漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
今日も今日とて賞金稼ぎ。
いつも通り賞金首を捕まえ、
いつも通り通報する。
が。
いつも通り、ヴァルキューレが来ない。
どうしたのかと思い、近くのヴァルキューレの拠点へ向かう。
すると何やら、普段より騒がしい。
生徒たちが慌ただしく走り回り、パトカーのサイレンが鳴りっぱなしだ。
(何だ?近くで事故か事件でもあったか?)
まぁキヴォトスの日常だが。
だが、それにしても慌ただしすぎる。
とりあえず捕まえた奴を換金したいな、と考えていたところに。
「あー!“炎帝”の兄貴!!ちょうどいいところに!」
「本名で呼んでくんない?」
炎帝——俺に付いた異名。
前々から、やれ、フレイムブリンガーだの、爆炎の申し子だの、穿つ焔だの、ファイヤーボーイだの、暖房係だの、炙り屋だの。
まぁ、各々好き勝手呼んでいたらしいが、この度、三犬の一匹みたいな名称の【炎帝】*1で統一されたらしい。
水君と雷皇はどこだ。
「別に照れなくてもいいじゃないっすか」
「名前負けしてそうでイヤなんだよ!」
志真コノカ。
ヴァルキューレ警察学校、公安課の一年生。
制服は着崩し、マスクは顎に引っ掛けたままの、パッと見、不良みたいな警官だが、
カンナさん——コノカの先輩曰く、有望な若手らしい。
「って、そんな事より手ぇ貸してくださいよ!姉御はじめ公安の先輩方、別件でいないんすよ!!」
「…なんだよ何事だよ」
「伝説のスケバンが暴れてんすよ!」
~~~~~~~~~~
伝説のスケバン……キヴォトス各地のスケバンをまとめ上げたカリスマ。
タレコミがあり、彼女の身柄を押さえようとしたらしいが、抵抗——というレベルじゃない。
大暴れ、という表現の方が正確だろう。
警備車両は何台もひっくり返され、戦車まで完全に破壊されている。
現場は戦場さながら。
キヴォトスでも、なかなかお目にかかれない惨状だ。
伝説のスケバンと思われる人物と、彼女に付き従うスケバン達。
それに対するヴァルキューレの部隊が交戦している。
……いや。
交戦、という表現は正確じゃない。
ヴァルキューレ側は防戦一方。
完全に押し込まれている。
一先ず体制を立て直すため、
伝説のスケバン達の進路を遮るように炎の壁を展開した。
炎で拘束し、その隙に、傷ついたヴァルキューレ生達を後退させる。
ヴァルキューレ側の態勢を整えるため、コノカが一緒に来た増援部隊と共に動いている。
——その時だった。
「粉ッ!!」
気合い一閃。
炎の壁が吹き飛んだ。
何事かと視線を向けると、そこには2メートルを優に超える、筋骨隆々のマッスルボディが立っていた。
——サイドチェストのポーズで。
「「「「「「「「「「 ナイス!バルク!! 」」」」」」」」」」
その場にいた全員が、叫んだ。
「炎を操る殿方……」
筋肉モリモリのマッチョウーマンが、俺を見据える。
「あなたが音に聞く炎帝でございますわね。初めまして。
悠然と、サイドチェストからサイドトライセップスへと移行しながら、そう答えた。
(なんという鍛え抜かれた肉体……!)
鎧にも武器にもなる、筋肉という誰もがひれ伏す力の象徴。
ギリシャの大英雄ヘラクレスを彷彿とさせる、彫像めいた身体。
弛まぬ努力と鍛錬の果てに生み出された——ひとつの美の極致。
「魅せてくれたな、栗浜アケミ!」
「兄貴、なんかテンション高くないすか?フェチっすか? 筋肉フェチなんすか?」
「まったく、この不良警官は何を言い出すのかと思えば、なんと下世話な…。あの肉体美を見て、そんな感想しか出てこないのか?」
後、俺は鎖骨フェチだ、間違えるな。
「あっ!! アイツ、志真コノカじゃねーか!?」
「ヴァルキューレに入ったって聞いたときは、冗談かと思ったが……マジだったのか?」
「ちょうどいい! あん時の借り、返してやる!!」
途端に、スケバン達の視線が一斉にコノカへと向けられる。
どうやら過去に、色々とやらかしているらしい。
「お、いいねぇ。リベンジ上等!返り討ちにしてやる!!」
コノカが軽く拳を鳴らしながら、こちらを振り返る。
「じゃ、兄貴!栗浜アケミは任せるっす!」
「は?」
言うが早いか、そのままスケバン達の集団へと突っ込んでいった。
「お、おい!ちょ待て…」
「……骨のない相手ばかりで、些か退屈しておりましたの」
栗浜アケミは、ゆっくりと肩を回す。
筋肉が軋むように盛り上がり、空気がわずかに震えた。
「ですが、あなたならば不足はございません!この栗浜アケミ、全身全霊でお相手いたしますわ!!」
言うや否や、無造作に重機関銃を持ち上げる。
(個人で携行する武器じゃねーだろ! なんというパワー!!)
ヘイロー持ちは総じて耐久力が高い。
呪力強化した俺より上だ。
しかし、体力や他の身体能力まで比例して高いかと言えば、必ずしもそうでもない。
呪力強化をしていない状態の俺以下の娘だっている。
だが、栗浜アケミの肉体のスペックは、まさしく規格外。
単純なフィジカルだけなら、あのホシノすら上回っているかもしれない。
轟音。
弾丸の嵐が一直線にこちらへと叩き込まれる。
当たれば、ただでは済まない。
俺は足元に小型火山を生成し、その噴射を利用して一気に横へ跳ぶ。
炎を纏ったまま、空中を滑るように高速移動。
手を翳し、呪力を収束させる。
灼熱の熱線が、一直線に放たれる。
「破ッ!!」
ナイスカットだ、上腕二頭筋がチョモランマである。
だが、それなら——!
一気に接近し、爆炎を纏った拳を叩き込む。
「っぬぅ……!」
手応え。
が。
(固ッ! 壁……いや、鉄塊!?比喩表現じゃなく、鋼の肉体かよッ!!)
「鋭く、キレのある重い一撃……見事な打撃ですわ。いつ以来でしょうか。徒手空拳でダメージを与えられたのは」
そう言って笑みを浮かべる
「心が躍りますわ……お見せいたしましょう!!スケバンの真髄を!!」
栗浜アケミが、静かに目を閉じる。
瞑想。
コォォォォォ……
呼吸が、変わった。
(!? 神秘が!)
栗浜アケミが纏う神秘が、増大している。
いや、ただ増えているだけじゃない、活性化している。
ホシノを始め、無意識で神秘の力を使っている娘は何人も見てきた。
だが、技法として自身の意思で操る相手を見るのは、初めてだ。
「…参ります」
次の瞬間。
重機関銃とロケットランチャー *2による波状攻撃。
それも、神秘の力が込められている。
一撃でも貰えば、反転術式を使う暇もなく飲み込まれ、戦闘不能になりかねない威力だ。
炎による高速移動で回避しつつ、火炎放射を放ち、火礫蟲や小型火山の弾幕で応戦する。
だが、神秘を纏い、輝きを増した筋肉の防御は厚い。
しかし効果が全くないわけではない。
どうやら、あの状態は相応に負担があるようだ。
(なら、我慢比べだ!)
どちらが先にバテるか。
そのまま応酬がしばらく続いた後、俺の攻撃が直撃し、栗浜アケミのロケットランチャーが、吹き飛んだ。
このまま一気に押し切る。
そう判断した時だった。
栗浜アケミが無造作にランチャーの残骸から砲弾を一本引き抜いた。
そして、腰を捻り、全身の筋肉を連動させ——砲弾を殴り飛ばす!
(なっ!?)
回避…ダメだ、間に合わない。
直撃——爆発。
「やりましたか……」
栗浜アケミが呼吸法を解く。
呼吸法の負担とケンジから受けたダメージの蓄積のせいか、ふらついている。
——その時、爆炎が弾ける。
その中心から、俺は飛び出した。
迎撃が間に合う前に、蹴りを叩き込む。
炎と、
栗浜アケミの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
「姐様ッ!!」
取り巻きのスケバン達が、悲鳴に近い声を上げる。
その時。
栗浜アケミは、すぐ傍に転がっていた重機関銃を掴み、杖代わりにして身体を支えた。
「……皆、退きなさい」
静かな声で、スケバン達にそう命じる。
彼女は近くの巨大な瓦礫を、片手で掴み上げ、スケバン達の前へと、放り投げた。
地面を抉りながら着地した瓦礫が、即席の壁となって立ちはだかる。
「皆様! お逃げなさい!!」
「何言ってるんですか! 姐様!」
「そうっすよ! 姐様を置いて、アタシらだけ……」
「勝敗は決しました!」
栗浜アケミは、はっきりと言い切る。
「殿は、私が務めます!お行きなさい!!」
スケバン達は、歯を食いしばりながら後ずさる。
「……ご武運を!」
涙を滲ませたまま、それでも振り返らずに走り去っていった。
反転術式で自身の傷を癒す。
黒閃の影響で、消耗していた呪力も戻っている。
だが逃げた連中を追いかける気はない。
「……お見事でした」
栗浜アケミが、ゆっくりと口を開く。
「そして、あの子たちを見逃してくださったこと、心より感謝いたします」
そう言い終えた瞬間、栗浜アケミの巨体が、前のめりに崩れ落ちる。
完全に気を失ったようだ。
礼を言いたいのはこちらの方だ。
「今はただ君に感謝を」
倒れた彼女にそう告げる。
黒閃を体感できたことで、間違いなく、もう一段階俺は強くなれる。
日課のトレーニングで筋トレの時間を増やそう。
……まぁ、それはそれとして。
「兄貴ー! 終わったっすね! 流石っす!!」
呑気に駆け寄ってきたコノカに、拳骨を落とす。
「痛っっったぁぁぁ! 何するんすか!」
「何するんすかじゃねぇよ!何シレっと人に大物押し付けてやがる!!」
「いやだって、あれはネームド同士の対決の流れだったじゃないっすか!」
「お前!警官!! 俺!一般男子生徒!!」
「またまたぁ」とか抜かすコノカに、もう一度拳骨を落とす。
賞金稼ぎじゃないっすかぁ!などとほざくが、それはそれ、これはこれだ。