パンのみに生きるにあらず   作:改造黄金虫

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リアルが立て込んでるのと、後編が濃ゆすぎるので、作者はまだ9章サラジネできてません。チクショ(パァン!!)


第14話 硝煙は街に飛ぶ

 

 街を赤色の集団が駆け抜けていた。

 それは皆とてつもない速度だったが、その行手を阻むものは何一つとして存在しない。周囲では大勢の人影が蠢いているが、彼らは決してその行軍を邪魔しようとしなかった。

 

 当然の話だ。その者たちは全員、親指の配下の組織員である。周辺の一般人などはとうに掃除済みだ。ここは今、俺たちの支配下にあった。

 

 ゴミ一つ転がっていない道を蹴飛ばして、一団の末尾に追走しながら俺は前方を見やる。

 

「…………」

 

 無言。それでいて一糸乱れぬ完璧なフォーメーションを維持したまま、己が役割を忠実に全うする集団。彼らは主の降る指揮棒のみに従い、獲物に喰らいつく猟犬。完璧に統制された群れ。

 

黒夜の猟犬(コル・カロリ)……か」

 

 それが今、俺の眼前を黙々と行軍する者たちの名だった。

 専用のバイザーで顔を隠して、一言だって声を発さない彼らからは、機能以外を削ぎ落とした道具としての凄みが、ひしひしと伝わってくる。

 

 そして道具であるのなら、その使い手だって当然存在していた。

 

「そうか。なら手を出さずに離れていろ」

 

 無線機を背負った通信兵を側に控えさせ、受話器を手に指示を飛ばし続ける猟犬の主、ガリアーノ様。猟犬は彼女の私兵集団であった。

 

「敵に動きがあったみたいだ」

 

 通信の手を止めて、顔を振り向くこともなく彼女が告げる。風切り音の中でもはっきりと伝わる声だった。

 

「数十人の集団が一塊で動いてるみたい。目的は知らないけど、ちょっと面倒だね」

 

 たわいもない世間話のように落ち着いた話し方。どこか同意を求めるそれは、道具相手にやる仕草ではない。つまりこれは俺に向けてのものだった。

 

「貴方の目に障る連中なぞは、立ち所に切り払って見せます」

「フフっ……いいね。存分に潰しておくれ」

「命令受諾しました!」

 

 

 叫ぶように返答をして、先をゆく一団から少し距離を取る。すると彼女は依然前を見たまま、指だけをある方向に向けた。

 

「場所は北西。集団とかち合うのはおそらく、……あのビールの広告がある辺りだろう。深追いも許可するから徹底してやるがいい」

「ハッ! 感謝致します…!」

 

 地を蹴って、街灯を足場に建物の上へと飛び乗ると、そのまま一気に屋根を駆け抜ける。離れた建物の間も助走を合わせて軽く飛び越えて、それを何度も連続して繰り返すことで移動した。道路を無視して目的地に直進するショートカットだ。

 

 

 バタバタと外套をたなびかせ、遮るもののない空中を駆る。爽快感もあるが、同時に興奮と焦燥も込み上げてきた。息が少し荒くなり、落ち着けるように背中の銃に手を伸ばす。

 新調した銃剣を装着した愛銃。左右の腰に帯刀した銃剣が二振り。潤沢な弾薬。様々な工房で入手した小物が幾つか。自分の武装を一つ一つ指でなぞりながら、それが血を浴びる瞬間を思い浮かべる。

 

「薬指……、そこらの雑魚の首取るよりずっと有意義な戦果だ! 功績を立てる絶好の機会になる!」

 

 雨樋を蹴り飛ばし、風を切って跳躍する。

 指定されたビールの看板まで、あと少しだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「あれが標的か……」

 

 下から見えないようにアーチ状の屋根の上に張り付いて、耳を澄ませる。すぐ下に真っ直ぐ伸びる一本の通り。その離れた位置に連中はいた。

 

 とくに何をするでもなく、所在なさげにぶらぶらと、一定の歩調で歩いていた。隊列を組むでもなく、かと言ってバラけもしない、ただの集団移動。

 

「あんなドヤ顔かまして何がしたいんだ…」

 

 そう、連中は特に隠れるでもなく、堂々と通りを闊歩していた。まるで見せびらかすように各々が武器を掲げいるし。衣服だってあの特徴的な白を基調とした服装に、絵の具で汚れたベレー帽まで被っている。少なくとも隠密行動をする気は無さそうだ。むしろ、見つけてくれというかのようで───

 

「ッーーー!」

 

 僅かな風切り音に慌てて身をひねれば、さっきまでいた場所に武器が突き刺さっていた。上空から降ってきたその武器は、大きさこそ剣程のサイズだが、その形状は確かに彫刻刀のそれであった。

 

「コソコソと嗅ぎ回るだなんて、礼儀がなってないんじゃないかい?」

 

 捻くれて嫌味ったらしい声色と共に、幾つも重なった雑踏が近づいてくる。……この攻撃精度。気配を感じたとかではなく、明らかに俺を認識していた。

 

 もはや隠れる意味はないと、屋根の淵に足をかけ、下の通りに身を晒せば、たむろしている連中が一斉に顔が向けてきた。

 

「気づいてたのか。……どうやって」

「芸術品はただ見られるわけじゃないんだ。観客が作品を鑑賞するように、作品もまた観客を鑑賞する。そらそこだよ」

 

 集団の中で唯一派手に飾った帽子を被り、気取った態度の男が答える。

 そいつが指差した近くの建物をよく見れば、そこには外壁を構成するレンガ壁の一部が、奇妙な形に削られ装飾がなされていた。眼球を模したそれは、完全な球体ではなく幾重にも面が重ねられて、一点で定めて圧縮されている。その特徴はブリーフィングで説明されたものと覚えがある。

 

「薬指、立体派……」

「ご名答。ボクは立体派所属のレルズっていうんだ」

 

 下の通りに固まっている集団たちの中で、代表らしいその男、レルズは優雅に一礼すると、嘲るように口を歪めた。

 

「しかし視線にまつわる規則があるのに、見られていることに気づきもしないだなんて。ドーセント様の仰るとおり、親指は愚かだなぁ」

「テメェ…どの口で」

「それともう一つ。ボクと目を合わせて話すのは良くないんじゃないかい? ほら、格が違うじゃないか」

「……………?」

 

 言ってることが本気で理解できなくて首を傾げた。改めて連中をよく観察するが……うん。やっぱり間違いないな。

 

「お前ら全員スチューデントだろう。何言ってやがんだ?」

 

 集団が手に嵌めている指輪の特徴。それが一巻き(スチューデント)であることが、紛れもなく連中の立場を証明していた。

 

「いやいや、これだから杓子定規な肩書きでしかモノを見れない石頭は。いいかい? ボクはね、優れた足跡に支えられた人材なんだよ!」

 

 劇壇に歌う主人公になったかのような、うっとりと酔いしれた顔で高らかにレルズは叫び、周りの奴らも呼応して頷いている。……正直もう撃ち殺したいんだが、一応の言い分は聞いておこうと引き金を留めた。

 

「乱雑に並ぶこの世界から美しさを削岩し、その構想に精を費やすボクを家族の連中は理解を示さなかった。愚かにも彼らは──」

「どうでもいい、要点だけ言え」

「……言うなれば薬指に所属してからのボクは、ようやく自分の人生を謳歌できるようになった訳だ。生み出す作品はどれも高い評価を受けて、あっという間に先達たちを抜き去り、ドーセント様直々に目をかけられらようになった。マエストロ様にだって何度お褒めの言葉を頂いたことか!」

 

 脳みそまで絵の具漬けなのがコイツは? 要約しろと言ったのに、まだベラベラとほざいてやがる。面倒なのでしばらく話を聞き流して、敵の数と戦闘方法を考えていると、ようやく話が済んだらしい。

 

「だからねキミ、このボクをただのスチューデントとして扱うだなんて、これはもう無礼に値するじゃないか!」

「当人の成果は全て階級に反映される。それが全てだスチューデント」

「チッ、理解する気もないのか」

「当然」

 

 それと……と、俺は口を開いて付け加える。最早こいつとの会話に何の意味も見出すことはないが、これだけは言っておきたかった。

 

「部外者の分際で、なに親指の規律を語ってやがる。今お前が犯した礼節教書のページ数だけでも、撲殺できる厚みだぞ」

「はぁん。……それでキミはどうしたい訳?」

「無論規律に従って罰を実行する。死体が原型を留めていると期待するなよ」

「ハァ……キミたちって本当にさぁ」

 

 向こうも呆れ果てたため息をついた。お互いに会話の通じる相手じゃないと、ようやく分かり合えたらしい。

 

「……そう言うなら偵察くん。早く仲間を連れてきなよ。別に寄ってたかって虐めるつもりじゃないんだから。それにこの数じゃあ素材としても足りないし」

「………、お前見る目がねぇな」

「あぁ? 何を言ってんだ君は」

 

 刺し殺さんばかりの鋭い視線に、嗤いでもって返す。

 余裕ぶった態度に怒りを滲ませて、それでも取り繕うとする様は、酷く滑稽だった。

 

「俺は、お前たちを狩る……襲撃者だ」

 

 剣を構えるように銃を両手で(かつ)いで、腰と膝を落とす。両足の裏を地面へ食い込ませるように低く。全身のバネを圧縮するようしなやかに。

 

 

「一人で突っ込む気かい? バカも程々にしたまえよ」

 

 

「スウゥゥゥーーーーッッ」

 

 レルズの喚く声を無視して、息を吸った。

 この場に漂う空気の全てを独り占めするかの如く、深く吸い込む。

 

「ラァッッ!!!」

 

 その呼吸を一度に、全て燃焼させる!

 生み出された爆発的なエネルギーは、身体を即座に活性化させて、強烈な踏み込みを可能とした。

 

「行っけェッーーー!!!」

 

 全身のバネを解放して、一直線に、風を穿って跳躍する。

 その反動で足場となった屋根は爆ぜて吹き飛び、俺は撃ち出された砲弾のような勢いで敵陣へ突っ込んだ。

 

「えっ! 消えた!」

「いや、来るぞ! 構えッ…ガハァ!」

 

 その加速度に、相手はついてこれなかったらしい。反応もできない内に敵陣へ着弾し、前方にいた奴らを一閃して撫で切りにする。そしてその勢いを落とすことなく、敵陣の内部に深く斬り込んだ。

 

 動揺と悲鳴がこだまし、血飛沫の舞う只中で、銃剣を全力で振るい、足を躍動させて突き進める。四方から迫る人間で出来た障壁を、斬って貫いて抉って潰して、俺の通った跡に真っ赤な坑道を作り上げてやった。

 

「足を止めろ! 囲んでるのはこっちだぞ!!」

 

 どこからかレルズの言葉が響くと周囲の動揺が鎮まり、代わりに鋼鉄や城門の描かれたキャンバスを盾のように持つ連中が立ち塞がり。槍のように長い筆や彫刻刀を構えた槍衾(やりぶすま)が、俺の行手に構築された。

 なるほど、確かにこの突進の速度さえ止めれば、囲んだ数の暴力で殴り勝って終わりだろう。

 

 ───けれどな

 

「遅せぇ!」

 

 敵を切り裂いた姿勢で、明後日の方向を向いた銃の照準。その角度を維持したまま引き金を握り、銃を、()()()を発砲する。

 

「ッ!!」

 

 轟音と射出。

 寸前まで強烈な速度で前方に突き進んでいたのに、それが響いた直後、進行方向があり得ない角度で折れ曲がり、身体ごとかっ飛んでいく。強い慣性に揺られ、視界も重心も掻き乱されるが、培った勘と強化された身体能力で強引に姿勢制御して、道中の敵を斬殺してやった。

 そして着弾地点に立つと同時に進軍を再開する。この移動の間に速度のロスはない。どころかより加速していた。

 

 

「えっ! こっちにギャァ!!」

「なんでここに飛んで来るんだッ!!」

 

 突如別地点に現れて、陣形の予想を外され困惑する敵陣。当然その対処の間も与えることなく、上乗せされた速度でもって斬り払い、銃床でカチ割り、轢殺する。

 そうやって暴れていれば、またしても俺を捕らえようと盾を構えて群がるのだが。そこでまた推進弾を撃ち放った。

 

 防壁をぶち抜いて射出され、加速の乗った斬撃で薙ぎ払い、減速することなくまた突撃して蹂躙。

 

 そして再度の"発砲"と"加速"と"斬殺"。銃撃のペースを引き上げて、発射角度も様々に。

 

 発砲。─加速。─斬殺。─発砲。──加速。──斬殺。───発砲、発砲、発砲発砲発砲発砲。

 

 通り一帯に断続的な轟音を鳴り響かせて、目まぐるしく跳躍し続ける。着弾した地面も壁も区分なく足場として活かし、縦横無尽なボールのように撥ね回って、宙を舞い、空中から急加速して串刺しに。

 

 その出鱈目な軌道と、赤い残像しか目に映らない加速度に翻弄されて、数の利をまるで活せないままに削り殺していく。最初は大勢いた連中もすでに底が見えてきた。

 

「落ち着いて防御姿勢を取れ! これだけの動き、消耗だって激しいはずだ! 長く持たないのは向こうだ!」

 

 その指示の声に少し感心する。この状況でも冷静に観察を怠らず、その目の付け所もいい。伊達に集団の頭はやってないのか。節穴呼ばわりして悪かったな。

 

「けれどやっぱり状況判断が遅い」

 

 集団の数が減ったってことはだ。

 

「その分射線も通りやすいってことだろう」

 

 高く飛び跳ねて、連中の上空をとったタイミングで銃を構えて、引き金を放つ。その直前にストックを握り込むことで、この銃の備える機構を作動させた。

 その作用は装填された弾の切り替え。すなわち、放つ弾丸を推進弾(特殊な弾)から徹甲弾(ふつうの弾)への変更である。

 

 マズルフラッシュが散って、俺による突撃ではなく、狙撃による銃弾が空を穿ち、敵に襲いかかった。

 

 撃ち出された弾丸は、突撃から身を守るために縮こまって、隙間だらけになった防御陣をあっさりすり抜けて、この集団の指揮官であるレルズに着弾。その肩を抉り飛ばした。

 

「アガッ!! グッうぅぅぅ〜〜!! ……て、撤退だ! この場所は相手が悪い!」

「ハッ! 場所のせいじゃねえだろ」

 

 平地であれ屋内であれ、その場にあった戦い方をするだけだ。この戦果はただ実力の反映に過ぎない。

 

 レルズに手を貸して逃走する残り僅かな集団を尻目に、俺は近くの屋根の上に着地して、ペースを落とした追走を開始する。誰一人逃す気はないが、少しだけ息を整える必要があったからだ。

 

「ふ〜〜っ。やっぱりちょっと疲れるなこの動き」

 

 推進弾を撃つたびに生じる強烈な斥力と負荷を、膂力と技術で制御して、半ば無理やり振り回しているのだ。絶えず出力全開で稼動する身体強化には大量の酸素を消費するし、酷使した筋繊維も端から磨耗して千切れてゆく。その損傷を縫合するため、今俺の体内では縫い込んだ天蚕糸が蠢いていた。

 

 

「まぁ、この程度なら戦闘に支障はないんだが……な!」

 

 眼下、逃走する一団に上から銃弾を撃ち込んでやる。ガリアーノ様には到底及ばないが、俺だって狙撃はできる。特にこんな狙い放題な立地なら実に容易い。

 

「オイッ間抜けども! 銃を相手にして遠距離攻撃を忘れてたなんて、とんだ笑い草だな! やっぱり節穴集団じゃねえか!」

「糞ッ! あの野郎……ガッ!!」

「反応するな! 隙を炙り出すための挑発だ!」

 

 その通りだが、それでも効くだろう。ちょっとでも足が緩めばそれでいいんだ。……おっ、家の外壁を切り取って盾にした。それなら確かにどんな弾でも通らない。狙撃対策にはちょうどいいだろう。

 

「けど所詮は、浅知恵だッ!」

 

 懐から取り出したゴルフボール程の小さな鉄球。それを投擲してぶつけてやれば、壁ごとペシャンコに潰れた。落下距離に応じて質量を増す工房製品だ。さぞや痛かろう。

 

「こりゃもう消化試合だな。どうしよこの後」

 

 皆殺し……の前に情報が欲しいな。とりあえずあのお喋り野郎をとっ捕まえて、拷問にかけるのは確定としてもだ。薬指ってイカれてるからなぁ、拷問で自白なんてするのか? まともな常識が通じるかもわからん連中だぞ。

 まぁどのみち礼節を軽んじたんだから。規律に沿って全身を破壊し尽くす過程で、なんか有益なことをほざいてくれたら、儲けもんぐらいに思っておくか。

 

 ──などと役体の無いことを考えていたせいだろうか。不意に状況が一変した。

 

 

 弾が勿体無いなく思えて、もう接近戦に切り替えようとしていた時だ。通りの先からふらりと、一つの影が現れた。

 

「ん? ……あの格好もしかして」

 

 轟く銃声と末期の叫びが飛び交う戦場に、まるで買い物にでも来たかのような淡々とした足取り。片手をポケットに仕舞い、もう片手にオペラグラスを揺らして歩くその男は、白い服装を纏っていた。

 

 ゆったりとした白い燕尾服に蝶ネクタイを締めて、頭には特徴的なシルクハットを被っている。当然それら装飾も白を基調としていた。

 

「あ、アルバート様! ……いらしてくださったのですね」

 

 レルズ達が驚嘆の声を上げてその者に駆け寄る中、俺はすぐさま屋根を飛び降りた。(目上)を上から見下ろすのは無礼に値するからだ。

 

「ふぅ……来たな功績」

 

 風に紛れるように小さくつぶやき、笑みを隠す。

 

 ドーセント(幹部クラス)。カポに誇るに相応しい立派な首級だ。

 




ようやく主人公のまともな戦闘シーンが描けました。このビュンビュン飛び回る奴をいい感じに苦戦させようとしたのが、3話がギミック尽くしになった原因です。
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