《教師部隊の展開が完了。二人共準備しろ》
織斑先生の指示で一夏と箒は砂浜でISを展開した。
「じゃあ箒。よろしく頼む」
「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドに障るが、今回だけは特別だぞ」
一夏にとっても同意見だが、今回の作戦は白式のエネルギーを全て攻撃に使いたいので、いたしかたない。一夏は箒の背中に乗っかる。
《女に乗るのは男の……》
《黙りなさいよアンタ!》
通信越しに鈴がクリストフを殴る音がする。なんとなく言いたい事が分かるのが少し悲しい。それよりも気になるのは目の前の幼馴染だった。
「……あのな、箒。これは訓練じゃない実戦なんだよ。何が起きるか分からない。十分注意して――」
「無論、そんなことは分かっているさ。……心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」
「……」
浮かれている。一夏は古馴染だからよくわかる。いつも凛とした彼女が微笑みを絶やさず、強気なことを並べているのだ。
《織斑、篠ノ之、聞こえるか》
「はい」
「よく聞こえます」
《先ほども説明したが、今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ》
「了解」
「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」
《そうだな……だが、無理はするな。お前はその機体では訓練すらしていない。性能を十分に把握していないだろうから不測の事態が起きれば対応出来ん》
「分かりました。しかし、出来る範囲で支援をします」
織斑先生への受け答えも声が弾んでいる。プライベートチャンネルに切り替わり一夏にだけ通信が繋がる。
《織斑。どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態ではなにかを仕損じるかもしれん。いざというときはサポートしてやれ》
「分かりました。意識しておきます」
言われるまでもないが、一夏は指揮官に意思を伝えた。
《始め!》
「行くぞ!」
「おう!」
十一時三十分。織斑先生の号令と共に紅椿が発進し、空へ飛んでいく。
「位置情報をリンク。アレだな」
箒は作戦室から送られてくる福音の位置情報と紅椿の策敵を同期させ、対象の位置と姿を補足した。偵察映像でも観た銀色の装甲と大きな翼。ブースターでありレーザーを発射する特殊兵器だ。
「加速するぞ! 目標まで十秒!」
この高速機動から更に加速するという紅椿の性能に驚きながらも一夏は雪片弐型を展開し、零落白夜を発動する。
「うおおおお!!」
箒の突撃に合わせてブレードを振り抜くが福音はそれを避け、レーザーを乱射する。レーザーを回避するために二人は離れ、狙いを分散させる。
「ちっ」
「箒! 二方向から同時に!」
「わかった!」
一夏は右から、箒は二刀を展開すると左から攻める。福音は二人から距離をとりながらレーザーを引き撃ちする。広域殲滅を想定しているだけあって、広がる二人に対して福音の射角は追い付いている。二人はあしらわれている。
「一夏。私が動きを止める」
「わかった」
埒があかないと判断した箒は背部展開装甲を分離し福音に向かわせる。束の力作というだけあって、セシリアのブルー・ティアーズのようにBT兵器としても機能するようだ。しかも二機という限界はあるようだが、紅椿の自動操縦のようだ。
一夏は箒の攻撃を援護するために、福音の眼前で派手に動きレーザーの目標を一瞬だけ自分に集める。
一つ目の自律機は牽制で飛び、福音の回避コースを限定。二つ目の自律機は福音の翼を掠める。体勢が崩れたところを箒が飛びこむ。その二刀は福音に掴まれて機体を傷つけることはできなかったが、目的は達した。
「――!」
「一夏! 今だ!」
「応!」
二刀を掴み身動きのとれなくなった福音は箒を振り払おうとレーザーを乱射する。箒は上手く機体を振り回して回避するが、そこらを漂う雲に穴が開く。一夏も飛び込もうとするが、視界の端に異変を見つける。
「一夏!? グゥッ!」
福音を無視し、流れ弾を回避するにしては大きく降下していく一夏に箒は声を荒げる。その一瞬の隙を突かれ箒は福音のレーザーを受けた。一部は展開装甲のシールドモードが防いでくれたおでダメージは少ないが、攻撃チャンスを逃した。
眼下を見ると一夏が流れ弾を切り払っている。
「何をしている!?」
「船がいるんだ。海上は先生たちが封鎖したハズなのに」
拡大すると確かに国籍不明船が海上を漂っていた。
「こんな時にっ!」
福音の斉射が放たれる。箒は上昇することで回避するが、一夏はその場で船に直撃するレーザーを切り払っている。エネルギーを無効化する零落白夜で切り払っているのでエネルギーが尽きる。第二斉射が来るが一夏に防ぐ手はない。
「馬鹿者!」
見かねた箒が間に入って雨月と空裂の斉射で撃ち消す。
「犯罪者など庇っている場合か!? そんな奴らは放っておけ!」
「箒!」
「!?」
「力を手にしたら弱い奴の事が見えなくなるなんて、そんな悲しい事言うなよ。らしくない。らしくないぜ」
戦闘中だが、言わずにはいれなかった。いつもの箒は自分に厳しく質実剛健なカッコいい少女だ。クラスメイトからも武士のような振る舞いから憧れを持たれるような自慢の幼馴染が、あまりにもらしくない事を言っていたから。
「私は……!」
一夏の言葉は本人が思っているよりも箒には響いた。かつて姉がISを開発し、その重要性から束の親類を拉致し利用しようとする輩から守るためということで、重要人物保護プログラムにより篠ノ之家は霧散した。
想い人から離されたことや保護という名の監視により箒は思い詰めていた時期があった。その分、剣道に打ち込み気を紛らわせようとしたが、その剣筋は本来あってはならにような感情で満ちていた。その結果、剣道の大会で相手を一方的に打ちのめすような戦いを演じた。
それは試合とは言い難い、暴力だった。そしてまた自分は同じ過ちを犯してしまったのだと想い人に言われたのだ。手に握る二刀が量子変換される。操縦者の戦意喪失とエネルギー切れが原因だ。だが、その隙を見逃す無人機はいなかった。
「――!」
箒の背後で福音が翼を広げる。それに箒は気付いていない。
「マズイ!? 間に合ってくれ!」
一夏は福音の前に白式を向かわせる。両腕を広げ、福音のレーザー受ける。シールドエネルギーでも防ぎきれず、装甲が破壊される。
「一夏……?」
光の雨が止み、一夏は爆発と共に海に落ちていく。それを見て箒はようやく何が起きたか知った。
「一夏あああっ!!」
一夏の後を追い箒は海に飛び込む。一夏は意識を失い海に沈みこむ。手を掴み。抱きしめ浮上する。
《作戦は失敗だ! 篠ノ之! 一夏を連れて急いで離れろ! 直ぐに援軍を送る!》
「一夏……しっかりしてくれ! 一夏ぁ……」
織斑先生が焦った声で指示を出す。海上を封鎖している教師部隊の到着まで時間がかかる。箒は残りのエネルギーを全て使ってでも逃げようと展開装甲を開き撤退する。白式の展開を解かれた一夏は生身だ。生身では高速機動の負荷をうけてしまい。怪我の症状が悪化する。箒は逸る気持ちを抑えつつ、撤退した。
夕焼けが浜辺を赤く照らす頃。作戦室のスクリーンでは福音の姿を映していた。
「止まっていますね。本部はまだ私たちに続けさせる気ですか?」
「上からの指示は無い。続行だ」
「しかし……どのような手段を?」
山田先生の問いかけに織斑先生は答える。すかさず山田先生は第二の問いを投げるが、織斑先生は難しそうな表情をして答えない。福音の再補足は数時間前に衛星からの目視で発見したが、責任者の織斑先生は判断を迷っているようだ。
「織斑君の様子は見に行かないのですか?」
「……作戦を考えている。私は行かない。なんなら山田先生が行ってくれ」
「……はい」
これも変わらない。重傷を負って帰還した一夏にだが、手当の指示を出してから一度も見舞っていない。山田先生は小さく溜息をついてから大部屋を出た。
織斑先生は山田先生が出たのを確認すると先ほどまで彼女が使っていた端末を操り福音との戦闘記録を見返した。その映像のある部分を拡大したりスローにしたりと繰り返し確認していた。
箒は紅い砂浜を駆けていた。旅館の一室にて医療機器に繋がれている一夏の傍にいたのだが、山田先生から休むように強く言われ部屋を出たのだが、とても休んでいられなかった。何にもならない。無意味なのはわかっていたが、体を動かして気を紛らわせないとおかしくなりそうだから。
(一夏が大怪我を負ったのは私のせいだ。力を欲して、最高の力を得て、その力に思い上がったからだ)
息苦しさから立ち止まって息を整える。だが息苦しさを解消しても胸が苦しい。
あの戦闘の自分の振る舞いを思い出すと、胸が締め付けられる。小さな頃は己を高みへ昇らせる剣道が好きで打ち込んでいたのに中学の頃はその剣道を暴力に使った。高校生になってからはそんな事がないように正しく剣を握ろうとしたのに。何処かで焦っていたのだろう。紅椿を、一夏が得たISという力を手に入れて同じ位置に至ったと慢心して。
「こんな所にいたんだ」
声がした方に視線を動かすと小柄な同級生がいた。いつもの勝気な笑みを浮かべた鈴だ。
「わかり易いわね。一夏がああなったのはアンタのせいなんでしょう?」
「…………」
事実なので何も言い返せない。箒は黙って足元の柔らかい砂に視線を落とす。それを返答と受け取ったのか鈴は少しだけ笑った。
「だから落ち込んでますってポーズ? ザッケンじゃないわよ!」
「!?」
突然激昂した鈴が箒の胸倉を掴み無理やり視線を合わせる。
「やるべきことがあるでしょうが! 今戦わなくてどうすんのよ!」
戦う? あの失敗を犯した自分が?
戦ったから、自分が守られたから一夏が傷ついた。だったらそんな元凶なんて……。
「……もう、ISは使わない」
「甘ったれんなっ!!」
箒がそう言った途端に、鈴は彼女を殴った。漫画等のこういう展開なら平手を使うかもしれないが、鈴は容赦なく一発だけ本気で殴った。無気力でいた箒は受け身もとれず砂浜に倒れる。
「専用機持ちってのはね。そんな我が儘が許されるモンじゃないの! アンタはお姉さんの特権みたいので簡単に受け取ったけど、普通は並ならぬ努力が必要なのよ!」
確かに昼に学園の同級生たちは妬んでいた。目の前にいる鈴自身は中国の代表候補生として専用機持ちだ。人口の多い
本人の性格では自身の事はあまり気にしなかったかもしれないが、鈴から見て他者の気持ちを思えばこそ、この様な言がでるのだろう。
「でも、受け取ったからにはその責任を投げてはならないわよ。それとも臆したの?」
「じゃあ……どうすればいいんだ!?」
そこまで言われては箒も黙っていられなかった。拳を握り、顔を上げて吠える。
「私だって悔いている。戦おうにも敵の居場所もわからない! 結局何もできないではないか!?」
「じゃあアンタは居場所がわかれば戦うの?」
「やってやるとも! わかればな!」
シャルロットが作戦室を訪ねても追い返されたと聞いた。数時間かけても再補足出来ていないのだ。まだ、見つかっていないのだろう。だが、機会があるなら箒は雪辱戦に臨みたいところだ。
「あっそ、箒も行くってさ」
箒の回答を聞いた鈴は視線を流す。その先にはセシリア、シャルロット、ラウラがいた。シャルロットが駆け寄り箒の服をはたく。
「ああもう。服が砂で汚れちゃってるよ。殴ることはないんじゃないかな」
「いいのよ。それくらいしなきゃ目ぇ覚めないでしょうから。行くわよ」
「ま、待ってくれ。行くってどこへ?」
突然現れた三人に驚きながら箒は踵を返す鈴に問う。何の話をしている?
「決まってるでしょ? 福音のところよ。アンタ行くって言ったじゃない?」
「福音? 先生たちからは何も……」
「位置の特定はした」
ラウラが携帯端末から情報を表示する。
「そう遠くない場所だ。沖合上空にて目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見できた」
「この通りドイツの特殊部隊出身者がやってくれたわよ」
空中投影されたディスプレイには小さな点に見えるが、よく見ると福音が確かにいた。ラウラはこの存在を広い海から探しだしたと言う。
「命令違反ですけど、皆さんやる気ですわよ。あとは箒さんだけでしたの」
セシリアがお上品に笑う。いじけていた箒を置いて行かずに皆待っていてくれたのだと知って箒も笑う。シャルロットがISの通信機能を使って誰かと話を始めた。
「そういうことだから僕たちも今から行けるよ」
シャルロットからの通信を聞いてクリストフは楽しそうに喋る。
「そうかい。命令違反。みんなでやれば怖くないってな」
《ゴメンね》
「気にしてねえよ。隣の奴は行きたくて行きたくてウズウズしていたからな」
「……」
話を振られてもジョルジュは言葉を発さない。返事がない事を気にしたセシリアが気遣う。
《ジョルジュさん。あまり気負わないでください》
「ああ」
ジョルジュの素っ気ない返事に通信を聞いている女子達が動揺したのが伝わった。顔は見えなくとも息遣いは聞こえる。クリストフはいつも通りふざけた調子だが、フォローを入れる。
「気にすんなよ。コイツは重いコンテナ運ぶのに大変だからよ」
クリストフとジョルジュはそれぞれアルビートルとジュスティスを操りながら、牽引チェーンにコンテナを繋いで飛んでいる。その大きさはISやACが一台入るくらいだ。
そのコンテナの中身はトーラス社からクリストフに送られた試作品だ。
「機体のアシストがあるから特別大変でハない。だが、出力が落ちてイる」
「すまねえな。これが今回の決め手だからよ」
《箒。時間がないからブリーフィングは移動しながらよ》
全員の参戦が決まった以上。彼女たちはこちらに追いつかなければならい。通信では事前に決めた作戦を箒に伝えているのが聞こえるが、ジョルジュは聞き流していた。それよりも気になることがあるからだ。
勘の良い者は気付いているかもしれないが福音が通常推力で追いつける場所にいる事だ。そのまま何処かの町やクレイドルを襲っているわけではないので僥倖だが、不自然だ。専用機持ちに聞いたところ自己修復で休息をとっているのでは? そう仮説が立てられたが、一夏と箒の攻撃はそれ程のダメージを与えたか?
オッツダルヴァとCUBEが先に仕掛けた分と合わせるとそれなりのダメージになるかもしれないが、それでも何かが引っかかる。
いくら考えても答えが出ないので、ジョルジュは頭から疑問を破棄した。自分たちがその福音を沈めればいいのだから。
――――数時間前――――
これは一夏と箒が撤退して少ししての事。
密漁船に偽装した特務船の船長はレーダーで自分たちの位置を確認する。その端には福音が高速で動いているのも認められる。間に合ってよかった船長は安堵と共に上司に通信する。
「三番船。配置よし」
《了解。装置を起動しろ》
指示を受け、乗組員がコジマ粒子回収装置を起動する。別の場所では彼の仲間たちが同じような作業をしている。起動ができた事を伝えると上司はこの作戦の核になる者達に指示を出す。
《仕掛けろ》
合図の数秒後、潜水艦が浮上する。同時にミサイルの一斉射が福音へ放たれる。突然の奇襲だが福音は回避とレーザーの一斉射で対応する。船長は遠くで動き回る福音の動きに感嘆する。特務船による支援ばかりしているがISやACの戦闘を何度も見てきたのだ。自分ではできなくとも上手い動きは解る。福音の動きは高いレベルだと思う。
「いい動きだ。だが――」
福音を挟んで反対側からもう一隻の潜水艦が浮上する。同じようにミサイルの一斉射を放つが、決定的に違うことがある。
《ミサイルカーニバルです》
「あの方々には敵わんだろう」
通常のミサイルに加え、青緑色の筋が走る。福音はソレの毛色が違うことに気付いたのか優先的に狙う。空中で撃破されたソレは青緑色の爆発を残す。
コジマミサイルと言うこの武装は遠目から見れば綺麗な花火に見えなくもないが、それは、当たれば一撃でパワードスーツを落とす凶悪な威力がある。それが更に三発。福音はコジマを観測したのか最優先で迎撃しながら回避する。
「――!?」
追加のコジマミサイルを撃ち落とした福音だが、突然動きを停める。一発のスナイパーキャノンが当たったのだ。スナイパーキャノンは連射が利かない面があるが、その高い衝撃力は機体を一時的に停める特性を持つ。そして一瞬でも停まれば危険な第二射が福音を貫く。
「――!!??」
コジマキャノン。クリストフが使っているコジマライフルより大型で威力も高い。福音は通常のミサイルを数発立て続けに受けたが、体勢を立て直し全力で逃走する。
《作戦終了。撤収しろ》
上司はそれだけ告げると通信を切った。二隻の潜水艦はそれぞれ甲板に出ていたネクストを格納すると海へ消える。特務船の船長もある程度コジマの処理ができたのを確認すると乗組員に帰投を命じた。
もう一つのサブタイトル。
尊大な亜鉛