パンのみに生きるにあらず   作:改造黄金虫

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二度と脱走しようなんて思い上がるんじゃねえぞ、クソ林檎野郎(2敗)


第10話 デートの時間 後編2/2

 

「あぁ! それで思考や感情の受信っていうのは正確には違ってね! わたしが受け取るんじゃなくて、わたしを見た人が()()()()()()()()()っていうのが正しいのよ!」

 

 少し間を置いて、姿勢を正したレイナは、すっかり置き去りにされた最初の問いかけに答えていた。

 いやに元気の籠った声だった。

 

 

「それで結局、相手の考えがわかるかだけど。……なんの濾過もされていない、豪滝を浴びせられても、表層に当たった雫を僅かに識れるだけ。その考えが読めるなんて、とても言えない代物だわ」

「……じゃあ次。あの店主、ロボが反応しなかったのは」

「わたしって機械に気づかれないみたいなのよね。義体の人間になら普通に見えるみたいだけど」

 

 不思議よね〜。と答えるレイナに先程のような異変は見られない。次々と質問に答えていくだけだった。本人の言う通りならそう頻繁に起こるものではないのだろう。

 

 

(まぁ、あの謎の力については、知りたいことは聞けたか)

 

 少なくとも概要は掴めたし、これ以上ここで掘り下げても、具体的なものが出てくる保証はない。

 

 

 だから……

 

「なぁ、もう一個質問もしていいか?」

 

 これから聞くのは、彼女の内側についてだ。

 

 

「ええ、もちろん。なんでもいいわよ!」

 

「…………なんで"レイナ"の物真似なんてやってやがる」

 

 

 ピタリと。元気いっぱいな仕草で振り上げられたレイナの拳が止まって、行き場を失ったそれは、おずおずと下げられた。

 

「やたらと快活な味付けは、らしくなかったな」

 

 少なくともビルであった時には、もっとフラットな振る舞いをしていたし、受け身な在り方だった。

 今日も基本的にはそうであったと言うのに、時折やたらと強引な要求をしてきたり、大仰に振る舞ったりと、不自然に思える箇所が目についたのだ。

 

 何故だろうと疑問を浮かべた時、辿り着いたのは、粉々な記憶の中に浮かぶ、同じ名前をした『彼女』の振る舞いについてだった。

 

 

「……そんなに似てた?」

「いいや、全く」

 

 最も、その出来栄えは、断片的な記憶でさえ、ぜんぜん違うと即答できるレベルでお粗末なものであったのだが。

 

「逆に下手すぎて、そうだと気づくのが遅れたぐらいだぞ」

「えぇ〜……」

 

 レイナは大層なショックを受けたのか。ヘナヘナと脱力して座り込む。

 

「俺が知りたいのは、お前がなんでそんな事をやったのか。だ」

「うぅ〜〜ッ」

 

 腰掛けていた木箱にもたれかかって、さんざんと呻いている。その姿はなんというか、初めて見せた隙らしいもので。

 

「ほら、お前の望んだ通り。心の内側に歩み寄ってやったぞ。答えてくれよ大女優さま」

 

 俺は悪趣味な帳簿なぞ持っちゃいないが、根には持つ。これまで散々振り回してくれたぶん。今はお返しを叩き込むのに絶好の機会に他ならなかった。

 

 

「あ、貴方が……」

「あぁん? 俺のご機嫌取りのつもり──」

 

「貴方が記憶で思い浮かべている"彼女"が、とっても綺麗で。輝いていたから……」

 

 

 その言葉は、俺の胸に深く突き立てられて、無慈悲に虚空を抉った。

 深く埋もれて、幾多の想いと絡み合った。俺自身もわからなくなった過去。突如として、そこへと真っ直ぐに通じる道が開いてしまったのだ。

 

 

「わたしも、それに手を伸ばしたの」

「…………… ッぁ」

 

 息も出来ずに、ただただその場で固まっていた。

 胸の内では、深くて暗い穴から、無数の感情が吹雪のように吹き荒れていた。

 それらは鋭く尖った雹のようにひび割れて冷たく、触れるたびに俺の存在を蝕んで、食い破っていく。

 

 

「あ……あぁ」

 

 ただ寒くて、なんの光も見えない暗い道筋。それが途方もなく恐ろしくて、悲鳴が洩れる。

 

「ああぁぁぁッ!!」

 

 耐えきれずに自分の手綱を手放せば、身体は真っ先に痛みを求めて地面に頭を叩きつけ、掻きむしった。

 

 痛みだ。

 それは血に塗れていたけれど、確かに自分を保とうとする行いで、生きようとする足掻きに他ならなかった。だから俺は無我のうちに苦痛から逃れようと、更に肉を穿り出して……。

 

『「やめて」』

 

 飛び交う破片の一つが、心配そうな眼差しを送ってくる。それは目の前の相手が向けるものと重なって、俺の狂乱を捉えた。

 

 

「なんで……だ」

〈なんで、君がそんな事を言うんだ。〉

 

 かつて、誰かに向けていた言葉が、感情が。今の俺にへばりついて、引き摺り込まれる。

 

 

『「あなた/貴方に」』

 

 

 それを口に出してしまったからか、俺の目の前には、もういない"彼女"の残滓が寄り集まって、一つの影法師が組み上がる。

 

 

『苦しんで、傷ついて欲しくないから……』

 

 これが鏡に映ったただの幻覚だったとしても、もう二度と聞くことのできない、柔らかな音の調和が、反射して俺に届けられた。

 ──辺りがシンと静まり返った。

 

 

 

「下手くそ! つぎはぎのハリボテ人形が!!」

 

 次の瞬間、俺はその静寂をぶち抜いた。砕けた石畳の床の破片を全力で投擲したのだ。

 

 飛翔する破片はレイナを掠めて、背後にあった建物の壁を貫通する。立ち上る粉塵が辺りに広がり、俺たち二人の姿を互いに隠した。

 

「なにが心だ! とうに塞がった傷を引っ剥がすのが歩み寄りか!?」

 

 ガラガラと音を立てて崩れる外壁に、張り負けないぐらい大声で叫び散らす。

 

「ふざけた真似を! お前はただの化け物だ! 人の精神(こころ)を壊すことしかできねぇ空っぽの怪物だ!!」

 

 絶叫の最中、何度胸を締め付けられたかわからない。ただ腹の底から湧き出す衝動が、そのまま口をついて出力されている以上、これは俺の紛れもない本心なのだろう。

 

「二度と俺の前に汚ねぇ姿を見せるんじゃねぇ!!」

 

 だから、砂煙のなかで寂しげに揺れた影が、遠ざかっていくのを止める資格だって、ありはしないのだ。

 

 

 

 

 

 周囲の煙が薄く晴れていく頃、散乱する瓦礫の上で俺は不恰好にへたり込んでいた。

 ただ思考がぐるぐると同じところを巡って、何を考えればいいのかもわからなかった。……こう言う時どうしていたのだったか。

 

「あぁ、煙草があったんだったな……」

 

 ぎこちない手つきでポケットに手を伸ばせば、へしゃげた紙箱が姿を現す。たった一日にも満たない間だったのに、随分と久しぶりに感じられた。

 

 一本咥えて、火を灯す。

 砂煙とは別種の、苦々しい煙が肺を燻して、少しだけ落ち着き取り戻せた。

 

「はぁ……っ、どうしたものだか」

 

 じっくりと熱が染み入る様にして、いつもの思考が蘇ってきた。

 感情に蓋をして、これからの事について理性的に試算する。

 

 

(別にまぁ、ここであれがいなくなったところで、問題はないんだ)

 

 元よりリスクが大きかった存在だ。そばにいるだけで精神が危ぶまれるし、そんな奴を適切に管理して、然るべきタイミングで交渉材料にするだなんて、今考えるとあまりにも荒唐無稽な計画だろう。なぜ実行しようだなんて思ったんだ。

 

 

「あぁそうだ、焦りだ。昇進のために焦ってたんだ」

 

 人間追い詰められると、露骨に怪しいものにすら飛びついてしまう。それで更にドツボにハマるのだ。それと似た様な心理状態に俺は陥っていたのだろう。

 でも、もう目が覚めた。惑わされることはない。

 

「元よりグダグダと画策するのは性に合わなねぇんだ」

 

 これから先、目の前に立ち塞がる全ての敵を、殺して、殺して、殺して、殺し続ければ。なんの憂いもない。その為に動き、その為に部下を使えば、やがて立派なカポに至れるだろう。

 

「ははっ。……ああ、よかった。ぜんぶ簡単な話だったんだ」

 

 くだらない事に頭を回しすぎていたんだ。全ては親指の規律が定めてくれる。俺はその最たる流れに乗って、下された命令を忠実に実行する。それに没頭すれば、それでよかったんだ。

 

 だからもう、過ぎ去った人に心を向ける必要もないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 どれぐらい時間が経ったのだろうか。

 空っぽになった胸の内を、煙で満たそうと、しばしの間ぼうっとしていると、何処からか悲鳴が聞こえてきた。

 裏路地なんだから珍しい非常事態というわけでもない。たまによくある事件事故だろう。

 

「ひひッ……う、うううあぁぁああ!! やめ、やめキヒヒヒヒッ……が、きいー! きいー! 俺の…俺のチョークべぎゃはははは!!」

 

 いや流石に尋常じゃない叫び声だった。というか心当たりがあるものだった。

 

「おい、まさかあの野郎……」

 

 煙草も取り落として、声のする方へと駆け出した。この無秩序で弾ける様な感情の揮発性。錯乱して意味のない言葉を叫び続ける症状。

 

 それで思い当たるものはたった一つ。

 

「自棄になって、テロでも起こしやがったか!」

 

 あいつがどうしようと俺には関係ない。それでも無分別に暴れられたなら、裏路地にどんな影響を及ぼすが知れたことではない。

 何より、薬指の連中が黙っているはずがないのだから。

 

(少し……様子を見るだけ)

 

 辿り着いた、声の聞こえる最後の曲がり角から覗いて、目にしたのは、あの見慣れた黒づくめのシルエットと、その傍で騒ぐ男の姿だった。

 

「うわぁぁぁん!! ちゃんねる! 脳脊髄ダイヤルぎぶェいいイィィィ!! ぐえあぁあああああ!!!! ひヒぃっ!!!」

 

 泣きながら笑って怒りの地団駄を踏み鳴らす、イかれた挙動を忙しなく繰り返す。その尋常じゃない様子の男の服装には見覚えがあった。あの職質してきた自警団員と同じジャケットだったからだ。

 

「ひゃーん! 臓食ごぁえ! けピばばッ!!」

 

 そばにいるレイナは何故か逃げない。よく見てみると、その男は完全に壊れて、無分別に暴れているにも関わらず、片手だけは微塵も動かすことなく、レイナの手を掴み続けていた。

 

 

「あっ! ……ヴァラキ」

 

 不意にレイナが振り返った。覗き見るつもりが、気づけば身を乗り出し過ぎていたのだ。

 

「あはは……この辺りで大きな破砕音がしたからって、この人に捕まっちゃった」

 

 乾いた笑い声をあげて、レイナは所在なさげに地面を向く。

 

「姿を見せろって引っ剥がされちゃって、この有様……」

 

 レイナの言う通りなら、その後急いで布を被り直したのだろうが、男の手が挟まって、半端に姿が見える格好だった。

 

「ヴァラキが言った通りだったわね」

 

 これだけの騒ぎ様だ。すぐに大勢の人間が寄ってくるのは、目に見えている。

 

「わたしはおぞましい怪物だった」

 

 そうなれば、この騒動はもう災害として広く認知される。フィクサー協会だってランク付けするだろう。

 

「人と関われば、心を壊すことしかできない」

 

 指とフィクサー。そして数多の企業や研究者たちが、その身柄を欲して群がった時、こいつは何を想い、感じるのだろうか。

 

「わたしは空っぽな空白でしかないもの」

 

 自分をそんな存在だと、納得して受け入れてしまうのだろうか。

 

 

(俺が、今更なにを)

 

 そもそも突き放したのは俺だ。あの時言った言葉も全て本心であろうし、どの面下げてこいつに歩み寄ろうと言うのだ。

 第一に、関わる理由だってない。こんな奴が居なくたって俺はカポを取りに行けるのだから。

 

(だったら、……どうして)

 

 こんなにも体が強張るんだ。

 早く踵を返して立ち去ればいい。こんな騒動に巻き込まれる所以はない。それか、ここで全ての元凶を討ち取って、終わらせて仕舞えば解決する。

 

 

『ヴァラキはさ──』

 

 ふと、脳裏に小さな煌めきが走った。柔らかいのに何処か哀しさを宿した、懐かしい声色が奏でられる。

 

『どうして、そんなにこの世界を楽しげに語るの?』

 

「どうしてって、……それは」

 

 返答は自然と口から溢れた。

 

「心が躍るから……」

 

 転げ出たのは、救いようがないほど馬鹿馬鹿しい答えで。それでも胸の内が、強く、鼓動した。

 ──ずっと、長いこと欠けていた空白に、ピースがハマった気がした。

 

 

 

「おい、その汚ねぇ手を離せよ」

 

 一つ息を吸い込んで、大きく踏み出す。

 風を追い越すような勢いで両者の間に割り込むと、そのまま手刀を放って、掴まれた手を分断した。

 

「えっ…!」

 

 弾かれて、打ち上げられる二本の手。その小さな手の先を掴んで、強く握りしめた。

 かつてない軽やかな感覚に、思わず笑みがこぼれる。久々に馬鹿な考えをしているからだろうか。

 

「レイナ。お前はどうして今日デートなんて言ったんだ」

「それは…貴方がそばにいろって、言われたから」

 

 そうだ。あのビルで会った時に、レイナに望むものとしてそう言った。そしてその言葉を絞り出したのは、なにか合理性や計画があったからではなかったようだ。

 

「だったらよ……」

 

 あぁ、そうだ。

 あの言葉はなんの裏表もなく、心から求めた額面通りのものだったんだ。

 

 

「デート中なのに他の男と手なんか握ってるんじゃねぇよ!!」

「自分から突き放しといてそれ言うの……!!」

 

 そうだよ。

 どの面下げて。遠ざかっていくのを止める資格はない。全くもってその通りだ。そもそもこの騒ぎの原因も俺の癇癪だ。もはやこの言動は支離滅裂だろう。

 ──けれどな、

 

「裏路地の無法者が、そんな道理を重んじるかよ……!」

「ええ〜っ、……嘘でしょう」

 

 とても気分が清々しく。自由に口が動かせて、笑みの形を作れた。

 ずっと張り付いて、血肉と同化していた仮面を、久しぶりに外した様だった。

 被り続けていて、それが自分の素顔だと、疑う余地のない当たり前のものだと思っていたから。

 

 

 

 

 

「で、これからどうするの?」

「決まってるだろう……」

 

 既に辺りからは、人の気配が集まっていた。猛烈に地を蹴って走る、ドタドタという足跡を響かせながら。

 

「逃げるぞ!」

 

 繋いだレイナの手を引いて、しっかりと抱え込む。

 

 

「あ、その前に証拠隠滅だ」

 

 倒れている自警団員の首を、踏み折ってトドメを刺した。

 

「ええ〜っ、この人一応被害者なんじゃ……」

「まぁ、こうなった以上しかねぇよ」

 

 もう殆ど反応がなかったし、廃人寸前だったからな。特に手の打ち様もないだろう。

 そうしている内に、もう他の自警団員達が現場に到着し始めた。

 

「て、てめぇらウチの仲間に何してやがる!!」

「……あばよ」

 

 言い終わると同時に、一呼吸分の息を使って、強化された脚力を発揮する。呆気に取られる自警団の傍を、突風の様に走り抜けた。

 

「あっ! 待ちやがれ!!」

 

 当然ながら全力で追いかけてくる。そして前方からも自警団達が殺到し、俺たち目掛けて警棒を振りかぶっているが、それらを避けて、進路の邪魔になる奴だけを適当にぶちのめして、走る。

 適当なゴロツキ共と違い、彼らは一応街の経済活動を護る住民たちだ。頼りなかろうと、むやみに殺し過ぎれば悪影響が出てしまう。

 

 

「クソッ……強えぞこいつ。数を集めろ!!」

「何人いようと変わらんから、引っ込んでろ!!」

 

 とはいえ、邪魔なものは邪魔だ。レイナの姿が捲れて見えない様に、気を配りながら挑む障害物レースは、それなりに神経を使う。

 

「改めて言うけど、自分で火種を撒いておいて。寄ってきた被害者を、邪魔だから蹴散らすなんて、滅茶苦茶すぎない?」

「いいじゃねぇか、都市の治安なんてそんなものだろう。世の中には人のヘアクーポン盗んだりして、好き放題してる集団だっているんだ」

 

 そして抱えているレイナも正論で刺してくる。

 たしかにその考えは正しいだろうが、都市の倫理と治安はその正しさの下をいくものだ。

 

「あ、あいつ。やたらと金払いがいいチンピラだ!」

「テメェ、賄賂貰ってんじゃねえか!! ……だがいい情報だ」

 

 そんな会話が聞こえると、追いかけてくる集団が一気に色めき立った。差し詰め、邪魔者からボーナスエネミーへと昇格しただろうか。

 

 

「財布だ! チマチマと商店からミカジメ料貰うよりずっと効率がいい!」

「おら死ねェ! 内臓まで全部売っぱらってやる!!」

「ゴロツキをぶち殺せェ! 街の治安を乱す奴は皆殺しだあっ!」

 

「……ええ〜〜」

「無駄に威勢のいい連中だな本当…」

 

 命の軽いこの世界で、一応の正当暴力が許されている彼らは、ドップリと肩のあたりまで反社会勢力に浸かってるのだ。

 

 

 

◆◆◆◆

 

「はぁ……しつこい。まだ探してるぞ連中」

 

 既に日は大きく傾いて、街は黄金色の闇に沈み込もうとしている。屋根の上にいるから、尚更はっきりとその様子が見てとれた。

 

「夕焼け…、こんなに眩しいものなのね」

 

 今日という一日も、もう終わろうとしている。

 

 

「ほんとに、色んなことがあったデートだったわ」

 

 隣ではレイナが、満足げに声を漏らしていた。ゆらゆらと左右に体を傾ける仕草からは、今日出来た思い出を反芻していることが窺える。

 

「いいや、まだ終わっちゃいないぜ」

 

 なにせ帰るまでが遠足ともいうだろう。下では俺たちを追っていた組織員の一人が、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。

 

 あの後、自警団の連中は身体能力の差からすぐに逃げ切ったのだが、あの珍走に引き寄せられたのか、名も知らない組織が縄張り主張して喧嘩ふっかけてくるし、そこに物見遊山の野次馬が集まって、更に自警団まで追いついてくると、やたらと騒ぎが大きくなってしまった。

 

「最後の一踏ん張りだ。しっかりと掴まれよ」

 

 差し出した手のひらを、レイナは少し止まって眺めた後、そっと自分の手を重ねてくる。

 

「ええ、今度は離さないでくれる?」

「あぁ、そうだな。約束する。指切り……いや、丁度いいのがあったな」

 

 俺はレイナにある物を要求した。レイナはゴソゴソと自分の懐を漁って、取り出したそれを手渡してくる。

 

 巻き付いた棒から外されて、風に揺蕩う緑の貴糸。

 西陽を絡め取って輝くそれは、市場で買った天蚕糸だった。

 

 その糸の端と端を、お互いの手首に結い付ける。

 

「どうせなら、しっかりした形で渡してやろう」

「これは……貴方からの、初めてのプレゼントだったわね」

「あぁ、丈夫だから簡単には切れねぇよ」

 

 命綱の様に、あるいは手鎖の様に、しっかりと手を繋いだ。

 

 燃える夕闇の中でも、その緑の糸は己の色を忘れずに、ただ静かに瞬いていた。

 




[適当に街をぶらつく。ちょっと強化イベ。レイナと話して能力の解説。なんかトラブル発生。少しだけ二人が仲良くなる。]

プロットではこれだけだったので1話で終わるかと思ってましたが、滅茶苦茶に長引きました。そして予想以上に仲が進行しました。
まぁ、この後の展開に致命的影響でないので、仲の良い分には喜ばしいですね。

──
───
─────
〈裏路地の何処か〉

「その情報は、確実なものでいいのかい?」
「た、確かです!……自分は見ました! ……み、見えたのは、ほんの僅かな一部でしたけれど」
「どっちなんだい。一言で矛盾してるじゃないか」
「見ました! 見ましたよ! あの、なんというか…心が不安定にされる感覚? 理性が緩緩む……。そう確かに偉大な方々の作品を拝謁させて頂いた時に感ずる、あのざわざわしたものです!」
「………」
「そして、見たこともないあの白い色。おそらくアレこそが、マエストロ様がお探しになられているという遺失物、N-404に間違いないでしょう!」
「はぁ……。崇高なる作品を比較対象に上げたんだ。その情報が違えていた場合、……どうなるかわかるな」
「む、無論です。……それでも間違いないと思います。……ハイ」
「……一応捜索はしてやる。これで空振ったのなら、キミの全身を絞り機に掛けて、その血油を保護剤(ワニス)の材料にするからね」
「ヒッ、ヒィ〜……、お願いだからとっ捕まってぇ…」
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