Re:加速アカデミア   作:理解せざる者

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感想欲しいです。
頑張れます。


第1話

 

 

 

――ヒーロー公安委員会――

 

現在の日本において、最も公的なヒーロー管理機関。

何かしらの公式な手続きを取る際、必ずと言っていいほどその名が関与する。

 

多くの一般市民にとって、公安委員会はあくまで“お役所”的な存在だ。

強い好意も悪感情も抱かれない、無色透明な組織。

 

だが――

事実を知る一部のヒーローにとって、そこは決して無害な場所ではない。

 

理由は単純だ。

ヒーロー、ヴィランの区別なく、国益のためなら命を奪う人間を育成している。

そんな噂が、確かな実感を伴って囁かれているからである。

 

彼らは日常的に命を奪い、

それを当然の営みとして生活しているという。

 

そして、その歪んだ現状を作ったのは公安委員会ではない。

超人社会そのものだと。

そう言い切り、すべての罪をなすりつけた上で、自分たちは正義だと憚ることなく主張する。

 

――その言い分が、完全な間違いだとは言い切れない。

だが、ヴィラン捕縛を本分とするヒーローたちが、

それを快く思わないのも無理はないだろう。

 

「馬鹿馬鹿しいにも程がある」

そう吐き捨てる者もいる。

 

倫理は失われ、道徳は形骸化する。

本来であれば、そんな主張がまかり通るはずなどない。

 

……だが。

ランキング上位に名を連ねるヒーローたちは知っている。

 

綺麗事だけでは、

この世界は守れないということを。

 

 

「ふー、黒野任務完了。

帰還する」

 

ナイフに付着した血を、いつものように軽く振り払う。

粘つきも重さも、今さら気に留めるほどのものではなかった。

 

何度も繰り返してきた動作を終え、

呼吸を整えながら、見上げた先の通信端末に向けてそう告げる。

 

 ――あれ、今日って何曜日だっけ。

 

ふと、脈絡もなく浮かんだ疑問。

だが、答えを探そうという気にはならなかった。

 

昼夜を問わず任務に奔走し、疲れたら眠る。

目が覚めれば、また次の標的へ向かう。

ただそれだけを繰り返す生活の中で、曜日を意識する理由など、とうの昔に失われていた。

 

何度駆除しても湧き出てくる蛆虫を消し去るためだけに、

俺は十五年間、生きてきたのだから。

 

 

帰宅し、靴を脱ぐのもそこそこに、カップラーメンに湯を注ぐ。

部屋は静まり返っていて、人の生活を感じさせるものはほとんどなかった。

 

最低限の家具と、必要最低限の道具。

長居するつもりのない空間。

 

そんな中で、耳に突き刺さるように飛んできた声。

 

「はぁ? 高校に入れ? 何言ってんだ、お前」

 

通信端末の向こうにいるのは、俺の上司――

ヒーロー公安委員会会長の木下だった。

 

「あのな、俺は中学、一回も登校してないんだぞ。

勉強だってろくにしてねぇし、内申なんてボロボロに決まってるだろ」

 

額に手を当て、静かに息を吐く。

自分で言っていて、今さらどうにもならない事実だとわかっていた。

 

「察しのつくことを、いちいち口に出させないで。

貴方、いつからそんなに愚かな人になったのかしら」

 

呆れたような視線を向けたまま、木下は言葉を続ける。

 

「カリキュラムに学習は組み込まれていたでしょう。

私の部下が愚鈍で愚図だと、困るのよね」

 

反論しても無駄だ。

そう判断するまでに、ほんの数秒もかからなかった。

 

諦めたように表情を歪めた俺を確認すると、

通信端末の画面越しに、木下はわずかに口元を緩めた。

 

距離があるはずなのに、

その視線だけは、妙に近い。

 

「貴方が行く高校は、国立雄英高校。

そこで――トップヒーローになってきなさい」

 

その言葉を聞いた瞬間、

口に含んでいたカレーヌードルが喉に引っかかりそうになる。

 

熱さも味も感じないまま、反射的に飲み込んだ。

 

「雄英!? おいおい、あそこでトップヒーローって、

オールマイトにでも俺をするつもりかよ」

 

冗談半分で口にした言葉だった。

そうでもしなければ、その現実感のなさを受け止めきれなかった。

 

雄英高校。

ヒーローを志す者なら誰もが一度は名を思い浮かべる場所。

そこは、俺の生きてきた世界とはあまりにもかけ離れている。

 

俺が知っているのは、戦場と、命の重さと、

引き金を引く覚悟だけだ。

青春も、友情も、競い合う同世代も――

そのどれもが、遠い。

 

通信端末の画面越しに、木下は一瞬たりとも視線を逸らさなかった。

その沈黙自体が、答えだった。

 

「当たり前でしょ。

貴方を拾って八年、ずっと訓練させてきたわ。

そこらの高校生に負けるようには育てていないもの」

 

その声音には、一切の迷いがなかった。

最初から決定事項で、俺の意思など考慮に入っていない。

 

てこでも動かない、とはこのことだ。

俺は溜息をつく。

ここまで頑固な人間は、敵としても味方としても、そうそういない。

 

「わーったよ。

どこまでうまく行くかは知らんが、行くよ。行きますよ」

 

スープを一口啜り、

空になりかけた箸で木下を差す。

交渉の場に立つときの癖が、無意識に出ていた。

 

「でも、入試は受けねぇ。

公安の力でねじ込め。これが条件だ。いいな」

 

木下は一瞬だけ目を細め、

それから小さく苦笑いを浮かべた。

 

「わかったわよ。そこはどうにかするから。

頼んだわよ」

 

通信が切れ、

部屋には再び静寂が戻る。

 

高校か……。

 

公安に育てられ、

同世代とまともに関わることもなく生きてきた俺が、今さら。

 

正直なところ、

当の本人である俺自身にも、この感情が何なのかわからなかった。

 

No.1ヒーローになってこい、とは言われたが、

意味のないことを俺にやらせるほど、公安の戦力が潤沢だとも思えない。

 

――きっと、別の目的がある。

雄英に行く必要がある理由が。

 

だが、あのババアの思惑なんて、

考えたところで誰にもわからない。

 

それでも。

上手く馴染めるか、不安に思っている自分が確かにいる。

 

せっかく高校生になるという任務を受けたんだ。

どうせなら――

 

コミックみたいな青春を送ってみたい、

そう思ったって、罰は当たらないだろう。

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