ソラを繋ぐ翼   作:ホワイト・フラッグ

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補足。
ネクストはISでいう全身装甲(フルスキン)。
フロム・ソフトウェアが所有する人型ネクストを想像してください。頭部はあんな感じ。


9.二人の憎悪(後編)

 右手のマシンガンを壊されたジョルジュは一旦空に逃げた。片方が追ってくるならば、それの相手をしている間にラウラがもう片方を倒せると思ったからだ。AICは解除条件が他者からの妨害なので、一対一の状況では無敵だろう。二人共、追って来なくてもラウラの戦闘技術ならば耐えられる。もしかしたら本人の希望通り単独で勝利してしまうかもしれない。

 連携はともかくジョルジュはラウラの実力を信じていた。

 

「だからちょっと待ってくれよ」

 

 ジョルジュが空に来た理由は、片側装備(このまま)で戦ってもラウラの足を引っ張るから。日々AMSの反応訓練をしているがまだ、同列処理(●●●●)ができない。ならば、裏ワザで並列にするまで(●●●●)

 

「レフトアーム、パージ」

 

 左腕に付けられたドラスレを外し、右手でキャッチし左手に持ち変える。AMSから右腕の武装固定具を解除し、ドラスレを装着し固定。

 

「エネルギーケーブル接続。レーザーブレード02-DRAGONSLAYERを確認。両腕部共に出力を調整。左は下げて右は上げる」

 

 ドラスレを装備したことにより常態エネルギーが必要なので右腕により多くのエネルギーを回す。逆に使わなくなった左腕のエネルギーを下げて全体的な燃費の改善を図る。

 

「ああ、やっぱり難しいな……」

 

 本来、整備用の器具を使ってやる作業なのに、AMSからの直接な調整は難しいに決まっている。だが、ゆっくり邪魔されず調整できるだけマシだ。

 

「テスト……あ、間違った」

 

 一通りの調整ができたので、試しにドラスレを起動したが、刃渡り(ブレードレンジ)が半分ほどしか出なかった。元から短いドラスレがこれでは、下に戻っても満足に斬り合えない。やり直した。

 

「ムズイしマズイし、ヤバい」

 

 眼下ではラウラが一夏とシャルルのコンビネーションでレールカノンを壊された。あれでレールカノンは勿論だが、AICの優位性も無くなった。

 

「威力も低いし、燃費もちょっとイマイチだな……せめてレンジを……」

 

 AMSの酷使で頭が痛くなる。それだけやってブレードレンジを調整できても本来のドラスレの性能は出せない。だから、裏ワザなのだ。満足に使えない装備は間違いなく戦力の低下。しかし今回は効率を優先する。滞空するためのブースターを停止させ、自由落下する。

 

「FCSの調整……両サイド共に良し。戦線復帰する」

 

 地面に着く前にOBを起動させ、パイルバンカーでラウラを苛めるシャルルに接近しプラズマキャノンを撃つ。シャルルは完全に虚を突かれ、吹き飛ぶ。素早く銀髪の相方に無事を確かめる。

 

「大丈夫かラウラ? システムの調整に時間がかかって……おい?」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンは激しい電撃を放っており、活動限界と見受けられた。ジョルジュは遅参を悔やんだ。あともう少し処理を早くできれば間に合うことができた。

 

 

 

 

 

(何故だ? 何故私が負ける!?)

 

 シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーは底を尽きそうだ。だが相手も、一夏も同じだ。あと二、いや一撃当てれば勝てる。それなのに機体は動いてくれない。

 敬愛する教官の輝かしい経歴に泥をなじったくせに、遠く離れた異国に居ながら優しげな表情を浮かべて想われていた。それが実際に会ってみれば、へらへらと笑いながら雌に囲まれているロクデナシ。戦ってみれば大したことはない。自分のいた部隊の新兵にも劣る出来損ない。それなのに。

 

(どうして私が負けなければならない!? 方や新兵にも劣る愚図。方や一世代下の旧型。私の方が強いのに何故!?)

 

 目の前でACネクストがこちらを覗き込んで何か言っている。かつての敗北企業レイレナード社の機体アリーヤをベースにしたジュスティス。その複眼の下には銀髪紅眼の首輪付きがいる。コイツも教官に何かを評価された男。教官にあの表情をさせた男。

 

(私は認めない。この二人を認められない)

 

 自分の方が優れている。遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)として戦うために生まれた自分が強さにおいて負けるわけにはいかない。勝つための力が欲しい。そう願ったとき機械的な声が頭に響く。

 

【汝、力を、より強い力を欲するか?】

 

 当たり前だ。織斑一夏を、ジョルジュ・サンソンを降す力を、奴らを倒す力を、奴らを排除する力が手に入るなら。何を捧げても構わない。だから――――。

 

 

 

 

「ぐぅあああああっ!!」

「「「 !? 」」」

 

 ラウラの叫びと共にシュヴァルツェア・レーゲンは醜く再起動した。装甲が泥のように形質を変え肥大化して叫び声を上げるラウラを飲み込んでしまう。やがてそれは人の形を成していく。この状況に学園はアナウンスを響かせる。

 

〈非常事態発令。状況をレベルDと認定。生徒は直ぐに非難。鎮圧のため教師部隊を送り込む……繰り返す……〉

 

 閉じられる隔壁。鳴り響くアナウンス。一先ず生徒たちの身の安全を確保しているようだが、ジョルジュは目の前の光景を呆然と見ていた。黒い人形とでも言うべきか、シュヴァルツェア・レーゲンの原型を無くし、両肩に盾を浮かせた打鉄に似た近接型の機体。その手に持つのは。

 

「雪片……!」

 

 一夏の持っている雪片弐型によく似た近接ブレード。それを見て怒りの雄叫びを上げる男がいた。

 

「千冬姉の真似しやがってえええ!!」

「お、おい!?」

 

 千冬姉の真似ということは、現役時代の織斑先生のISだというのか? ジョルジュの脇をすり抜けて切りかかるその剣は荒々しく技が無い。ただ、渾身の怒りをぶつける為の剣であった。

 

「――――!」

「ぐぁ!?」

「……ぁ!?」

 

 技は無い。だが怒りの勢いに乗せられた怯えも躊躇いの無い踏み込み、速度、そして威力を併せ持つ剛剣は呆気なく弾かれた。雪片弐型が手元から弾かれた一夏に追撃の縦切りが振り下される。一夏は徒手ながら左腕で身を庇った。その一撃で白式のエネルギーが尽きたのだろう。光を散らして白式が解除され一夏が生身になって膝をつく。盾にした左腕から血が流れている。

 

 その間ジョルジュは情けない声を上げて驚いた。なんだあの動きは? 黒い人形の雪片がどう動いたかわからなかった。始点と終点は見えた。それくらい誰でもわかるが、その程度しか見えなかった。だが我に返る。弾き飛ばされたはずの一夏が、なんと生身で向かっていいたからだ。

 

「この野郎おぉぉッ!」

「待て、一夏!」

 

 黒い人形に向かって行こうとする一夏を無理やり抱えて飛ぶ。三十メートルは離れたあたりで一夏を降ろしてやろうと確認のために一瞬振り返った時だった。

 

「――――!」

「はっ!?」

 

 黒い刃が眼前に迫っていた。虚を突かれた情けない声を上げながらドラスレで弾く。反射してくれた体に感謝するが、それはまだまだ早かった。

 

「――!――!――!」

「ッ! ハァッ! ガッ!?」

 

 続く連撃をジョルジュは薄氷を踏むが如く思いで弾き続ける。そこに銃弾の雨が降り注ぎ、黒い人形は後退する。ジョルジュもついでにプラズマキャノンを撃って牽制し後退する。

 

「ここは私たちに任せなさい」

「君たちは直ぐに避難を」

 

 四人のIS装備の教師達が到着した。黒い人形を包囲しながら銃弾を浴びせるが、黒い人形は人で出来た檻を壊そうと暴れ回り、四人の教師達は互いを庇いながら戦う。

 

「ッ――ハァ、ハァ」

 

 突然、喉に込み上げてきた空気塊が、それまで息を一切吸っていなかったことを思い出させた。短い打ち合いだったが、ここまで緊張したのは久しぶりだった。

 

「降ろせよジョルジュ! あいつをブッ飛ばしてやるんだ!」

 

 左腕に抱えられた一夏が何か暴れている。ジョルジュは自分の呼吸と感情(●●)AMS(●●●)をできるだけ落ち着かせてから、一夏を放り捨てるように乱暴に降ろす。

 

「……落ち着けよ。アイツにムカついてんのはわかるが、アレをぶちのめす具体的な手段を教えろよ」

 

 白式のエネルギーは先ほど無くなった。一夏はISを展開できない。いくら複数のパワードスーツ(ACネクストとIS)がいても黒い人形の動きは早すぎる。もしジョルジュが今の一夏と同じ状態ならば、大人しく退く。あの時と違い今のラウラは意識が無い。

 そう意識が無い(●●●●●)のだ。さっきから教師部隊が呼びかけているが、返答は強力な剣のみ。例え生身であっても油断も容赦なく切り捨てるだろう。

 

「落ち着いてボーデヴィッヒさん!」

「――――!」

「抵抗を止めろ! ISを解除して……!?」

 

 黒い人形が教師を一人連れて行く形で包囲を破った。その後の連撃に耐えられずに一人脱落する。四人で作っていた均衡が崩れ始めた。

 

「下がれ! 私達が受ける!」

「――――!」

「任せ……きゃあ!?」

「「 !? 」」

 

 黒い人形はブレードを構えて前へ出た教師二人を追い抜き、後方支援に回った教師を切り伏せる。脱落までいかなかったが、連携を完全に崩された教師部隊は互いを庇い合いながら戦うが、苦戦していると言える。いつまでもつかわかったものではない。

 

 

「見たか? この間、俺とクリストフがやったような無茶は今のラウラに通じない。そのまま行けば死ぬぞ!」

「それでもっ、俺がやらなきゃならねえ。あれは、千冬姉の剣だ。千冬姉だけの剣だ。それを、あんな風に真似しやがって」

 

 一夏の目には憤りと悔しさが同居していた。敬愛する姉の、世界最強の剣が粗末に模倣された事から湧き上がる感情で僅かに目がうるんでいる。

 

「千冬姉が初めて剣を教えてくれた時に、真剣を持たされたんだ。とても重くて、持ち上げることが難しくて、『それが人の命を絶つ重さだ』って、教えられた。だから剣を振る時にそれだけの覚悟が、心がいるのに、アイツは!」

 

 確かにそれまでの黒い人形の動きは相も変わらず、無駄がなく。恐ろしく。凄まじい太刀筋をしていた。ただ、気迫が無い(●●●●●)。今も助けを求めるようにラウラの名を呼び続けている教師の言葉も聞こえないかのように、淡々と剣を振るう。

 

 何事も達人の技は無駄がなく。見入るような気がある。あの黒い人形はその達人並の動きを再現(●●)しているだけ。人がその域に至るまで積み上げた物、代わりに犠牲にしてきた物で綴られた物語(ドラマ)など知らないとばかりの棒振り。

 

「だから俺がぶちのめしたいんだ!」

「……」

 

 動機を聞いてジョルジュは一夏を見直した。自分と同じような憤りを持っている(●●●●●●●●●●●●●●●●)と。これでは分際を弁えて抑えている自分が馬鹿ではないかとも思った。黒い人形と最初に剣を交えた時にラウラの意識が無いことはわかった。コイツ(ラウラ)無人機と同じような(自分がゾウオする)物になったと。一夏の言う通りだ。何を使おうが、人を傷つけるんだ。(ひと)の命はそんなに軽くないハズだろう?

 

「……つまり一夏。お前は自己満足のために、あのお人形さんをバラしたいのか?」

「そうだ。どう言葉を言い繕っても俺の自己満足だ! それでも! 俺がアイツを倒すんだ! ……バラす……まではいかないよ。中にラウラがいるハズだから」

 

 一夏の回答にジョルジュは安心した。中身ごと切ってしまう程ならば、任かせられない。自分がやっても変わらないから。

 

「ならいい。後はエネルギーだな。直ぐにピットに戻って補給を……」

「待ってよ。二人共やる気なの!?」

 

 それまで黒い人形がこちらに来ないか警戒していてくれたシャルルが、慌ててジョルジュと一夏を止める。

 

「先生たちが、あんな目にあっているのに勝てると思っているの!?」

 

 大方、ジョルジュが一夏を説得させて退避させると思っていたのだろう。それなのに現在進行形で鎮圧に来た教師部隊が苦戦している戦場(ソコ)へ突っ込む気でいるのだから、慌てているのだろう。

 

「だから少しでも戦えるように補給しに行く」

「戦わなくても増援が来れば、状況は収拾されるんだよ。だから危ない目には……」

「シャルル」

「!」

 

 大きな声ではないが、一夏が名前を呼んだけでシャルルは言葉を詰まらせた。

 

「心配してくれているのは嬉しいよ。だけどシャルルには理解できないかもしれないけど、男には[譲れない戦い]ってモノがあるんだ。だから許してくれ」

「そうだ。俺達の自己満足で突っ込むから、シャルルは付いて来なくていい」

「え……あ、うん」

 

 シャルルは一夏の言葉に何故か赤くなって俯く。どうして? そういえば一夏の今の台詞に何か違和感がある。

 

「じゃあ、俺はピットに行くぞ!」

「あ、待って」

 

 補給のために走り出そうとする一夏を再度シャルルが引き止める。

 

「そんな事しなくてもエネルギーならあるよ」

「え?」

「エ?」

「ISはコア・バイパスを介して、他の機体にエネルギーを譲渡することができるんだよ」

 

 シャルルはケーブルを取り出しチラつかせながら、説明してくれる。

 

「たぶん補給所には先生たちがいると思うから、引き止められて戻ってこれなくなるかもしれないから」

「そ、それならシャルルのエネルギーを貰おうかな」

 

 ここで覚悟を決めておいて戻れませんでした。というのはカッコが悪い。一夏は危うくそうなるところだった。

 

「ただし、僕の残りエネルギーも少ないから、たぶん部分展開しかできないよ。だからスラスター無しで近づかなきゃならないけど、あんな動きをする奴に近寄れる?」

「それは……」

「俺ガ抑える」

 

 ジョルジュが即答する。元よりそういう段取りを考えていたのだから。

 

「俺が抑えルカら一夏は止めを頼む。いいか? 絶対に俺がラウラを殺ス前にやってくれ」

「ちょ、殺すって!?」

 

 二人がジョルジュのイキ過ぎな発言に驚いているが、最初に一夏を連れて逃げようと抑えたAMSの接触感度が、これから戦えるとなって、再上昇してきているのだ。もしかしたら精神的にキテいるかもしれない。相手が一応有人(ふかんぜん)なおかげだろうか、ラウラの事を気にかけていられるだけ、まだマシだ。

 

「時間が無い。行くゾ」

 

 ブースターを吹かし、黒い人形に挑む。先ほどより動きが視えるようになっている。剣が振られてできる扇状の残像を捉えられる程に。まず、プラズマキャノンを撃って黒い人形に自分の存在を知らしめる。

 

「――!」

「そウだ。こっちで遊ぼう(こわそう)

「――!」

 

 黒い人形は限界近くまで追い込まれた教師から、ジョルジュにターゲットを変えた。上段突きが迫ってくるのを防ぐためにドラスレをかざすが、

 

「――!――!――!」

「ッ!?」

 

 ドラスレをかざした瞬間に上段からブレードが消失し、下段から逆袈裟にせり上がってくる。やや遅れながら反応したが、またブレードが消え、今度は左から横薙ぎに振られる。その狙いは首。早すぎる切り替えしに、今度は防御が間に合わなかった。

 

「にっギィィイイッ!!」

 

 首を捻って回避しようとしたが、躱しきれず、ヘッドパーツから火花が散り、深く抉られてしまった。アリーヤは複眼ではあるが左側のカメラアイが切り裂かれ、その下の肌を僅かに切られた。切られたのは目元。涙のように血が流れているが、目元は表情を現す部位の中でも特徴的な場所だ。そこから読みとれる彼の表情は――――。

 

「……痛イなッ!」

「――!?」

「お前はどウだ? 痛くナいのか?」

 

 お返しとばかりの剣閃が黒い人形の胸部を激しくなぞる。その傷は黒い人形が後退したからできた物だ。少しでも後退が遅れていたら、黒い塊が二つに分かれていたであろう一撃。顔を全く変化させない黒い人形と対象にジョルジュは僅かに見える目元を緩めていた。

 

笑み。

 

 ジョルジュは痛みが嬉しかった。マゾヒズムに似た感覚かもしれない。だけど、今の攻撃を受けて痛みも、悔しさも、怒りも表さない黒い人形と違うことを、ここに証明できたことが堪らなく嬉しかった。

 

「俺は痛いヨ。生きているんだ。痛みヲ感じられる人でアることが、嬉しくて、嬉しくて。お前より強い事がコの上なく楽しい」

 

 再度接近し互いの刃をぶつけ合い。装甲を斬り合う殺陣にあることが楽しい。ああそうだとも、自分の命を賭けているこの瞬間が最高のスリルだ。惜しむべき事は相手が無人機と同じような(イシキがない)物だということ。

 

「ケド、ムカつくんだヨォォォォ!!」

「――!?」

 

 ジョルジュは、OBの超加速で黒い人形を飛び越し、その背後に回る。今自分を殺しかねない刃に殺意(●●)が感じられないこと。それは彼にとって(ヒト)への許しがたい侮辱だ。

 

 

 忌々しい過去の記憶が脳裏に浮かんだ。自分たちの自由(せんじょう)を、その場にいない、遠くから眺めている誰かが、ボタン一つで蹂躙していく。そして自分たちに聞こえない高笑いを上げられるのが悔しくてならない。視界が徐々に暗くなる中で感情が激しく隆起する。怒りでも悲しみでも憎しみでも何でもいいのだ。心を籠めて殺して欲しい。自分たちは人なのだから。

 

 

「――!」

「消えろ、消えろ、消えろ……!!」

 

 その殺刃を受け入れたくないという想いを黒い人形という機械的なナニかに対してか、意識を手放したラウラに対してか、もしくは両方に向けた斬撃を見舞う。黒い人形は背後に回られた不利を前進と急旋回で対応する。回避のオマケとばかりに切りかかるジョルジュに回し蹴りを入れる。

 

「アッ、ガァ!?」

「――!」

 

 腹に入った蹴りで体が[くの字]に曲がるが、吹き飛ばされないようにQBを吹かす。敵を確認しようと上体を起こした時に目に入ったのは、彼が嫌う殺意の無い刃。回避は間に合わない。ドラスレを装備する右腕は後ろに流れて直ぐにかざせない。ならば――――。

 

「――!?」

「レフトバック、パージ」

 

 プラズマキャノンの閃光が黒い人形を貫く。残弾がゼロになり最後の仕事を終えたプラズマキャノンを機体から外す。これで武装は先ほど繋ぎ直した急ごしらえなドラスレのみ。軽くなった機体でOBによる突撃を行う。

 

「オオォォォォ!!」

 

 黒い人形の中では自動学習機能でジュスティスのOBの推力が記録されている。記録された技の中で最も効果的な居合の型を選択し、迎撃の構えをとる。プログラムの中ではジュスティスが両断され、搭乗するジョルジュの無残な姿がシュミレーションされた。

 

「――!!??」

 

 居合の有効範囲内に入りかけた時、ジュスティスが想定外の急加速をした。QBで加速することも想定してあったが、それ以上だ。その誤差が感情のない黒い人形にとっての隙となった。

 

 

 

 

 暗い視界の中で、あの人形が構えるのが見えた。恐らくこのまま突っ込んでも、チーズのように切られる。これまでの切り合いで、黒い人形に学習機能があるのは感じられた――もっともソレがない無人機は戦場で鉄屑をばら撒くだけになるのだが――OB、QBは対応される。ならばそれを上回る速さが必要だ。

 いつもはできないが、ここまで深く繋がった(●●●●)ならばできるかもしれない。視界は暗く霞む、だけど様々な感覚が鋭敏だ。日常生活では絶対に感じず、戦闘中に増えるブースターの感覚も。

 

 信号を送れば自動的に動くブースターに少しだけ、少しだけ細かく信号を送る。返ってくる情報量も増えるが、今のジョルジュには処理できた。そして情報としてジュスティスとやり取りした事が現象となる。それは普段より多くの光をもって機体を押し出す。

 

 

 

 

 [二段クイックブースト]、それはQBを一瞬で二回発動させるだけの事。言ってしまえば簡単な事だが、これを実行するには普通に操縦するよりも多くの情報を処理しなければならない。その為元からAMS適性の高いリンクスか、精神負荷を受け入れて無理に繋げた者にしか実行できない。

 

「単純なハードウェアにハ勘がないノか?」

 

 だがその成果は大きく、雪片を握った黒い腕が宙を舞う。

 

ブツリ――

 

 一瞬、そんな音が聞こえた気がした。ジュスティスの全ブースターが停止し、ジョルジュはOBの推力を殺せずアリーナの地面を滑走し壁に激突することで停止する。ぶつかった衝撃で機体が仰向けになり空を仰ぐ。頭はAMSの酷使と地面の滑走でグラグラする。視界には砂嵐のようなフィルター越しだが、綺麗な青空が広がっている。そして耳には――――。

 

「零落白夜、発動ォォ!!」

 

 約束通りに動いてくれた。イレギュラーな友人の声が届いた。それを最後にジョルジュは意識を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 眠りからの覚醒は陰りのある紅い天井が出迎えた。夕暮れの保健室に自分はいる。

 

「私は……」

 

 ISを外され、その下に着ていたISスーツを着ているが、右肩に包帯が巻かれている状態でベットに横たわっていた。金色に輝く左目[ヴォーダン・オージェ]を隠していた眼帯がない。傍らにあるかと、首を捻ると。

 

「気がついたか」

 

 敬愛する教官――織斑千冬――が、椅子に座っていた。少しだけ覚えている記憶。だけどハッキリしないあの時の事が気になり、思わず聞いてしまった。

 

「何が……起きたのですか?」

「一応、機密事項ではあるのだがな……」

 

 教官はそこで言葉を切る。この先を聞くか? という意味だろう。軍人として機密に対しての重要性も、それに対する義務・罰則は知っている。ラウラは自分に起きたことを知るためにも静かに頷く。

 

「VTシステムは知っているな?」

 

 [ヴァルキリー・トレース・システム]、過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きを模倣(トレース)しパイロットに能力以上のスペックを付与するシステム。ただし、使用者の肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれる為、IS条約によりどの国家・組織・企業においても、研究・開発・使用すべてが禁止されている。

 

「それが、お前の機体に条件付きで起動するように隠されていた」

「……条件?」

「ああ、本当に巧妙に隠されていた。精神状態、蓄積ダメージ、そして……操縦者の意思。……いや、願望か……」

「私の……望み……」

 

 心当たりがある。あの時の自分は何者にも負けない力が欲しいと願ったから。その力のイメージは――――。

 

「…………」

「………ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「は、はい」

 

 沈黙のなかで、突然名前を呼ばれ、驚きはあったが、昔の習慣で顔を上げる。

 

「お前は……誰だ?」

「私は……」

 

 今、名を呼んでくれたではないか? だが、ラウラ・ボーデヴィッヒは今の識別記号。かつてはC-0037と呼ばれていた。そう考えれば、私は、本当に誰なのだろう? 答えに窮していると教官が続ける。

 

「誰でもないなら丁度いい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「え……?」

 

 どういう意味だろう? それでは変わらないではないか? 

 

「お前は私になれんぞ。いいや……なる必要がない」

「……!?」

 

 その言葉で自分が抱いていた届かない願望を自覚した。自分が追い求めた力は、教官――織斑千冬――のような力。だが、それは教官の強さであって、自分――ラウラ・ボーデヴィッヒ――の力ではない。強さを求めても、自分にできない強さは危険な物なのだと。

 

 ラウラの反応に満足したのか、教官は席を立ち、保健室を出ようとする。去り際に振り返らずに一言置いて行く。

 

「そうだ。隣にお前の相方が寝ているが、意外と寝顔が可愛いぞ、見ておくといい」

「……?」

 

 相方? ジョルジュ・サンソンのことだろうか? 寝顔を見ておけとはどういうことだろうか? 教官の指示ということもあり、VTシステムの影響で痛む体を無理に起こし、カーテンで間切られている隣のベットへ近づこうとする。

 

「……ッ!」

「……無理に動くなよ。怪我させてんだから」

 

 不貞腐れながら自分でカーテンを開いたジョルジュがラウラに声をかける。

 

「起きていたのか?」

「ちょっと前にな、先生は話を聞いていた俺にあてつけの意味で、あんな事を言ったんだ。馬鹿真面目に聞き入れるな」

 

 ジョルジュは頭に包帯を巻いて、左頬に大きなガーゼを張り付けていた。そんな彼の枕元にラウラの眼帯が置いてあった。

 

「おい、それは私の物だぞ」

「ん? ああ、コレね。しかし……なんたってこんな眼帯を……!」

 

 それまで天井を見上げていたジョルジュが、初めてラウラを見た。そのまま硬直している。

 

「おい、どうした?」

「……いや、綺麗だなって」

「はぁっ!? お、お前はいったい何を、言っている!?」

「その左目が綺麗だって言った。窓から夕陽が見えるけど、月も浮かんでいる」

「あ、な、なななな!?」

 

 ラウラは夕陽に負けないくらい赤くなり、窓の先に浮かぶ夕陽とジョルジュを見比べている。その様子を見てジョルジュは浅い息を吐く。

 

「その調子なら大丈夫そうだな」

「な、何がだ!?」

「体の調子。特に右肩は俺がちょっと切ったみたいだから」

「……ああ、これか」

 

 熱が一気に引いたが、肩を抱く。あの時に肩に痛みが走り、少しだけ意識を取り戻した。直後に目の前が開かれ、織斑一夏が受け止めてくれたのを覚えている。短い時間のハズだが、沢山質問した。

 

 何故強いのか?

 

「守りたいモノがあるから」、そう彼は答えていた。目の前の少年はどうだろう?

 

「ジョルジュ・サンソン」

「なんだよ?」

「お前はどうして強い?」

「…………」

 

 突然の質問に困っているのだろうか。少し考えてから彼は答えてくれた。

 

「……最初に俺がいた場所は……なんて言うか……生き残れる奴が強かった。たまたま強い奴が少なくて、弱い奴が多かった。だから俺は強い部類に入ってしまった」

 

 一夏とは違う。一夏は自分の強さを否定して、やりたいことがあるから強くなりたいと言っていた。ジョルジュは自身の強さを否定していないが、まるで強くなりたくなかった(●●●●●●●●)かのように話す。

 

「今日みたいな戦い方は強さじゃない。みっともない私怨だ。最初にいたトコでちょっと……な……」

 

 どんな戦いをして暴走した自分を倒したかはラウラにはわからなかったが、ジョルジュが過去を引きづっているのは伝わった。

 

「それから……いろいろあって、アスピナに流れ着いた。そこで良い指導者に会えた」

 

 ラウラは親近感を感じた。戦うために作られた自分は最高レベルを維持することで、その有用性を証明し続けた。しかし、ISの登場と、擬似ハイパー・センサーの移植手術の失敗により、出来損ないの烙印を押された。危うく居場所が無くなりかけたが、教官の指導で部隊最強に戻れたのだから。

 

「けど、ある日……最後の教えを残して別の場所へ行った。今の俺は強くなるために、その教えを反復している」

「……それは何だ?」

 

 今、この男が強くある為にしている事とは? ジョルジュは首のチョーカーをつつく。ネクストと繋がるためのAMSを示しているのだろうか。

 

この力(ネクスト)で何を守るのか? 何を変えるのか? それが定まらないと強くなれないから『戦いの正義を見いだせ』って、機体(ジュスティス)をくれたよ」

「……正義」

 

 軍隊でも戦うための大義名分が必要だ。軍人は任務を遂行するのみ。ただ強くなる事だけを考えていればよかったので、気付きもしなかった。

 

 だがこれで、一つ合点がいった。織斑姉弟が何故強くあるのか。それは、大切な物を守りたいという強い信念があるからだ。先ほど気付けたから良かったものの、おこがましい事を考えていたとラウラは自虐する。そんな強い信念を持つ千冬(ヒト)になりたいだなんて、自分が一番になる為に、ただ他者を降すことを目的にしていた自分が、なれるはずがない。

 

「私は……私は戦うことでしか自分を表現できない。だが、それだけでは駄目なのだな」

「そうだな。中身空っぽじゃ、全部壊すだけのただの暴力だ。お前も探さないと駄目だな。はい、眼帯」

 

 ジョルジュがラウラに眼帯を返すが、何故ここにあるのだろう。自分は織斑先生とラウラが話している時に目が覚めた。織斑先生が眼帯を移動させた素振りはないのだから、それより前からここにあったことになる。

 

 その時、保健室の扉が開いて騒がしいのが入って来た。

 

「ジョルちゃーん! 起きた~?」

「うるさいな。頭にガンガン響く」

 

 本音が付けたあだ名を大声で呼ぶクリストフ。ここは病人が寝る場所だというのにお構いなしのテンションで迷惑だ。

 

「ガンガンする頭があるだけマシじゃん。お前、最悪戻って来れなかったかもしれないんだぞ」

「戻って来れたんだから良いだろ。で、見舞いなら十分だから帰れ」

 

 鬱陶しい奴が傍にいるとよくなるモノも悪くなる。出て行くように頼んだが、クリストフはジョルジュとラウラを見比べると、気味の悪い笑顔を浮かべて頷いている。

 

「あら、あらあら~。もしかしてお邪魔? いや~ジョルジョルが女との会話を邪魔されたくないなんて、珍しい~。友達として女に興味持たないお前のこと心配してたけど、上手くいってよかったな~」

「そ、そんなんじゃねえよ。……ていうか上手くいったって何が?」

 

 可笑しな誤解をされては困るので言い繕うが、上手くいったとは何だ? まるで何かやったみたいに聞こえる。クリストフは眼帯を付け直したラウラに指さす。

 

「ん。その眼帯をお前の枕元に置いたの俺」

「は? 貴様、何のためにそんな事をした」

 

 自分の持ち物を勝手に動かされたラウラは、やや怒りながら追及する。

 

「二人が話すきっかけを作ろうと思ってね。ほら、お前らなんかギスギスしてたじゃん? 特にジョルジョルは激おこぷんぷん丸だったろ」

「……」

 

 表現がウザイが、確かにあの時の戦いは連携が取れていたとは思えない。邪魔されたとはいえ別にそこまで怒っていないが、

 

「すまなかったジョルジュ・サンソン」

「え……」

 

 ラウラが頭を下げていた。

 

「お前は勝負のために戦ってくれていたのに、私は足を引っ張ってばかりいた。すまなかった」

「……それはいいよ。今度また組むことがあったら、その時はよろしく」

「ああ……」

 

 ここで謝ることができたという事は、ラウラの中で大きな成長があったのだろう。周りを歯牙にもかけないあの態度が無くなったのであれば、それは嬉しい事だった。

 

「イイ話だな~。……そんなジョルジュさんに残念なお知らせ! はい!!」

 

 空気をぶち壊すクリストフが持っていたのはジョルジュの携帯端末だった。待ち受け画面にレイレナード社の連絡要員からのメールが届いていた。

 

「内容は見てないけどさ、ジェラルド先輩がローゼンタールから呼び出しメール貰っていたからさ……」

 

 

 

 

『貴君が出場した学年別トーナメントにて想定外の事態が起きたようですが、その収集に尽力したと報告を受けました。お疲れ様でした。本題に入りますが、貴君にやってもらいたいことがあります。20:00に迎えのスタッフを送るので、彼らとともに――』

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっか飛ばされるかもよ?」

 

 

 

 

『フランスへ行ってもらいたい。詳しい内容は現地で説明する。以上』

 

 ジョルジュは深いため息をつき。ベットに身を沈めた。支援を受けている身なので基本的に断れない。まだ少し時間があるなら、それまでにできるだけ良い夢を観よう。

 

 

 




戦闘中に武器を付け替えるなんて実際にゲーム中であったら、バランスブレイカーな作者の妄想。クロストリガーブレード機を使っていたら、マーヴが弾切れ起こした時に思った。

次回、原作からちょっと外れた話の予定。
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