちや後輩もいる。親代わりなら師匠もいた。それでも過去の境遇を引きずっているのは確かだ。

 どうやってそれを脱却するかは検討もつかないが、いくら後悔を積んでも人生だ。師匠も後悔を積んできた。何も言わないがコイツだってなにか積んでいる。だったら、どれだけ後悔を積んでも自分に納得のいくように先を生きるべきだ。

 

「カードの交換は済んだな。どうする? 勝負するか?」

「するさ、お隣のご一家にあてられて勝負の熱を逃がしたりはしない」

 

 ポーカーに限らずいろんなゲームに自分たちでルールを付けることがある。アスピナのローカル・ルールでは持ち札が悪いときは勝負を降りることができる。ただし、三回降りたら一回負けにカウントされるが、ジョルジュは自信があったので勝負に出た。

 

「せーので、ドン!」

 

 同時に場に出した手札を見てジョルジュは天井を仰ぐ。

 

「早速負けかよ」

「あと四回でビールな」

「アレ? でも確か俺って何かの書類でフランス国籍だったから、飲酒OKかも」

 

 あの国では酒の種類によるが十六歳から飲酒が可能だったはず。誕生すら曖昧だが、検査では推定、六月十日生まれと言われた記憶があるので、ジョルジュはもう十六歳と言える。

 

「じゃあ負けて一緒に飲んじゃえよ」

「バーカ。あの織斑先生だぞ。消灯時間の見回りとか勤務が残っているのに酒なんか飲むかよ」

 

 いくら成人でも、あの真面目な先生がこんな時間から飲むはずがない。ありえない。ありえない。と言いながら負けた人がシャッフルするというルールによりジョルジュはカードに手を伸ばした。家族ネタであえてこちらの手札をほのめかしたのにコレは負けるハズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11が二枚、2が三枚でフルハウス。 

 

ジョーカーを混ぜての9のファイブカード。

 

次は勝ってやる。そう意気込みジョルジュは三つの山札を作った。

 

 




ポーカーなんてフルハウス揃えば勝てる。そう思っていた時期もありました。
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