パンのみに生きるにあらず   作:改造黄金虫

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第6話 犬のきもち

 

 降り頻る雨足は止むことを知らず、日の暮れた裏路地の街に叩きつける。そんな豪雨の中を車で突っ切りって俺は帰還した。

 

「お戻りになられましたか」

「あぁ、着替えと治療の準備は?」

「全て完了しております」

 

 親指の拠点に踏み入れば、即座に門兵のソルダードが駆け寄ってきたので、事前に連絡しておいた要件を確認した。これらか行わなければならない事への備えだ。

 

 

 あぁ、まったく随分と時間を要したものだ。

 部下は全滅。俺はボロボロ。それでも事情があるのだから一人でやり切るしかない。片手しか残ってないというのに手間をかけさせてくれるな。

 

 

 そうこう考えている内に汚れた服一式を新たに取り替え、体についたあちこちの傷への応急処置も終わった。

 治療は簡素で構わない。なにせこの後盛大に破壊されるだろうから。

 

 

「ふうっ……」

「お、ヴァラキじゃん。久々だねぇ」

 

 暗い気分に沈み目的地へ向かう傍ら、すこぶる能天気な声がかけられた。厳格な親指の組織下では珍しいノリの軽い口調。そして何より俺の名前を親しげに、呼び捨てで口に出す者など一人しかいない。

 

「ギャップか。お前は……相変わらずみたいだな」

 

 向き直った方向にはよく肥えた丸い体格の男がにこやかに立っていた。

 その男、ギャップは俺と同時期に親指に入って以来、ちょくちょく一緒に仕事をこなし。また同時期にソルダードIIIIへと昇進した。いわば下積み時代からの腐れ縁のような関係だった。

 

「どう? 元気してる?」

「ぼちぼちだな。お前の方こそ今何してるんだ?」

「ああ…これ?」

 

 ギャップはまんまるなシルエットに加えて、顔立ちまで柔和な作りをしている。その為、ぱっと見で穏やかな印象を与える外見をしていた。

 そしてその微笑を浮かべた顔には現在、幾つもの血がこびりついて、両腕などは真っ赤に染まり、とても猟奇的な変貌を遂げていた。

 

「粛清だよ最近多くてヤになっちゃうね」

 

 そうして指さす先を見れば、十数人ばかしの人間が床に転がされ、拷問真っ最中だった。

 そいつらは皆、口に空薬莢を咥えさせられていて、それを落とすまいと必死で食いしばっている様子だ。だがそうしても全身をズタズタに切り裂かれ、骨を砕かれ、露出した傷口に赤熱した焼きごてを押し付けられれば、一人また一人と悲鳴を上げる。

 そうして苦痛に耐えきれず、薬莢を口から落とした者から処刑が執行されていくのだ。

 

「あれやるってことは沈黙の掟(オメルタ)か…。数が多いな」

「そう! 親指の庇護を受けておいてよくやるよ」

 

 そういって罰を受ける連中を眺める目には侮蔑と喜悦の感情が宿り、口下は満面の笑みで歪んでいた。

 

「ほんと顔に似合わない趣味してるよなお前は」

「それもよく言われるよ」

 

 やれやれと言った具合に肩をすくめる。優しげな第一印象と、必要とあれば容赦のなく踏み込むギャップが凄まじいのがこの男の特徴だった。

 

 

「顔といえばさヴァラキ。どうしてそんな嫌そうにしてるの?」

「!! ……顔にでてたか?」

「いや、…でも僕はわかったよ」

 

 一瞬でもドキりとしたが、すぐに胸を撫で下ろす。もし表情に出していれば、それは目上の方への無礼に値するからだ。

 

「その観察眼も相変わらずだな」

「え〜。このぐらい普通だよ普通。大勢の部下を率いるんだかできて当然でしょ」

「同階級だ。無駄な謙遜はいらん」

「いやヴァラキが下手すぎるだけだって。ソルダードIIIIになっても全然部下扱えてないじゃん」

「俺はまぁ、少数精鋭だからな。それに最近はちゃんと気を使って優しくしてるだろう」

「ひょっとして制裁下すときに笑顔浮かべるやつのこと? あれクソ評判悪いよ。やめときな」

 

 そうやってケラケラと笑って嗜めてくる。内容はともかく昔からこいつはやたらと気安く、話していると親指らしい硬派な雰囲気が緩むのだ。

 

 

「ところでさっき聞いたんだけど、ヴァラキ一人で帰ってきたんだってね。ひょっとしてそっちの部下って……」

「…………」

「あははっ! また無茶に付き合わせて全滅させたの!!」

 

 まあそれはそれとして普通に性格が悪いところがあるんだがなこいつは。なまじ観察眼があるからか、人の様々な側面を見たいらしく、俺に対して、時折こうした露悪的な踏み込みをしてくる。なぜこんな奴が部下たちに好かれているんだか。

 

「アイツらが弱かったからついてこれなかったんだ」

「それを上手く使うのが統率力でしょう。親指は組織の一員であること重視してるんだから、そんなんじゃ出世できないよ」

「………ッ」

「ねぇ、ヴァラキ。………本当にカポになる気あるの?」

「なるに決まってるだろ!!」

 

 軽率に触れられた逆鱗が怒りに火をつけ、反射的に叫び返した。

 

 実際、ギャップのいうことは正しい。親指は上に行くほどに単なる戦闘力ではなく、大勢の人間や情報をまとめて的確に指揮できる能力が求められる。その点が俺は苦手だった。何かを人に任せるより一人で突っ走った方が上手くできたからだ。

 だがそれでも、俺はカポへの昇進を諦めるつもりは毛頭ない。使いっ走りで終われないのだ。

 だから、この侮蔑は決して、笑って許せるものではなかった。

 

 そう射殺さんばかりの眼光で睨みつければ、ギャップはまたケラケラと笑って謝罪を並べる。

 

「あはは、ごめんって。知ってるよその熱意。僕も応援してるからさ」

「………チッ、それなら最初から突っかかってくるんじゃ─」

「ああっ!! ゆっ、ゆうして!! じゅうふんに耐へたじゃない!! もうゆふして!!」

 

 そんな剣呑とした会話に、舌を引き抜かれた者の無様な叫びがこだまして挟まった。ここらで潮時だろう。

 

「用事があるからもう行く。お前もとっとと仕事に戻れ」

「ああ。手間取らせて悪かったね。頑張りなよ()()()()()()()()()()

 

 体をゆすらせて去ってゆく後ろ姿に舌打ちを一つ。

 あの野郎、全部分かった上で話しかけてきたらしい。本当に相変わらずな奴だ。基本親しげに振る舞うくせに不意に傷口も抉る。それでいて決定的な破綻はキチンと避けるのだ。奴との関係を表す言葉は腐れ縁というのがピッタリだろう。

 

 

「すぅ…はぁっ……」

 

 内心で昂る(くすぶ)りを沈めるために煙草に火をつける。

 何度か口をつければ気分も落ち着いてきた。霧散する煙を眺めていると、共に吐き出した感情が、遠く響く雨音と末期の響きに溶けて消えていくように思えた。

 

「迷いなんてない。すべき事を成すだけだ」

 

 ──らしくもない感傷を振り払い、煙草を握り潰す。

 なんにせよ今はやるべき事があるのだ。俺は覚悟を固め、目的地への歩みを再開した。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 深く高貴な赤い扉。

 縁は金で装飾が施され、豪華なレリーフが彩られている。

 そんな威厳を孕んだ扉に向けて拳を規定回数、連続して叩きつける。

 

「はいって」

「失礼いたします」

 

 ひどく簡素な一声に対してこちらは敬意の限りを込めて声を上げる。そうやってこそカポの私室(領域)へと足を踏み入れられるのだ。

 

 

 扉をくぐった先の光景はなんとも豪勢で、それでいて厳格さを持ったものだった。部屋を囲む見るからな上質な壁紙。一歩踏むごとに強く押し返してくる絨毯、室内を静かに照らす落ち着いた照明と、その少量の光を捉えてギラリと存在を主張する華美な装飾たち。貴金属製のそれらは一つだけでも巣の住民の年収を上回る価値があるのだという。

 そうした無数の輝きに囲まれながらも、その光を否定し塗りつぶすように鎮座した黒檀の重厚な机。そこに肘をつき睥睨する方こそがこの部屋の主人だ。

 

「待っていたよヴァラキ」

「御不満を抱かせた無礼をお詫び申し上げます」

「そう…じゃ、左手指二本ね」

「はい。かしこまりました」

 

 左手の薬指と小指。ピンと伸ばしたそれらを反対側の右手で握り締める。右手は接合したばかりであまり力が入らないのだが、おそらく…それを一目で見抜いた上で命じたのだろう。

 

「ぐぐ……つぅッ!!」

 

 それでも命令だ。できませんとは言えない。

 強引に外側に折り曲げて関節を捻り壊し、引き延ばされた腱がブチンと切れた感覚の後、小さな血溜まりに、筋を垂らした指が落ちて転がった。

 身体に脂汗が滲んで痙攣するがすぐに正し、礼節に基づいた姿勢で待機する。

 

 

「ふふっ……」

 

 僅かに息遣いのみが響く沈黙が降りた後、くすりと品のよい笑いが漏れた。部屋に漂う厳格な雰囲気も傍に寄せてしまうような穏やかな笑み。それが眼前の惨状を見た上での、彼女の率直な反応だった。

 

「あぁ…よろしい。会話と目線を合わせる事を許可しよう」

 

 その言葉を聞いてやっと、俺は顔を上げてその相手を目にするのだった。

 

 

 闇に溶けそうなほど真っ黒でツヤのない髪。しかしその色は黒一辺倒ではなく旋毛から伸びたの一部が赤毛になっており、それが切り裂かれた傷口のように長い黒髪を斜行している。どこか不気味なその特徴は濁った嫌厭的な目つきと合わせて危機感を想起させる。

 

「電話越しならともかく、直では1ヶ月ぶりか……。この動乱の中、顔を合わせる事ができて嬉しいよ」

 

 外見とは裏腹に落ち着いた声色をしたその女性は、迷う事なく機敏な歩みで近寄って来ると、俺の背中に手を回し、抱き寄せた。親指という組織内ではありえない光景だった。いかに親しくとも明確な上下階級の差がある相手にここまでやるなど聞いたこともない。

 だが、それをやるのがこの方。俺の上司。

 

「はい。俺も喜ばしく思います。ガリアーノ様」

 

 身長の関係から頭を下げ、少し低い位置にある顔を覗く。そこには蠱惑的な笑みがあった。親愛的というより肉を前にした獣のような、有無を言わさぬ凄みがあったのだ。

 

 

 

「さて、愛しい部下をずっと抱きすくめるのもいいが、聞かなければならない事もあるしね。名残惜しいがここまでだ」

 

 彼女は背中や頭を撫で回した手を解除すると、コートの懐から煙草の箱取り出した。高価な葉巻(シガー)ではない。上等な服に到底似合わないとても安っぽいデザインだ。だが彼女は気にする事なく口に咥え、俺はすかさずライターでその先端に火を灯す。

 

「はぁ……不味い。だからこそ深く沁みるねぇ……」

 

 実際安さだけが売りの粗悪品だ。こんなものカポに吸わせようものなら副流煙でも制裁ものだろう。だが奇妙なことに、豪勢な執務室を構える彼女はこの濁った煙を愛用していた。外では吸わず一人、あるいは俺と二人のきりの時にだけ上がる小さな狼煙のようなものだ。

 

「ふはぁ…………」

「それでは本日あった事をご報告いたします」

 

 彼女が静かに煙を堪能して、再び降りてきた沈黙を今度は俺が破った。

 目上の方を相手にするには幾分か失礼に当たるのだが、余程の一線を越えぬ限り、それを彼女は気にしない。むしろそうした水要らずの親しい関係を望んでいた。

 

「と言った次第で……」

「ふむ。なるほど。なにか動いてるとは聞いたが、彼がそこまで入念に罠を張ってたとはね……」

「あの程度の相手に苦戦を強いられるなど…恥いるばかりです」

「ただの謀反ならともかく特異点まで持ち出して。その上君相手にそこまで喰いついてくるのはちょっと解せないね……」

 

 対外的には単なる上司と部下の在り方でしかないが、俺と彼女の関係はもっと深く、偏執的なもので出来ている。

 

「それで命じていたもう一つの件。あの組織の調査についてだけど」

「はい」

「実際に何か怪しいものは見つかったかい?」

 

 この関係を言い表すのは難しいと思うかもしれないが、実はピッタリな言葉がある。

 

「………いいえ、()()()()()()()()()()()

 

 ──『犬』と『飼い主』だ。

 

 

 そうか……と呟かれた直後、彼女の腕がブレる。一秒前まで胸元に当てられていた腕が、今は水平に伸ばされていて。そしてその先端、手の内には剥き出しの銃剣が握られていた。

 

「───ッ」

 

 そして支えを欠いた俺はその場に崩れ、片膝をつく姿勢になった。そう、彼女はあの刹那に俺の左足を膝下から切断したのだ。

 

「見切られてたね。もう実力は追いつかれちゃったかな」

「……ご冗談を、接近戦は貴女の強みではないではありませんか……」

 

 うずくまった俺を見下ろしてくる目に怒りはない。どころか避けられた一撃をちゃんと受け止めた事を褒めているかのようだ。発する声色も先程までと全く同じ、親しげなトーンで語られる。

 まさに狂気的だろう。愛と慈しみを向けた相手を、何ら変わらない心情で傷つけるのだ。

 だが彼女にとってこれに矛盾は生じない。

 

 

「主目的の殲滅は達成したけど、随分と被害を受けた」

 

「そして補填に必要な資金も回収できず、組織の握っていた秘密に対する手がかりもない」

 

「君は単なるゴミ掃除に手間をかけ過ぎた」

 

 淡々と叱咤の一言が発せられる度に風切り音が鳴って、血が爆ぜ、肉が抉られ、骨を断たれる。

 何度も、何度も刃が振るわれ、流れる血に視界が赤く染まり、体が痺れて意識もあやふやになる。

 

「だから……こうしてお仕置きを受けているんだよ」

 

 そしてついに四肢が第二関節から切り離されて。とても、とても小さくなった俺の耳元へ、血溜まりにしゃがみ込んで彼女は囁いた。

 

「ふふっ……私たちの関係がハッキリと可視化されたこの姿。何度見てもゾクゾクするな」

 

 彼女にとって俺は拾って世話を焼いている『犬』だ。

 犬相手だからさほど礼儀を気にしないし。あけすけなく接する。命じた芸を成功させればエサを、失敗すれば鞭を与えてくる。この陵辱も、ただその一環に過ぎない。

 

「悔しいだろうヴァラキ。君はいつだって立派であろうとしているのに」

 

 血塗れになった俺の頭部へ、両手が差し伸ばされ持ち上げられる。

 きっと今、俺の表情はどうしようもなく歪んでいるのだろう。決して目上の人間に向けるべきではない感情──憎悪に。

 だかそれすらも愛おしげに包まれて、熱い吐息が顔に当たる。

 

「私は約束を覚えているぞ。君だってそうだろう」

 

 頬に舌が這わされ、さまざまなものが混ざった血が舐め取られる。赤い視界の中で、その紅の唇と白く並んだ歯だけが鮮明に浮かんで見えた。それはどうしようもなく喜悦の曲線を描いていた。

 

 

「カポに……、なったら……人間として…認める」

「そうだ。なのにどうして上がってこない? 犬の暮らしが心地よかったのかい?」

 

 看過できない言い分に反論しようと開いた口の中に、彼女の指が突っ込まれた。それは左手の薬指と小指だった。そのまま喉奥まで抉り込んだきた二本の指に、返事の言葉が妨げられる。それでも言わなければならない。そうしなければ彼女は本当に俺を犬としてを使い潰すだろうから。

 

「ぐ……ッ! ガゥッ!!」 

 

 差し込まれた彼女の指に歯を立てて、噛みちぎった。

 その指は切断される際にも何の抵抗も見せず、無感情に口内へ転がり、冷たい血をこぼす。俺はそれを吐き出して、自由になった舌ではっきりと答えた。

 

「ペッ……、おれは……必ず人間に、なる……!!」

「ふふっ……、フハハハハ……ッ!! そう、その粋だよッ!」

 

 そこで手が急に離されて、ドチャリと血の海に落ちた。衝撃で限界に達していた意識が急速に遠のいてゆく。

 僅かに残った感覚で捉える戸棚が開く音と、近寄る気配。そしてエメラルド色に輝く液体が揺れて見えた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「っ──ハァハァ!!」

 

 次に目が覚めたら時、辺りにはもう誰もいなかった。ただ寝転がっていた血溜まりがまだ乾いていないから、さほど時間も経過していないのだろう。

 

 自分の身体を意識すれば、断たれた手足も全身に刻まれた傷も残っていなかった。むしろ部屋に入る前よりもずっと調子がいい。流石は再生アンプル(特異点)といったところだろう。

 

 全てが巻き戻り万全となった身体で起き上がる。失血で薄れた意識も今は明白だ。

 多少の傷なら受けた強化施術の効果で勝手に止血されるのだが、俺の肉体を知り尽くしている彼女は容赦がない。流血を強いる斬り方とやらを習得してまで血溜まりに沈めてくるのだから。仕置きの度に生きた心地がしないのだ。

 

 

 咽せ返るほど濃い血の匂いの中で、不意に爽やかな香が鼻をついた。それを追えばすでに空席となった黒檀の机の上へと導かれる。

 

 机の上にはいつもある備品を除けば二つの置物があった。一つは香りを放つ上質な素材の手紙。もう一つは血まみれの銃剣だった。俺は迷わず手紙を開封した。

 

 

=============

 

 親愛なるヴァラキへ。

 

 申し訳ないが急な呼び出しが入ってね。君が起きるのを待っていられなくなった。だからこうして置き手紙を残しておく事にしたよ。

 

 あまり時間もないから要件を手短に伝えよう。

 まず一つ。今日の仕事の成果についてだけど、損失はあの組織にあった全ての物品、資材を換金して補填する。この件の罰則については私が少々手荒に与えたから、後は始末書の提出を済ませばそれで完了とする。

 

 二つ。今後の動向についてだけど。

 本格的なぶつかり合いが近々あるだろうから、しばらく待機だ。この動乱における最後の休息になるだろう。羽を伸ばしたまえ。

 ああ、あの組織の秘密が気になるのなら探してくれても構わないよ。こっちでも引き続き捜索はしているからね。なにせ連中ときたら、我らが敵対者から何かを盗み出したようだから。

 

 三つ。頑張ってる君への贈り物。

 察してるとは思うけどそこに置いてある銃剣は私からのプレゼントだよ。切れ味ならもう十分に味わっただろう。刃先にX社の超合金を使用してある優れ物だ。存分に振るっておくれ。

 

 

 さて、要件としては以上だが。私個人として君に言葉を贈ろう。

 この戦いは君が功績を立てるまたとない機会だ。その如何によってはカポへの昇進もあり得よう。私は常に君に期待を寄せている。

 死力を尽くして勝ちを取れ。これは命令だ。

 

 

 P.s 十時には部屋の掃除が入る。それまで寝ているようなら銃床で叩き起こせと掃除班に命じてあるから気をつけたまえよ。

 

 

 カポⅢ ガリアーノより。

 

=============

 

 

「…………」

 

 読み終えた手紙を仕舞い込んで、机に置かれた銃剣をそっと撫でる。血を浴びても曇るどころかより一層の凶暴な輝きを放つそれを見つめながら思考を巡らせた。

 

 手紙から得た新しい情報。

 それによって判明した幾つかの謎。そして自分がしでかした行いが、予想以上に大きな影響を及ぼす可能性についての思案に。

 

 

 壁にかけられた時計を見やる。時刻は九時半を回ったところだった。掃除までまだ少し時間はある。

 懐から取り出した煙草に火をつけた。染みついた血が焦げて、いつもよりずっと苦々しい匂いが肺に満ちる。

 

 窓の外は未だに雨が降っていた。無数に響く雨音に紛れて、無意識に言葉が漏れた。

 

「あのガキ……薬指の芸術品だったのか」

 

 現在、親指と抗争真っ只中にある。頭のイカれた組織に纏わる存在だったあの少女のことを。




登場人物は役割から逆算してキャラ付けしたので、主人公を振り回す奴ばっかになりました。
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