ソラを繋ぐ翼   作:ホワイト・フラッグ

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8.二人の憎悪(前編)

「もういいぞ。服を着ろ」

「「 ……はい 」」

 

 ジョルジュとクリストフは生徒指導室で持ち物検査と指導を受けていた。織斑先生は二人から没収した道具を箱に詰める。

 

「アルゼブラ製ナイフ仕込みのネクタイピン、インテリオル製ハンドクリーム、オーメル製ボタン型のカメラ、テクノクラート製小型爆弾仕込みの消しゴム、本当に色々持っているな」

 

 織斑先生はその品揃えに溜息をつく。因みに改造した制服は許された。

 

「これらの道具がなかったら、どうするつもりだった?」

「どうするとは?」

「生身でISに立ち向かった事だ」

 

 使わなかった物もあるが、これらの恩恵がなければあの時ラウラに近づけなかっただろう。

 

「下手をすればお前たちも大怪我を負っていたかもしれないのだぞ」

「あの時は運が良かったです。射撃武器はIDが必要なので生身では撃てませんでしたが、近接ブレードと盾は生身で使えましたからね。……重くはありましたが、そういう道具と相方(クリストフ)がいたからあの時行動しました」

「それに俺達も相手見て喧嘩したんですぜ。ラウラ・ボーデヴィッヒのISは威力は高いが連射の利かないレールカノン、六本のワイヤーブレード、あとは両手のプラズマ手刀が主な武装。これにマシンガンだのグレネードだのと持っていたら手出ししませんでしたって」

 

 生身での対パワードスーツ戦で注意する事は、一人で向かわないこと、動きを制限する弾幕を張れる武器と爆風で防御ごと吹き飛ばされないようにすることだ。アスピナ機関で習って来たことがギリギリ適応範囲内だったわけだ。

 

 二人の釈明に対し織斑先生は机を叩いて、説教する。

 

「馬鹿者! お前たちがアスピナで習って来たことは、ノーマルACに対してだろうがッ! ISは違う。量子変換させて武器を取り出すことができる。それに第三世代ISはイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器を搭載していてネクストACとは一味違った脅威がある」

 

 セシリアのブルー・ティアーズはBT兵器を用いることで一人で多角的な戦闘ができる。鈴の甲龍は衝撃砲を用いることでネクストではあり得ない不可視の攻撃を放つ。そしてラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)が搭載されており、展開した範囲に触れた対象の動きを停めることができた。あの時シャルルが撃ったマシンガンの弾を全て停止させていた。アレで機体を停められてしまえば何もすることができなくなる。

 

「ボーデヴィッヒが本気を出さないと読んで行動したのかもしれないが、お前たちの行動は軽率で、危険なものだった。ミイラ取りがミイラになったかもしれんぞ」

 

 ジョルジュとクリストフは俯いて話を聞いている。表に出ている武装、余裕綽々なラウラ、ISを使っているとはいえ危険域まで攻撃されたセシリアと鈴の姿。それだけで飛び出したのは早計だったかもしれない。あの時の自分は熱くなっていて冷静に行動出来ていなかったのかもしれない。

 

 反省の色を示す二人に対し、織斑先生は溜息と共に続けた。

 

「あの時のお前たちがとった行動は立派な、褒められることかもしれない。だが、次からはもう少し考えろ。特にサンソン、お前はよく飛び出しそうだ」

「……はい」

 

 お叱りを受けて、懲罰メニューとしてまたも漢字の書き取りをさせられた。生徒指導室を出られたのは夕暮れ時だった。

 

 

 

 

「[園]って字難しくね? あの四角の中に収めるの難しいんだけど」

「俺は[機]って字の方が嫌だね。右側のアレ、細かくて書きづらい」

 

 枚数的には前回よりも少なかったが、途中から早書き勝負になり手が疲れてしまった。感覚がおかしい手首を回しながら廊下を歩く。部屋に戻るついでに保健室に向かいセシリアと鈴の様子を見に行くところだ。意識は確認したが、容体が気になる。

 

「おい、なんだあの人だかり?」

「見舞いにしては、賑やかだな」

 

 クリストフの言う通り、保健室には部屋からあふれ出す程の人が集まっていた。はしゃぎ方からして怪我人二人が深刻な状態ではないと察せられるが、なんなのだ? と思いきや急に冷めた調子で立ち去って行く。

 

「お邪魔するぜ」

「お二人さん、調子如何~?」

「あ、ジョルジュ、クリストフ。特別指導は終わったか?」

 

 保健室には一夏とシャルルが残っており、負傷したセシリアと鈴が腕や頭に包帯を巻かれてベットに座っていた。顔色も悪くないようで良かった。

 

「指導は終わったよ。ところでさっき女子が沢山いたけどどうした? 見舞いにの雰囲気には見えなかったのだが」

「学年別トーナメントがタッグ制になったんだよ。より実戦的模擬戦をしたいからって」

「それで申請に来た女子達がお前らに群がって来たのか」

 

 タッグを組む機会で男子とお近づきになりたいという魂胆だろう。

 

「二人は誰かと組んだのか?」

「僕は一夏と組むことにしたよ」

 

 という事は学年で二人しかいない男性のIS操縦者はそれぞれの身を守ったということになる。それが賢明だろう。

 

「お前たちはどうなんだ。トーナメントに参加できるのか?」

「それが……私たちのISはダメージレベルが高く、トーナメントまでに回復が間に合いませんの」

 

 ISには自己修復機能があり、ダメージを受けても時間をかければ直すことができる。だが、今回セシリアと鈴は生命維持危険域までダメージを受けてしまったので修復に時間がかかり、無理に戦闘を行おうとすれば後々重大な支障をきたす恐れがあるとのこと。これはISの未だに解明されていない自己進化が関係しているのだろう。

 

「あんた達。絶対優勝しなさいよね!」

「私たちの分まで頑張ってくださいな。心から応援いたしますわ」

 

「お、おう。任せておけ」

「ありがとう。二人の気持ちに応えられるように頑張るよ」

「残念ながら俺達がいるぜ」

「そうだぜ。ジョルジュは雑魚いが、俺はそう簡単に越えられねえぞ」

 

 代表候補生でありながら公の試合に出られないのは悔しいだろうに二人は応援してくれる。その気持ちに応えてやりたい。だが、クリストフの言葉が癇に障る。

 

「あ゛?」

「まぁまぁ、二人で組むならチームワークをもっと……」

「俺達は組まねえぞ」

「なんだと、どういうつもりだ?」

 

 クリストフが煽ったのは最初から組む気がないからだった。何故わざわざそんな事をするのかわからなかった。此処は流れからして一夏とシャルルのように男同士で組んでしまった方がいいはずだ。

 

「ちっちっちっ、ジョルジュ君。考えてみたまえよ。学年全体での戦力差というモノをよ」

 

 学年別トーナメントにおいての戦力差は二人組なので数は考える必要はない。ここで考えるのは練度や装備の事だろう。普段の自主練習で学園の訓練用ISの使用申請の度合いによるが、大半の生徒はISに乗る機会がそう多くない。

 履き慣れない靴で激しい運動をすると足を痛めてしまうように、ISという靴に体が馴染んでいないと思うように戦えない。そう考えると代表候補生が強いということになる。この者たちは自分のISを持っているのだから時間のある時に使って訓練できる。その上、第三世代兵器を搭載しているため苦戦を強いられるだろう。

 

「この学園の他の生徒は正直弱い。一夏は専用機を持っているとは言え、最近ISについて勉強し始めたルーキーだ。代表候補生のシャルルと組むのはまぁーハンデと考えようではないか。そうなると残りだよ。ご覧の通りセシリアと鈴の二人は怪我で出場できない。目玉の選手が二人少ないのだよ。YO!」

「……だから?」

「我々はトーナメントを盛り上げなければならない。そうは思わないか?」

「俺達が組んだら無敵だから、あえて別れようと言いたいのか?」

「そうだよ。YO!YO!」

 

 テンションがウザイがなんとなくわかる。ジョルジュもクリストフもお互いに自分の方が強いと自負している。だからこそ優勝は自分が掴むと信じている。互いに組んで分かり切った勝利(●●●●●●●●)を掴んで面白いか? 優勝を目指して相手を倒すのに歯ごたえのある敵は欲しくないか? 

 そして何より――――。

 

「そうだな……タッグでやる以上、優勝者は二人なんだ。お前に優勝をくれてやるのは癪だな」

「その通り。本来俺達は[ISとACネクストの交流]を目的にしているんだぜ。データのパターンは多い方がいい。……まぁそんな建前はどうでもいい。同じ意見だ。おめーの優勝席ねぇから!」

「フン、決まりだ。当たった瞬間に対戦表から消してやる」

「じゃあ、二人は誰と組むの?」

 

 盛り上がる二人の間にシャルルが質問を落とす。

 

「……必ずペアを決めないと出場できねえの?」

「ううん、期限までにペアが決まらなかったら、当日に抽選で決められるそうだよ」

 

 それを聞いて二人は一度顔を見合わせて数秒考えて結論を出す。

 

「じゃあそれだ。抽選で決まった子と頑張って優勝を目指すってことで」

「応。さっきみたいにたくさん来られても決められないからな」

 

 こうしてジョルジュとクリストフは互いに組まずに優勝を目指すことになった。

 

 

 

 

 

 

学年別トーナメント当日――――

 

 

 

 

 

 

 アリーナの中央でジョルジュは空を見上げていた。ただ広い空を見ていると緊張が霧散していくような気がする。トーナメントの発表と共に抽選組の振り分けが決まったのだが。

 

「まさかこんな組み合わせになるとはな……」

 

 ジョルジュはAブロック一回戦で早速、一夏・シャルルペアと戦うことになったが、自身のペアはなんとラウラになった。いろいろあったが、一声かけることにした。

 

「よろしく頼むぜ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「……私は私で勝手にやる。慣れ合うつもりなど無い」

「手厳しいな」

 

 最近のカラードマッチでは団体での競技が多くなってきたが、初期のころは一対一のみしかなく、それで順位を決めていた。元よりリンクスは単独での行動が多いのだ。彼女の言う通りでも構わない。

 

「一戦目で当たるとはな、待つ手間が省けたというものだ」

「そりゃあなによりだ。しかしジョルジュを相手するのは厄介だな」

「大丈夫だよ。僕が付いているから」

 

 カウントダウン中の三人が言葉を掛け合い、挑発と鼓舞をする。ジョルジュは一人で深呼吸をしながら僅かな暇を持て余す。

 

「「 叩きのめす!! 」」

 

 カウントがゼロになると同時にラウラと一夏が叫び、一夏は一直線にラウラに向かう。それをラウラは正面からAICで対応する。

 

「開幕直後の専制攻撃か、分かり易いな」

「以心伝心でなによりだ」

「ならば、この流れもわかるだろう?」

 

 ラウラは動きを停めている一夏にレールカノンを向ける。ああやって零距離で砲撃を当てるのが、彼女の基本戦術なのだろう。だが、シャルルが一夏の背後からアサルトライフルを撃ち、狙いを逸らさせる。初撃に失敗したラウラはAICを解除し後退する。

 

「チッ」

「逃がさない」

 

 飛びあがって射線を確保したシャルルはアサルトライフルを放棄し、新たにサブマシンガンを二丁呼び出し、ラウラに斉射する。

 シャルルの専用機、[ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ]はデュノア社製の第二世代型ISのカスタム機だ。操縦しやすく汎用性が高い原型機の基本装備の一部を外す代わりに、後付装備(イコライザ)用に拡張領域(バススロット)を原型機の二倍にまで追加してある。

 普通それだけの装備を戦闘中に扱えるかと言われれば、難しい。銃器の一つ一つを理解し、イメージし、展開するのに時間がかかるからだ。それをシャルルは自身の特技高速切替(ラピッド・スイッチ)で補っている。様々なカテゴリの武器を使うことで距離に関係なく、そして器用に戦えるのがシャルルの強みだ。

 

 いつまでも撃たれているのは可哀想なので、ジョルジュはシャルルの射線に割り込み切りかかる。小さく浅く、ただし多連に突き入れる。シャルルは左腕部に小型化させて装備している物理シールドでジョルジュの攻撃を防ぎ、右手の武器をショットガンに切り替えて発砲。ジョルジュは至近距離から迫る散弾を躱す為にバックブースターのQBで後退する。

 

「ちょっと面倒だな、お前……」

 

 ネクストは格納武器を使う以外に武器の切り替えはできない。シャルルの多彩な攻撃方法はネクストにとって脅威だ。一夏はブレードしかないので御しやすいが、シャルルは柔軟に対応されるので、戦いのペースを崩され易い。

 

「早めに削っとくか」

「シャルル、代われ!」

 

 QBで急接近しドラスレを振るうとシャルルは飛びあがる。シャルルの後ろにいた一夏が切りかかって来るので加速を止めずに一夏と鍔迫り合う。そのまま雪片弐型とドラスレを数回打ち合う。中学の頃に剣道をしていただけあり、その剣は悪くはなかった。

 

「やあああ!」

「隙ありだぞ」

 

 やや無理やりな、上段切りをあえて受け止め、右手のマシンガンを一夏に向ける。方法は違えど、やることは先のラウラと同じことだ。学習しないのかと思ったが、ジョルジュは自身の行動も制限された事に気付く。斜め前方でシャルルがショットガンを構えている。しかも二丁だ。一夏はシャルルに確実に当てさせるために無理な攻撃をしたのだ。その行動にジョルジュは被弾を割り切り、一夏にダメージを与えるべきと判断する。

 どうせ切り札の零落白夜を使えば自分を殺すからだ。右手のトリガーを引こうとした時――――。

 

「あっ!」

「うおぁ!?」

 

 右腕、両足にラウラのワイヤーブレードが巻き付き、強引に後ろに飛ばされた。そのおかげでシャルルの攻撃は当たらなかったが。

 

「助かっ……おぉわ!?」

 

 そのまま容赦なく地面に叩き付けられた。ショットガンを食らうよりはマシだったかもしれないが、僅かにAPが減った。素早く身を起こしラウラを見ると両手のプラズマ手刀で一夏と格闘していた。どうやらお目当ての一夏との戦いに邪魔だったモノ(ジョルジュ)を退かしたかったからあんなことをしたらしい。一夏と格闘しながらワイヤーブレードでシャルルを牽制している様から、「お前はいらん」という意思が伝わってくる。

 

「けど、俺も戦っているんでねっ!」

 

 ボケっとアリーナの隅で立っていてもいいが、衆人観衆の中それはカッコ悪い。一先ずラウラが邪魔だと思っているシャルルにプラズマキャノンを撃ち、注意を向けさせる。

 シャルルもサブマシンガンとショットガンで対応してくる。PAに有効な武器でしっかり削りに来る。棒立ちになって撃ち合わず、ジョルジュは左へ回り込もうと動き、シャルルは後ろを取られないように同じように左へ動く。結果、二人で円を描くように踊ることになった。たしか円状制御飛翔(サークル・ロンド)とか言う動きだったか。

 

「すごいねジョルジュ。この動きで対応できるなんて」

「大した動きじゃないだろ」

 

 ISの浮遊・加減速――要は機動――に使われるPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)は基本的に自動らしい。それをマニュアル制御しより柔軟な動きができるようにする訓練を円状制御飛翔と言うらしいが、この程度の機動ができないようでは中堅リンクスも名乗れない。

 

「そらぁ!」

「クッ! ジョルジュか!?」

 

 シャルルとの攻防の間に一夏に切りかかる。乱戦の最中に標的を変えるのは一時的に二対一を作りだせる有効な手だ。意外にも反応されたが、反対側からラウラが迫る。これで一夏は甚大なダメージを被るだろう。ジョルジュはそう思っていたが、右腕にワイヤーブレードが絡みつく。

 

「お、おい!? まさか!!」

「邪魔だ」

 

「「 ぐあああ!? 」」

 

 方やジョルジュは投げられ、アリーナの壁に叩き付けられる。方や一夏はプラズマ手刀の斬撃でそれぞれダメージを受ける。咄嗟にブースターを吹かしたが勢いを完全に殺せなかった。

 

「今のは邪魔してないだろうが!」

「教官の弟は私が手ずから倒す。先に倒されては困るのでな」

 

 ジョルジュは呆れながら納得した。射線の妨害のみならず攻撃チャンスを作ってやっても拒絶する。そこまで一夏にご執心ならばそちらを存分にやればいい。ジョルジュはシャルルに専念することにした。

 

「パートナーに嫌われちゃっているね」

「ああ、デートプランが気に入らないってよ。エスコートの下手な男は背が高くても嫌われるらしいからシャルルは気を付けろよ」

「うーん、じゃあ僕のプランを評価してみてよッ」

「何が悲しくて男のデートなんかに付き合わなきゃならねえんだよッ」

 

 今度は銃撃戦ではなく、ドラスレによる近接戦闘に持ち込む。これまでシャルルが使って来たのは対応距離が違うが、全て射撃武器。ショットガンが危険だが自分が最も得意とする戦い方で挑む。

 

 シャルルはジョルジュの連続QBの突進をギリギリで防ぎ続ける。高速で変則的に動くジョルジュに狙いを定められず、シールドや近接ブレード[ブレッド・スライサー]で防御してもじわじわこちらが負けてしまう。攻防の合間に相方にプライベートチャンネルで作戦を話し合う。

 

《一夏、大丈夫?》

《くっ……ちょっとキツイかもな》

 

 ラウラのプラズマ手刀は両手にある。二本のブレードを一本のブレードで防がなければならない一夏は、ワイヤーブレードの追加も受けて苦しそうだ。なんとか空いている手で払ったり、足で蹴ったりとかなりアクロバティックな動きをしているが、防戦一方だ。

 

《一つ作戦があるんだ。聞いてくれる?》

《もちろんだぜ。俺はどうすればいい?》

 

 一夏はシャルルの言葉を信じて、即答する。技量で負けていても二人はチームワークでは確実に勝っていた。やがて作戦を確認すると二人は動きだす。

 

「男ならチマチマ撃ってないで、ガツンと斬り合わないかよ?」

「男の子なら女の子を追わせる恋をさせるのが、良いって言うじゃない?」

「成程、確かにこっちはさっきから情熱的なアプローチをしてるなッ!」

(ここ!)

 

 何度目かのジョルジュの突進を位置を合わせて流す。向かってきた後には必ず後ろに駆け抜けなければならない。その先には――。

 

「うおおおお!!」

「一夏!?」

 

 一夏はラウラの攻撃を掻い潜って傍まで飛んできたジョルジュに目標を変更する。先ほどの意趣返しだ。

 

「っと……!」

 

 最初に乱戦を仕掛けた以上、ジョルジュに対応できないはずがなかった。適当に弾き飛ばしてシャルルに向かおうとするが、一夏はしつこくジョルジュに挑む。

 

「邪魔をするなと言ったはずだ」

「おまっ!? 普通に援護できないのか!」

 

 ラウラはジョルジュも巻き込むこともお構いなしにレールカノンを連撃し、二人にダメージを与える。一夏は突然の横槍に堪らず後退するが、ジョルジュはそれができなかった。何故なら。

 

「クッソ! なんで二人から撃たれなきゃいけないんだよ!」

「ゴメンね。僕は敵だから」

 

 シャルルに逃げられるコースをサブマシンガンの雨あられとアサルトカノンで牽制される。前からは大威力のレールカノン、一夏と反対方向にはサブマシンガン、その他はアサルトカノンの弾幕が待ち構えている。その撃ち方で一夏・シャルルペアの考えが読める。

 ラウラは一夏を自分の力だけで倒したがっている。ジョルジュが一夏に干渉すれば、それを邪魔と判断しジョルジュも攻撃する。ラウラは自分が複数での戦いを想定していないようなのでそれでいいかもしれないが、一応の仲間であるジョルジュにとってそれは困る。

 

(恐らく一夏は俺を狙ってひたすら攻撃するだろう。クソッ、何で俺だけが一対三になるんだよ?)

「おおおお!」

「目につく奴から潰してやる!」

 

 零落白夜を発動させ黄金を纏いながら一夏がまたも切りかかって来るので、決めた。ラウラのこだわりなど関係ない。自分を狙ってくる奴を倒して何が悪い? ラウラがいかに邪魔してこようとここで一夏を脱落させる。

 その後にラウラがどんな行動をとるか知らないが、もし向かってくるようなら叩きのめす。

 

「動くな」

「「 !? 」」

 

 ジョルジュから見て左、一夏から見て右から、ラウラのAICにより一夏共々ジョルジュは動きを停められた。衝撃力の高い武器を受けると一瞬機体の立て直しが困難になるが、これは全く動けない。

 

(マジでステイシス(停止)だな。身動きが一切……ん?)

 

 左半身はピクリとも動かないが右腕は動いた。どうやらAICにも範囲が限られているようだが、動くなら僥倖。一夏にマシンガンを向けた。

 

「二人の動きが停まったね」

「クッ!?」

「あっ! 野郎なんてことをっ!」

 

 動きの停まったラウラとジョルジュにスナイパーライフルを撃つシャルルだが、抜け目のない事にジョルジュが動かせたマシンガンを撃ち抜いた。ラウラがAICを解除したことにより自由を取り戻したジョルジュは直ぐに後退しマシンガンの状態を確認する。

 

「……クソが! イカレちまったぞ!」

「ごめんね」

「馬鹿野郎! お前はたくさん銃持ってるからいいけど。こっちは火力っていうか、戦闘効率ガタ落ちだ!」

 

 どんな戦闘をするかは機体構成(アセンブル)にかかってくるが、ジョルジュが言いたいのは、同時に使える武器の数だ。ロックオンすれば対象との距離や速度を出し、銃器ごとの有効距離を示すなどサポートを受けられるのだが、ACの武装は[右腕・左腕]や[右腕・左背]のように左右の武装でないと使えない。

 これは火器管制システム(FCS)の処理ができないからだ。サポートを受けてもそれらを受け入れるのはリンクスだ。

 

 例えるならばボール遊びだ。右手でお手玉しながら右足でリフティングができるか? 

 答えはできる奴はそういないだ。凡な者たちは大人しく両手でお手玉したほうがマダいい。ジョルジュは今、右側唯一の武装を喪失し、片側の武装で戦わなければならない。

 

「面倒な事をッ!」

《あっ、逃げられた》

《一先ず、ラウラを先に倒そう》

 

 ジョルジュはOBで一気に空へと逃げ、そこで静止した。撃破までいけなかったが、戦力を一人に絞れるので一夏とシャルルはラウラに集中する事にした。

 

「無駄だ。私の停止結界の前では……」

「はああああ!!」

「!?」

 

 AICがサブマシンガンを撃つシャルルの動きを停めるが、ラウラは背後から迫る一夏から逃げる。

 

「……もしかして」

 

 その対応に一夏は違和感を感じ、一つの仮説を立てそれを試す為にワイヤーブレードを掻い潜ってラウラに迫るが、AICでまたしても動きを停められ、レールカノンの砲身が一夏の顔を覗く。

 

「愚かな。何度やっても無駄だ……」

「……忘れているのか? いや、意識できないのか?」

 

 眼前に置かれた砲身に目もくれず、一夏はラウラの余裕綽々な顔を見て満足そうに笑う。仮説は正解だ。背後から弾丸をまき散らしながら自分を追い抜く相棒が後を続ける。

 

「僕たちは二人なんだよ」

「くぅ!?」

 

 レールカノンを破壊され、苦しげに距離を取るラウラ。AICは対象を集中しなければ効果を持続できない。誰かを停められている間に攻撃されると集中が乱され効果を無くす。更にワイヤーブレードの動きもラウラの意思によって操作されているため、AICと併用できない。発生装置も手にあるのでプラズマ手刀も使いずらいだろう。だから唯一自由に使えるレールカノンによる零距離射撃に拘ったのだろう。だが、そのレールカノンも壊された。

 

「行ける!」

 

 一夏はもう一度零落白夜を発動しラウラに切りかかるが、その左手は開いたり閉じたり(●●●●●●●●)していた。雪片弐型の白刃がラウラに届く寸前――――。

 

「あっ!?」

 

 白式のシールドエネルギーが二桁になり、零落白夜が強制解除された。

 

「限界まで消耗してはもう戦えまい!」

「うわあああ!」

 

 ラウラは最早満足に戦えなくなった一夏を蹴り飛ばし地面に叩き付ける。追撃しようとするが、シャルルが間に入り近接ブレードで切りかかる。

 

「一人ならば停止結界で……ぐぁ!?」

 

 ラウラは一瞬この衝撃の意味がわからなかった。背後から撃たれた? 何故? 振り返ると一夏が相棒が放棄していたアサルトライフルを構えている。事前に使用許可(アンロック)してある銃ならばこうして消耗した一夏でも戦うことができる。

 

「この死にぞこないが――」

「何処を見ているの?」

「!?」

「この距離ならッ!」

 

 ラウラの注意が一瞬、一夏に向かった隙に零まで距離を詰めたシャルルは左の小型シールドの中に隠してあった切り札を切る。

 

盾殺し(シールド・ピアス)!?」

 

 正式名称、灰色の鱗殻(グレー・スケール)というパイルバンカーだ。リボルバー機構にすることで、炸薬交換による連続打撃が可能となっており、第二世代では最高クラスの威力を持つ。

 それがラウラの腹部に押し当てられ、シリンダーが回り出す。

 

「がはっ!?」

 

 シールドバリアーがラウラの身を守るが、シールドエネルギーが大幅に減少する。シャルルは容赦なくラウラをアリーナの壁に押しやり連撃するが、一発のプラズマキャノンが紫電を散らす。

 

「ラウラ!」

「うわっ!?」

「大丈夫かラウラ? システムの調整に時間がかかって……おい?」

 

 今まで空にいたジョルジュがプラズマキャノンを撃って、シャルルを吹き飛ばし、ラウラの傍に着地する。状態を確認するが返事がない。シュヴァルツェア・レーゲンは激しい電撃を放っており、活動限界と見受けられたが――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅああああ!!」

 

 ラウラの叫びと共にそれは醜く再起動した。

 

 

 

 




次回、作者がゲーム中に「あったらいいな~」ていう我が儘が出る。
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