パンのみに生きるにあらず   作:改造黄金虫

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祝! 9章サラジネ!
色々ありますが、今回も凄く噛み締め甲斐がある味してましたね。あの中だと自分はヴァレンチーナさんが一番好きです。


第15話 非生産者に注ぐ軽蔑

 

 突如として現れたその人物は、駆けつけたレルズ達と、飛び降りた俺を眺めると、ぴたりとその場に立ち止まった。

 

「も、申し訳ありません。言いつけ通り親指を釣り出したのですが、予想外に苦戦を強いられてしまいまして……」

 

 レルズが顔をひくつかせて、上擦った声色で弁明を並べる中で、その人物は何も口にしない。ただ弄ぶように手の中でオペラグラスを転がすだけだった。

 

 

 ドーセント。

 ブリーフィングで説明された目撃情報に、レルズのあの態度も合わせて、あの者がそうであることは間違い無いだろう。

 

「………」

 

 沈黙のままに、シルクハットの乗った顔を傾げて、しかし目だけはギョロギョロと動き回る。

 じっとりとしたその視線。俺はそれが何を考えてるのかはわからなくとも、どういうものなのかは知っていた。

 

 人を人として見ていない目だ。

 少なくとも相手を自分と同じ、対等な存在だなんて一欠片だって思っていない。裏路地で会ったら絶対に関わってはいけない奴だった。………まぁ、俺は親指だからそれと同類に属するんだがな。

 

 

 ともあれ、その危険な特徴を宿した目が向けられたのは、焦りと怯えがないまぜになったレルズの顔でも、傷ついて残り僅かになった集団の数でもなく、連中の着る元は白かった服装にだった。

 自分あるいは他者から染みついた赤い血。地面を転げ回って跳ね返った泥と埃。切り裂かれた布生地。骨が砕けて崩れたシルエット。そういった一つ一つをただ眺めてめていた。

 

 そのことに気づいているのかは知らないが、レルズの答弁はますます必死さを増して、俺と戦っていた時以上の緊迫感を抱いているようだった。

 

 ──しかし。

 

「ですが! ほんの一途の隙を突かれたに過ぎません! こうしてアルバート様が直接観戦に来られた以上は──」

「落第」

 

 ドーセントは、ただ当たり前の事を言い当てるような平坦な口調で、その口上を切って捨てた。

 

「おッ! お待ち下さい! 確かに劣勢になりはしましたが! まだ決着は──」

「お前は……、どうしてこれ見よがしにさ迷い歩き、出会う者たちと交戦せよと命じられたかわかるか?」

 

 それは会話というより、不要な枝を削いで整えるような、作業を思わせる声色だった。

 

「それは、……ボクの実践的な作品制作を期待して」

「あの者を見よ」

 

 ここにきて俺に注目が向けられた。首を傾げたまま気怠げに向けられる眼差し。しかしそれからは鋭いメスのような、嫌らしい予感がした。

 

「かのソルダート。ギラついて食いちぎらんばかりの戦闘意欲。加えてあの階級。おそらく期待されているのだ」

 

 瞳の中で俺を解体するように動く視線。それがなぞる度に、まだ距離はあるにも関わらず、直接身体に手を入れられたかのような悪寒が背を走り、一刻も早くその視界から逃れ出したくなる。だが俺はその生理的な震えを黙らせ、姿勢を前に傾けた。ここで退くなんて選択肢はハナからない。

 

「……あぁそれだ。この戦争を起点に、昇格の分水嶺と蠢く者たち。そこに意味もなくぶらつく集団がいれば、必ずや意欲的に喰らい付いてくると思ったのだ」

「で、……ではボク達はその目的を果たしたではありませんか!」

「お前は、自分が期待されていると頑なに信じている」

 

 レルズの声はもはや答弁ではなく、悲痛な叫びになっていたが、当然の如くドーセントはそれに取り合わない。ただ自分の言葉を続けるだけだ。もう一瞥(いちべつ)だって向けやしない。

 

「次なる階級(ステージ)に到達せんと邁進する者同士がカチ合えば、どう"弾ける"のかが見たかったのだが。……… それを、お前は台無しにしてくれたな」

 

 冷淡にあり続けたその声に、初めて感情の色が灯もった。嫌悪と苛立ちに震えるノイズだった。

 

「勝敗など些事。だが不出来な逃走劇なぞ期待しておらん。なぜあそこで死ななかったのだ…….!」

 

 心底不快そうな歯軋り共に、ポケットに仕舞っていた手を引き抜く。真っ白で艶のない、のっぺりとした肌で包まれた手。その指先を鋭い(くちばし)のように尖らせる。

 

「あっ…、あ、あぁっ!」

 

 震えて、まともな情緒を欠いた形相になり、ドーセントから逃げようとするレルズ。しかしその力の抜けた足取りはすぐにもつれ、呆気なく倒れた。けれどその状態でなおも(もが)いて、あちこちに手を伸ばすせいで、俺と目が合った。

 

「あっ……、ひぃ! い、いや」

 

 怯え、縋りついてくるその眼差しは、ただただ腹の底を煮え立たせ、俺を苛つかせた。

 

「追い詰められたからと、やることが周りに助けてもらうなのか? オマケに敵にさえ求める節操のなさ。ネズミより醜いな。目上の方の意に背いたんだから、とっととくたばれ」

「そこは同意見であるな」

 

 俺の言葉に頷いたドーセントはレルズに歩み寄り、その手を振り上げる。

 それに対してレルズは唯一自分が被っていた、あの特徴的な帽子を手に、それを大事そうに差し出す。

 

「あっ……、あっボク。ボクは貴方様にお目をかけられて……、こ、この帽子だって特別にいただいたから」

「……あぁそれか。全員似たような服装だと面倒だろう? それは目につくための駒だ」

 

 言い切ると同時に、レルズの心臓部に手刀を突き立てると、強く捻った。何かの鍵をこじ開けるかのように。

 

「あ、……あぁぁ! 嫌だ! こんなところで終わりたくなんかぁぁァァァッ!!!」

「ハァ……。最後まで醜く喧しいな。せめて醜さのままに固まり、無様を晒すがいい」

 

 ドーセントが勢いよく手を引き抜くと同時に、レルズの全身が一瞬の内に膨張して、弾けた。だかその爆発は決して飛び散ることを許されず、穿たれた心臓を中心に引き寄せられる。

 

「ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァッ……!!!!!!」

 

 そしてその末期の叫びさえも縛り付けられたまま収縮し、圧縮され、やがてやがて一つの形に纏められていく。

 

(なんだ……これは?)

 

 俺が固唾を飲む目の前で、弾けた骨が内側に湾曲していく様子が見えた。それに肉が絡まり、血が満ちて、全てを皮膚が抑え包み込むが、それでも悲鳴は止まないのだ。

 だがやがてそれさえも静かになると、その変形は終わりを告げた。

 

「…………」

 

 出来上がったのは奇妙な円形立方体だった。

 身体が強制的に変化させられた苦痛と、何の甲斐もなく見捨てられた悲痛。その絶叫を表すように限界まで広げられた口を中心に添え、そのまま押し潰して、固めてしまったかのような楕円形の筒。

 あえて例えるなら、円を描くバームクーヘンの形をした肉のオブジェクトが、地面に転がったのだ。

 

「ハァ……こやつの騒音を一点に纏めて見たのだが、やはり見るに堪えんな。ソルダート、これを得たいと思うか?」

「………いえ、ご遠慮させていただきます」

「だろうな、破棄だ!」

 

 俺の返答を聞くや否や、嫌悪感を体現するかのような荒々しさで、ドーセントはその不気味な物体を引き裂いた。それが壊れる際には悲鳴じみた軋む音が響き、鮮血が激しく舞った。

 

「ふむ、解体した感触だけはしばしの快感があるな」

 

 それでやっと気が済んだのか、ドーセントはまた冷静な雰囲気を取り戻し、コツコツと優雅な歩みで近づいて来る。全身が血でべったりと彩られているのに、それを成した両手だけは綺麗な白を保ったままだった。

 

「……この手が気になるか? あぁ、この変形をなした起点がここだと思うのか、違うぞ」

 

 ガツンと、激しく両の拳をぶつけて打ち鳴らせば、途端に残ったスチューデント達が苦悶の嗚咽を残してうずくまった。そこから全身がボコボコと湧き立つような膨張を見せて、開かれた口から舌が飛び出した。その舌は長く身をくねらせて上に伸び、俺とドーセントを囲む柱のように立ち並んだ。

 

(おのれ)はこやつらの教官を務めていてな。指導のついでに身体に仕込みもしておいたのだ」

 

 些細な遊び心に過ぎぬものだがな。と淡々と語られるその口上は元より、眼前で突如として生み出された理解不能な光景に、口が強張った。

 

 さっきまで普通の街の通りだった。あるいは見慣れた戦闘の舞台であったのに、一瞬にしてこの者の色に塗り潰されてしまったのだ。

 

 惨たらしい死体や、知りたくもない露悪な光景は腐るほど見た経験があるし、なんなら自分も生み出してきた側だ。けれどこうも大胆に弄び、見せびらかして来るのは流石に堪えるものだった。

 

 

「………スゥ」

 

 それに飲まれないために、一つ呼吸を置いた。

 肺に流れ込む濃い血の臭いと、俺自身に染みついた硝煙の匂い。その刹那に、己に刻まれた記憶を掘り起こした。砕いた過去ではない、歴として積み重ね、(もが)き抜いてきた組織としての人生を。

 

 何度も身に刻み込んでものにした銃の撃ち方。血を滲ませて覚えた礼儀作法。血反吐に塗れてクリアした試験。初めて袖を通す清潔で立派な衣服。下される危険な命令。俺にこうべを垂れる人々。

 親指として過ごした無数の日々が、巨大な流れとなって押し寄せてくる。その流れの中で、俺は一つの言葉を反復した。

 

『ヴァラキ、君は人間にならないといけないよ。他でもない君自身が、そう自分を呪ったんだから』

 

 ……あぁ、まったくその通りだ。

 俺は流れに沈み込むのではなく、激情を持って遡上(そじょう)する。

 

 動揺を捨て、確固たる戦意を持って、目の前に広がる地獄絵図に強く踏み出した。

 

 

「申し遅れました。自分はカポより命を授かりました親指の者です」

 

 油断なく、されど礼儀を損なうことなく、銃剣を翳して歩み寄った。戦闘にスタートの合図はなく、殺し合いの火蓋はとっくに切られているのだから。

 

「貴方様はドーセントであらせますね。平時であれば相応しい礼儀で対応させていただくのですが、本作戦では見かけた薬指の方は全て──」

「くどい、お前はそういうタイプとは異なるものであろう」

 

 苦々しく口を歪めると、また両手をポケットに仕舞い込んで、それが癖であるように。そのドーセントは首を傾げた。

 

「ソルダート。此度の戦争でお前の戦う理由は何である?」

 

 意図のわからない問い、しかし目上の者の口から発されたのであれば、無視はできない。多くの作法を省略できる戦闘儀礼においてもそれは変わらないことだ。

 

「大本はカポに命じられたからです。そして積極的な交戦理由は、先ほどご推察いただいた通り、功績を立てるためです」

「功績を立ててどうする?」

「目上の方に評価していただき、自身もまた誇り高き階級に登り詰める所存です」

「ハァ……つまらん。つまらんなぁ」

 

 俺の解答に、なにやらドーセント様はご不満のご様子だ。まぁ、別に俺が失礼をしたわけじゃないから、自分の舌を切る必要はなさそうなんだがな。

 しかし、ただでさえ厄介な狂人相手なのに、目上の方でもあるんだから、戦闘が面倒でたまらんと内心嘆いていた時だ。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 唐突にそう口にした。その発言がどんな意味を持つのかわからない人ではないだろうに。

 

「自分の聞き間違いでしょうか? 弁明の機会を──」

()()、お前達は全てつまらんのだ。決まり切った口調に、なんの工夫もない作法。規律礼節と決められた観念を着飾るばかりで、自ら新しい道を切り拓くでもなく、何かを生み出そうとする動きすらない」

 

 はっきりと、一言一句を吐き捨てるように

 

「であるから、お前達はどうあっても怠惰なゴロツキに過ぎんのだ」

 

 俺の目を見ながら、そう言い切った。

 その目には"軽蔑"と"疼き"が、ありありと浮かんで見えた。

 

 

 

 ハハっ……!!

 

 さすがお偉い様だ。話が早くてわかってらっしゃる。

 

「どう言い繕っても誤魔化せない、()()()()()()()()()() これは死をもって償っていただく他ありませんねッ!!」

 

「固着した御託はいい。()くお前の(ひわた)を見せよ」

 

 ドーセントは真っ白な指先を立てると、クイッと指を自分に向け曲げた。その糸を引き寄せるような仕草に合わせて、俺は轟く銃声と共に勢いよく突貫した。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 駆ける。駆ける。駆ける。

 

 僅かな速度の緩みさえ許さず、全力で加速し続ける。純粋な速さで言えばスチューデント共を解体した時以上のものだ。

 

 自分に出せる最高速度で持ってドーセントの周辺を旋回し、ちょうど彼の背面を取った所を跳躍する。更にそのタイミングで推進弾を発射し、体術と全身の筋力の稼働をもってその軌道を強引に曲げた。

 

「シャアッ!」

 

 空中で身を捻り、強烈な推進力を回転軸に巻き込む。そして発生する風の渦を纏って、遠心力の乗った刃をドーセントに叩きつけた。

 

「むっ、セイッ……!!」

 

 その一撃にドーセントは反応した。それも何も持っていない、ただ重ねた両の手刀で受け止めたのだ。

 スチューデント達の装備をあっさりと切断してみせた、X社の超合金コーティングの刃をだ。

 

「……なるほど、確かにお前は素早い。だがあらゆる速度を捉える眼を持ってすれは、その動向を見逃すはずがなかろう!」

 

 地面がひび割れるほどの衝撃きにものともせず、吠えたドーセントが鍔迫り合う両手を弾き、こじ開けた隙間に蹴りを放ってくる。

 

「チィッ!」

 

 咄嗟に腰から銃剣を引き抜き、その一撃を盾として受け止める。それでも反動で大きく飛ばされるが、その道中に銃剣を投擲し着地狩りを防いだ。

 

「いかに強力な攻撃であろうと、来るとわかっているなら対処も適う。よってお前の動きも、単なる空中曲芸だ」

 

 ドーセントは、かなりの速度で飛来する銃剣を易々と受け止めて、真っ二つに折り曲げながら、俺の攻撃をそう評した。

 

 

 そうかよ……。まぁ弾丸を余裕で見切って対応できる、一定以上の強者ならそう言うだろう。けどな、

 

「総評で括るには、まだ早すぎますよっと!」

 

 俺だって格上の強者とやるのは初ではない。数々の戦いで生き抜いてきた経験で持って、見くびった評価を焼き尽くしてやろう。

 俺は愛銃の機構を作動させると、引き金を強く引き絞った。

 

「ッ!!」

 

 五発の弾丸が間を置くことなく連続して放たれ、その飛翔する"徹甲弾"が、ドーセントに殺到する。

 一つ一つに絶妙な間隔をもって並べてあるので、全てを回避することはできない。そして更にここでもう一発を放つ。連続発射を可能とする特殊改造(カスタム)をした銃の機関部が唸り、"推進弾"を撃発した。

 

 真っ直ぐに飛ばされる勢いを調整して、踏ん張った足を軸にその軌道をカーブに繋げる。俺は高速で地面をスライドし、ドーセントを迂回するように回り込んだ。

 そう、対応を迫られる正面の弾丸と、()()()()()背後から切り掛かったのだ。

 

「ラァッ!!!」

 

 単純な話だが、対応できたとしてもその数には限りがある。ならばそれを超える量を一度に叩きつけてしまえば、堅牢な護りであれどあっけなく突破できるのだ。このドーセントもまたその例に漏れず、俺の攻撃を避けきれなかった。

 

「小癪な真似を……!」

 

 ドーセントは正面から飛んでくる弾丸を両手で捌き、背後の俺には後ろ足をバネのように蹴り上げてきた。背中に目がついてるかのような正確な一撃だったが、さすがに雑すぎる。俺は姿勢傾けることでそれを回避し、ガラ空きの背中に刃を突き立てた。

 

 獲った! と思ったが、流石はドーセント。この状況で打てる最善手を合わせきた。ドーセントはあの不安的な体勢にありながら、体の位置を微調整することで頑強なる骨格、"骨"で体に刺し込まれた刃を受け止めたのだ。

 

「マジかッ!!」

「やってくれたなッ! ソルダート!!」

 

 銃剣を引き抜き、即座に反転するドーセントはその(たけ)りを代弁するように、白く固めた拳を連続して振りかざしてくる。

 一発一発に凄まじい圧が込められ、被弾したらタダでは済まないどころか、膂力の差でまともに防ぐことすら叶わないだろう。だが俺はその乱撃を捌いてみせた。

 

「真っ向からぶつからず、刃先に引っ掛けて……流すッ!!」

 

 親指の銃剣術にも組み込まれた、七大ファミリーのとある流派。その技法に沿って、左右の手に持った愛銃と、もう一振りの銃剣の二刀を使い、剣舞のように回って、刃と拳とカチ合わせる。

 

 素手とやり合ってるとは思えない硬質な音を立てて、銃剣が弾かれ、拳をいなす攻防が続く。その撃ち合いの速度は徐々に加速して、早鐘を打つような剣戟を響かせ、真っ赤な火花を散らすまでになった。

 

「ハハッ! 拙く隙が見えるぞ!」

「ぐぅッ……!!」

 

 しかしその掛け声と共に、ドーセントの放つ拳はますます激しさを増し、こちらの隙を突く正確さも上がっていった。タイマン特化の銃剣術とはいえ、本流でみっちり習得した訳じゃないんだ。そりゃ綻びも出るだろう。

 けれどそんなことは元より承知。これ単体で決着をつけようなんて気はさらさらない。俺は雑種。使えるものは全部使ってでも勝つんだ。

 

 

 拳を受け流した愛銃。その銃口を傾けて、ドーセントの顔と向き合わせる。

 

「ぬっ?」

 

 一瞬にも満たない僅かな迷い。飛び出してくるのは普通の銃弾か? それとも推進弾か? そもそも撃たずに装着した銃剣で切り付けてくるのか? 

 その押し付けられた無数の選択肢の隙を突いて、爪先で顎を蹴り上げ、脳を揺らした。

 

「ガッ!!」

 

 自分で作った防御のリズムを崩してでも行った、賭けの一撃。事実、守りを抜けた拳が、俺のこめかみの寸前まで迫っていたが、どうにか先行をもぎ取ってやった。

 

「行けェ!!!」

 

 ここぞとばかりに推進弾を撃発。無茶な体勢からでも、この弾丸は突破力を引き出す事ができる。急加速して突っ込む俺に対して、ドーセントは咄嗟に両手をクロスさせ、胸と首と頭の急所を守った。

 

「甘いんですよ!!」

 

 こいつなら、それぐらいやってくると分かっていた。だから俺はガードの逸れた脇腹に狙いを定めて、銃剣を突き刺し、傷口を抉り取った。

 

「ぐぷっ…ッ! お前ッ!!」

「そらッ! 追撃ィ!!」

 

 ダメージで両手の守りが緩んだ瞬間に、逆手に持ったもう一振りの銃剣を、ドーセントの頭目掛けて振り下ろす。

 が、奇妙な感覚に阻まれて、仕留め損なったと感じると同時に、腕が振るわれ、ドーセントと強制的に引き剥がされてしまった。

 

 

「ハァ……、ハァ……」

 

 どうやらドーセントが頭に被っていたシルクハットは、相当に頑丈な代物だったらしい。俺が最後にやった攻撃は、あの帽子を破壊して、頭部に少しばかりの切り込みを入れたところで止められたようだった。

 

「……けど、押してるのは俺の方だ」

 

 力では向こうが上回っているが、ダメージレースでは俺が優っている。このままいけば、先にくたばるのも当然向こうの方になる。そうしてやる…!!

 

 俺はその決意を胸に、深く息を吐くと、両手に持った銃と銃剣をかざして、ギラつく切先を向かい合うドーセントに真っ直ぐ突きつけた。

 

「ハァ……、ハッ、フフハハハハッ……!」

 

 対するドーセントは笑っていた。脇腹から大量の血を流して、顔もまた血が垂れているのにも関わらず、実に喜ばしげに笑っていたのだ。

 

「……お前、名をなんと言う」

「……ヴァラキと申します」

「そうか、己はアルバートだ」

 

 ドーセント、否アルバートはゆらりと立ち上がると、自分の服のボタンに手をかけた。

 

「丹精込めて作り上げた作品というものは、鑑賞する者もまた選りすぐらねばならない」

「………まさか、鍛え上げた己が肉体こそが、芸術品だとでも言うおつもりですか?」

 

 これまでの、あの武器さえ使わない脳筋戦闘スタイルに、服を脱ぎ出す様子を見れば、嫌でもそれが思いついた。だかそれにアルバートは首を振って否と答える。

 

「己はモノが弾けるのが好きだ。体術はそれを味わうための手段に過ぎん」

「なっ、……それはいったい」

 

 ついに全ての上着を脱ぎ切って、上半身を露わに晒す。アルバートのその体には、首から股にかけて()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()が連なっていた。そのグロテスクな膨らみは、あの弾けたスチューデントたちの変形と同質のものに見えた。

 

「ソルダート如きには披露する予定などなかったのだが……。誇るがいいヴァラキ! 己の帽子を飛ばしたお前にはその権利がある!!」

 

 その傷と膨らみで異形と化した肉体が蠢き、明らかに何かが飛び出そうとする予兆が浮かぶ。

 

「クソッ! 間に合え……!!」

 

 絶対にさせてはならない。そうなる前に勢いよく切り込んで、弾丸を放ったのだが。

 

「これが新作! マエストロとの共同創作だッ!!!」

 

 俺の目の前で何かが"弾けた"。

 

 白くて、触った感覚がないほどに細い。無数の何か。

 

 押し寄せてくる圧倒的な物理のそれに、俺は逃げる間もなく、アルバートの作品に包み込まれてしまった。

 

 




ヴァラキの戦闘力はソルダートの域を超えています。
ですが正真正銘の幹部クラスがガチ武装してきたなら、その勝負はどうなるのでしょうね。
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