パンのみに生きるにあらず   作:改造黄金虫

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ちょっとした思いつきで書いたので初投稿です。
読者様方の無聊の慰めになれば幸いです。


第1話 貧しき者たち

 

 俺の服装は赤色が目立つ。

 黒いスーツの上から羽織った、金色で縁取られた赤い外套。赤い帽子。背負っている銃器もまた赤が目立つ。

 けれどその赤色は決して明るい物ではない。黒く澱んだ暗赤色。

 昔は決して好きな色ではなかったが、今では自慢の色だ。

 

 

 

 

 小雨の降るどんよりとした空模様。通りに人は見受けられないが、好奇心と恐怖の混ざる視線が、チラチラと周囲から感じられた。

 

「うッ……グァあああっ!」

「解せないな」

 

 眼前では粗末な服装に身を包んだ男が倒れて呻いている。側にはまた汚らしい安物のナイフが転がっており、ついさっきまでその刃先はこちらを向けられていた。

 

 この状況を要約すれば、こいつは俺に「金を出せ」と強盗を行い、返り討ちにあったという訳だ。

 銃床を使うまでもない。強化施術を受けた蹴りで、両足を一度に砕いてやった。

 

「許可もなく目を合わせた。話しかけた。唾を飛ばした。お前の罪は数えるのも面倒なくらいだが……」

 

 改めて男の顔を眺める。痛みと恐怖に後悔。そんな感情が溢れる、至極見慣れた表情だ。

 

「そもそも何故、俺を狙ったんだ?」

 

 いくら裏路地を一人で歩いてたとしても、この俺(親指の一員)にだぞ。

 暗赤色の外套に金色の記章。どんな馬鹿でも一目でわかる親指のトレードマークになぜ挑みに来きたんだ?

 どこぞの刺客かとも思ったが、こんな雑魚未満を差し向ける意味がない。

 考えてもさっぱりわかない為、軽く腹を蹴りつけて、犯人へのインタビューを催促する。

 

 

「か、金が……どうしてもいるんだよ…」

「そりゃわかる。都市では金の有無は絶対だからな」

「もう…時間がねぇ…。税金の……三度目の督促状が来ちまったんだ…」

「あ、なるほど。理解したわ」

 

 頭へと納める税金。こいつはどんなに悪辣なクズでも、痩せ細った貧乏人でも絶対に納付を欠かさない。都市で生きるならやって当然の事だ。でないと───

 

「足爪に引き裂かれる恐怖に比べたら、危険は承知で確実に金を持ってる相手を襲う方がまだマシってことか」

 

 それなら道理が通っている。謎が解かれてスッキリした。

 

 

「納得したからもういいぞ」

「えっ、もういいのでグブァ!!」

「用が済んだから死ね」

 

 足を振り上げて、礼節のかけらもない無礼な顎を蹴り砕く。そしてその勢いのまま踏みつけ、靴底と地面で男のドタマをサンドイッチにしてやる。

 

「ひぁっ…許うひぇ!!」

「許せだと!? それは親指の規律を軽んじろと言ってるようなものだぞ。どこまで愚弄を重ねるつもりだテメェ!」

「アガッ、があああァァァァァ!!!」

 

 出来の悪い脳みそに、そしてこの光景を隠れて見ている裏路地の住民に、念入りに刻み込めるよう、ゆっくりと足を踏み下ろす。

 

 バキンという硬い音が鳴り、続きゼラチンを詰めた水風船を押し潰すような湿った感覚が伝わる。そして真っ赤な液体が飛び散ると、靴底と路面が重なった。その間に聞こえる五月蝿い声は全て無視した。

 

 

 事が済ました足を二、三回振ってこびりついた汚れを散らす。こういう時のために靴もスーツも撥水性は抜群に作られているから便利だ。

 

「無礼者が。親指の畏怖の礎になれ」

 

 そうして俺が去った後に残るのは、ベットリとした赤い水たまりと、床に叩きつけられた果実のように飛散する脳漿の残骸。そしてその中心に刻まれた靴底の跡が、なによりも惨たらしい結末を言外に主張していた。

 

 

===================

 

 

 俺は転生者というやつだ。

 この都市の裏路地に生まれ落ち、今では親指の一員として生活している。

 もし、Project Moonの作品を知っている奴が見れば、こう思うだろう。

 

『なんでコイツ、親指なんてマジキチ暴力団に所属しているんだ?』と。

 

 いや、わかる。俺だって前世ではネットでボロクソに言ってたからな。関わりたくない組織ランキング堂々の第一位は伊達ではない。

 

 だけどな、ここで裏路地の貧民の暮らしがどういうものかを聞いてほしい。

 

 金と力がものをいう都市において、どちらも持たない者はどこまでも軽んじられる。なんなら人間として扱ってもらえない。

 飢えてその辺で野垂れ死ぬのが当たり前。運良く仕事を貰えたとしても、とんでもなくこき使われる。そうして足元見られまくって得た僅かな賃金も、税金やら、そこらを縄張りにする組織へのミカジメ料を払えば、石のように硬いパンをどうにか買えるかといったところだ。

 

 

 企業が統治し、資本主義体制によって運営される都市には、基本的に固定された身分制度というものはない。

 例え何らかの地位に就いていても、隙を晒せば周りに蹴落とされ、下に引き摺り下ろされる。

 逆にいえば、実力さえあれば底辺だろうとのし上がっていけるということでもあるのだが。

 そもそも、そのスタート地点に立つこと自体が遥かに遠い話なのである。

 

 仮にどん底の貧民がその生活を脱するために足掻くとしよう。

 がむしゃらに働き、少ない食事を更にを切り詰めて、そうしてやっとのことで金を貯めれば……。強盗が次々と湧いてきて、見ぐるみ剥がされるというオチが待っている。

 人間として云々の前に、そもそも生きることが困難なのだ。

 

 

 それに比べて親指はどうだ。一番下っ端のソルダートⅠですら毎日の食事が保障され、綺麗な服装に、安全な居場所まで与えられる。

 更に強化施術や強力な武装といった、強くなってのし上がるための手段さえ用意してくれるのだ。

 反面、守らねばならない規則や苛烈な制裁も存在するが、それについてもキチンと教育がなされるし、なによりそれこそが親指の力の証であると理解できた。

 

 親指の威光の下に、多くの人々が頭を垂れて従い、歯向かう者は殺される。その実態を身をもって知れば、ネズミ達が指に入ることを夢見ていたのも頷かざるをえない。

 

 そんな訳で俺は親指の一員となり、そのことに誇りを感じている。

 指に入ったお陰で、俺は人間として生きていけるようになったからだ。

 親指バンザイだ!




貧民
過去を見つめる事も、未来を創造する事もできず、その日を生き延びるだけで精一杯な彼らにとって、生きて行く為の"殻"を与える指達の在り方はとてもよく馴染むものだった。
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