ソラを繋ぐ翼   作:ホワイト・フラッグ

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一か月ぶり。


13.暴走する祝福

七月七日――臨海学校二日目

 

 

 

 初日は自由時間だったが、二日目からはISの実地訓練だ。学内のアリーナより広く地形も海が加わり大きく変化した環境ならではの訓練ができる。専用機持ちは企業や国から送られてきたパーツのテストも同時に行う。

 

「ふわぁ~ぁ」

「クリロ~。大きな欠伸して眠れなかったの~?」

「ま~枕変わったら寝つきがな~」

 

 本音とクリストフが話をしている。結局あの後のポーカーでクリストフは五連敗しビールを飲むハメになった。いざ飲もうとしたところ織斑先生が巡回してきたので飲むことはなかったが、あの男は布団で寝るのが初めてだったので寝付きにくかったのだろう。他の生徒たちも何人かそんな様子だ。

 

「苦手競技やる前に体調崩していたらキッチーわ」

「がんばろ~」

「お~」

 

 二人で独特な会話をしているが、今日行う訓練にはカラードマッチの競技[スピード・ストライク]も予定されている。

 スピード・ストライクは海上に浮かべた多数のターゲットビットを攻撃し点数を奪い合う競技だ。ビット自体は攻撃をしないで海上を漂うだけだが、ある程度のダメージを与えないと点数に加算されないのでラストアタックを奪い合ったり、策敵と移動の速度で相手より多くのビットを仕留めることが重要だ。

 

 クリストフがこの競技を苦手とするのはアルビートルではこの競技は絶対勝てないからだ。総弾数六発のコジマライフル、使用回数の限られた近接武器コジマパンチ、軽量二脚だが速度が遅い方のフレーム。彼はせめて武装を変える事を強いられる。

 

「さて、俺も武装を変えないとな……」

 

 人の心配などしてられない。ジョルジュも機体構成(アセンブル)をブレード主体の近接機から射撃機体に換装した方が有利だ。

 

「やっーーーほーーー!!」

 

 突撃型ライフル04-MARVE(レイレナード)を用意していると遠くから女性の声がした。あまりにも場違いな声なので思わず作業の手を止めて周囲を見回す。

 織斑先生が頭を抱えて深い溜息をついていた。

 

「ちーーちゃーーーーん!!」

 

 青と白のワンピース、頭には機械の兎の耳、満面の笑みを浮かべた女性が砂塵を巻き上げながら織斑先生へ飛び掛かるが。

 

ガシッ!

 

 そんな音が聞こえそうなくらい見事なアイアンクローで織斑先生は騒がしい女性を抑え込む。頬に指が食い込むくらいの剛力で締め上げられても女性は騒がしさを抑えず、むしろ嬉しそうに叫ぶ。

 

「会いたかったよ。ちーちゃん! さあ、さぁ、ハグハグしよう愛を確かめ……」

「うるさいぞ束」

「相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ!」

 

 織斑先生の容赦ないアイアンクローを受けても普通に喋れる時点でこの女性が只者ではないとジョルジュは察した。女性はアイアンクローを容易く抜けると、頭を抱えて屈みこむ女子――箒――に向き直る。

 

「やあ!」

「……どうも」

 

 テンションが正反対な挨拶を交わしている。

 

「久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっ……」

 

 女性が指先をくねくねさせながら、箒の身体的特徴を言おうとしたところ、箒は無言で木刀を女性を突き入れた。剣術を修めているだけあって見事であったが、防具もないのでかなり危険なのだが。

 

「殴りますよ」

「殴ってから言ったぁ……酷いよう……」

 

 元気そうだった。ジョルジュだけでなく他の生徒、クリストフまでもがこの突然の侵入者に困惑していた。それを見かねたのか織斑先生は女性に面倒くさそうに言う。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

「えー、めんどくさいなぁ」

 

 そう言いながらもクルリと回ってやってくれた。

 

「私が天才の束さんだよ。ハロ~。終わり」

 

 極めて簡潔に、大雑把で速攻で自己紹介されたが、周囲の生徒は騒がしくなる。ISに携わる者なら勿論、世界的に有名な人物なのだから。

 

「束って……」

「ISの開発者にして天才科学者の……」

「篠ノ之束……」

 

 世界のパワーバランスを変えた双璧。ISの開発者が目の前にいた。ある日突然、行方をくらませ世界中から捜索(追わ)ている人物が姿を現した。何の目的で?

 

「さあ、大空をご覧あれっ!!」

「「「 ? 」」」

 

 その場に居合わせた全員が束の指さす空を見上げた。すると――

 

キィーン――ドカーン!!

 

「「「 !? 」」」

 

 砂浜が揺れるほどの勢いで空から正八面体の塊が落ちてきた。機体運搬用のカプセルだろうか?

 束が手に持つリモコンを操作するとカプセルが量子変換され中にあった赤色が日の光を受ける。

 

「ジャーン! 箒ちゃんの専用機こと紅椿(あかつばき)! 全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製のISだよ!」

「私の……専用機……」

 

 真っ赤な装甲。打鉄を更に流形にしたような箒に似合う機体だった。

 

「さあ! 箒ちゃん、さっそく最適化(フィッティング)を始めようか。事前に情報は入れてあるし、最新データを入力するだけだけどね」

「…………」

 

 箒は心奪われたように、紅椿を見上げてから乗り込んだ。初めて自分専用の機体を与えられた時はああゆうモノだろう。自分が扱い易いように調整することができ、ISの専用機となればいつも身に付けることができる。それもISの開発者お手製ともあれば最高の力だろう。

 

「身内ってだけで専用機って……」

「Cランクで特に優秀ってわけでもないのに……なんか、ずるいね」

 

 そんな様子を嫉妬と妬みを持って見ている生徒たち。それに対しも束はヘラヘラと反応した。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなんて一度もないよ」

「「「 …… 」」」

 

 生徒たちは押し黙るが、ジョルジュは無意識に首のチョーカー型AMSコネクタを弄る。

生まれる環境や才能が変われば、みんなと一緒なら(●●●●●●●●)、そう考えたこともある。

 だけどこの世で平等を実行しようとしたら何も残らなくなると過去に解を出した。

 

 腹を空かせた十人の子供がいてパンは一日に一つだけ、飢えを凌げるのは一日に一人だけだとしたら?

 

 一日ごとに食べる人を順番に決める? 七人目あたりから後ろは死ぬ。

 

 分ける? 皆十分に満ちることができず、緩やかに衰弱していき果てには死ぬ。

 

 皆食べない? 数日後に皆死ぬ。

 

 例え話が極端ではあるが、皆が毎晩パーティーをやって豪勢に食えるか? それができるなら今頃世界中でやっているハズができていない。高い水準で平等は不可能。低い水準で平等は可能だ。だけど、万人に平等に与えられたモノはちゃんとある。それは――

 

「おい」

「!? クリストフ……」

「どうした? コネクタの調子が悪いのか?」

「いや。そろそろ新しいのを買おうかと思ってな……」

「なんだ? 自分に気にかけてくる女ができて色めいてんのか?」

「そんなんじゃねぇよ」

 

 リンクスにとって命綱となるコネクタの不調を心配されたのに、くだらない考えをしていた何て言えないので適当に誤魔化した。

 

 束は空中投影型のディスプレイを六枚呼び出し、膨大なデータをなんでもないように処理していく。あっという間に処理が進められ。

 

「はい終わり。んじゃ、試運転といこうか! まずは飛んでみよう! 箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

 

 ISの調整については無知な二人にとっても早すぎることがわかった。やはり彼女は天才なのだろう。箒が紅椿で飛びあがるが。

 

「すごい」

「なんて速さ……」

 

 専用機持ちの中でも速度を競えばセシリアのブルー・ティアーズか一夏の白式が挙げられるが、紅椿の加速はそれに匹敵するか凌駕している。

 

「じゃあ刀を使ってみよう! 右のが雨月(あまづき)で、左のが空裂(からわれ)ね。それじゃ、武器特性のデータ送るよー!」

 

 束がまたもや空中投影ディスプレイで高速タイピングし紅椿へデータを送信する。受け取った箒は一通りデータに目を通すと二刀を抜いて構えた。

 

「行くぞ雨月!」

 

 箒の繰り出す刺突と同時にエネルギー刃が放出され空に浮かんでいた雲を吹き飛ばした。雨月の威力を満足そうに確認すると束はミサイルポッドを展開した。

 

「じゃあ今度はこれを撃ち落してよ。はーいっと」

 

 撃ち出されるミサイルに動じることなく箒は空裂を横薙ぎに振るうと帯状にエネルギー刃が放出され、全てのミサイルを撃ち落とした。

 

 その場にいた生徒たちは戦慄した。現行ISを上回るというというだけあって、圧倒的だった。高速で動き回り攻撃を当てさせない。どんなに逃げても、その速度と雨月の刺突レーザーで撃ち抜かれる。雑兵や先ほどのような弾幕攻撃は空裂で払い飛ばされる。

 

「やれる……! この紅椿ならっ!」

 

 今のところの付け入る隙はパイロットが未熟というところだろう。その場に居合わせた実力者達はそう判断した。

 

「たっ、た、大変です! お、おお織斑先生っ!!」

 

 山田先生が慌てた声で叫びながらこちらにやってくる。彼女が慌てているのはいつものことだが、しかし表情から察するに今回はいつも以上の慌てようだった。

 

「……山田先生、どうしました?」

「こっ、これをっ!」

 

 山田先生が織斑先生に小型端末を渡すと、その画面を見た織斑先生の表情が曇った。

 

「……特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし……」

「そ、それが、その……」

「……ここでは生徒たちに聞こえるな。詳細は後にしましょう」

「は、はい」

 

 小さな声でそこまで話し、それからは軍用の暗号手話で遣り取りを始めた。周囲の生徒に内容を知られないようにだろう。

 

「そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますので」

「了解した。……全員、注目!」

 

 山田先生が走り去ると、織斑先生は手を叩いて生徒たちの注意を引き付ける。

 

「現時刻より、IS学園教員は特殊任務行動へと移る。本日のテスト稼働は中止。各班、機材を片付けて旅館に戻れ。指示があるまで各自室内待機。以上だ!」

「え……?」

「まだ準備しか……」

「何が起きたのですか?」

 

 突然の事態に生徒たちが騒ぎ出す。織斑先生はざわめく生徒たちに一喝した。

 

「とっとと戻れ! なお、許可無く自室から出た者は身柄を拘束する! いいな!!」

「「「 は、はいっ!! 」」」

 

 織斑先生の剣幕から、ただ事ではないと感じた生徒たちは慌てて片づけを始めた。生徒たちが動きだしたのを確認すると織斑先生は向き直る。

 

「専用機持ちにはやってもらいたいことがある。それからサンソン、ローエン……篠ノ之も来い」

 

 織斑先生の剣幕に加えてISの専用機持ちとリンクスが呼ばれた。どんなことが起きたかジョルジュはおぼろげながら予想した。

 

 

 

 

 

 

 作戦本部となった大座敷の畳の上に投影型ディスプレイを映し、周囲には教員たちが何らかの情報をモニターしたり解析したりしている。呼ばれた八人は織斑先生の話を座って聞いている。

 

「これから話す内容は、全てが要軍事機密だ。口外することは許されない。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と、最低でも二年の監視がつけられる。覚悟のない者は今すぐに退室して構わない」

 

 誰も退室しようとしないので、織斑先生は先を続けた。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働中だった、アメリカ、イスラエル共同開発の第三世代型IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が暴走し、監視空域を離脱したとの連絡があった。以後これを福音(ふくいん)と呼称するが、情報によれば無人のISらしい」

「無人……」

 

ガリィ――

 

 一夏の呟きと同時に異音が大座敷に響いた。

 

「おいジョルジュ……」

「ウルセエ。黙って聞いている」

 

 ジョルジュが歯を食いしばった音だ。クリストフが後ろからジョルジュの肩に振れるが、当人は煩わしげに振り払う。学年別トーナメントの時に見せたあの状態だ。

 

「サンソン。感情的になって作戦に支障がきたすようならばお前を外すぞ」

「問題ありません。続けて下さい」

 

 普段と様子の違うジョルジュに織斑先生は確認をとるが、溜息をついて説明を続けた。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音は約五十分後、ここからニキロ先の空域を通過することが分かった。学園上層部からの通達により我々がこの事態に対処することとなった」

 

 学園上層部からの通達? どういう経緯でそうなったかはわからないが、確かに数台の訓練機と専用機が五、いや今は六機になったが、それだけのISと二機のネクストを用意している今のIS学園は強力な遊撃隊とも言える。

 だが、話が出来過ぎではないか? 軍は何をやっているのだろう? 動けない理由でもあるのか?

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 極秘任務という性質上、部外者の介入を阻止しなければならない。それに暴走しているのは第三世代のISだ。中途半端な武装では戦うこともできないかもしれない。学生とはいえ専用機持ちが駆り出されたのはそういう理由だろう。

 

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

 セシリアが手を挙げる。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

 織斑先生が頷くとディスプレイにデータが表示される。

 

「広域殲滅用の特殊武装……私と同じようにオールレンジ攻撃が可能ですわね」

「威力と機動の特化型……厄介ね」

「この特殊武装が気になるね。連続しての防御ができるといいんだけど……」

 

 セシリア、鈴、シャルロットがそれぞれの見解を述べる。ラウラが手を挙げた。

 

「このデータでは格闘性能が未知数です。偵察は行えないのですか?」

「無理だな。目標は現在も超高速飛行を続けている。アプローチできるのは一回が限界だ」

 

 一同が更に作戦を練っていると、パソコンに向かっていた山田先生がこちらを振り返る。

 

「今、偵察のデータが届きました」

「何!?」

 

 未知の敵が動いている姿を見れるのは大きな材料だ。一同はディスプレイを凝視する。

 

「私たちよりも近い場所で別の試験を行っていた一団が同じような任務を受け、先に仕掛けたそうです。これはその映像です」

 

 

 

 白い雲の間を飛び回り時折、空と海の青が映りこむ。高速戦闘中に撮られた物だからだろうか、映像は少し粗いが目標を映している。

 銀色の装甲。背後に大型のウィングスラスターを構えたIS。あれが福音だろう。その福音が高速で動き回る何かと戦っている。

 

《残弾、残り三十パーセント》

 

 淡々とした調子で時機の確認をする声が入る。恐らくカメラの視点主だろう。ジョルジュとクリストフは聞き覚えがあった。リンクスCUBE。ジョルジュ達の先輩で、高いAMS適性とひょろりとした体型の持ち主で、その体型とAMSからアスピナ機関の実験機[ソブレロ]をベースにした[フラジール]に搭乗している。

 

 ソブレロは空力特性を極限まで突き詰めた超軽量級の二脚型ネクスト。空力・空気抵抗はPAで解決できているのに装甲・体積を犠牲にしてまで速度を突き詰めた、ある意味狂気の機体だ。

 だが、その速度は馬鹿にできずパーツによってはVOBに匹敵する速度を単独で出せる。

 

 しかしそのフレームはジョルジュが最近覚えた漢字【穴】のような形をしているので細い体型の人しか乗れない。視点主なので映像にその機体は映っていないが、もし映っていたらこの場にいる者達は引くだろう。

 

《パートナー、そちらの弾数は?》

《心配するな。足りる》

 

「まさか!?」

 

 聞き覚えのある声が入る。記憶が正しければ、その男はオッツダルヴァ。彼はリンクス戦争時にレイレナードに所属し、主に本社[エグザウィル]の防衛に努めた。戦時中あらゆる組織の攻撃をことごとく撃退しその名をあげた。

 今はレイレナードが傘下に入る条件として引き抜きを受け、オーメルに所属している。

 

 オッツダルヴァの搭乗機[ステイシス]はオーメル製新型フレーム[ライール]をベースにしている。ライールはレイレナードの技術をふんだんに使われ、アリーヤ由来の高速機動を軽量化したことにより一層速くなっている。今のIS学園より先に仕掛けたと聞いてフラジール以外でどれ程の戦力で挑んだか気になったが、納得した。

 カラードマッチの一対一の記録に置いて一位。現役リンクス最強と言われるこの男が出撃したならば戦力に不足はない。

 

 戦闘の構図としては高速で逃げ回りながら、特殊兵装のレーザーを放ち逃げ回る福音をステイシスとフラジールが追い回している。と言っても、フラジールは雲海の中を複雑に飛び回りながら戦う二機にやっとのことで付いて行っている状態だ。福音がステイシスの攻撃にたまらず厚い雲の中に逃げ込む。

 

《まだ行けるな、フラジール?》

《はい。そのつもりです》

《フン……それは良かった》

 

 オッツダルヴァはCUBEに簡単なやり取りをするとOBを起動し逃げた福音を追う。勝負を決めるつもりなのだろう。CUBEもOBを起動し後を追う。雲を抜けるがフラジールの視界には福音が映らない。

 

《こっちだ》

 

 速度はフラジールの方が早いが、ステイシスにはレーダーが搭載されている。その都合上、先に再補足したのはオッツダルヴァのようだ。CUBEは知らされた方向に飛ぶが。

 

《グッ!?》

 

 オッツダルヴァのくぐもった声が入る。

 

《パートナー?》

《メインブースターがイカれただと!? 馬鹿な。よりによって海上で!?》

 

 どうやら福音の攻撃を躱しきれず被弾したが、メインブースターを潰されたらしい。基本的にACの上昇に使う垂直推力はメインブースターに依存している。そのため。

 

《くっ、駄目だ飛べん。浸水だと……!?》

 

 飛翔することができなくなる。そして海上で飛び続けることができなくなれば、着水・水没していく。こうなってはいかに高性能なパワードスーツでも重りとなって搭乗者を水底へ誘う。

 

《馬鹿な。これが私の最後というのか!? 認めん。認められるか……こんな事……》

 

 あまりにも突然であっけなく訪れた最強の退場に、CUBEはやはり淡々とした調子でいた。

 

《……プランD》

 

 視界に福音が映りこみ、翼を広げている。

 

《所謂。ピンチです》

 

 翼から放たれたレーザーの掃射に両背のチェーンガンで応戦したが、脆い者(フラジール)は空から落ちた。

 

 

 

「「「 ………… 」」」

 

 映像が終わって大広間には沈黙が降りた。直接的な描写は無かったが、二人の死人が出た。しかも片方は直前まで優位でいた最強だ。敵の行動パターンをある程度知れたが、同時に恐怖も伝えられた。

 

「CUBE先輩死んだな」

 

 沈黙を破ったのはクリストフだった。鈴が二人に尋ねる。

 

「知り合いだったの?」

「ああ。ひょろっとして、AMSの酷使のせいかヤバい感じで話す人だった」

「けれど、AMSの負担を軽くする処理の仕方を後輩たちによく教えてくれた良い先輩でもあった」

 

 恐らく自身の機体がよほど高度な負荷を必要とした影響だろう。同様の苦しみを持つ者達を放っておけなかったのだろう。ジョルジュとクリストフは数時間前に亡くなった先輩に対し黙祷する。

 

「んで、結局どうすっかな」

 

 数秒目を閉じた後にけろりとした調子でクリストフが作戦会議を再開させる。二人を破った福音は今も暴走状態で飛び続けているのだから。

 

「先ほどの映像を見るに、長時間張りつくことは難しいな。こちらはエネルギーの制限もあることだしな」

「ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

 山田先生の結論に一同の視線が一夏に集まる。

 

「一撃必殺と言ったら、一夏の零落白夜かしら?」

「それしかありませんわね。ただ、問題は――」

「一夏をどうやってそこまで運ぶかだね。零落白夜はエネルギーを使うから、攻撃回数を考えると全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

「しかも、目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

 一夏は緊張した面持ちでいた。無理もない。ついこの間まで一般人として暮らしてきたのに、人を殺した兵器に挑めと言われているのだから。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ……覚悟が無いなら、別の方法を考えるがどうだ?」

「……やります。俺にやらせてください」

 

 織斑先生の問いかけに一夏は喉を鳴らして覚悟を決めながら答えた。

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体は誰だ?」

「待った、待っーた。その作戦はちょっと待ったなんだよ!」

 

 いきなり天井から声が聞こえた。見上げると、そこには天井の板を外した束が頭だけを出していた。その束は天井から降りると、サササっと織斑先生に寄る。

 

「出て行け束」

「ちーちゃん。ここは断然、紅椿の出番なんだよ~」

「何?」

 

 部屋から追い出そうとしていた織斑先生だが、束の発言に思いとどまる。

 

「紅椿はパッケージなんかなくても、高速機動ができるんだよ!」

 

 そう言って端末からディスプレイを出し紅椿のスペックデータを並べる。パッケージとは防御型、速度型などといった風に用途に応じて機体の特徴を変えるISの換装装備一式だ。データ中で一際目立つ文字があった。

 

「この[展開装甲]は簡単に言うと雪片弐型みたいな物で、天才束さんが作った第四世代型ISの兵装なんだよ。それを紅椿は全身のアーマーに使っていて、これをチョイチョイっと調整すれば高速戦闘が可能に~!」

 

「「「 は? 」」」

 

 束はさらっと、とんでもない事を言った。第四世代? 現在世界各国は、第三世代型ISの開発に漕ぎつけた段階だ。第四世代型など夢のまた夢、机上の空論だというのに、流石開発者というところか……各国の人・金・時間を無駄にする行為を個人でやってのけたことになる。

 

 更に言い方によると、雪片弐型も展開装甲を搭載している。という事は白式も束お手製で、第四世代型に当てはまる。いや、紅椿は全身に対し、白式は刀一本という事は白式は展開装甲の実験機ということだ。ならば三・五世代型? もう意味が分からない。

 

「ふむ……」

 

 織斑先生が紅椿を交えた作戦を考えているようだが、セシリアが手を挙げる。

 

「織斑先生。わたくしのブルー・ティアーズにも高機動パッケージ[ストライク・ガンナー]が届いております」

「そのパッケージはもう量子変換はされているのか?」

「……それは、まだですが」

「紅椿の調整は私がやれば、七分もあれば余裕だね!」

「……ならば、本作戦は織斑・篠ノ之、で行く。作戦の開始は三十分後だ」

 

 ジョルジュは詳しくないが、パッケージのインストールには相当な時間がかかるようだ。福音がいつまでも予測範囲を飛ぶとは限らないので、作戦の開始も急がねばならない。それらを考えて織斑先生は判断したようだ。

 

「VOBがあったら俺達も参加できたんだろうけど今回はお留守番だな」

「……」

 

 クリストフの言葉にジョルジュは無視する。実際そうだ。偵察となった二人のリンクスも恐らく最初はVOBで接近したのだろう。その後は、技術と機体性能で食らいついていたに違いない。

 

「どこ行くんだよ?」

「念のための準備だ。何が起きるかわからないのが実戦だ」

 

 言葉通りではあるが、VOB以外にも今のジョルジュには戦闘に参加する手段がある。それを用意するために時機の置かれたコンテナに向かった。

 

 

 




[スピード・ストライク]の元は第八艦隊撃破のミッションです。
ノーマルだとスティグロが倒しにくいから、報酬をがっぽり貰えない。
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