漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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12話

今日も今日とて賞金稼ぎ。

 

いつも通り賞金首を捕まえ、

いつも通り通報する。

が。

いつも通り、ヴァルキューレが来ない。

 

どうしたのかと思い、近くのヴァルキューレの拠点へ向かう。

すると何やら、普段より騒がしい。

生徒たちが慌ただしく走り回り、パトカーのサイレンが鳴りっぱなしだ。

 

(何だ?近くで事故か事件でもあったか?)

 

まぁキヴォトスの日常だが。

だが、それにしても慌ただしすぎる。

 

とりあえず捕まえた奴を換金したいな、と考えていたところに。

 

「あー!“炎帝”の兄貴!!ちょうどいいところに!」

 

「本名で呼んでくんない?」

 

炎帝——俺に付いた異名。

 

前々から、やれ、フレイムブリンガーだの、爆炎の申し子だの、穿つ焔だの、ファイヤーボーイだの、暖房係だの、炙り屋だの。

まぁ、各々好き勝手呼んでいたらしいが、この度、三犬の一匹みたいな名称の【炎帝】*1で統一されたらしい。

水君と雷皇はどこだ。

 

「別に照れなくてもいいじゃないっすか」

 

「名前負けしてそうでイヤなんだよ!」

 

志真コノカ。

ヴァルキューレ警察学校、公安課の一年生。

制服は着崩し、マスクは顎に引っ掛けたままの、パッと見、不良みたいな警官だが、

カンナさん——コノカの先輩曰く、有望な若手らしい。

 

「って、そんな事より手ぇ貸してくださいよ!姉御はじめ公安の先輩方、別件でいないんすよ!!」

 

「…なんだよ何事だよ」

 

「伝説のスケバンが暴れてんすよ!」

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

伝説のスケバン……キヴォトス各地のスケバンをまとめ上げたカリスマ。

 

タレコミがあり、彼女の身柄を押さえようとしたらしいが、抵抗——というレベルじゃない。

大暴れ、という表現の方が正確だろう。

 

警備車両は何台もひっくり返され、戦車まで完全に破壊されている。

 

現場は戦場さながら。

キヴォトスでも、なかなかお目にかかれない惨状だ。

 

伝説のスケバンと思われる人物と、彼女に付き従うスケバン達。

それに対するヴァルキューレの部隊が交戦している。

 

……いや。

交戦、という表現は正確じゃない。

ヴァルキューレ側は防戦一方。

完全に押し込まれている。

 

一先ず体制を立て直すため、

伝説のスケバン達の進路を遮るように炎の壁を展開した。

炎で拘束し、その隙に、傷ついたヴァルキューレ生達を後退させる。

 

ヴァルキューレ側の態勢を整えるため、コノカが一緒に来た増援部隊と共に動いている。

 

——その時だった。

 

「粉ッ!!」

 

気合い一閃。

炎の壁が吹き飛んだ。

 

何事かと視線を向けると、そこには2メートルを優に超える、筋骨隆々のマッスルボディが立っていた。

 

——サイドチェストのポーズで。

 

「「「「「「「「「「 ナイス!バルク!! 」」」」」」」」」」

 

その場にいた全員が、叫んだ。

 

「炎を操る殿方……」

 

筋肉モリモリのマッチョウーマンが、俺を見据える。

 

「あなたが音に聞く炎帝でございますわね。初めまして。(わたくし)の名は、栗浜アケミ。こう見えて、スケバンをしておりますのよ」

 

悠然と、サイドチェストからサイドトライセップスへと移行しながら、そう答えた。

 

(なんという鍛え抜かれた肉体……!)

 

鎧にも武器にもなる、筋肉という誰もがひれ伏す力の象徴。

ギリシャの大英雄ヘラクレスを彷彿とさせる、彫像めいた身体。

弛まぬ努力と鍛錬の果てに生み出された——ひとつの美の極致。

 

「魅せてくれたな、栗浜アケミ!」

 

「兄貴、なんかテンション高くないすか?フェチっすか? 筋肉フェチなんすか?」

 

「まったく、この不良警官は何を言い出すのかと思えば、なんと下世話な…。あの肉体美を見て、そんな感想しか出てこないのか?」

 

後、俺は鎖骨フェチだ、間違えるな。

 

「あっ!! アイツ、志真コノカじゃねーか!?」

 

「ヴァルキューレに入ったって聞いたときは、冗談かと思ったが……マジだったのか?」

 

「ちょうどいい! あん時の借り、返してやる!!」

 

途端に、スケバン達の視線が一斉にコノカへと向けられる。

どうやら過去に、色々とやらかしているらしい。

 

「お、いいねぇ。リベンジ上等!返り討ちにしてやる!!」

 

コノカが軽く拳を鳴らしながら、こちらを振り返る。

 

「じゃ、兄貴!栗浜アケミは任せるっす!」

 

「は?」

 

言うが早いか、そのままスケバン達の集団へと突っ込んでいった。

 

「お、おい!ちょ待て…」

 

「……骨のない相手ばかりで、些か退屈しておりましたの」

 

栗浜アケミは、ゆっくりと肩を回す。

筋肉が軋むように盛り上がり、空気がわずかに震えた。

 

「ですが、あなたならば不足はございません!この栗浜アケミ、全身全霊でお相手いたしますわ!!」

 

言うや否や、無造作に重機関銃を持ち上げる。

 

(個人で携行する武器じゃねーだろ! なんというパワー!!)

 

ヘイロー持ちは総じて耐久力が高い。

呪力強化した俺より上だ。

 

しかし、体力や他の身体能力まで比例して高いかと言えば、必ずしもそうでもない。

呪力強化をしていない状態の俺以下の娘だっている。

 

だが、栗浜アケミの肉体のスペックは、まさしく規格外。

単純なフィジカルだけなら、あのホシノすら上回っているかもしれない。

 

轟音。

 

弾丸の嵐が一直線にこちらへと叩き込まれる。

当たれば、ただでは済まない。

 

俺は足元に小型火山を生成し、その噴射を利用して一気に横へ跳ぶ。

炎を纏ったまま、空中を滑るように高速移動。

手を翳し、呪力を収束させる。

 

灼熱の熱線が、一直線に放たれる。

 

「破ッ!!」

 

ダブルバイセップス(上腕二頭筋)の筋圧で、炎がかき消される。

 

ナイスカットだ、上腕二頭筋がチョモランマである。

だが、それなら——!

 

一気に接近し、爆炎を纏った拳を叩き込む。

 

「っぬぅ……!」

 

手応え。

が。

 

(固ッ! 壁……いや、鉄塊!?比喩表現じゃなく、鋼の肉体かよッ!!)

 

「鋭く、キレのある重い一撃……見事な打撃ですわ。いつ以来でしょうか。徒手空拳でダメージを与えられたのは」

 

そう言って笑みを浮かべる美の化身(栗浜アケミ)

 

「心が躍りますわ……お見せいたしましょう!!スケバンの真髄を!!」

 

栗浜アケミが、静かに目を閉じる。

瞑想。

 

コォォォォォ……

 

呼吸が、変わった。

 

(!? 神秘が!)

 

栗浜アケミが纏う神秘が、増大している。

いや、ただ増えているだけじゃない、活性化している。

 

ホシノを始め、無意識で神秘の力を使っている娘は何人も見てきた。

だが、技法として自身の意思で操る相手を見るのは、初めてだ。

 

「…参ります」

 

次の瞬間。

重機関銃とロケットランチャー *2による波状攻撃。

それも、神秘の力が込められている。

一撃でも貰えば、反転術式を使う暇もなく飲み込まれ、戦闘不能になりかねない威力だ。

 

炎による高速移動で回避しつつ、火炎放射を放ち、火礫蟲や小型火山の弾幕で応戦する。

だが、神秘を纏い、輝きを増した筋肉の防御は厚い。

 

しかし効果が全くないわけではない。

どうやら、あの状態は相応に負担があるようだ。

 

(なら、我慢比べだ!)

 

どちらが先にバテるか。

 

そのまま応酬がしばらく続いた後、俺の攻撃が直撃し、栗浜アケミのロケットランチャーが、吹き飛んだ。

 

このまま一気に押し切る。

そう判断した時だった。

 

栗浜アケミが無造作にランチャーの残骸から砲弾を一本引き抜いた。

そして、腰を捻り、全身の筋肉を連動させ——砲弾を殴り飛ばす!

 

(なっ!?)

 

回避…ダメだ、間に合わない。

 

直撃——爆発。

 

「やりましたか……」

 

栗浜アケミが呼吸法を解く。

呼吸法の負担とケンジから受けたダメージの蓄積のせいか、ふらついている。

 

——その時、爆炎が弾ける。

 

その中心から、俺は飛び出した。

迎撃が間に合う前に、蹴りを叩き込む。

 

炎と、()()()()が散った。

 

 

栗浜アケミの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

 

「姐様ッ!!」

 

取り巻きのスケバン達が、悲鳴に近い声を上げる。

その時。

 

栗浜アケミは、すぐ傍に転がっていた重機関銃を掴み、杖代わりにして身体を支えた。

 

「……皆、退きなさい」

 

静かな声で、スケバン達にそう命じる。

彼女は近くの巨大な瓦礫を、片手で掴み上げ、スケバン達の前へと、放り投げた。

地面を抉りながら着地した瓦礫が、即席の壁となって立ちはだかる。

 

「皆様! お逃げなさい!!」

 

「何言ってるんですか! 姐様!」

 

「そうっすよ! 姐様を置いて、アタシらだけ……」

 

「勝敗は決しました!」

 

栗浜アケミは、はっきりと言い切る。

 

「殿は、私が務めます!お行きなさい!!」

 

スケバン達は、歯を食いしばりながら後ずさる。

 

「……ご武運を!」

 

涙を滲ませたまま、それでも振り返らずに走り去っていった。

 

反転術式で自身の傷を癒す。

黒閃の影響で、消耗していた呪力も戻っている。

だが逃げた連中を追いかける気はない。

 

「……お見事でした」

 

栗浜アケミが、ゆっくりと口を開く。

 

「そして、あの子たちを見逃してくださったこと、心より感謝いたします」

 

そう言い終えた瞬間、栗浜アケミの巨体が、前のめりに崩れ落ちる。

完全に気を失ったようだ。

 

礼を言いたいのはこちらの方だ。

 

「今はただ君に感謝を」

 

倒れた彼女にそう告げる。

 

黒閃を体感できたことで、間違いなく、もう一段階俺は強くなれる。

日課のトレーニングで筋トレの時間を増やそう。

 

……まぁ、それはそれとして。

 

「兄貴ー! 終わったっすね! 流石っす!!」

 

呑気に駆け寄ってきたコノカに、拳骨を落とす。

 

「痛っっったぁぁぁ! 何するんすか!」

 

「何するんすかじゃねぇよ!何シレっと人に大物押し付けてやがる!!」

 

「いやだって、あれはネームド同士の対決の流れだったじゃないっすか!」

 

「お前!警官!! 俺!一般男子生徒!!」

 

「またまたぁ」とか抜かすコノカに、もう一度拳骨を落とす。

 

賞金稼ぎじゃないっすかぁ!などとほざくが、それはそれ、これはこれだ。

*1
かざんポ〇モン

*2
だから個人で携行する武器じゃない

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