クレイドル06――――
洋上に浮かぶ人工島。昨今の人口増加などにより土地不足となっていたところに立ち上げられたプロジェクト。国連が発信元で企業連がその支援のもとで最新技術をもって建造する。人工島は一島につき収容人口およそ二千万人の規模で、それが五島一セットで
クレイドルを建造するには莫大な金が必要だが、企業連がそれに着手した目的は土地問題だけではない。
例えばコジマ除染施設アルテリア、かつての戦争で世界中にコジマ粒子が拡散し環境問題になったモノを解消しなければならないが、世界中の陸地に設置できるアルテリアだけでは効率が悪く先の土地問題もある。
そこで人工島を建造して海の上にもアルテリアを用意しようとなった。他にも自社の工場を建設する場所を作ったり、制限はあるものの敵対組織の重要施設の近くに自社の拠点を設けるという思惑がある。
クレイドル06は企業連に参加する全ての企業が建造した物で、最も企業連内の公共性が高い。この日はオーメルの重役が同グループの基地を視察することになっていた。
「本社のお偉いさんが、いったい何の用だよ」
駐屯する兵たちにとっては、視察は迷惑千万である。いつものような勤労態度では上の者達に何を言われるかわかったモノではない。最悪、予算を減らされて飲める酒の量が減ってしまう。兵士たちは隠れながら雑談する。
「どうせ、このクレイドルにいる不倫相手と逢引だろうよ。その為に会社の金使ってしなくてもいい視察とは……偉い人の金の使い方は迷惑だね」
「人の使い方もな」
「つーかお前、あの爺さんの不倫相手知ってんの?」
「美人だよな? 歳は? 胸は!?」
規則の多い場所ではどうしてもこういう下品な話が盛り上がる。
「なんか金髪のネーチャンだったな。胸は……なかなk」
「貴様ら! そこで何をしている!」
兵たちの隊長に見つかり、彼らは直立不動になる。
「また、くだらん話をしておったな!?」
「も、申し訳ありません」
「先ほどから、通信機から聞こえておったぞ」
「げっ!?」
兵士たちは自身の通信機を確認する。点けっぱなしだった。
「猥談をするのは構わんが今度からは通信機を切って行え」
「「「 ハッ 」」」
指摘するところがおかしいが、そこで管制室から通信が入った。
《あなたも大概ですよ。まず自分が通信機を切るべきです》
「私はいつ敵が来ても対応できるようにしているのです」
《よくもまぁ、そんな事を……》
管制官は隊長の態度に呆れる。これでこの基地で最も優れた戦力なのだから困ったモノだ。
「もし敵が来ても隊長というネクスト戦力がいるんです。大したことありませんよね」
「そうだな俺にビビッて逃げてくれりゃいいんだが」
《――ザ――ザザ――》
部下たちと笑い合っていると通信にノイズが混じり込んできた。部下たちは動揺しあたりを見回している。隊長はは管制室に情報を求めた。
「なんだ!?」
「管制室、この通信はどうなっている!?」
《わ――ん! ――!? ――明機――――――近!》
辛うじて聞き取れるのは、「不明機が接近」だけだ。
「方角、数は!?」
《――一機。――――――!? は――! VOB――》
最後に聞こえたVOBとは、ヴァンガードオーバードブーストのことで機体背部に接続する巨大な追加ブースターで、これを使用することでネクストは時速2000kmにも達するスピードで飛行することが可能。
ISは元々宇宙開発を目的としたこともあって機体にもよるが中量級のネクストを上回る速度が出せる。機動力は戦闘のあらゆる場面で重要な項目で遅いと攻撃を避けられない、攻撃を当てに行けない、それどころか戦闘エリアに到着できず友軍が壊滅するなんてこともあり得る。そんな事でISに負けないように開発されたのがVOBだ。
周囲を見るが目視はまだできない。レーダーを見ると僅かに反応があり、北西からそれが徐々に近づいてくるのがわかる。管制室が不明機に勧告を繰り返しているが、反応は何も無いようだ。
不明機を目視で確認できるくらいに接近された。機体は様々な企業のパーツを組み合わせた重量二脚で肩部に追加整波装置を装備している所を見るに、かなりタフな機体と判断できる。
ついに北西側のBFF製スナイパーキャノン砲台が砲撃を開始した。しかし不明機は上昇下降を使い分けて砲弾を避ける。通常なら小さな挙動だがVOBによる超加速時には砲弾を避けるのに必要最低限の動きとなる。
それはまるで警備をしている者達を嘲笑うかのように――――
クラス対抗戦が終わって数日、いまだにあの日の出来事を話題にする生徒はいる。最初の内は皆恐怖や異例の出来事を珍しく思っていたようだが、今ではあの時に活躍した人たちを褒めそやす為に行われている。
「あの時の織斑君と凰さんはすごかったよね!」
「無人機に向かってズガーンって」
そんなクラスメイト達の雑談をジョルジュは聞き流していた。ジョルジュがあの日に遂行した「ちょっとしたお手伝い」は秘匿扱いとなった。IS学園の理事長がそう処理した。どうも事件自体を生徒に知らせたくないようだし、
緊急事態は学園の教師が対応することになっていることは説明を受けたので解っている。だが、テロリストが小さな戦争を仕掛けて来たのだ。黙って見ているのでは自分が何のために
「何のために」と思ってしまったが、競技の為だ。今ではそのように使用することを想定しているのだから、その為に訓練しているのだ。決して己から剣を振り回すようなマネはしてはならない。
――「正義を見いだせ」――師匠からの言葉を思い出しながら、自省する。
「そんな事よりも、あの噂知ってる?」
「アレでしょ? 知ってる、知ってる」
「今月の学年別トーナメントに勝つと……」
クラスメイト達の噂話は直ぐに別の物に変わった。女子の話は回りくどく、コロコロ変わる物だという事は、アスピナ機関にいた時に学習済みだ。教材は主にアンナ先生の四時間に渡る「ちょっと、お茶しましょ」から。
その例の噂は女子にしか回っていないようで、学園に僅かにいる男子の耳には入っていない。その気になれば段ボールやロッカーに隠れ潜んで、調査することができるが、噂話をする女子達の様子から、不穏な気配を感じないので、どうせくだらない事だろう。と決めつけた。
予冷が鳴り、朝のSHRが始まる。
山田先生が開口一番にこんなことを言った。
「今日は転校生を紹介します」
教室がざわつく。女子達の反応から期待ではなく、戸惑いを感じることから、噂話が転校生だということはないだろう。一夏やジョルジュ達の転入は事前にテレビや新聞でニュースになっているから。皆どんな男が来るのだろうと期待していが、今回は事前に知らされること無く転校生が来たのだ。
教室の扉が開き、四本の足が入室してくる。二人?
「はじめまして。フランスから来た。シャルル・デュノアです。よろしくお願いします」
片方は中性的な顔立ちで金髪を首の後ろで束ねた……少年?
「お、男……?」
「はい、僕と同じ境遇の方が日本にいらっしゃると聞いて、転校することに……」
ジョルジュはシャルルの話を聞きながら、周囲を観察する。理由は危険察知のため。ジョルジュは得た情報を元にこれから起きることを予測し、対応した。
動きにしては簡単、耳を塞ぐだけ。
「「「 きゃああああ!! 」」」
「「 うわあっ!? 」」
「…………やはりな」
一夏の時は知らないが、自分が来た時と同じ反応だ。高い声が一斉に上げる歓声はスタングレネード程ではないが、耳に響く。驚きの声を上げたのは初見のシャルルと、一番多く経験しているはずの一夏。お前は何故対応できない?
「二人目! ここでは五人目だよ!」
「これまでと違った雰囲気!」
「守ってあげたくなる系!」
始まったよ。質問タイム。教室の隅に立つ女性が溜息をついている。この先も予想できる。
「騒ぐな小娘共。一人増えた所で余る奴は余る」
一夏――正確には千冬本人――、ジョルジュ、に続いて三回も繰り返されて相当イラついているのだろう。というか言う事酷いな。
「静かにしてください。まだ一人、自己紹介が済んでいません」
山田先生の言う通り、もう一人の転校生、銀髪眼帯の少女が可哀想ではないか。といっても姿勢よく立ちながら口を閉じている。その片目は先ほどからつまらない物を見るかのような眼だ。
教室が静かになっても口を開かないので織斑先生が促す。
「挨拶をしろ。ラウラ」
「はい、教官」
「……私はもう教官ではなく学園の教師だ。そしてお前も、ここではただの生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
織斑先生に声をかけられた少女は、直立不動――気をつけ――の姿勢で答える。入室した際の足運び、その身に纏う雰囲気、織斑先生に対しての態度、教官と言う発言から、確信した。軍人だ。
ISの出現はソレを扱うパイロットの育成にまで影響している。ISに関する教育は女子の場合は適正検査を受けた時期にもよるらしいが、早ければ小学生のうちから学習を始めてしまう。そして優秀な人材は国防の為に軍に招かれることもある。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「「「 ………… 」」」
「……え、えと……」
「以上だ」
「「「 ………… 」」」
クラスの誰も質問をしないので、ラウラの自己紹介は終了した。てっきり眼帯や、織斑先生との関係とか聞くのではないかと思ったが、それだけで済んだのだから、ジョルジュは羨ましく思った。
山田先生が困った顔をしているのはしょうがない。
「……貴様が」
周りをなんとも思ってないように見ていたラウラが、壇上から降りて直ぐの席の前に立つ。そしてそこに座っていた生徒――一夏――に平手を振る。いい音がした。
「……貴様があの人の弟だとは認めない」
叩かれた一夏はボケっとした顔をしている。理由が分からないのだろう。やがてハッと気が付くと。
「なにするんだよ!」
当然の文句を相手に伝えるが、ラウラは何も言わずに後ろの席に座る。
織斑先生はラウラの行動を何かしら叱る必要があるだろうが、思うところがあるのか、溜息をついて次の授業の説明をすると解散させた。
「えっと、織斑君だよね。初めまして……」
「いいから、いいから、すぐ移動するぞ。実習の時は女子は教室で、男子はアリーナの更衣室で着替えるから。早めに慣れてくれ」
「え、ひゃっ!?」
移動を急かす為に一夏はシャルルの手を掴んで走り出す。
「そうそう、堅苦しいから一夏でいいぞ」
「う、うん。じゃあこっちもシャルルでいいよ。あの……もう一人男子がいたよね? 彼は……」
シャルルが先に出て行ったジョルジュの事を聞こうとしたが、廊下の角から焦りを含んだジョルジュの声が聞こえた。
「クッソ! こっちを抑えられたか!? お、オイ! 何してんだ!? もっと急げ! 奴らに捕まるぞ!」
「ジョルジュ? どうして階段を昇るんだよ? アリーナは下だぞ」
「バッカ! こっちだ! そっちにはッ……!」
階段を降りようとする一夏達をジョルジュは背中を押して無理やり昇らせる。その下からは――。
「今、織斑君の声がした!」
「じゃあこっちに……いた!」
「皆! こっちよ!」
「「「 転校生! 男! 」」」
「シャルルの噂を聞き付けた他クラスの女子が追ってくるぞ!」
「「 !? 」」
階段からは目をハートマークさせた女子が、大挙して昇って来た。突然の転校のはずが、正体不明な女子のネットワークに引っかかり、新しい男子を一目見ようと行動しているのだ。別に見に来たければ好きにしたらいいが、時間が問題だ。これから遅刻者には厳格な織斑先生の実習なのだ。捕まる訳にはいかない。
ジョルジュが逃げる必要は無い? それは間違いだ。あくまで念のためと思い、いつもより早く移動していたのだが、女子の集団に見つかり。
「噂の男子はどこ!? 教えて!」
「どんな子? 攻め? 受け?」
「この際、サンソン君とお話を――」
と、他人事ですまない状況になっていた。
「どーすんだよ!? アリーナに向かえないぞ!」
「プランA、昇るだけ昇った後に、窓から飛ぶ。プランB、消火器を使って煙幕を焚き、その隙に逃げる。プランC、実力行使で突破」
混乱しながらも、アスピナ機関の先輩に習った通りに成功率の高い順番で作戦を立てる。
「ロクなプランがないぞ!?」
「大丈夫だプランAなら、お前たちは専用機を展開すれば無傷だ。俺はベルトに仕込んだワイヤーで……」
「ハァ、ハァ、許可された範囲外で、ISを展開すると、怒られちゃうよ」
シャルルは体力が無いのか、もう息が上がっている。直ちに何か手を打たなければ、転校初日で哀れな目にあう。流石にそれは不憫だ。
「仕方がない。プランDで行く」
「なんだよそれ!?」
「実行者が一番割を食うプランだ。今回の場合、お前たちは高確率で逃げられるが、俺がヤバいかもしれん。時間が無い! 階段を降りるぞ!」
二人はジョルジュの作戦に従い、階段を降りるが、降りた先に女子達が待ち構えていた。
「キターーー!!」
「絶対逃がさないんだから!」
捕まる。一夏とシャルルは観念し、一夏はこの後のヘッドクラッシャーチョップを覚悟したが、ジョルジュが制服――ブレザータイプ――のボタンを外し、前を開いて少しだが動き易い格好になると、前に出た。
「二人共、行け! ここは俺が止める!」
「そんな……ジョルジュっ!」
「駄目だよ! 元はといえば僕のせいなんだから……」
一夏とシャルルは絶望に屈せず、立ちはだかる勇者の背中に手を伸ばした。だが、そんな物は要らんとばかりにジョルジュは叫ぶ。
「行け! 生きて授業を受けるんだ! 一夏、シャルルを無事に更衣室まで連れて行ってやれ……」
「っ! わかったよ……必ずシャルルを守って見せる!」
「二分しか止められないからな」
「一分でもいい、逃げられるようだったら逃げてくれっ!」
「え……ちょっと」
階段の踊り場で止めたことにより、二人へは追手が行かない。IS学園の、男に飢えた女子の巣窟での生き方をまだ知らないシャルルを守ることは一夏とジョルジュの共通した考えだ。一夏はジョルジュを信じているからこそ、背中を任せて走る。シャルルは右も左もわからない状況でも助けて貰えたことに対し、一言残して一夏に連れて行かれる。
「あ、後でちゃんと先生に事情話しておくから~~~」
ジョルジュは目をぎらつかせた修羅達が伸ばす無数の魔手を受けながら、懸命に踏みとどまる。中には「男の肌……あふぅ……」「手、握っちゃった! ……ふぅ……」「ちょっと変わってよ! きゃ、目が合った! ……ふぅ……」といったように労せず数を減らせている。体感で二分程経過した。これ以上ここに踏みとどまっていたら、授業に遅れる。 シャルルが事情を話してくれても、急いで行かなければならない。
「失礼お嬢さん方、ここらでお暇させていただく」
「あっ! 待ってよ、私はまだ……」
「私も、もっと触りたい」
後ろに逃げようにも、回り込まれてしまっている。無理に押しのけてしまったら階段から落ちてしまうかもしれないので、前を掻き分ける。そして、
「結局プランAになったな……では、さようなら」
窓を開けて飛び出すと女子達は悲鳴をあげたが、ベルトに仕込んであるGA製の秘匿ワイヤーで降りていく。流石に一階まで降りられなかったので、途中の教室にお邪魔させてもらう。丁度良く窓が開いていたので、そこから入ると傍にいた生徒を驚かせてしまった。
「きゃっ……何……?」
眼鏡をかけたセミロングの少女は怯えた様子で、ジョルジュを見る。当然だ。普通窓から出入りする奴なんていないから。謝ろうにも怯えられては、声が届かないかもしれないので、少し茶目っ気を入れて謝った。
「失礼、アリャーマンの親戚です。急いでいるので、これで」
立場上あながち間違っていないので、それだけ言うと早足に教室を出る。プレートを見ると一年四組と書かれてある、心の中でもう一度四組の人達に謝ると、自分の機体が置かれているコンテナへ走り出す。
その後何とか間に合い実習に参加できた。実習内容としては、二組と合同でISの着脱、動作確認を行った。生徒たちが実習をする前に山田先生 対 セシリア・鈴ペアで模擬戦があったが、大いに学べた。セシリア・鈴のチームワークが悪かったのもあるが、山田先生の射線・回避地点の誘導によって二人が連携を取れないように
それができる人物はACのカラードマッチでは有利に戦える。ISの試合は何も障害物が無い空間での戦いだが、カラードマッチの会場はISのアリーナより広く、障害物がある場合がある。その障害物を用いた戦術も勿論あるが、何も無い空間での戦いでは、素の力が試される。そういう奴は圧倒的な戦力差を覆すことができる。ジョルジュはいつかその域に至るために、
《作戦を確認する。目標はオーメル社重役、及びその護衛の排除だ。対象はクレイドル06の基地に訪問している事が先ほど確認された。手順はこちらが遠隔操作で基地のシステムを無力化した後にVOBで単騎で突撃。基地に到達したら、システムを直接破壊、その場の戦力を殲滅してくれ。あの老人を葬るのにまたとないチャンスだ。確実に遂行してくれ》
「……了解。確認するが、このミッションは俺一人か?」
《これから突撃するのはお前一人だな、下部組織を動かしているから、厳密に言えば一人じゃないな》
「それだけ聞ければ十分だ」
重量二脚のネクストに搭乗する男は、暗い空間で通信を使って仲間と連絡を取る。その背には大型のブースターVOBが取り付けられていて、整備員によって最終調整を受けている。
「副団長殿、どうして今回の作戦で俺を選んでくれた?」
その男は闘争が好きだ。狂うほどではないにせよ、自他ともに認めることだ。そんな自分を何故使うか、旅団の頭脳たる通信相手に確認する。
《システムの無力化を徹底する理由は分かっているな?》
「旅団長が戻らぬ今はまだ、雌伏の時……そういうことだろう?」
《そうだ。それが分かっているから使う。更に他の者達は少々、制限があったり条件が合わない者が多い》
人材の問題。
通信相手が一番使いやすい手駒は実力は申し分ないが、単純馬鹿で、いちいち五月蠅い。隠密作戦などまず
猟師や剣士なら、寡黙で強いのだから隠密にうってつけなのだが、武装の問題で一対一に特化していたり、サポート重視で僚機との共同でなければ真価を発揮できない。
翁やかつての傭兵は体調の問題から、出撃の時期を見合わせなければならない。
後は、空席とかである。
「アンデスの奴は?」
《確かに頼りになるが……正直私は彼が苦手だ》
通信機越しに弱った声が聞こえる。気持ちはわからんでもない。本人のこともそうだが、よくペットを紹介してくるのが、非常に困る。
「だから
その男は自虐気味に笑う。あくまでシュミレーターでの結果だが、戦いが好きなくせに組織で一番弱いという事は、この男にとって屈辱であった。だが、扱う兵器はいろいろ変わったものの、長らく戦場にいた自分にとって自分を殺せる者達がいる現実は自身の戒めになった。
《ああ、そうだな……》
最弱を肯定されるも、しかたがない。血気に逸って蛮勇となれば死あるのみだ。
《……仕方がないが……》
通信相手は思い出したかのようにだが、あえて付け足す。
《最弱ではあるが、それがお前の旅団内での強みだ》
「……」
《先の人材の問題ではあるが、彼らは間違いなくお前より強い。時期が来れば彼らを起用することが増えるだろう。だが、今回のように隠密・工作・殲滅のように条件が定められた環境で起用できるのはお前だけだ》
他の者達の扱いにくさを補う。カバーができてこそプロフェッショナルだとでも言いたいのだろう。男は含み笑いと共に返答する。
「フフ……あんたが旅団長でもいいんじゃないか?」
《それは大袈裟だ。組織の長は狂気と謳われようとも、強い熱意と実力が必要だ。そうでなければ組織は方向性を失い霧散あるいは固形化する。私にはそれが備わっていない》
「難しい事を言う副団長さんだな」
《フッ……、基地のシステムダウンまで十秒前。おしゃべりはこれでお仕舞だ》
男が乗っている潜水艦が浮上し、ハッチが開かれる。傍受した通信から兵士たちは油断しているようだ。
「遊ばせてもらうぞ。――――――」
VOBが起動し超スピードで目標の基地へ飛ぶ。
数分後、基地の防衛設備、警備兵、は全滅。そして不運にも基地に居合わせたオーメルの重役が殺害された。基地の記録装置が全てシステムダウンしており、兵士一人一人のACの記録媒体も破壊されていた為、襲撃者の足取りを追うことは困難となった。
ベルトに仕込んだワイヤーってあるけど、他にも仕込んでます。