漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
事故の瞬間。
視界が白く弾け、遅れて耳鳴り。
衝撃と同時に体が浮いた感覚が鮮明だった。
痛みは、ほとんど覚えていない。
……まぶしい。
意識がはっきりするのと同時に、朝の光がまぶたの裏に広がった。
目を開けると、そこは見知らぬ天井。
少し年季の入った民家。
「……ここは?」
声を出して、違和感に気づく。
声色が変わっていた。低く、よく通る声。
聞きなれた自分の声ではない。
上半身を起こすと、ベッドがきしりと鳴った。
その拍子に、胸元の服が張り付く感覚があった。
「……?」
自分の腕を見る。
――太い。
日焼けしたような褐色の肌。
血管が浮き、無駄のない筋肉が自然についている。
スポーツ選手のような体つきだ。
「……どうなってるんだ」
ベッドから立ち上がると、視界が一段高くなる。
天井との距離が近い。どう考えても…
「…180は、超えてるな」
鏡代わりに窓ガラスに映る自分の姿を見て、
思わず言葉を失った。
引き締まった体格に、褐色の肌。
鋭すぎないが意思の強そうな目。
目が覚める前の自分とは、似ても似つかない。
「完全に別人じゃん」
そう呟いた瞬間、記憶が追いつく。
――死んだはずだ。
なのに今、俺は生きている。
死後の世界という訳でもなさそうだ。
「ま、まずは状況の確認を…」
部屋の中を改めて見回す。
古いけど整った生活感がある部屋。
そして机の上に見慣れた形の端末が置いてあった。
「スマホ……だよな?」
手に取るとちゃんと起動する。
操作感も目が覚める前の世界と変わらない。
検索アプリを開き、慎重に文字を打ち込む。
いくつも記事が表示され、その中の単語に、
俺は小さく息を呑んだ。
「アビドス自治区?」
聞いたことがある。
たしか――。
「ブルーアーカイブ……」
プレイはしていないがタイトルくらいは知っている。
SNSや広告で見かけたことがある程度だが。
スマホの画面を読み進める。
学園都市。
銃を持つ学生。
頭の上に浮かぶ輪。
「マジかよ……」
背中に、じわっと嫌な汗が広がる。
夢じゃない。
「でも、なんでここに?」
そう呟いて周りを見渡す。
何か手掛かりでもないかと辺りを物色する。
机の棚を開け、引き出しを覗くと、そこにまとめて置かれていたのは紙類だった。
「学生証?」
手に取る。名前は『倉戸ケンジ』、顔写真は――今の俺だ。
さらにその下には、封筒と書類の束。
【入学案内】
【アビドス高等学校】
【入学予定日:●●月■■日】
「……は?」
一枚一枚、めくっていく。
校則。
通学案内。
学校の簡単な紹介。
キヴォトスの外から編入する、という事になっているらしい。
つまり、俺はブルーアーカイブの世界でキヴォトス外から
アビドス自治区移りに住んでいて。
来月から、アビドス高校に入学する予定の男子学生。
「マジで?」
思わず、乾いた笑いが漏れる。
知ってはいる。でも、詳しくは知らない。
キャラも、ストーリーも、ほぼ無知。
「……マジで、転生したってことか?」
ソファに腰を下ろし、天井を見上げる。
一つだけ分かったことがある。俺には居場所が用意されている。
名前も、身分も、進路も。理由は分からない。
なぜこの世界なのかも、なぜこの体なのかも。
でも。
「生きてる」
猶予はある。考える時間も、準備する時間も。
俺は学生証をもう一度見つめ、静かに息を吐いた。
――ブルーアーカイブの世界。
突然終わってしまったと思っていた人生が、
これまた突然、それも別人として始まってしまっている。
ご都合主義でも構わない。今はそれがありがたかった。
学生証を机に置いたまま、俺は軽く肩を回した。
「……考えても、分かんないよな」
頭の整理は大事だけど、それより先に確認すべきことがある。
この、明らかに前世とは別物の肉体。
窓から外を見ると、朝の光が砂地に反射してまぶしい。
「少し歩いてみるか」
玄関を出た瞬間、熱気と乾いた風が肌を叩いた。
目の前に広がるのは、砂。
「……静かすぎるだろ」
どこまでも続く砂地と、ぽつぽつと建つ建物。
人の気配がない。
幸い、家からほど近い場所に人気のない広い空地があった。
建物が取り壊されたまま放置されているらしく、
朝のこの時間帯は誰もいない。
周囲を確認してから、俺はゆっくりと空地の中央に立った。
「まずは、普通に」
軽く屈伸。腕を振る。その場で跳ぶ。
「軽い」
体が思った通りに動く。反応速度も高く、
バランスも自然に取れる。
腕立て伏せやスクワットをしてみる。疲労はまったく感じない。
「ホントに前とは違う身体なんだな」
空き地をランニングしてみるが、呼吸も乱れない。
心拍も安定している。
次に、少しだけ踏み込む。
地面を蹴った瞬間、視界が一気に流れた。
「……っ」
慌てて止まる。数歩のつもりが、想像以上に距離が出た。
「今、何か…」
違和感を感じ、もう一度身体を動かす。
動かしているうちに、胸の奥…いや、腹の底に、
熱の塊みたいな感覚があることに気づく。
「……なんだ?これ」
集中すると、はっきり分かる。体温とは違う。
筋肉の熱でもない。
――もっと、内側。
意識して存在を感じられるエネルギーがある。
「まさか……」
前世で読んでいたとある漫画が頭に浮かぶ。
意識を腹に集中し、臍を起点に全身に流すようイメージする。
「マジか…」
出来た。全身にエネルギー…呪力が駆け巡るのがわかる。
そして、それだけではない。
呪力を手に集中させて…放つ!
ゴゥ!!
手から放たれた炎が地面を焼く。地面は炭化し、
触れれば確実に大やけどをすることが、見ただけでも分かる。
俺の脳裏に浮かんだのは、はっきりしたイメージだった。
――火山。
――大地。
――呪霊。
「いや、待て」
俺は呪術廻戦を知っている。原作も読んでるし、アニメも見ていた。
「これ、漏瑚の……」
漏瑚ーーー大地への恐れから生まれた特級呪霊。単純な火力及び殺傷能力では劇中全体を見てもトップレベルに危険度が高く、それどころか呪術全盛期の平安時代基準でも上位レベルに位置する文句なしの実力者。
知識があるからこそ、背筋が冷える。
「そりゃ、砂漠と相性は良さそうだけどさ……」
冗談めかして呟くが、笑えない。
自分の僅かなブルアカの知識や、
先ほどスマホで調べたときにも分かったがこの世界は、
銃撃戦が日常茶飯事。
逃げるにせよ、戦うにせよ力は必要になってくる。
そうなると必然的に自分の呪力とも向き合わなければならないわけで…。
「呪力を使いこなして、呪術の制御は必須だな…暴発したらシャレにならない」
原作の漏瑚ほどではない。術式が同じというだけだ。
流石に今の俺に原作の特級呪霊クラスと戦えるだけの力があるとは思わないが、
先程の試し撃ちでもかなりの火力だ。
下手に使って大火災でも起こそうものなら目も当てられない。
「入学までに、この力を扱えるようにしよう」
とりあえずキヴォトスに来て最初の目標は決まった。
主人公君の外見は漏瑚が色白、小柄な老人で眼が一つなので、褐色肌の大柄な若者で目が二つにしました。