「あぁ! それで思考や感情の受信っていうのは正確には違ってね! わたしが受け取るんじゃなくて、わたしを見た人が
少し間を置いて、姿勢を正したレイナは、すっかり置き去りにされた最初の問いかけに答えていた。
いやに元気の籠った声だった。
「それで結局、相手の考えがわかるかだけど。……なんの濾過もされていない、豪滝を浴びせられても、表層に当たった雫を僅かに識れるだけ。その考えが読めるなんて、とても言えない代物だわ」
「……じゃあ次。あの店主、ロボが反応しなかったのは」
「わたしって機械に気づかれないみたいなのよね。義体の人間になら普通に見えるみたいだけど」
不思議よね〜。と答えるレイナに先程のような異変は見られない。次々と質問に答えていくだけだった。本人の言う通りならそう頻繁に起こるものではないのだろう。
(まぁ、あの謎の力については、知りたいことは聞けたか)
少なくとも概要は掴めたし、これ以上ここで掘り下げても、具体的なものが出てくる保証はない。
だから……
「なぁ、もう一個質問もしていいか?」
これから聞くのは、彼女の内側についてだ。
「ええ、もちろん。なんでもいいわよ!」
「…………なんで"レイナ"の物真似なんてやってやがる」
ピタリと。元気いっぱいな仕草で振り上げられたレイナの拳が止まって、行き場を失ったそれは、おずおずと下げられた。
「やたらと快活な味付けは、らしくなかったな」
少なくともビルであった時には、もっとフラットな振る舞いをしていたし、受け身な在り方だった。
今日も基本的にはそうであったと言うのに、時折やたらと強引な要求をしてきたり、大仰に振る舞ったりと、不自然に思える箇所が目についたのだ。
何故だろうと疑問を浮かべた時、辿り着いたのは、粉々な記憶の中に浮かぶ、同じ名前をした『彼女』の振る舞いについてだった。
「……そんなに似てた?」
「いいや、全く」
最も、その出来栄えは、断片的な記憶でさえ、ぜんぜん違うと即答できるレベルでお粗末なものであったのだが。
「逆に下手すぎて、そうだと気づくのが遅れたぐらいだぞ」
「えぇ〜……」
レイナは大層なショックを受けたのか。ヘナヘナと脱力して座り込む。
「俺が知りたいのは、お前がなんでそんな事をやったのか。だ」
「うぅ〜〜ッ」
腰掛けていた木箱にもたれかかって、さんざんと呻いている。その姿はなんというか、初めて見せた隙らしいもので。
「ほら、お前の望んだ通り。心の内側に歩み寄ってやったぞ。答えてくれよ大女優さま」
俺は悪趣味な帳簿なぞ持っちゃいないが、根には持つ。これまで散々振り回してくれたぶん。今はお返しを叩き込むのに絶好の機会に他ならなかった。
「あ、貴方が……」
「あぁん? 俺のご機嫌取りのつもり──」
「貴方が記憶で思い浮かべている"彼女"が、とっても綺麗で。輝いていたから……」
その言葉は、俺の胸に深く突き立てられて、無慈悲に虚空を抉った。
深く埋もれて、幾多の想いと絡み合った。俺自身もわからなくなった過去。突如として、そこへと真っ直ぐに通じる道が開いてしまったのだ。
「わたしも、それに手を伸ばしたの」
「…………… ッぁ」
息も出来ずに、ただただその場で固まっていた。
胸の内では、深くて暗い穴から、無数の感情が吹雪のように吹き荒れていた。
それらは鋭く尖った雹のようにひび割れて冷たく、触れるたびに俺の存在を蝕んで、食い破っていく。
「あ……あぁ」
ただ寒くて、なんの光も見えない暗い道筋。それが途方もなく恐ろしくて、悲鳴が洩れる。
「ああぁぁぁッ!!」
耐えきれずに自分の手綱を手放せば、身体は真っ先に痛みを求めて地面に頭を叩きつけ、掻きむしった。
痛みだ。
それは血に塗れていたけれど、確かに自分を保とうとする行いで、生きようとする足掻きに他ならなかった。だから俺は無我のうちに苦痛から逃れようと、更に肉を穿り出して……。
『「やめて」』
飛び交う破片の一つが、心配そうな眼差しを送ってくる。それは目の前の相手が向けるものと重なって、俺の狂乱を捉えた。
「なんで……だ」
〈なんで、君がそんな事を言うんだ。〉
かつて、誰かに向けていた言葉が、感情が。今の俺にへばりついて、引き摺り込まれる。
『「あなた/貴方に」』
それを口に出してしまったからか、俺の目の前には、もういない"彼女"の残滓が寄り集まって、一つの影法師が組み上がる。
『苦しんで、傷ついて欲しくないから……』
これが鏡に映ったただの幻覚だったとしても、もう二度と聞くことのできない、柔らかな音の調和が、反射して俺に届けられた。
──辺りがシンと静まり返った。
「下手くそ! つぎはぎのハリボテ人形が!!」
次の瞬間、俺はその静寂をぶち抜いた。砕けた石畳の床の破片を全力で投擲したのだ。
飛翔する破片はレイナを掠めて、背後にあった建物の壁を貫通する。立ち上る粉塵が辺りに広がり、俺たち二人の姿を互いに隠した。
「なにが心だ! とうに塞がった傷を引っ剥がすのが歩み寄りか!?」
ガラガラと音を立てて崩れる外壁に、張り負けないぐらい大声で叫び散らす。
「ふざけた真似を! お前はただの化け物だ! 人の
絶叫の最中、何度胸を締め付けられたかわからない。ただ腹の底から湧き出す衝動が、そのまま口をついて出力されている以上、これは俺の紛れもない本心なのだろう。
「二度と俺の前に汚ねぇ姿を見せるんじゃねぇ!!」
だから、砂煙のなかで寂しげに揺れた影が、遠ざかっていくのを止める資格だって、ありはしないのだ。
周囲の煙が薄く晴れていく頃、散乱する瓦礫の上で俺は不恰好にへたり込んでいた。
ただ思考がぐるぐると同じところを巡って、何を考えればいいのかもわからなかった。……こう言う時どうしていたのだったか。
「あぁ、煙草があったんだったな……」
ぎこちない手つきでポケットに手を伸ばせば、へしゃげた紙箱が姿を現す。たった一日にも満たない間だったのに、随分と久しぶりに感じられた。
一本咥えて、火を灯す。
砂煙とは別種の、苦々しい煙が肺を燻して、少しだけ落ち着き取り戻せた。
「はぁ……っ、どうしたものだか」
じっくりと熱が染み入る様にして、いつもの思考が蘇ってきた。
感情に蓋をして、これからの事について理性的に試算する。
(別にまぁ、ここであれがいなくなったところで、問題はないんだ)
元よりリスクが大きかった存在だ。そばにいるだけで精神が危ぶまれるし、そんな奴を適切に管理して、然るべきタイミングで交渉材料にするだなんて、今考えるとあまりにも荒唐無稽な計画だろう。なぜ実行しようだなんて思ったんだ。
「あぁそうだ、焦りだ。昇進のために焦ってたんだ」
人間追い詰められると、露骨に怪しいものにすら飛びついてしまう。それで更にドツボにハマるのだ。それと似た様な心理状態に俺は陥っていたのだろう。
でも、もう目が覚めた。惑わされることはない。
「元よりグダグダと画策するのは性に合わなねぇんだ」
これから先、目の前に立ち塞がる全ての敵を、殺して、殺して、殺して、殺し続ければ。なんの憂いもない。その為に動き、その為に部下を使えば、やがて立派なカポに至れるだろう。
「ははっ。……ああ、よかった。ぜんぶ簡単な話だったんだ」
くだらない事に頭を回しすぎていたんだ。全ては親指の規律が定めてくれる。俺はその最たる流れに乗って、下された命令を忠実に実行する。それに没頭すれば、それでよかったんだ。
だからもう、過ぎ去った人に心を向ける必要もないんだ。
「うあぁぁぁぁぁ!!!!」
どれぐらい時間が経ったのだろうか。
空っぽになった胸の内を、煙で満たそうと、しばしの間ぼうっとしていると、何処からか悲鳴が聞こえてきた。
裏路地なんだから珍しい非常事態というわけでもない。たまによくある事件事故だろう。
「ひひッ……う、うううあぁぁああ!! やめ、やめキヒヒヒヒッ……が、きいー! きいー! 俺の…俺のチョークべぎゃはははは!!」
いや流石に尋常じゃない叫び声だった。というか心当たりがあるものだった。
「おい、まさかあの野郎……」
煙草も取り落として、声のする方へと駆け出した。この無秩序で弾ける様な感情の揮発性。錯乱して意味のない言葉を叫び続ける症状。
それで思い当たるものはたった一つ。
「自棄になって、テロでも起こしやがったか!」
あいつがどうしようと俺には関係ない。それでも無分別に暴れられたなら、裏路地にどんな影響を及ぼすが知れたことではない。
何より、薬指の連中が黙っているはずがないのだから。
(少し……様子を見るだけ)
辿り着いた、声の聞こえる最後の曲がり角から覗いて、目にしたのは、あの見慣れた黒づくめのシルエットと、その傍で騒ぐ男の姿だった。
「うわぁぁぁん!! ちゃんねる! 脳脊髄ダイヤルぎぶェいいイィィィ!! ぐえあぁあああああ!!!! ひヒぃっ!!!」
泣きながら笑って怒りの地団駄を踏み鳴らす、イかれた挙動を忙しなく繰り返す。その尋常じゃない様子の男の服装には見覚えがあった。あの職質してきた自警団員と同じジャケットだったからだ。
「ひゃーん! 臓食ごぁえ! けピばばッ!!」
そばにいるレイナは何故か逃げない。よく見てみると、その男は完全に壊れて、無分別に暴れているにも関わらず、片手だけは微塵も動かすことなく、レイナの手を掴み続けていた。
「あっ! ……ヴァラキ」
不意にレイナが振り返った。覗き見るつもりが、気づけば身を乗り出し過ぎていたのだ。
「あはは……この辺りで大きな破砕音がしたからって、この人に捕まっちゃった」
乾いた笑い声をあげて、レイナは所在なさげに地面を向く。
「姿を見せろって引っ剥がされちゃって、この有様……」
レイナの言う通りなら、その後急いで布を被り直したのだろうが、男の手が挟まって、半端に姿が見える格好だった。
「ヴァラキが言った通りだったわね」
これだけの騒ぎ様だ。すぐに大勢の人間が寄ってくるのは、目に見えている。
「わたしはおぞましい怪物だった」
そうなれば、この騒動はもう災害として広く認知される。フィクサー協会だってランク付けするだろう。
「人と関われば、心を壊すことしかできない」
指とフィクサー。そして数多の企業や研究者たちが、その身柄を欲して群がった時、こいつは何を想い、感じるのだろうか。
「わたしは空っぽな空白でしかないもの」
自分をそんな存在だと、納得して受け入れてしまうのだろうか。
(俺が、今更なにを)
そもそも突き放したのは俺だ。あの時言った言葉も全て本心であろうし、どの面下げてこいつに歩み寄ろうと言うのだ。
第一に、関わる理由だってない。こんな奴が居なくたって俺はカポを取りに行けるのだから。
(だったら、……どうして)
こんなにも体が強張るんだ。
早く踵を返して立ち去ればいい。こんな騒動に巻き込まれる所以はない。それか、ここで全ての元凶を討ち取って、終わらせて仕舞えば解決する。
『ヴァラキはさ──』
ふと、脳裏に小さな煌めきが走った。柔らかいのに何処か哀しさを宿した、懐かしい声色が奏でられる。
『どうして、そんなにこの世界を楽しげに語るの?』
「どうしてって、……それは」
返答は自然と口から溢れた。
「心が躍るから……」
転げ出たのは、救いようがないほど馬鹿馬鹿しい答えで。それでも胸の内が、強く、鼓動した。
──ずっと、長いこと欠けていた空白に、ピースがハマった気がした。
「おい、その汚ねぇ手を離せよ」
一つ息を吸い込んで、大きく踏み出す。
風を追い越すような勢いで両者の間に割り込むと、そのまま手刀を放って、掴まれた手を分断した。
「えっ…!」
弾かれて、打ち上げられる二本の手。その小さな手の先を掴んで、強く握りしめた。
かつてない軽やかな感覚に、思わず笑みがこぼれる。久々に馬鹿な考えをしているからだろうか。
「レイナ。お前はどうして今日デートなんて言ったんだ」
「それは…貴方がそばにいろって、言われたから」
そうだ。あのビルで会った時に、レイナに望むものとしてそう言った。そしてその言葉を絞り出したのは、なにか合理性や計画があったからではなかったようだ。
「だったらよ……」
あぁ、そうだ。
あの言葉はなんの裏表もなく、心から求めた額面通りのものだったんだ。
「デート中なのに他の男と手なんか握ってるんじゃねぇよ!!」
「自分から突き放しといてそれ言うの……!!」
そうだよ。
どの面下げて。遠ざかっていくのを止める資格はない。全くもってその通りだ。そもそもこの騒ぎの原因も俺の癇癪だ。もはやこの言動は支離滅裂だろう。
──けれどな、
「裏路地の無法者が、そんな道理を重んじるかよ……!」
「ええ〜っ、……嘘でしょう」
とても気分が清々しく。自由に口が動かせて、笑みの形を作れた。
ずっと張り付いて、血肉と同化していた仮面を、久しぶりに外した様だった。
被り続けていて、それが自分の素顔だと、疑う余地のない当たり前のものだと思っていたから。
「で、これからどうするの?」
「決まってるだろう……」
既に辺りからは、人の気配が集まっていた。猛烈に地を蹴って走る、ドタドタという足跡を響かせながら。
「逃げるぞ!」
繋いだレイナの手を引いて、しっかりと抱え込む。
「あ、その前に証拠隠滅だ」
倒れている自警団員の首を、踏み折ってトドメを刺した。
「ええ〜っ、この人一応被害者なんじゃ……」
「まぁ、こうなった以上しかねぇよ」
もう殆ど反応がなかったし、廃人寸前だったからな。特に手の打ち様もないだろう。
そうしている内に、もう他の自警団員達が現場に到着し始めた。
「て、てめぇらウチの仲間に何してやがる!!」
「……あばよ」
言い終わると同時に、一呼吸分の息を使って、強化された脚力を発揮する。呆気に取られる自警団の傍を、突風の様に走り抜けた。
「あっ! 待ちやがれ!!」
当然ながら全力で追いかけてくる。そして前方からも自警団達が殺到し、俺たち目掛けて警棒を振りかぶっているが、それらを避けて、進路の邪魔になる奴だけを適当にぶちのめして、走る。
適当なゴロツキ共と違い、彼らは一応街の経済活動を護る住民たちだ。頼りなかろうと、むやみに殺し過ぎれば悪影響が出てしまう。
「クソッ……強えぞこいつ。数を集めろ!!」
「何人いようと変わらんから、引っ込んでろ!!」
とはいえ、邪魔なものは邪魔だ。レイナの姿が捲れて見えない様に、気を配りながら挑む障害物レースは、それなりに神経を使う。
「改めて言うけど、自分で火種を撒いておいて。寄ってきた被害者を、邪魔だから蹴散らすなんて、滅茶苦茶すぎない?」
「いいじゃねぇか、都市の治安なんてそんなものだろう。世の中には人のヘアクーポン盗んだりして、好き放題してる集団だっているんだ」
そして抱えているレイナも正論で刺してくる。
たしかにその考えは正しいだろうが、都市の倫理と治安はその正しさの下をいくものだ。
「あ、あいつ。やたらと金払いがいいチンピラだ!」
「テメェ、賄賂貰ってんじゃねえか!! ……だがいい情報だ」
そんな会話が聞こえると、追いかけてくる集団が一気に色めき立った。差し詰め、邪魔者からボーナスエネミーへと昇格しただろうか。
「財布だ! チマチマと商店からミカジメ料貰うよりずっと効率がいい!」
「おら死ねェ! 内臓まで全部売っぱらってやる!!」
「ゴロツキをぶち殺せェ! 街の治安を乱す奴は皆殺しだあっ!」
「……ええ〜〜」
「無駄に威勢のいい連中だな本当…」
命の軽いこの世界で、一応の正当暴力が許されている彼らは、ドップリと肩のあたりまで反社会勢力に浸かってるのだ。
◆◆◆◆
「はぁ……しつこい。まだ探してるぞ連中」
既に日は大きく傾いて、街は黄金色の闇に沈み込もうとしている。屋根の上にいるから、尚更はっきりとその様子が見てとれた。
「夕焼け…、こんなに眩しいものなのね」
今日という一日も、もう終わろうとしている。
「ほんとに、色んなことがあったデートだったわ」
隣ではレイナが、満足げに声を漏らしていた。ゆらゆらと左右に体を傾ける仕草からは、今日出来た思い出を反芻していることが窺える。
「いいや、まだ終わっちゃいないぜ」
なにせ帰るまでが遠足ともいうだろう。下では俺たちを追っていた組織員の一人が、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた。
あの後、自警団の連中は身体能力の差からすぐに逃げ切ったのだが、あの珍走に引き寄せられたのか、名も知らない組織が縄張り主張して喧嘩ふっかけてくるし、そこに物見遊山の野次馬が集まって、更に自警団まで追いついてくると、やたらと騒ぎが大きくなってしまった。
「最後の一踏ん張りだ。しっかりと掴まれよ」
差し出した手のひらを、レイナは少し止まって眺めた後、そっと自分の手を重ねてくる。
「ええ、今度は離さないでくれる?」
「あぁ、そうだな。約束する。指切り……いや、丁度いいのがあったな」
俺はレイナにある物を要求した。レイナはゴソゴソと自分の懐を漁って、取り出したそれを手渡してくる。
巻き付いた棒から外されて、風に揺蕩う緑の貴糸。
西陽を絡め取って輝くそれは、市場で買った天蚕糸だった。
その糸の端と端を、お互いの手首に結い付ける。
「どうせなら、しっかりした形で渡してやろう」
「これは……貴方からの、初めてのプレゼントだったわね」
「あぁ、丈夫だから簡単には切れねぇよ」
命綱の様に、あるいは手鎖の様に、しっかりと手を繋いだ。
燃える夕闇の中でも、その緑の糸は己の色を忘れずに、ただ静かに瞬いていた。
[適当に街をぶらつく。ちょっと強化イベ。レイナと話して能力の解説。なんかトラブル発生。少しだけ二人が仲良くなる。]
プロットではこれだけだったので1話で終わるかと思ってましたが、滅茶苦茶に長引きました。そして予想以上に仲が進行しました。
まぁ、この後の展開に致命的影響でないので、仲の良い分には喜ばしいですね。
──
───
─────
〈裏路地の何処か〉
「その情報は、確実なものでいいのかい?」
「た、確かです!……自分は見ました! ……み、見えたのは、ほんの僅かな一部でしたけれど」
「どっちなんだい。一言で矛盾してるじゃないか」
「見ました! 見ましたよ! あの、なんというか…心が不安定にされる感覚? 理性が緩緩む……。そう確かに偉大な方々の作品を拝謁させて頂いた時に感ずる、あのざわざわしたものです!」
「………」
「そして、見たこともないあの白い色。おそらくアレこそが、マエストロ様がお探しになられているという遺失物、N-404に間違いないでしょう!」
「はぁ……。崇高なる作品を比較対象に上げたんだ。その情報が違えていた場合、……どうなるかわかるな」
「む、無論です。……それでも間違いないと思います。……ハイ」
「……一応捜索はしてやる。これで空振ったのなら、キミの全身を絞り機に掛けて、その血油を
「ヒッ、ヒィ〜……、お願いだからとっ捕まってぇ…」