Re:加速アカデミア   作:理解せざる者

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第3話

 

「私、蛙吹梅雨。梅雨ちゃんって呼んで。黒野君」

 

唐突だが、不思議と嫌な感じはしなかった。

真正面から、まっすぐこちらを見てくる目。

探るでも、疑うでもなく――ただ知りたいという感情。

 

「梅雨ちゃん、よろしくね。俺のことは好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ、黒野ちゃんって呼ばせてもらうわ。ケロケロ」

 

語尾に軽く跳ねる癖。

場の空気を和らげるのが、無意識でできるタイプだ。

 

「りょーかい。それで、何か用かな?」

 

「答えづらかったら答えなくていいのだけれど、私、気になったことはなんでも聞いちゃうの。黒野ちゃんの個性ってなにかしら?どんな番組でも明確に言われてなかったから気になっちゃうわ」

 

 ヒーロー基礎学が始まり、更衣室までの移動時間で梅雨ちゃんがオレに尋ねてきた。

 それはそうと、いきなり突っ込んだことを聞くもんだから、クラス全員が梅雨ちゃんに畏怖の視線を向けている。

 これは彼女の気遣いなのだろう。ここ数日、なんだかんだで交流するグループが生まれていたが、公安のプロヒーローという肩書きのためか、まだ少し壁があった。

 やはり俺については聞いていい事なのかなどなど……遠慮と警戒によって、溶け込みきれてなかった分、梅雨ちゃんが踏み込んでくれたのだろう。

 優しいねぇ、そういうところ好きだよ。

 

「うーん、これから訓練だから簡単に答えると俺の個性は早いよ。

名前は加速(アクセラレート)って呼ばれてる」

 

 にへらと笑い、他のクラスメートにも笑みを浮かべる。どこからともなく「普通に答えるんだ...」という心の声が聞こえた気がした。

 嘘では無い。本当に早いだけなのだから。

 なんで俺が公安直属のプロヒーローなのかとかについて話す事はないだろうけど個性くらいなら良いだろう。

今のオレは明らかに伏線が張られたキャラクター……べらべら話すのは深みが欠けてしまう。

 

「そうなの。じゃあ、訓練で見るのを楽しみにしてるわね」

 

 そう言って微笑む梅雨ちゃん。

 いつか精神的支柱になる存在なんだろうなぁ。話していて思わず頼りたくなってしまう、包容力がある。

 

「楽しみにしてて。」

 

 更衣室に移動後、コスチュームに着替える。

コスチュームは公安の頃から使っていたスーツだ。

全身黒のいかにもなスーツなのであまりヒーロー感はない。

 のんびり着替えると、同じく着替え終えた緑谷くんが更衣室を出ようとしていたときだった。

俺は彼に声をかけた。

 

「君が緑谷出久?」

 

「ひゃいっ!?」

 

……びっくりしすぎだろ。

 

「驚きすぎじゃね……びっくりさせたならすまん」

 

「いいいいえいえいえ、ちょっと思考に埋没していたといいますか……なんで僕の名前?」

 

「入試でゼロポイントロボをスーパーパワーで殴り飛ばした人がいるってきいててさぁ。気になってたんだよな。すげぇパワーしてんだね。」

 

視線が泳ぐ。

この反応なんでた?自信満々でいい事だろ.....

 

「コントロールできてなくて……使う度に腕とか脚とか、壊しちゃって……」

 

「は?」

 

思わず素で声が出た。

 

「そんな副作用あんのかよ。

パワーだけならオールマイト並かと思ったのに、それじゃ期待外れだな」

 

「あ、あはは……」

 

オールマイトの名が出た瞬間、空気が一瞬だけ凍った。

憧れと劣等感が、同時に滲む顔。

 

「……体を壊すことで発動する個性ってこと?

爆弾みたいなもんだな、それ」

 

一歩、踏み込む。

 

「その個性で……ヒーローやるつもり?」

 

俺は知っている。

人を助けるって行為はそんなに簡単にやる事じゃない。

呼吸するかのように助ける事が理想で、必死にボロボロになりながら助ける前提に行うべきではない。助けて死ぬなんてもってのほかだ。

だから、ボロボロのヒーローなんていない方がいいというのが俺の持論であり、哲学だ。

 

「ち、違うんだ!

本当は、リスクなしで出せるはずなんだ!」

 

必死だ。

嘘は言っていない。

だが、今は事実として危険な個性だ。

 

「なら、できるようになるまでは覚えとけ」

 

緑谷の目を見る。

 

「今のままだと救われた側が、気に病む個性だってこと」

 

少し間を置いて、付け足す。

 

「……まぁ、本当なら、凄いヒーロー向きだと思うけどな」

 

「あ……ありがとう」

 

「別に。

強い同級生がいた方が、体育祭で優勝した時に箔がつく」

 

「もう体育祭の話……」

 

「当たり前だろ。No.1になるなら、先を見るのは基本だ」

 

「お前も、そうだろ?」

 

「は、はいっ!」

 

――いい反応だ。

 

緑谷の背中をぽんと叩いて少し前を歩く。

自分のことを普通の高校生と思い込んで生活すると、ごっこ遊びが楽しくて仕方がない。

 

俺と緑谷くんがみんなに追いつくと、オールマイトが説明し始める。

複数の生徒による同時質問に教師としては新米のオールマイトはタジタジだ。

おもろ。

授業内容はヒーローとヴィランに二人ずつ別れて行う、対戦形式。 ヒーロー側の勝利条件はヴィランに確保テープを巻き付けるか、核兵器を模したアイテムに触れるか。

ヴィラン側はヒーローを確保するか、核兵器を制限時間まで守りきるか。

序盤の授業らしい、シンプルなルールだ。

 

「じゃあ早速くじ引きをしていこう」

「先生! 我々は二十一人おりますが、これでは余りが出てしまいます! 如何致しましょうか!」

「あッ、そうだったね……黒野少年はこういう実戦形式の訓練の経験はあるよね?」

「まぁ、一応。俺はなんとなーく勝手はわかっとりますから……余りは俺でいいっすよ」

「先に提案されちゃった……黒野少年、提案ありがとう! それでいこうか! では最後に希望者を募って対戦しようか」

「え、黒野は一人ってこと?」

「プロヒーローなめんなよ、上鳴」

「名前覚えられてる!?」

「黒野少年は慣れてるからね! それと、数的有利というものを肌で感じ取って欲しいんだ」

 

というわけで、戦闘訓練が始まる。

初戦は我らが自滅系ヒーロー緑谷出久と童貞キラーの麗日お茶子ペアVS娘が彼氏として連れてきたら安心する男こと飯田天哉と間違いなくチャート上位不可能な壊滅的性格の爆豪勝己ペアだ。

 中々面白そうなカードじゃないか。

 

「さて、どう戦うんかな……緑谷は」

 

オールマイトがチラリと視線をこちらに向けた。

一応プロヒーローだし俺を意識してくれてんのかな?

 

あー、こんな感じになるんだぁ。

こりゃひでぇ、ぼっろぼろじゃねぇか。

あれじゃあ戦闘なんてできたもんじゃねぇな。

あとの戦いもなかなかハイレベルというより、恵まれた個性の戦いって感じでなかなか珍しいものを見ている気分だ。

ヒーロー科として色々学び、実戦も経験したら、一年生特有の粗も消えていくんだろう。

とはいえ、さすがは雄英生だ能力は光るものを感じた。

 

「割とみんな優秀なんだな」

 

「イケメンに負けるわけねえだろ……畜生」

 

「峰田は面白い冗談を言うんだな。かっこいい顔が台無しだぜ」

 

「ちょ……なんだよ……おめぇわかってんじゃねえか」

 

「絆されるの早いなお前」

 

 峰田や瀬呂とじゃれあっているときに最後の組が戦闘を終えた。

 

「では最後に黒野少年と戦うメンバーを決めよう! 立候補はいるかな?」

 

「はい!」

「はい!」

 

 手早く手を挙げたのは、尾白と葉隠の二人。

 

「なにもできず負けてしまったので、もう一度俺にやらせてください」

 

「私も私も! 不完全燃焼です!」

 

障子の偵察と轟の凍結によって完封された二人は、余力も気力も残っているためにオレの相手となった。

 

「俺は一人でいいっすよ。二人はさっきヴィラン役やったから、次はヒーロー役ね」

 

「一人……ハンデってことか……?」

 

「ははっ違うぜ尾白。基礎を知るためなんだ、数の有利を活かすのも戦術だろ?」

 

「う、そう、だな……わかったよ……」

 

「ならいいんだよ」

 

「よーし、じゃあ尾白くん! 今度こそやったろー!」

 

 はりきる二人を見て俺は笑みを浮かべつつ、先に会場となるビルに向かう。

先にビルへ向かいながら、誰にも聞こえないように呟く。

 

「そもそも――」

 

一歩、踏み出す。

 

「二人がかりは、ハンデなんかじゃねぇよ」

 

……今の、完全に強キャラムーブだな。

自分で言ってて、ちょっと笑いそうになった。

 

爆豪と轟、常闇、上鳴、緑谷、飯田あたりがペアを組んだら戦い方次第で面白い試合にはなるだろうが、あの二人が俺に勝つ道は葉隠を見失わない限りないだろう。

だが、俺が葉隠を捕捉できてない状況では同じく尾白も捕捉できていないはずだからその手は考えにくい。

 

公安の奇術師らしく、スマートに美しく勝利しましょうかね。

 

it's show time

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